クトゥルフの雨

海豹ノファン

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優しい力

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「そ、そんな!!!」

何が起こった!?
そんな感じだった。

魔斗の目にも止まらぬ手術《メス》さばきで私の体から血しぶきが上がる。

ガクガク…血が飛び出て私は身体の自由が効かなくなる。

なんとかしなければ…

魔斗は小刀をスチャッと構え出した。
また私を斬り刻む気だ!

さっきのをまた食らったら今度こそ私の命は無い!
私は悪あがきのウォーターバリアを張った。

ウォーターバリアを纏い、魔斗は小刀を振るったもののウォーターバリアの効果で小刀は弾かれ、魔斗は手を抑えてもがく。

「クック、またウォーターバリアか…だが君は気づくまい、ウォーターバリアを張った事が誤りだった事にな!」

「え?」

私が疑問詞を投げかけた途端身体に痺れを覚える。

手足がガタガタして震え、自在に動かせない。

「な…何これ…!?」

やがて激しい頭痛と吐き気が襲い、他に手をついて私は吐いた。

「君の足元にウイルス入りの小瓶を置いたのだよ!私の入れた身体の傷口にウイルスは入り込み、更に君の病状を早める!」

魔斗の言う通り、私の足元にはいつのまにか小瓶が落ちていた。

そこからウイルスが舞い、ウォーターバリアを張った事で狭い空間を作ってしまい、挙句に体中に傷を入れられた事でウイルスの回りを早めてしまったと言う事か!

「ハッハッハッ!この私に楯突こうとしたからこうなったのだ!」

魔斗の狂ったような笑い声がどんどんノイズがかっていき、私の目の前は黒くなりはじめた。

私のウォーターバリアは解かれてしまう。

魔斗はニヤリとしてウイルスに冒されもがく私を見下ろす。

その魔斗の表情は悦を覚えていると言うか、眼鏡のみが光り顔は闇に覆われていると言うのか、恐ろしい表情で私を見下ろしていた。

「ふふふ相手を誤ったねえ君のような小娘が僕のようなエリートマッドサイエンティストに敵うと思ったのかい?」

魔斗は私を踏んづけてくる。

ああ私はやっぱり駄目だ…。
こうやって何をやっても馬鹿にされて…見下される…。

私…最後まで見下されっ放しだった…。
しょうがないや…これが私なんだ…。

ドジでトンマで…気も利かないし意気地もない。

頑張っても頑張っても…人並みの事なんて出来やしないんだ…。

ひょっとしたら頑張りが足りなかったのかも知れない。

りなっしーみたいになってるけど…こんな私なんだ…卑屈になっても仕方がないよ…。

もう駄目だ…早く…楽にしてよ…。

「ハハハハハ!!」

私を足蹴にして楽しんでいる魔斗。
その時の事だった。

「か弱い女の子の心と身体を傷つけて何が楽しいの!??」

勇ましい女の人の声が轟き、ギョッとして上を向く魔斗。

大きな病院の2階、3階先には若い看護師が勇ましいいで立ちで立っていた。

「黙れ!愛する人を殺された俺の気持ちなどこいつの比では無いわ!!」

魔斗の声の轟き、恨みと哀しみの篭った雄叫びを上げる。

一方高い位置にいる彼女は柵を越えてそこから飛び降りる。

飛び降りる途中で看護師の姿が変わっていく。

黒髪は金髪となり、羽兜を頭に被り、女神の白衣を羽織り、背には羽が生える。

そう、彼女は「女神」そのものとなった。

女神は音も立てず羽を羽ばたかせてゆっくりと着地する。

そして女神は強い目線で魔斗を射抜く。
その佇まいにたじろぐ魔斗。

そう、その女神は私の初めて出会ったクトゥルフの戦士、軽間奈照さんだった!

ワルキューレの姿となった奈照さんの手には大きな注射器のようなものを携えていた。

それが奈照さんの武器なのだろう。

「ぐひひ、貴様も看護師…俺の最愛の妻を殺した一人…お前もこいつと同じ運命を辿らせてやる…!」

魔斗は両手の小刀《メス》を揺らしながら正気を失ったような悪魔の表情で奈照さんに恨みを放つ。

「そう…」

普通の人、ましてや女性なら誰でも恐怖に怯えそうだが奈照さんはそんな魔斗を同情を向けるような目で見据える。

「貴方の恨みはいくらでも受けてあげる、でもその前にこの子の仇は取らせて貰うわ!」

奈照さんはボロボロになった私を償わせるように力強く魔斗に放った。

注射器状の武器を両手に持ち、臨戦態勢に臨む奈照さん。

一方両手に持つ小刀に私を斬り刻んできたように奈照さんに斬り刻みに向かう魔斗。

奈照さんと魔斗は瞬間移動したように目にも止まらぬ速さで交互に位置が代わる。

勝敗はどちらに!?

ガクッ!

地に膝を着いたのは魔斗だった。

その後奈照さんはウイルスにやられて息絶え絶えの私の元に…。

奈照さんは手から淡い光を発し、私に近づける。
私は暖かい感じになり、同時に身体の苦痛も癒えていく。

私の目元に光が差し込む。
私が目を見開くと優しく微笑む女神がそこに佇んでいた。

「女神…様…」

私はその人が本当の女神様に見えて仕方が無かった。

「良かったわ間に合って…」

奈照さんはふと息をつき、大きな注射器を消し立ち上がると元の看護師の姿に戻る。

そして奈照さんは魔斗の前に膝をつき、優しい眼差しを魔斗さんに向けた。

「辛かったですね…でもこんな事やめましょう…こんな事をしても貴方の奥さんは喜ばないわ…」

奈照さんは優しく魔斗に心の怒りを解き聞かせる。
まるで奈照さんが魔斗さんの奥さんの気持ちになっているように、病気で苦しんで死んでいき、残された家族を思うように。

魔斗の瞳からはボロボロと涙が溢れ出た。

「芽衣子…芽衣子…っ!」

魔斗は嗚咽を上げる。

やがてパトカーが到着し、魔斗さんは連れていかれる。

「姉さん、俺…貴女のお陰で自分の大きな過ちに気づきました…刑務所でいっぱい反省して…出たら真っ当な人間に更生してみせます…」

先程まで鬼のような表情だった魔斗さんは優しい人の良さそうな顔になり、見守る奈照さんにこう言った。

「その前にすべき事あるでしょう?」

奈照さんはこう切り出す。

「…ああそうだった、お嬢ちゃん、ごめんよ…」

魔斗さんは歯切れ悪く私に謝る。
許せてもらえないと思うと辛いのだろう。
その気持ちはわかる。

私は魔斗さんに言った。

「その気持ちがあるんならいっぱい反省してね!」

それも満面の笑顔で。
これが私の精一杯の激励だった。

魔斗さんが連れて行かれる頃にはとうに日は暮れて、病院に明々とライトが照らされた。

照らされたライトは幻想的な彩りを見せる。

「綺麗…」

「このライトは患者さんの心を癒すためにもあるの、長い病院生活になると辛くなるのは必須だからね」

奈照さんは言う。

「だったら病院にいる看護師や医師さんも優しければ良いのにね!」

「キャハ!言えてる!」

こうして私達の一日の騒動は終えた。
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