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第22話「『真希老獪人間心理専門学校』」
しおりを挟む五月十四日(土)十時四十五分 T県N市・とある廃墟
神代託人の言葉に風祭匁が反応する。
「『錠』っつってもよぉ、目星はついてんのかよぉ? 『鍵』以上に見つけ出すのは困難なんだろぉ?」
その隣で、無精髭の男が頭を掻く。
「ああ。未だにそれらしいのは見つけられない。それらしい、ってのもまだ仮説の段階だ。探し方が既に間違ってる可能性すらある。いや、そもそも『錠』の存在すら確証が得られてない。本当に実在するのかどうかすら危うい。」
神代託人が二人に向き直る。
「確かに『錠』の存在自体に明確な根拠は存在しない。だけど、いる。」
両手を広げる。
「僕が僕として存在している以上、『錠』もまた、この世に存在していなければおかしい。でもま、」
神代託人は手近にあった椅子に腰かける。
「目星がついていない以上、見つけるのが困難なのに変りはないし、かといってこのまま見つかるまでのんびり破壊活動にのみ勤しむつもりもない。」
そして、不敵に笑った。
「まずはあっちの出方次第だが、こちらから少し調整を加えよう。彼らが先手を打つことはまずないし、後手に回っている以上、僕たちの有利に変わりはないんだからね。」
五月十四日(土)十一時三分 国道・〇×号線
車は高速道路を降り、合流地点を抜けた。
「僕たちが一体何者なのか、なんだけど。」
シモダさんは説明する。
「まぁ、僕たちはとある教育機関の関係者なんだ。」
「教育、機関…?」
車の速度は先ほどよりも控え目だが、速度制限は超えている気がする。
「名前は『真希老獪人間心理専門学校』。そこの嵐山君が生徒で、僕は講師をやらせてもらっている。」
「講師……」
だから先生なのか。
「基本土日限定で活動を行っていてねー。人間心理なんてついてるけれど、人間の深層心理に基づいた性的倒錯、及び、性嗜好の社会的逸脱によって発生しうる人格的・社会的問題についての勉強が主な活動内容となっているね。ま、簡単に言うと、異常性癖に理解を示そう、みたいな感じかなー。」
「異常…性癖についての教育機関、ってことですか? 聞いたことないですね。」
シモダさんが微笑む。
「うちは細々とやってるからねー。」
車が右折車線に入った。
「……あの、よくわからないんですけれど、その教育機関がなんであんな危ない組織から僕を助けてくれたんですか?」
車が交差点で一時停止する。
「それがうちの目的だからねー。」
対向車が途切れ、車が再び走り出した。
「僕を…助けるのが、ですか?」
教育機関の?
「まぁ、君を助けるのもその一つ、かな。……えぇっとねー。元々はさっきも言った通りの活動内容を目的に設立された学校だったんだけれど、『パンドラの箱』が暗躍するようになってからは、彼らが行う活動の抑止を目的とした学校になっていてねー。」
学校になっている?
正面の信号が黄色に変わった。
シモダさんは迷わず突っ切っていった。
「………。」
「実は僕たちも彼ら——『パンドラの箱』と似たような考えを持っていてねー。」
何事もなく続けたぞこの人。
「性的倒錯についての研究・教育を通して『性的少数派』に対する偏見と誤解を解き、『性的多数派』に周知してもらう。」
「………。」
『性的少数派』。
この人たちも……。
「『性的少数派』と一口に言っても様々な形態が存在する。それら一つ一つの指向性、及び嗜好性を究明し、『性的多数派』への理解を広めるために各団体に働きかける。それが数年前までの主な活動だった。」
シモダさんはハンドルを握り直す。
「始めこそ門前払いを受けることも多かったけれど、徐々に理解を示してくれる団体は増えていき、いつしか世間も『性的少数派』に関心を寄せるようになっていった。スポンサーを名乗り出てくれる資産家も現れ、入校者も増えてきた。全てが順調に進んでいた時、とある事件が起こったんだ。」
「とある事件?」
シモダさんが、少しの沈黙の後、答える。
「……事件が起こったのは五年前。日本の首都圏で突如発生した、平和な家庭を襲った無惨な惨劇。X区一家惨殺事件。」
「一家惨殺⁉」
「君は恐らく知らないだろう。あまりの過激な内容に、警察は事件を公表しなかった。関係者には緘口令を敷いたくらいさ。なんせその事件の容疑者は当時まだ九歳の少年だったんだからね。」
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