寡黙な消防士でも恋はする

氷 豹人

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続編 愛くらい語らせろ

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 化けモンだよ、てめえは。
 朝の大交替を涼しい顔つきで行う日浦を、俺はじっとり横目し、歯噛みした。
 昨日、いや、正確には日付をとっくに越えた今朝方まで貪り合い、途中で一緒にシャワーを浴びたときも、買い置きしてあったレトルトを摘んだときも、ほぼ繋がったままの、まさに精力の高い動物そのまんま。
 覚えているだけでも五回は日浦の放ったものを腹の中に受け入れ、後は気絶していたから不明。目覚めたら、下半身からまだ出るかってくらい白濁がダダ漏れで、考えるのが恐ろしくて中断した。
 いつの間にかシーツは新品に替えられていて、隣では日浦が呑気に寝息など立てている。大変すっきりした寝顔は年よりもかなり幼く見えて、その規則的な呼吸音にだんだんむかついて、殴りそうになる拳を押さえ込むのに必死だった。お前の欲望が文字通り体から留まらないってのに、お前は気持ち良さそうに。
 そんなわけで寝不足だわ、掻き出したものの未だに腹の中は重苦しいわ、喘がされ過ぎて喉はガラガラだわ。コンディション最悪。
 事務机に肘をついて溜め息をついたところで、疲れは少しも取れない。
「うわぁ。堂島さん。調子悪いんですか?」
 スチール椅子に腰を下ろすなり、笠置は綺麗に整えた細眉をこめかみまで吊り上げた。
「すごい隈ですよ。何か頬もげっそりして」
 向かい合った笠置の指先が上下した。
「これじゃあ、鉄仮面て言うより死神だな」
 こいつは余計なことを喋らなけりゃ生きていけないのか、もしや。
 ギロリと睨めば、笠置はヒッと喉をひくつかせ、椅子のクッションから五センチは飛び上がった。居住まいを正した。元気なら拳骨の一つでもくれてやるところだが、生憎とそんな元気は今日は持ち合わせていない。
「大丈夫だよ、あっちゃん。俺がフォローするから」
 また一人、余計なやつが視界をちょろちょろちょろちょろと。
 日浦は俺の肩を揉みながら、耳元に口を近づけてきた。
「体は平気?」
 息遣いと見紛うくらいのヒソヒソ声。耳聡い笠置にだって届いていないくらいの密やかさ。
「ちょっと、無茶させたか」
「ちょっとどころじゃねえだろ」
 幾ら何でも、限度がある。子孫繁栄に忠実な動物じゃないんだからな、俺達は。
「もっと手加減しろ」
「だいぶと譲歩したんだけど」
「嘘つけ」
 意識が飛ぶくらい激しかったぞ。
 うっかりしてると、脳内に昨夜の情交が映像として鮮明に再生される。これから仕事なのに気を散らされたらたまらん。
 こんな言い合いに、他人ながらやけに混じりたがるのが橋本だ。しかし橋本は次の防災指導の担当に自ら志願して、今は会議中。だから非常に静か。似たり寄ったりの日浦と橋本の些細な諍いを朝っぱらから聞かされないだけマシか。
「ちょっと、ちょっと。二人とも。いちゃいちゃしてないで、観てくださいよ。あれ」
 誰がいちゃいちゃしてるって?ふざけんなよ。
 だが、笠置を睨みつけたのは、俺一人。
 何故か日浦は頭をかき、体をくねらせて、うれしそうにニタニタ笑い。
 そんな日浦の不審な態度にも、笠置は興味なしでスルー。
「ほら、これこれ。このニュース」
 笠置の関心ごとは、丸一日付けっぱなしのテレビ画面だ。
 早朝からの何回も同じニュースを垂れ流すワイドショーが伝えているのは、未明の火事で民家一棟が全焼し、一階で寝ていた祖母が行方不明とのこと。身元不明の遺体が祖母かと見られている。
「うわあ。福禄台のやつら、大変だったなあ」
 火の手は凄まじく、隣三軒延焼し、鎮火は午前五時。仮眠なんて何ですかってやつだ。
「何か極端に火事が増えましたよね」
 確かに。改めて言われるとそうだ。

 


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