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第五章 虚構
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俺がまだ階段の半分の位置にいるというのに、もう秋葉はインターフォンを押している。
「ま、まだ何か用ですか? 」
何度目かの呼び出しで、ようやく警戒心丸出しで和子が扉を開けた。
秋葉はここぞとばかりにいつもの威圧感を発揮し、外側のドアノブを掴むなり勢い任せに引いた。弾みで中にいた和子がよろける。彼女の肩を支え倒れるのを防ぐと、そのままぐっと壁際に押し退け、玄関口に滑り込んだ。
「沢渡、出て来なさい」
秋葉は声を張り上げた。
「沢渡! 」
もう一度、中へ呼びかける。
「え? 課長? 」
ようやく五〇三号室前まで到着した俺は、突飛な秋葉の行動に目を丸くする以外なかった。
「ちょっと。ちょっと刑事さん。困ります」
たちまち顔色を変えた和子は、これ以上は許さないと言わんばかりに両手を広げ、秋葉の詮索を妨げる。だが、彼女のその露骨さが、俺達に確信をもたせた。沢渡は中にいる。
「もう、わかっています。早く出て来なさい。さもないと、こちらの高橋和子さんにまで危害が及ぶことになりますよ」
「ちょっと。刑事さん。誰もいませんってば」
言いながら、和子は爪先で男物のスニーカーを脇に除ける。初めて目にしたときから違和感があった代物だ。洒落っ気のない身形から、高橋和子は一人暮らしだと固定観念が働いてしまった。答えはそこにあったのに。何故、見逃がしてしまったのだろうか。
「我々はあなたを助けに来たのです。沢渡! 」
ミシミシと廊下の板を踏む音が奥の方から次第に近づいてきた。
鬱蒼とした大木を連想した。
写真ではわからなかった身長は、秋葉と大差なく、天井と頭頂部が酷く近い。男前ではあるものの青白い陰気な表情に生気はなく、写真通りだ。相変わらずの白の開襟シャツはきっちりと釦を全て嵌めてあり、神経質さを匂わせていた。胡乱な目つきで、突然の訪問者を無言で観察する。
やはり沢渡は五〇三号室にいた。
「ま、まだ何か用ですか? 」
何度目かの呼び出しで、ようやく警戒心丸出しで和子が扉を開けた。
秋葉はここぞとばかりにいつもの威圧感を発揮し、外側のドアノブを掴むなり勢い任せに引いた。弾みで中にいた和子がよろける。彼女の肩を支え倒れるのを防ぐと、そのままぐっと壁際に押し退け、玄関口に滑り込んだ。
「沢渡、出て来なさい」
秋葉は声を張り上げた。
「沢渡! 」
もう一度、中へ呼びかける。
「え? 課長? 」
ようやく五〇三号室前まで到着した俺は、突飛な秋葉の行動に目を丸くする以外なかった。
「ちょっと。ちょっと刑事さん。困ります」
たちまち顔色を変えた和子は、これ以上は許さないと言わんばかりに両手を広げ、秋葉の詮索を妨げる。だが、彼女のその露骨さが、俺達に確信をもたせた。沢渡は中にいる。
「もう、わかっています。早く出て来なさい。さもないと、こちらの高橋和子さんにまで危害が及ぶことになりますよ」
「ちょっと。刑事さん。誰もいませんってば」
言いながら、和子は爪先で男物のスニーカーを脇に除ける。初めて目にしたときから違和感があった代物だ。洒落っ気のない身形から、高橋和子は一人暮らしだと固定観念が働いてしまった。答えはそこにあったのに。何故、見逃がしてしまったのだろうか。
「我々はあなたを助けに来たのです。沢渡! 」
ミシミシと廊下の板を踏む音が奥の方から次第に近づいてきた。
鬱蒼とした大木を連想した。
写真ではわからなかった身長は、秋葉と大差なく、天井と頭頂部が酷く近い。男前ではあるものの青白い陰気な表情に生気はなく、写真通りだ。相変わらずの白の開襟シャツはきっちりと釦を全て嵌めてあり、神経質さを匂わせていた。胡乱な目つきで、突然の訪問者を無言で観察する。
やはり沢渡は五〇三号室にいた。
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