29 / 186
第29話「自慰なる少年に秘められし能力(チカラ)」
しおりを挟む五月十四日(土)十二時八分 旧・真希老獪人間心理専門学校(教室)
俺と嵐山が教室の机を掃除していたところに、シモダさんがコンビニ袋を二つぶら下げて戻ってきた。
「やー。ごめんねー。掃除までしてもらっちゃってー。」
机の上に、袋の中身を並べ始める。
ハンバーグ弁当、牛カルビ弁当(麦飯)、からあげ弁当にサンドイッチ二袋、あと飲み物に、四ツ矢サイダー二つに濃~いお茶と午前の紅茶だ。
「コンビニ弁当…ですか?」
「嫌いだった?」
「あ、いえ。いつの間に買ったのかなと。」
「病院へ向かう途中に買ってきてたんだよ。必要かなーと思ってねー。あ、消費期限とかはギリギリ大丈夫だと思うから、その辺は心配しないで。」
「いえ、ありがとうございます。」
準備の良い人だ。
「さ、好きなの持ってっちゃてー。」
シモダさんの声に、ミカミさんが真っ先にサンドイッチと午前の紅茶を手に取る。
ちなみにこの人、掃除とか一切手伝わなかった(例によって美しい俺が云々とか言って)。
あと、いつの間にやら服も着替えている。
「あ、えーっと…」
嵐山を見る。
嵐山は、俺に選択権を譲る視線を向ける。
「あ、じゃあ、これで。」
少し遠慮気味にハンバーグ弁当と四ツ矢サイダーを手に取った。
シモダさんに促され、嵐山も続いて牛カルビ弁当と濃~いお茶を手に取り、余ったからあげ弁当と四ツ矢サイダーをシモダさんが手にした。
机を四つ、囲うように並べ、それぞれ座っていく。
俺の向かいにシモダさん、右隣には嵐山が座った。
「じゃあ、みんな揃って、いただきまーす。」
シモダさんが手を合わせてお辞儀をする。
俺もそれに倣って頭を下げるが、他二人は手を合わせただけだった。
みんな各々弁当の容器を開け、食べ始める。
「うん、おいしい。」
シモダさんがにっこり笑う。
他の二人は黙々と栄養摂取に勤しんでいる。
しばしの無言。
今しかないな。
「あの、ところで、俺の『性癖』についてもう心当たりがあるみたいですけど、どういうのなんです?」
少しタイミングを見計らって、シモダさんに訊いてみる。
さっきはタイミングを逃してしまったが、実はむちゃくちゃ気になっていたことだ。
『性癖』。
今まで見てきたものは、腕を切断したり治したり、受けた傷が消えたりするものだ。コンクリートの壁を砂にしたという話もある。
漫画やゲームみたいな人外の能力。
めちゃくちゃ憧れるそれが、俺にもあるというのだ。
一体どんな能力なんだろう?
『パンドラの箱』は俺のことを『鍵』とか呼んでいたし、とてもレアな能力なんじゃないだろうか。
影を操る能力?
光を切り裂く能力?
時間を跳躍する能力?
単純に炎を発する能力とか?
欲しい能力ならいくらでもあるぞ。
「ああ。その話がまだだったねー。」
シモダさんがサイダーを飲んで、ペットボトルの蓋を締める。
「君の『性癖』。君個人が保有する君だけの固有能力なんだけどね。」
「うんうん。」
俺だけの能力。
かっこいい。
「そのヒントは、君のオナニーにあったんだ。」
「うんう…ん?」
あれ?
なんだか雲行きが怪しくなったぞ。
「君のオナニーに対する情熱はとても素晴らしい。一日に二十回も三十回も行うというのは、偉業としか言えない。他の人には真似できないよ。本当にね。」
おや?
なんでまたオナニーの話に?
能力の話は?
「なんせ、常人には生物的に不可能だからだよ。」
シモダさんは唐揚げを一つ頬張ると、口元を抑えながら話を続ける。
「一説によると、勃起と射精は副交感神経と交感神経の複雑な働きによってコントロールされていると言われている。この二種類の自律神経の働きには、多大なストレスが発生すると言われ、性的興奮はそのストレスを感じないために脳が快楽物質を分泌しているから起こると言われている。」
シモダさんは次に、米を口に運ぶ。
この流れは……まさか。
「人間はストレスを感じなければ意志を失くすと言われているが、ストレスを受けすぎても死に至る。そこに体力的な問題も絡み、起こるのが腹上死——つまりテクノブレイクだと言われている。つまり、常人が君と同様のオナニー回数を行えば、死に至る可能性があるということだよ。ここまで言えば、わかるよね?」
「わかりません。」
そんなわけがない。
「君の『性癖』。それは、君自身のオナニーへの欲求、探求心を満たす為に、体力の絶対値の上昇、精神的・肉体的負荷を軽減するもの——即ち限りなく無限に近い頑強さ、タフネスを得るものだったんだよ。」
「………。」
あー。
やっぱり。
やっぱりなんか、思ってたのと違う。
もっとこう。
もっとこう、ファンタジーでファンタスティックなものを期待していたのに。
能力にもオナニー絡みかよ。
なんで俺の人生はこんな、どうしようもないオナニーまみれなんだよ。
『性癖』が『変態性』を補助するために発現するって言ってたから、まぁ、間違いではないのかもしれないけどさぁ。
「何をガッカリしてるんだ?」
嵐山が箸を動かしながら訊いてくる。
「そりゃあガッカリもするだろ! もっと凄い能力を期待してたんだぜ? なのに体力が上昇する能力って、なんかもう、地味!」
「そんなことないと思うが…」
「いいや! お前も絶対に地味だと思ってるね!」
箸で嵐山を指す。
行儀が悪いが知ったことか。
「いや、俺は結構いい能力だと思う。体力の上昇、肉体の強化。単純だけど強力だし、応用も効くと思う。」
「嘘つけ! じゃあ逆に聞くけど、お前の『変態性』と『性癖』はなんなんだよ!」
俺の逆ギレを受け、嵐山は箸を置く。
「俺の『変態性』は、“スカートふわり”。」
スカートふわり?
「パンチラってこと?」
「違う。パンツは見えたら駄目だ。チラリとも許さん。こう、風が下からスカートを捲り上げた時の、そのスカートの形。ふわっと風を受け入れ、膨らんだその状態。そこに感じるフェティシズムを、俺は“スカートふわり”と呼んでいる。」
「変態じゃねぇか。」
「なんだと⁉」
嵐山が椅子から立ち上がる。
「お前、スカした面してそんな性癖持ってやがったのかよ!」
俺もつられて立ち上がる。
「こらこら君たち。食事中だよー。」
シモダさんに制止され、俺と嵐山は席に着く。
「それに、変態っていうけど、君もそこは同じでしょ? 神室君。」
う。
「そうでした。…悪い、嵐山。」
そこを否定するのは確かに間違いだ。
イケメンとその性癖のギャップでつい。
「いや、別に。」
嵐山は目を逸らして食事を再開する。
「…で、『性癖』の方は結局どんなんなの?」
肝心なところがまだ聞けていない。
「別にもういいだろ。」
「いーや、よくないね。お前の能力次第によっては俺の能力が地味なことがここで確定する。」
「なんだその理屈。」
「うるさい、いいから答えろ!」
こいつの能力のことだ。
かっこいいものに決まっている。
けど、“スカートふわり”か。
そこから派生する能力ってどんなだ?
女性にスカートを履かせる能力?
どんな能力だよ。
嵐山はちらりとシモダさんを見ると、面倒くさそうに溜息をついた。
「俺の『性癖』は『風さんのえっち!』。風を発生させる能力だ。」
「っ!」
風を発生?
なにそれ、超かっけぇ。
ん?
いや、でも……。
「なんか名前だせぇな。」
「いちいちイチャモンつけてんじゃねぇ!」
嵐山、二度目の起立。
「こらこらー。」
シモダさんが再び注意するも、嵐山は無視。
「じゃあ、お前の能力はどんな名前なんだよ。」
「え? 俺の?」
今詳細を聞いたばっかだから何も考えてねぇ。
能力自体が地味だから、せめて名前はかっこよくしないと。
ええと……。
体力の上昇。
自慰の負担軽減?
いや、精神面のストレス軽減。
ストレス。
負荷。
「……『独り善がりの絶倫』?」
「お前も大概じゃねぇか。」
「え? かっこよくね?」
冷静に戻った嵐山のツッコミと共に能力名、決定。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる