アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第42話「少年は新校舎を訪れる」

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 連休明け三日目の授業も終わり、例によって俺と嵐山はシモダさんの迎えを待っていた。
 三日間続いている俺たちの登下校風景は、未だ周囲の生徒による好奇の目に晒されていた。
 特に今日はシモダさんがなかなか迎えに来てくれず、いつも以上に刺さるような視線を多分に感じ取っている。
 痛い。
「……俺たちがデキてるって噂が広まっててかなり不快なんだが。」
「あー。俺も散々訊かれたわ。佐竹への怒りが収まった一馬に。」
「何の話だ?」
 当人たちにとって死活問題となっている、最近の生徒間立場の話を嵐山と交わしていたところにレガシィが到着した。
「やー。ごめんね。ちょっと遅くなっちゃったー。」
 運転席の窓を下げてシモダさんが顔を覗かせる。
 もはや躊躇うことなく、俺は助手席へ、嵐山は後部座席へと乗り込んだ。
「じゃあ、出発おしんこー。」
 元気な掛け声とともにシモダさんが車を走らせる。
 いつもの如く高級車のシートの感触を堪能していると、いつもはない、パンパンに膨らんだごみ袋が嵐山の隣に座らされているのを視界の端に捉える。
「あの、下田先生。これ、なんなんですか?」
 嵐山が指をさすそのごみ袋には、着替えやら歯ブラシやらの生活用品が詰め込まれていた。
「…ってか、あれ? これ俺のじゃん!」
 紛うことなき俺の所持物が、悲しいことに不要物を収納する袋の中に詰まっている。
「……ってことは、もしかして俺、見捨てられるんですか? 修行が上手くいってないから?」
 滲む涙を必死で堪える俺に、シモダさんは笑って返す。
「いやいやいや。見捨てる気なんて更々ないよー。修行だって上手くいってる…というより、上手くいきすぎてるくらいだしねー。」
 そしてシモダさん恒例のレガシィ急加速。
 いつもなら死にそうなリアクションを取っているところだが、この時ばかりは心の底から安堵した。
 よかった。
「じゃあ、これは一体……?」
 横目でごみじゃないものが包まれたごみ袋を見る。
「その上手くいきすぎな修行の成果さ。」
 シモダさんが顔ごと俺を見る。
 いやいや、前、前。
「一昨日の下校後から、君のエーラはゆるぎなく君の周囲に留まっている。何をしていようが、ナニをしていようが、君は今日までエーラを纏い続けることができた。」
 誰が上手いことを言えと……って、え?
 ということは、もしかして。
「今から君を自宅へ連れていく。そこで荷物を纏めたら、いよいよ君を新校舎へと連れていこう。」
「やった!」
 両手を上げてガッツポーズ。
 その勢いで揺れる車。
「おいおい、あまり暴れないでよ。危ないじゃないか。」
 シモダさんからの注意。
 高スピードで前も見ずに運転する人に言われたくない。
 車はさらにその速度を増していき、そして———

  五月十九日(木)十七時二分 真希老獪人間心理専門学校・玄関前

「いやいや、さっきまでかなりノリノリだったでしょ。」
「いざこうして来ると、急に緊張しちゃって……」
 下田先生のツッコミに、胸を押さえて返す。
 S県K市の人も寄り付かないような山中の、森の奥に聳える切り立った崖の、下にぽっかりと空いた穴のような洞窟の、奥へ奥へと進んだ先の壁に、カモフラージュされた緞帳のような布を突き抜けた先に、それはあった。
 目の前に大きく聳え立つ白い校舎様の建物。
 真希老獪人間心理専門学校。
 俺と嵐山、下田先生の三人が今立っているのは、その玄関前だ。
「ほんと、とんでもないところにありますよね。」
 あまりの校舎の大きさに思わず見上げる。
「『パンドラの箱』に決して見つからないような場所っていうのは必須条件だからねー。」
 それにしてもやりすぎ感は否めないが。
 下田先生が人差し指を立てて微笑む。
「さて、ひとまずは学長にあいさつに行こうか。」
「はい。」
 あぁ、やっぱり緊張する……。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。」
 下田先生が俺の肩を何度も叩いてくる。
「一体何を根拠に大丈夫だと言ってるんですか。」
 我ながら弱弱しい声が出たもんだ。
「君はもう、僕の可愛い生徒なんだ。」
 ポン、と頭に手を置いてくる。
「だから、絶対に大丈夫。」
「……??」
 だから、何を根拠に?
「そういうわけなんだけど、嵐山君もついてくる?」
 俺の頭から手を離すと、下田先生は今度は嵐山に振り向く。
「いえ、俺は行かないです。」
 嵐山は素っ気なく答える。
「え? 一緒に来てくれないのかよ。超不安なんだよ。」
「頑張れ。」
 またも素っ気ない返答の嵐山。
かじさんにあいさつしてきます。」
 カジさん?
「あ、そうだねー。それがいいよ。」
 下田先生が笑顔で答え、嵐山はどこかへと歩いて行ってしまった。
「……じゃあ、僕たちも行こっか。」
 嵐山の姿を見送って、下田先生は俺に向き直る。
 下田先生の後につき、玄関へと入る。
 靴箱が多数設置された、大きな玄関だ。
「……広いですね。結構生徒多いんですか?」
下田先生に倣って靴を脱ぎ、脇に用意されていたスリッパに履き替える。
「うーん、全員で二十人もいないくらいかな?」
「少なっ!」
 靴をお客様用と書かれた棚にしまいつつツッコミ。
「元々はもっといたんだけどね。『パンドラの箱』と対立するようになってからは、エーラを持たない子たちには来ないようにしてもらってるんだ。」
 「いずれは戻ってきてもらうつもりなんだけどねー。」とはにかみながら、下田先生はすぐ目の前にあるエレベーターのボタンを押す。
 扉はすぐに開き、エレベーターが俺たちを招き入れる。
 下田先生が七階のボタンを押して、エレベーターを閉じると、ゆっくりと上へと動き出した。
「学長ってどんな人なんですか?」
 下田先生の高い位置にある顔を見る。
「名前は真希老獪。この学校の創設者でねー。まぁ、やさしいおじいちゃんだよ。」
「やさしい、おじいちゃん……」
 本当かな?
 不安が一切拭い去れないまま、目的の階層に到着したエレベーターが扉を開く。
 出てすぐ目前に、学長室と書かれた札のついた茶色い大扉が壁についていた。
 下田先生がその扉を数回ノックする。
「学長、下田従士です。」
「……どうぞ。」
 渋い声が聞こえてきた。
 下田先生は俺に頷くと、扉を開いた。
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