アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第18話「嵐山VS『パンドラの箱』③」

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  五月十三日(金)十八時五十四分 駅北口裏通り・廃ビル(屋上)

 まず動き出したのは風祭匁だった。
 元来、考えることを不得手としていた風祭匁は、脇に抱えられた神室秀青を認識するよりも先に感覚で嵐山楓を敵と察知し、脊髄反射で行動を起こしていた。
 彼の反射による動きには一切の無駄がなく、的確な動作で嵐山楓にアッパーカットを繰り出していた。
 しかし。
 風祭匁よりも先に嵐山楓は敵との遭遇に気付いた。
 よって彼の的確な反射に対し、的確な反応を以てその攻撃を躱し、背後を取り、後ろ蹴りを浴びせた。
 蹴りの勢いを利用し、彼は屋上を駆け抜ける。
 (ここを突破すれば……)
 だが、屋上の柵を目前にした時、彼の足が再び止まった。
 突如として背後より現れた死の気配が彼の全身を包み込んでいた。
 直後、背後から激しい痛みを伴う衝撃に弾かれた彼は、神室秀青を放り投げ柵に衝突した。
 背中からの痛みと禍々しい気配に震えあがりつつも背後を見る。
 まず目に入ったのは蹴り上げた足を下ろす風祭匁。
 その後ろに、扉の前に立っている神代託人。
 死の気配の正体。
(——っ! 神室っ)
 嵐山楓は激しい痛みに耐えつつ遠くに転がっている神室秀青の下へ向かう。
 だが、瞬時に間合いを詰めた風祭匁が彼の前に立ちはだかる。
「『鍵』は渡さねぇ、ぞっ!」
 風祭匁の蹴りが嵐山楓の顎を突き抜ける。
 (エーラを…纏った蹴りっ…)
 風祭匁に対して無防備であった・・・・・・・今の彼の体に致命的なダメージが走る。
 脳震盪。
 背中から派手に倒れた彼に、追い打ちをかけるように神代託人の気配が襲い掛かる。
 (視界が歪む。力が入らない。体が動かない。震えが止まらない。冷たい。息苦しい。———死ぬ。)
 漫然と、漠然と、仰向けのまま死を直感した彼を見下ろすように風祭匁が立つ。
「こいつ、殺すぜぇ?」
「そうだね。その方が都合が良い。」
 神代託人が冷たく言い放つ。
 (やっぱり…)
 嵐山楓が全てを諦め、自身の死すらも受け入れたその時———
嵐山っ・・・‼」
「っ‼」
 ——瞬間、彼の脳裏を駆け巡る光景。
 走馬灯と相まって呼び起こされるあの日・・・の記憶。
 屋上。
 強風。
 少女。
 そして、後悔。
「———っあああっ‼」
 突如として巻き起こった突風が、風祭匁を突き飛ばし、神代託人の動きを制限し、嵐山楓を起き上がらせ神室秀青の下へと運んだ。
「立てっ‼」
 反射的に立ち上がった神室秀青の腕を掴み、彼は勢いそのまま柵を乗り上げ屋上から飛び降りた。
 二人の男子学生が四階建てビルの屋上から飛び降りる。
 地上では、消防隊員に抑えられつつもその光景を収めようと野次馬たちが携帯を構えていた。
「———し、ぬうううううう」
「口閉じろ! 舌噛むぞ!」
 情けない声を上げる神室秀青を嵐山楓が叱責しつつ彼の体を両腕で掴む。
 (この高さ……神室は確実に死ぬ! 俺もギリ死ぬ!)
 嵐山楓が歯を食いしばる。
 (保険はもうない……。まさか最後に博打とはな……。)
 二人の体がビルの二階を過ぎた時、消防隊員二名が大きな布を広げ、引っ張り合い、構えた。
 二人は吸い込まれるようにそこへ落ち、大きく飛び跳ねた。
 消防隊員二名は二人の再落下地へ布をまた構え、二人を今度こそキャッチした。
 (——どう、なった……?)
 大量の汗を流し、息を切らしながら二人は白く大きな布に全身を預ける。
「大丈夫ですかっ⁉」
 声の方を嵐山楓が見上げると、見慣れたチョビ髭の男が二人に呼びかけていた。
 (たす…かった——)
 嵐山楓の意識がそこで途切れた。
 神室秀青はとっくに気絶していた。

   五月十三日(金)十七時 駅北口裏通り・廃ビル(屋上)

「ちっ。逃げられちまったぜ? どうするよ。」
 風祭匁が舌打ち混じりに神代託人を見る。
「いいよ。放っておこう。」
 神代託人は意識を二人から外すと、階段を降り始めた。
「いいのかよ? 『鍵』を持ってかれちまって。」
 風祭匁も神代託人の後に続く。
「大丈夫。計画は滞りなく進んでいる。」
 不意に、壁に亀裂が生じる。
 風祭匁は思わず足を止める。
 神代託人から、恐ろしく邪悪なエネルギーが放たれていた。
「そろそろ次のステップへ進もうか。」
 空間そのものが捻じ曲がっていくような、捻じ切れていくような感覚を風祭匁は覚える。
 小さな体躯に似合わぬ圧力。
 この人なら、本当に世界を変えられると確信を持って言える。
 かと思えば、邪な気配はすぐに萎み、振り返った神代託人の顔には年相応の純真な笑顔が浮かんでいた。
「じゃ、野次馬が二人に注目してるうちに帰ろっか・・・・☆」
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