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5-2 最上位種発芽編:王都強襲
257 技を試すことができそうだ
しおりを挟む「……っ! お前──っ!」
「怒ってんの? なんでェ!? ギャハハハハっ! 同じ種族のやつが殺されただけでのこのこ殺されに来たってェ? やべェ、人間やべェ~!」
腹を抱えながら笑う赤色肌の魔族。
その手は崩壊した建物の傍で泣き叫んでいる少女へと向けられた。
「――『火焔球』」
「あ、危ない!!」
少女を守るために体を入れると、その前にケトスが立ちはだかった。
「『写ス者』」
魔族が放った渦を巻く火球に向かって手を突き出し、魔法名を小さく呟いたケトス。次の瞬間には、大きく、複雑な魔法陣が現れたと思うとその火の玉を弾き飛ばしていた。
「はやく。その子を安全な場所に」
「わ、分かった」
「すぐに戻ってきてよ!?」
「えっ!? 分かってるって!」
少女を抱き抱え、僕らが来た道の方を戻り、避難を指示している憲兵を見つけるとそこに降りていった。
「その子、任せます」
「はっ、ちょっ、君は」
「避難指示頑張ってください!」
半ば強引に押し付けてケトスの元へと戻ると、二体の攻撃を避けて、先程の魔法で大きな魔法は上空へと弾いているのが見えた。
街へと被害を考えてるんだ、ケトスも……。
「ケトス」
「おかえり、これでとりあえず自力で避難できない人以外の避難は終わったかな」
「お~ぉお、英雄だねェ、泣けるねェ~」
「自分たちの心配より、周りの避難を優先するとは……いかにも人間らしいな」
あの二体の魔族はどうやらバカ正直に西門から入ってきた訳ではないようだ。それは左右の建物が奥に続いて倒壊していることから伺える。
その前に、どうやって王国の検知を逃れて入ってきたんだ……? 見る限り……そこまでの知能があるようには思えない。
「……転移魔法……?」
だとしたら、入口と出口の魔素情報が検知されているはずだ。
「コイツら、王国内に内通者でもいるのか……? 入ってきた経路が」
「かもね。けど、それを考える役目は僕らじゃない――行くよ、クラぁ…………えーと、お面の子!」
「……? あ、うん! 行こう!」
自分が僕以外の誰かを~って言ったのに、早速忘れてたな……?
……魔族。どうせこいつらはあのノアの手下達だろ? お前らんとこにはお世話になったばかりだ。
僕も練習して強くなった。それをぶつけてやる。
「戦うぞ……の前に――ッ!!」
ケトスの戦いの邪魔にならないように少しずつ倒壊した道の方に移動をしていくことにした。
もちろん、そんなことをしても魔族は目で追うだけだ。
だから僕は数歩先に行ったところで無言の方を指さして、すぅっーと息を吸い込んだ。
「お、お前の角!! ばっちぃな!!」
「……は?」
「ぷっ」
こんな簡単な煽りでくるか……?
「……ぶっ殺す……!!」
「うわっ!!」
走る僕の後を追うように魔族は飛んでくる。
そんな簡単に怒るのか!? うわっ、めちゃめちゃ顔怖っ!
◇◇◇
(クラディス……あ、戦いやすいように別々で戦おうってことか)
急に暴言を言い放って走っていった友人の背中を見て、クスと笑う。
「アイツ、角のこと馬鹿にされて腹たってやんの」
共にいた魔族は腹を抑えて笑いながらその様子を眺めて、ケトスの方に向きなおした。
「で、お前は強いのかァ? 坊ちゃん」
「強いのか……か、うーん――」
魔族は余裕の表情でケトスのことを見ていた。
目も離さず。瞬きもせず。しかと見ていた。
だが、ケトスのある一部分で目が止まる。
──アイツ、いつの間に剣を。
先程まで何も持たれていなかったハズの右手。なんなら黒ズボンのポケットに入れられていた手に握られているのは──迷宮で手に入れた振り回しの効く長刀。
「あんたらに分かるようにやれば、これくらいかな」
「……?──……!!」
どこからか取り出した角を頭の上に乗っけて、「ハハッ」と口角を釣り上げ、目を細め、馬鹿にするように笑った。
魔族は頭を触る。
あったはずの角がなくなっている──剣で切ったのだ。見えない速度で──誇り高い魔族の角を──……。
「キサマッ……俺様の角を……」
「わぁ、そんなに怒らなくても」
乗っけていた角を瓦礫に投げ捨て、武器を適当に構える。
「でも、君なら技を試すことができそうだ」
この一人の『育ち盛りの勇者』と一体の下位魔族には圧倒的な力の差があるかのように見える。
ケトスにはクラディスに言っていた『予知』というもので、先が見えているのだろうか。はたまた、ただの相手の気を逆なでする口上なのだろか。
ただ一つ確かに言えるのは、ケトスが普段通りに笑っているということだ。
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