アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

文字の大きさ
16 / 186

第16話「嵐山VS『パンドラの箱』①」

しおりを挟む

  五月十三日(金)十八時四十一分 駅北口裏通り・廃ビル

「内水が負けたってのか⁉」
 ジンが立ち上がる。
「撃破はされていなくとも突破された可能性は高い。このタイミングでの限定型・・・の接近なんて他には……いや、おかしい。」
 タクト君が俺から離れ、板を打ち付けられた窓へ近寄る。
 禍々しい気配も離れる。
 解放された体が崩れ落ちるかのように跪く。
 依然として加速を続ける心臓が眩暈を感じさせる。
 俺は……、俺は今、一体何を……。
限定型・・・エーラ・・・を、六、いや、七人分感じる。」
 タクト君が打ち付けられている板をわずかに横にスライドさせた。
 この窓だけなのか、この建物の全ての窓がそうなのか、どうやら窓に打ち付けて歩いたはフェイクらしい。
万能型・・・、の気配も感じるぜ? そっちは一人だ。」
 白衣を着た、ボサボサとした癖っ毛の男が立ち上がる。
 無精髭が汚らしい。
「万能型まで⁉」
 テーブル側がざわつく。
奴ら・・が一斉に攻めてきた…?」
 マーヤがタクト君を見る。
「それはねぇぜ。奴ら・・は今別動隊・・・の相手をしてるはずだ。自由に動ける奴なんてほとんど残ってねぇよ。」
 ジンがマーヤに返す。
 タクト君は、窓横の壁に背中を張り付け、外の様子を窺う。
「民衆が集まっている。」
「民衆?」
 ジンが窓に近づく。
「この通りの客だろう。みんな、携帯電話をこのビルに向けている。…なにかを撮っている? カメラの先は……四階? 屋上?」
 タクト君が窓から視線を外す。
「ジン、上の階を調べてきてくれ。屋上までに虱潰しに。」
「! わかった。」
 ジンが部屋を飛び出す。
「民衆って、私たち、囲まれてるの?」
 マーヤが不安げにタクト君を見る。
「囲まれてる……けど、あそこにいるのは一般人だ。やっぱりこれは嵐山の単独犯で間違いないだろう。」
 再びタクト君が窓の外を見る。
「どういうことよ?」
「ここは男の欲望渦巻く風俗街だ。普段は表に出せない性癖も、ここでなら解消できる。無自覚な限定型・・・はそれなりにいてもおかしくない。同じ理由で無自覚な万能型・・・も、一人二人はいるだろう。恐らく、彼はこの民衆を隠れ蓑にしてこのビルに侵入するチャンスを窺っているはずだ。」
「いくらなんでも、ビルにまで入ってきたらわかるわよ。」
 マーヤが、焦るような、神経質そうな顔をする。
「タイミングにもよるだろう。だから、まずは上の階で何が起こっているのかを調べる。大勢の人数がこのビルに入ってくるシナリオが出来上がっていたら最悪だ。僕たちはまだ派手に動けない。逃げ場のないビルで神室くんを連れて脱出しないといけなくなる。」
「そんなの、どうやって」
「しっ。静かに。」
 かぶりを振るマーヤを、タクト君が唇に人差し指を当てて制す。
 程なくして、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「……消防車の音だね。上でボヤ騒ぎを起こされたみたいだ。」
 タクト君が至極冷静に告げる。
「もう侵入されてるってことか? そんなエーラ・・・、感じなかったぜ?」
 白衣の男が頭を掻く。
「遠くからなにかをしたんだろう。……発火の能力か、遠隔操作か……」
 タクト君が考えていると、サイレンの音が近くなり、複数の車の音が聞こえてきた。
「消防車と警察が来た。」
 タクト君が窓の外を見下ろす。
「あん中にも三人、限定型・・・が紛れてるな。」
 白衣の男がタクト君に近づく。
「ここまで計算していたとは考えにくい。偶然とも思えないが…、彼ら・・の中に消防隊員がいたのか?」
 タクト君が振り返り、「どちらにせよ」と続ける。
「彼は消防隊員に紛れてこのビルに侵入するつもりだろう。入り口と窓を封鎖して時間を稼ごう。マーヤはその前にここから脱出して能力・・を使ってくれ。その混乱に乗じて僕たちも脱出だ。」
 タクト君はマーヤを見る。
「っ……そんなの無理よ。」
 マーヤはタクト君の要求を拒否する。
「時間がかかってもいい。君の力なら十分いける。」
 タクト君はマーヤを見つめ、マーヤは目を瞑る。
「そういう問題じゃ……」
「! タクトっ‼」
 突然、白衣の男が叫ぶ。
 瞬間、一つの人影が部屋に飛び入り、テーブルの上へ飛び乗った。
 ネックウォーマーで口元を隠した男。
 人影の正体は、嵐山だった。
 それに気付いた直後、視界は一瞬にして白く染まった。

  五月十三日(金)十八時四十八分 駅北口裏通り・廃ビル

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...