【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

文字の大きさ
256 / 283
4-5 理外回帰編:魔族との遭逢

235 彼女は理から外れた者

しおりを挟む


 小刀越しに手に伝わった感触は、魔物モンスターを倒した時、生き物を殺した時の感触にとても似ていた。
 ノアから滴る血液を体全体で浴びて、右手の火傷跡にも染みていく。

「はっ……はぁっ」

 これで……助かった……? 倒せれた……?

 金色に光っていた瞳は虚ろに。余裕そうだった表情は薄れている。

 まるで現実感のない勝利だ。格上を倒すことが出来たということを理解できなかった。
 やがて、だらんと体重がぼくの身体にかかってくる。ノアの身体が意識を手放したらしい。

 ──ガサッ。

「!」

「あるじ……っ、ご無事ですか……」

「アン……、大丈夫だった!?」

「なんとか……動ける程度には」

 岩陰からアンがよろめきながら出てきて、思わずほっとして力を抜いてしまった。
 すると、

 ――グググッ。

 心臓部を貫いたハズの小刀が何故か押し戻されているような気がした。
 
「……なにが――」

「残念でしたァ」

 振り向くとそこには、満面の笑みを浮かべているノアの姿があった。

 頭の先から足元へ衝撃が走る。

「うそだ……」

 なんで。

「お前、心臓を刺したはず」

 体を返し、再度、小刀を押し込もうと力を込めて。

「効かないんだって、三回目だよ?」

 体全体から衝撃波が放たれた。

「ごっ……ぅ!?」

 僕の体はアンの近くの岩へとモロに直撃。

「ぐっ……ぁぁぁっ……ッ!!」

 頭からドロッと血液が溢れ出て、止まらない。

「あるじ……!!!──おまえぇッ!!」

「なに。そんなに興奮しちゃって」

 まずい、しかいが、うすれて……。
 だめ……だ、今、気を失ったら、僕だけじゃない、アンも死んでしまう。

「~……っ!」

 怒れ、感情を原動力にしろ。
 ハンスさんやアルマさんを殺したのは目の前のアイツだ。
 あの二人がアイツに殺される理由なんてなかった。

 体に力が入らない。
 意識は辛うじて残ってる。
 魔素はどうだ? 無理だ、こんな状態で操作なんて出来ない。

(エリル……)

(……ダメです。ますたーの魔素は、もう、ほとんど残ってません。体を動かしたとしても……魔素ロストを起こしてしまいます)

(くそっ……くそっ、くそっ!!!)

 万事休す。
 虚ろげな視界から必死に情報を得ようとノアの方に目を向けた。

魔司者オベラルって物理攻撃はほとんど無効化できるんだ~、だからここ貫かれても大丈夫って訳。そもそもここ核じゃないし。勉強不足だったね、少年っ」
 
 胸に刺さっていた小刀を地面に投げ捨てながら、こちらへ歩いてくるのが見える。
 アンが必死にぼくに覆いかぶさり、警戒の色を示す。それをみて、更に上機嫌になった。

 これまで死ぬって感じた体験は多くしてきたけど、こんなに手が届かないって思ったのは初めてだ。

 ここで……ここで死ぬのか……僕は。

「じゃあね~、楽しかったよ。最後に君の技で殺してあげる。えーと……こうだっけ?」

「やめ、ろっ……!!」

「ははっ! 声を出すだけだね、君は。自分の攻撃を受けて残りカスみたいになった子の話なんて聞くと思う? 大体さぁ、キミ、弱すぎだよ。格上と戦ったことがないんだね」

 手のひらの上に魔法陣が浮かんだと思うと、そこに現れたのは一つの風刃ガウィンだった。
 ソレを見て、アンの表情が歪み……ノアに対して、頭を下げた。
 
「頼む、お願いだ……。お願い、します……」

「……」

「あるじはっ……あるじだけは殺さないでください……っ」

 しばし、考えたような素振りを見せたノアはアンの身体を蹴り飛ばした。

「~ッ!?」

 まるで石ころを蹴るような動作で、軽々とアンの身体は少し離れた地面まで飛ばされた。
 必死にもがき、立ち上がろうとするその姿を見て、ぼくは涙を流す。

「ア、ン……」

「自滅した奴の言葉なんか、聞くと思う?」

 ──結局、ぼくは、なにもできないままだった。

「じゃあ、頑張りましたでしょう~の少年から殺してあげましょう~」

「やめろっ!! やめろ──ッ!」

 こちらへ投げられた鋭利な刃。
 風を切りながら近づいてくる音が聞こえ、僕は死を覚悟して目を瞑った。

 ――ガスッ。













 
「なんで……君が居るのかな?」

 痛みのない。
 体から流れ出る暖かい液体も感じない。
 ……困惑が伺える声色が一つ。

「お前……なんで……生きて……」

 ……アンも同じ声色をしている。
 それに、『生きて』って……?
 
 僕は閉じていた目をゆっくりと開いた。

 僕の目の前にたって風刃ガウィンを受け止めていたのは、フードのある黒い上着、緑色が混じった黒髪、僕よりも少し大きな身長。
 見覚えのある、だけど、信じられなかった。

「…………アルマさ……ん?」

 そこにいたのは、首を切り落とされたハズのアルマさんだった。
 
「なんで生きて……無事、だったんですか?」

「そんなこと私も分かんない! それよりも早く、逃げないと……!」

「……体が、二人とも動かないんだ……」

「ええっ、アンちゃんも!? どうしよう……」

 敵に背を向けて悩み始めたアルマさんだったが、風刃ガウィンによって抉られた右肩が既に治っていた。
 首の切られた痕も残っていない。
 アルマさん……何者なんだ……?

「……! あ~、はいはい。ステータスにかかれてた種族、そういうことか。理外者アンリミテッド。世の理から外れた者……ってことね」

「あんりみ……てっど」

「つまり、お前は死なない……いや死ねない体なのか。いい能力もってんじゃん」

「アルマさん……」

「私も知らないんだって! けど、それなら好都合だね!! 何も出来ない私だけど、二人を守ることができるんだから……!!」

 前に立って両手を広げて、守るように立ちはだかった。

 あ、やばい、なんか泣きそう。

 状況的にこんなこと考えたらダメなのは分かってるけど、すごく頼もしい。
 普段がオドオドしてたアルマさんが体を張ってくれてるのが……目頭に来る。

「……早くしないといけないのに、一番めんどくさいタイプの奴だったか……。あーだるぅ。はぁ~……ちゃちゃっと2人を殺したらよかったなぁー、また失敗しちゃったかぁ~」

「死んでもここを通さないよ」

「……それってジョーク? 笑えないんだけど。……まぁいいよ、少し本気を見せたげる」

 ビキビキビキと目の下に線が入り、目の白い部分が黒くなっていった。
 『魔素感知』など使わずとも直感で理解することが出来る。

 勝ち目など最初からなかったのだ。
 
「退けよ、今なら仲間にしてやる」

「ヤダね……! クラディス君とアンちゃんは仲間なんだ!! 仲間だと言ってくれた!! 私はもう大事な人が傷付くのを見るだけは嫌なの……!!」

「じゃあ、お前ごとすり潰して――」

 こちらへ近づいてきたノアの体を押し込むように、僕達の背後から飛び出してきた人影があった。

「させるかよ――ッ!!!」

 その人影にも見覚えがあった。

「ムロさん!?」

「くっ、邪魔をするなぁ──ッ!!!」

「魔族のお嬢さん。こんなガキどもじゃなく、俺らと勝負しようや……!」

 ノアの体を奥へ奥へと押し込んでいき、僕達から距離を取っていった。

「そんな、一人じゃダメだ。アイツは……!」

「――エルシア、三人を安全な場所へ」

 スッとぼくにローブをかけて、ジリと前に進む男性。
 長髪がゆれ、こちらを振り返り見た。

「レヴィさん……エルシア、さん」

「よく耐えた。あとは任せろ」

「レヴィはどうすんの?」

「私はムロの加勢へ行く。お前は三人を守っておけ」

「みなさん……」

 レヴィさんの表情は、見たことがないほどの歪んでいた。
 憎悪。屈辱。怒り。困惑。一つの感情だけでは表せないもの。

「さ、移動するよ。アルマさん? は走れる?」

「は、はい!」

「じゃあアンちゃんをよろしく、私はクラちゃんを。とりあえず森の外へ出よう」

 二人は僕とアンを背負い、森の外へと走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...