アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

文字の大きさ
41 / 186

第41話「級友を妬む少年と密会する教師」

しおりを挟む

  五月十七日(火)八時二分 時雨沢高等学校・正門前

「万が一のことも考えて、僕はこの辺うろついてるねー。」
 「じゃあ、二人とも頑張ってね。」と言って、シモダさんはレガシィに乗り込む。
「よし、じゃあ行くか。」
 隣に立つ嵐山に振り向く。
 嵐山は、無表情でやや下を向く。
「なんか、見られてねぇか?」
 そう言われ、軽く周りを見回してみる。
 まばらに歩く生徒たちは、明らかぬ俺たちに注意を向けていた。
「まぁ、女子に大人気なイケメン転校生が登校二日目にして冴えない男子生徒とレガシィから降りてきたら嫌でも目立つわな。」
「普通に嫌なんだが。」
 不満たっぷりに俺を睨んでくる嵐山。
 俺に言われたってしゃあないだろ。
 俺だってよくはないし。
 嵐山は露骨に俺から距離を取りつつも、二人揃って教室へ。
 入るなり嵐山は女子の群れに囲まれ、俺は担任の教師から呼び出しをくらった。
 一体何だと思いつつ職員室へ同行。
 客用ソファに座らされ、担任教師と一対一で向かい合う。
「お前、金曜のこと覚えてるか?」
「金曜?」
 あ。
 口に出した瞬間、思い出した。
 廃墟探索のボヤ騒ぎ。
 犯人は俺ということになっていた。
 すっかり忘れていたことで十数分ほどそれなりにこっぴどく怒られ、教室へと帰還する。
 戻ったら戻ったで一馬がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。
「よぉ、放火魔。」
「くっそ、お前もう聞きつけたのかよ。」
「うちの関係者の情報はなぜか全部俺のところに来るようにできてんだよな。」
「お前はギャルゲの主人公の友人か。」
 ツッコミを入れつつ着席。
「それに、俺だけじゃなくてみんな知ってるぜ? お前が例の転校生と仲良く登校してきたこともな。」
「嫌なことばかり広まってるな。」
 つーか広まるの早すぎだろ。
 まだ登校して二十分くらいしか経ってねぇぞ。
「いやぁ、それが嫌なことばっかりってわけでもないんだぜ。お前のことじゃねぇがな。」
「え?」
 てっきりもっと追及されるかと思ったが、一馬はすぐに別の話題を持ち出す。
 どうやらそっちが本題らしい。
 ということは。
「ほら、そこに座ってる野郎いるだろ?」
 一馬が顎でしゃくってみせる。
 その先には、長めの黒い髪をボサボサと揺らす、シモダさんに負けず劣らずな細目の持ち主、佐竹が座っていた。
「佐竹がどうしたんだよ?」
 一応訊いているが、こいつが次に何を言い出すかはなんとなく予想がついていた。
「めでたいことにあの野郎、俺のアイドル、西野さんと付き合ってやがったんだぜ。実にめでてぇよな、まったくよ。」
 一馬が怒りを露わにした視線を佐竹に向ける。
 やっぱり。
 こいつが優先する話は基本女絡みだ。
 男にはまったく興味がないのであろう。
 そして、佐竹の名前が出た。
 もはやその話しかあるまい。
 つーか、嫌なことじゃないんじゃなかったのかよ。
「全然知らなかった。」
 と、一応言っておく。
 二人の逢瀬を見たのが俺(と嵐山)だったとバレたら面倒だしな。
「けど、男の嫉妬は見苦しいぞ。それにお前のアイドルって何人いるんだよ。お前、前に九条さんのこともそう言ってたじゃねぇか。」
「西野さんはまた特別なんだって。」
 俺の反論に、一馬が食らいついてくる。
「お前、九条さんの時もそう言ってたぞ。」
「ぐぬぬぅ……」
 早くも反論の余地がなくなったのか、一馬は悔しそうに拳を握る。
「でも、お前だって西野さんは可愛いと思うだろ?」
 なにが「でも」、だ。
 まぁ、「でも」。
「うん。可愛いよな、西野さん。」
「だろぉ?」
 一馬の声が裏返る。
 そして、西野さんのどこがどのように可愛いのかを手を交えて続けざまに解説してくる。
 面倒くさくなって途中から半分聞き流していたが、「清楚な」という単語が耳に入った時、不意にあの光景を思い出す。
 ………。
「おい、聞いてるのかよ?」
「あ、ああ。」
 ボーっとしてたのを、一馬が敏感に察知してくる。
 一馬、俺はお前のこと言えなかったよ。
 確かに少し、許せない。
 佐竹ぇ………。



 時雨沢高校校舎内の、神室秀青のエーラがゆらいだ。
 その動きを察知して、少し離れた住宅街の真ん中に位置する公園で、下田従士が校舎側を見る。
 (あらら、神室君、何かあったのかなー。)
 ベンチに座り、微笑む下田従士のその背後に、一人の男が立った。
「今回は気付いてたよー、君のエーラ。」
 下田従士は目を瞑るようにして、振り返る。
「内水康太君、だっけ。」
 振り返った先には、『パンドラの箱』メンバー、内水康太が立っていた。
「覚えててくれて光栄だなぁ、下田先生。」
 内水康太が不敵な笑みを浮かべ、下田従士の座るベンチ、その隣のベンチに腰掛ける。
「神室君を攫いに来たのかい?」
 下田従士は前屈みになり、細い視線を内水康太へと向ける。
「いいや、今日は別の用事で来たんだ。あんたが一番日本語通じそうだからなぁ。」
 内水康太がポケットから一枚の紙切れを差し出す。
 下田従士は多少の警戒をしつつ、差し出された紙切れを受け取った。
「……これは?」
 紙切れを開き、中を確認する下田従士。
 内水康太はその様子を少し窺ってから口を開く。
「『鍵』の実践テストに丁度いいんじゃないかと思ってな。内容、頭に入れたら燃やして処分してくれ。」
「……どういう、ことかな?」
 下田従士は怪訝そうに内水康太を見る。
「……金曜の一件でな、俺はどうもわからなくなっちまったんだ。『パンドラの箱うち』とあんたら、どっちに付くべきなのか。」
 内水康太は俯き気味に語り出す。
「だから、俺はひとまず中立の立場になってみることにした。『鍵』は早めに鍛えておいた方が良い。その紙には、それに関して有益な情報が書いてあるはずだ。これ以上は言わねぇが……疑ってるな? 当然だ。」
 内水康太が下田従士の顔を見て言う。
「言っておくが、こいつは本音だ。」
「……随分急だね。心変わりも、本音を語るのも。」
 そう言いつつも、下田従士は既に内水康太の言葉をある程度信用していた。
 その根拠は合理的な思考からくるものではなく、非合理的な勘であった。
「なんで、僕なんだい?」
 片手を広げる下田従士に、内水康太はベンチから立ち上がって答える。
「言っただろ? あんたが一番日本語通じそうだからだよ。知ってる中じゃあ、な。まぁ、信じるも信じないもあんた次第だ。」
 大きく伸びて、内水康太は再び下田従士を見る。
「だが、ここから先はそういう情報も漏らさない。あくまで中立に接する。指示があればあんたとも戦うさ。」
 そして内水康太は一呼吸置いてから「だから、」と続ける。
「嵐山楓の“性癖スキル”『風さんのえっち!ウィンドウズ』についても、『パンドラの箱』には漏らさない。」
「っ!」
 下田従士は思わず立ち上がる。
「それを…どこで知った?」
 嵐山楓は自身の能力を隠してきた。
 敵は勿論、必要とあらば味方にさえも。
 そうすることで、彼の戦闘スタイルが十全に効果を発揮するからだ。
「俺の“性癖スキル”に関することだ。それ以上は、あんたにも言わない。……『パンドラの箱』は、嵐山楓の能力が風に関するものだと断定しきれていない。疑ってはいるが、確信は持てていない。俺も言うつもりはない。」
「脅迫、かな?」
 下田従士の細い目の奥で、鋭い眼光が光った。
 大事な生徒の秘匿事項。
 それを握られているからだ。
「だから、中立の立場に徹するって。俺は今後は『パンドラの箱』にもあんたらにも不利にならないように動くよ。身の振り方を決めるまでは情けないコウモリくんを演じ続けるさ。まぁ、身の振り方が決まっても嵐山のことは言わねぇから安心してくれ。」
 内水康太は下田従士に背を向けると、片手を振って悠々と下田従士の前から姿を消した。
「………ふぅーっ」
 下田従士は溜息をついて、ベンチに勢いよく腰を下ろす。
 勝手な理屈を並べて、生徒の重要な情報をちらつかせた男を、下田従士は見逃した。
 勘などという、非常に不合理なものを根拠に、彼は内水康太を信用してしまっていた。
「……もしかして、教師失格なのかなぁ、僕。」
 わざと自己嫌悪に陥ってみる。
 それでも、彼は内水康太を疑う気にはなれなかった。



 後々重要になるかもしれないこの小さな密会。
 そんな事件が起こった五月十七日の火曜日。
 その二日後の、五月十九日の木曜日———

  五月十九日(木)十七時二分 真希老獪人間心理専門学校新校舎前

「さて、心の準備はどうかな? 神室君。」
「あんまりできてないです。下田先生。」
 神室秀青が、真希老獪人間心理専門学校にやってきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...