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姉の正体

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 意識のない雪森が桂木邸の門扉の前に放り捨てられていたのを、探索の警官に助け起こされたのは、拉致された翌々日の未明だった。
 雪森は目を覚ますなり、青蜥蜴のアジトでのことを詳細に大河原警部に語った(勿論、青蜥蜴と不埒な行為に及んでしまった件は伏せてある)。
 むかつくことに、青蜥蜴は雪森が意識を飛ばしている間に、体内に滞るもの全てを掻き出して、下着とズボンを新品に交換するといった隠滅を為していた。
「何ですと!美登理夫人が青蜥蜴の手下ですと!」
 大河原は仰天し、喉仏を震わせる。
 一方、腕組みして無言で耳を傾けていた子爵は、ふむと唸って呟いた。
「有り得る話だな」
「何ですと」
 大河原の眉根が寄る。
「あれは、亜季彦が連れ帰った女だ。京都の宮川町で、沢十美さとみという名で芸妓をしていた」
 目を見開いたのは、大河原だけではない。
 雪森も同様だった。
「姉さんは、新潟の造り酒屋の娘だと聞きましたが」
「ああ。元々はそうだ。没落して、取引客の伝てで芸妓になったという話だ」
「見合いではなかったのですか」
「世間の目というものがあるからな」
 兄はとんでもない女に騙されたものだ。
 造り酒屋の家の出というのも、今となっては怪しい。
「亜季彦が今までの行状を詫び、この女と一緒になれるなら、よからぬ振る舞いを一切断ち切ると。そこまで頭を下げるものだから、渋々と認めてやったんだ」
 そこまでして手に入れたというのに、ちっとも反省の色すら見せず、兄は今でも遊び歩いている。雪森は頭が痛くなった。
 大河原は傍らの部下に怒鳴った。
「す、すぐに女を手配しろ。青蜥蜴に繋がる女だ」
 しかし、警視庁の大掛かりな捜査も虚しく、その後、美登理の消息は至って不明だった。
 人々は通信社がこぞって書き立てる記事に、海外逃亡を諮ったのではないか、あるいは全く別人に成り済まして何食わぬ顔で今でも近辺をうろついているのではあるまいか、そもそも美登理という女は青蜥蜴の変装であって、最初から存在していないのではないか、など、好き放題飛び交った。
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