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第二章
探偵の言い分
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玄関先で大河原を見送り終えるなり、香都子はふんとそっぽ向いて早々に部屋に引っ込んだ。先程の遣り取りで、まだ虫の居所が悪いらしい。
客間の茶碗を片付けながら、渡邊は感慨深げに息を吐いた。手にしているのは、香都子の飲みさしだ。
「お綺麗な方ですね、香都子お嬢様は」
「ふん。谷崎潤一郎に出て来るような、色はあるが一癖も二癖もあるような女だ。油断ならない」
「谷崎」
「春琴抄だ。知らないのか」
「ずっと大陸におりましてね。世話をしてくれていた女が流行病で亡くなったので、つい半年前に戻ったばかりなんですよ」
その台詞に仰天した吉森は、三白眼をこれでもかと開いて、ひたすら渡邊の顔を覗き込んだ。息さえ忘れてしまうほどの勢いで制止してしまっている。ようやく口元を動かしたときには、それはわなわなと小刻みに震えていた。
「じゃあ何か。探偵とか言っているが、実績はないというのか」
「依頼といえば、華族様の行方不明だった飼い猫探しと、大根泥棒の見張りくらいですかね」
飄々とした答えに、思わず吉森は頭を抱えてしまった。
このような頼りないやつに、何故、大事な秘密を漏らしてしまったのだろう。
そんな吉森の内心の後悔を露とも知らず、渡邊はニカッとやにで黄ばんだ歯を剥き出して、愛想よく笑った。
客間の茶碗を片付けながら、渡邊は感慨深げに息を吐いた。手にしているのは、香都子の飲みさしだ。
「お綺麗な方ですね、香都子お嬢様は」
「ふん。谷崎潤一郎に出て来るような、色はあるが一癖も二癖もあるような女だ。油断ならない」
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