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4-5 理外回帰編:魔族との遭逢
226 物知りお姉さん
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「ヨイショっとぉ――ゔあっ!」
草原から少し離れたところの木のところに連れて行かれると、その女性は木の根っこに腰掛けようとして、盛大にすっ転んでいた。
「アタタ……。あ、始めまして~だよね? 少年」
「……そうだと、思いますけど……あなたは……」
「名前は聞かないでおくれよぉ。顔は見せるからさ」
訝しげな視線を送るとフードを外し、姿を見せた。
「ほれ、じゃーん。どお? お姉さんの美貌は」
声色から分かっていたが、女性だ。
青色の髪の毛が肩まで伸びていて、ゆるやかなカールを描いている。目の色は深い赤。にこにこと笑う。クラスによくいる陽気な女子という感じ。
マスクでもしてたら「あの子、ぼくと居るとずっと笑ってくれてる!」と勘違いさせてくるタイプ。
「……名乗らない人は信頼しない派なので」
「ンじゃ『物知りお姉さん』とでも呼んでくれていいよ。博識な若女ってことで。それか『鍵』って呼んでくれてもいいよ」
「鍵?」
「そっ。まぁ呼びにくいだろうから、お姉さんとでも呼んでくれたまえ。どうせ、名前っていうのはなんの意味も持たないんだから。呼びやすいように呼べばいいんだ」
不思議な雰囲気を持つ女性だ。月明かりに照らされる色白の足は、光の当たり具合で病的なまでに真っ白に見える。
「……で、その博識なあなたは何をしてくれるんですか?」
「アンタをスカウトしにきた」
足をプラプラと投げ出し、ニヘと笑いかけてきた。
「スカウト……」
「そ。だから、正直に話すよ。わたしは魔族。よろしくね」
思いがけないことを言われ、しばし表情が固まるが……最初の時、感じていた。あの魔素感知で微妙に捉えたのは……強大な黒い魔素。
ムロさん達が探している魔族は、コイツだ。
「おいおい。ちょっとは身構えてくれよぉ~。ビビって、怯えて、上目遣いで近づいてきてほしいな」
「色々疲れてるんだ。それに、殺す気はないんでしょ」
指摘すると、ベェと舌を出した。そして「生意気」と。
「ン。近くに来てね」
「いかないと?」
「つねる」
「殺すとかじゃないのか」
「スカウトって言ったろぉ? いいから、ちかくにちかくに」
「……」
「つねるぞ? いたいよ? ぐにぃってするよ?」
エリルの警戒の声を聞きながら、おずおずと近づいていく。
「近くに、来ましたが」
「よく来た少年。褒美をやろう~」
すると、光りに包まれて、右の腕と全身の火傷痕が小さくなっていった。
右腕に走る火傷痕だけが残り、キレイになくなって……というか『火傷痕に集まっていった』というのが近いか。
「……まさか、腕っこきの治癒師って」
「あたし。これは、ほんのお気持ち」
パッと手を開き、今度はちゃんと薄い尻を木の根っこに降ろす。
おぉおお、とバランスを取りながら、くあとあくび。
「……」
警戒がない。
油断というよりも、警戒する気がないのだろう。
ぼくでも分かる。今のぼくではコイツに勝てない。
さっきからレヴィさん達に連絡を飛ばそうとしているが、それも叶わない。
「むっかしにさぁ。知り合いがいたんだ。この話をするのも何回目って感じなんだけどさ」
「それ、聞かないといけませんか?」
「ぜひ聞いてくれたまえ」
手をひらひらとさせて、隣に座るようにジェスチャー。
座ろうとすると、着ていた服を尻の下に敷いてくれた。まるで貴重品を扱うような待遇だ。
「ちょうど、君みたいな眼帯をする子がいたのさ。懐かしくて」
「で、スカウトしにきたって?」
「おうよ。来なって。キミが拾った子、気づいてるだろうけど、魔族だぜ?」
「……」
全部、お見通しってことか。
「魔族を拾ってどうすんの? 殺すの? こっちに来た方がいいんじゃない? まっさかだけど人里に連れて降りるつもり!? あっぶなーい!」
ちょいちょいと肩を突かれ、振りほどくこともできずにいるとまとわりつくように腕を肩にまわしてきた。
ほっぺをウリウリとされ、首筋をなぞられ、吐息が当たる距離に近づいてくる。
それを目だけで応えた。行くつもりはない、と。
するとなにか気に入ったのか、絡んできていたのをゆっくりと解きながら笑った。
「あくまで、拒否か。嫌われ者なのに、凄いね。平野明人くん」
「!!?」
「言ったろ? 物知りだって」
座っていた足を抱き寄せ、にこと笑うその魔族の目は酷くキレイに思えた。
草原から少し離れたところの木のところに連れて行かれると、その女性は木の根っこに腰掛けようとして、盛大にすっ転んでいた。
「アタタ……。あ、始めまして~だよね? 少年」
「……そうだと、思いますけど……あなたは……」
「名前は聞かないでおくれよぉ。顔は見せるからさ」
訝しげな視線を送るとフードを外し、姿を見せた。
「ほれ、じゃーん。どお? お姉さんの美貌は」
声色から分かっていたが、女性だ。
青色の髪の毛が肩まで伸びていて、ゆるやかなカールを描いている。目の色は深い赤。にこにこと笑う。クラスによくいる陽気な女子という感じ。
マスクでもしてたら「あの子、ぼくと居るとずっと笑ってくれてる!」と勘違いさせてくるタイプ。
「……名乗らない人は信頼しない派なので」
「ンじゃ『物知りお姉さん』とでも呼んでくれていいよ。博識な若女ってことで。それか『鍵』って呼んでくれてもいいよ」
「鍵?」
「そっ。まぁ呼びにくいだろうから、お姉さんとでも呼んでくれたまえ。どうせ、名前っていうのはなんの意味も持たないんだから。呼びやすいように呼べばいいんだ」
不思議な雰囲気を持つ女性だ。月明かりに照らされる色白の足は、光の当たり具合で病的なまでに真っ白に見える。
「……で、その博識なあなたは何をしてくれるんですか?」
「アンタをスカウトしにきた」
足をプラプラと投げ出し、ニヘと笑いかけてきた。
「スカウト……」
「そ。だから、正直に話すよ。わたしは魔族。よろしくね」
思いがけないことを言われ、しばし表情が固まるが……最初の時、感じていた。あの魔素感知で微妙に捉えたのは……強大な黒い魔素。
ムロさん達が探している魔族は、コイツだ。
「おいおい。ちょっとは身構えてくれよぉ~。ビビって、怯えて、上目遣いで近づいてきてほしいな」
「色々疲れてるんだ。それに、殺す気はないんでしょ」
指摘すると、ベェと舌を出した。そして「生意気」と。
「ン。近くに来てね」
「いかないと?」
「つねる」
「殺すとかじゃないのか」
「スカウトって言ったろぉ? いいから、ちかくにちかくに」
「……」
「つねるぞ? いたいよ? ぐにぃってするよ?」
エリルの警戒の声を聞きながら、おずおずと近づいていく。
「近くに、来ましたが」
「よく来た少年。褒美をやろう~」
すると、光りに包まれて、右の腕と全身の火傷痕が小さくなっていった。
右腕に走る火傷痕だけが残り、キレイになくなって……というか『火傷痕に集まっていった』というのが近いか。
「……まさか、腕っこきの治癒師って」
「あたし。これは、ほんのお気持ち」
パッと手を開き、今度はちゃんと薄い尻を木の根っこに降ろす。
おぉおお、とバランスを取りながら、くあとあくび。
「……」
警戒がない。
油断というよりも、警戒する気がないのだろう。
ぼくでも分かる。今のぼくではコイツに勝てない。
さっきからレヴィさん達に連絡を飛ばそうとしているが、それも叶わない。
「むっかしにさぁ。知り合いがいたんだ。この話をするのも何回目って感じなんだけどさ」
「それ、聞かないといけませんか?」
「ぜひ聞いてくれたまえ」
手をひらひらとさせて、隣に座るようにジェスチャー。
座ろうとすると、着ていた服を尻の下に敷いてくれた。まるで貴重品を扱うような待遇だ。
「ちょうど、君みたいな眼帯をする子がいたのさ。懐かしくて」
「で、スカウトしにきたって?」
「おうよ。来なって。キミが拾った子、気づいてるだろうけど、魔族だぜ?」
「……」
全部、お見通しってことか。
「魔族を拾ってどうすんの? 殺すの? こっちに来た方がいいんじゃない? まっさかだけど人里に連れて降りるつもり!? あっぶなーい!」
ちょいちょいと肩を突かれ、振りほどくこともできずにいるとまとわりつくように腕を肩にまわしてきた。
ほっぺをウリウリとされ、首筋をなぞられ、吐息が当たる距離に近づいてくる。
それを目だけで応えた。行くつもりはない、と。
するとなにか気に入ったのか、絡んできていたのをゆっくりと解きながら笑った。
「あくまで、拒否か。嫌われ者なのに、凄いね。平野明人くん」
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