寡黙な消防士でも恋はする

氷 豹人

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続編 愛くらい語らせろ

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 刈谷理人。その名には聞き覚えがある。誰だっけ。
 脳味噌の隅っこに引っ掛かっている記憶を手繰り寄せようとしたら、それより早く日浦が回答した。
「四ノ宮美希の教え子だ」
 見合いをした料亭のバックヤードでの揉め事が引き摺り出される。
 『だから私はあんたのことなんか、何とも思ってないから!』
 『俺、やっと二十歳になったんだ』
 美希と揉めていた、あの声だ。
 姿は見えなかったが間違いない。
 青臭いガキ丸出しを想像していたが、こんな筋肉質な野郎だったとは。確かに美希の好きそうなタイプだけどさ。
「教え子が、堂島に何の用だ?」
 日浦は前のめりになって追求する。
「そ、それは」
 刈谷は額に脂汗を浮かべ、わざとらしいくらいに目を泳がせ、もごもごと口元を動かす。
 日浦は露骨に舌打ちする。
「こいつが四ノ宮とヨリを戻さないか監視していたのか?」
 こいつ、と指をさしてくるな。
「監視って、何だよ」
 刈谷は唇を尖らせた。
「答えろ」
 ギロリと睨む切れ長の瞳には、容赦ない光が宿っている。俺なんか太刀打ち出来ねえ目だ。いつもの、へらへらしただらしねえ目なんか、すでに消滅。
 刈谷も日浦の命令に自然と従ってしまっている。居住まいを正し、その場に正座する後ろ姿なんか、もう、熊そのもの。
「た、確かにこの人が『美希さん』に近づかないか心配してたさ」
 教え子なんだから、『先生』だろうが。
 『美希さん』呼ばわりするとは。
「仕事はどうした。お前、板前だろ」
「有休消化」
 つまり、休みの日にわざわざ張ってたってことか?刑事かよ、てめえは。
「で、でも。どうも俺の誤解だったみたいだ」
 刈谷は遠慮がちに俺の方を窺う。誰かに似ていると思ったら、眼鏡をかけたら、大阪道頓堀にいる名物人形だ。そんなくりくりした目が、不自然なくらい左右に揺れた。
 何が言いたいんだ。はっきり言えよ。
 いらっとこめかみに筋を浮かせたら、わざとらしい日浦の咳払いが入る。
「首」
 日浦からの抑揚のない一言。
 首?
 そっと撫でて、あっと悲鳴を上げそうになった。
 そういえば、こいつに噛まれたんだ!
 おまけに、これでもかと頸動脈を吸われた!
 鏡がないので見えないものの、二人の視線が首筋から離れないということは、つまり、そういうことだ。
 見なくとも、どうなっているのか大体想像つく。
 日浦~、てめえは~。
 一気に顔をめがけて全身の血が回って、毛穴という毛穴から汗が吹き出す。
 たちまち顔面大洪水の俺。
 不意に俺の前に壁が出来た。
 さりげなく日浦が移動して、刈谷から俺を隠す。
 こいつは……ホント、如何なくモテる要素を発揮するよな。
 立ったままじゃ、同じくらいの身長差。隠れるにしても無理がある。俺はその場にしゃがみ込むと、両手で顔を覆い、わけわかんねえ呻きを喉で鳴らす。
 日浦の脚で視界が遮られ、刈谷の表情は見えない。それがありがたいんだか、むしろ見えないから反応がわからず怖いんだか、恥ずかしいんだか。
「この人、もしかして照れてんの?」
 うるせえぞ、刈谷。
「表情ないから、わかんないよ」
 悪かったな、鉄仮面で。
 日浦の脚の隙間から覗いて睨みつければ、刈谷はヒッと飛び上がった。
 
 
 
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