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第60話「”十三厄災(ゾディアック)“①」
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五月二十二日(日)十時四十分 T県・某廃墟
T県某所に存在する廃村。
元々は人口二百人を超える活気ある集落だったのだが、都の発展とともに過疎化が進み、限界集落を経て無人化。
山中の片隅という立地条件から、市からは解体延期という名の放棄を受け、ほぼ手付かずのまま自然に朽ち果てるのを待つだけの住居の集合体と化した村。
そんな村の、元・村役場の廃墟で今、十二人の男女が大きな机を囲んでいた。
ただならぬエーラを身に纏う彼ら彼女らこそ、決して表舞台に名を出さぬ(出せない)“知られざる工作部隊”『パンドラの箱』の幹部“十三厄災“のメンバーなのである。
“十三厄災“とは、『パンドラの箱』を構成する八十八人の構成員”災厄の天導球“の中から、基礎膂力や指揮能力、”性癖“の応用力など様々な要素を材料に選び抜かれた十三人の上位部隊だ。
即ち、“選りすぐりの災厄”なのである。
とは言え、“十三厄災”などと言っても、この十三人が一堂に会する機会など滅多に存在しない。
ゆえに、自然と“災厄の天導球”内、ひいては廃村全体に言い知れぬ緊張感が走る。
“十三厄災“内ともなればそれは尚のことで、元・村役場たるこの廃墟は最悪の空気に包まれていた。
誰一人として言葉を発さず、ある者はそっぽを向き、ある者は虚空を見続け、またある者はスマホを延々といじる状況が続いていた(元からそんなに仲は良くない)。
だが、ひたすらに続く息苦しいまでの沈黙を嫌ってか、白衣を着た男が、深く腰掛けていた椅子から背を離し、机にのめり込んだ。
男は顎に生えた無精髭を指の先で撫でながら、重い空気を破るように口を開く。
「なぁ、お前ら知ってるか? おっぱいって人殺せるんだぜ。」
瞬間、空気が一変した。悪い方に。
男を除いたほぼ全員が、冷ややかな視線を男に向ける。
その光景に、どういうわけか不敵に笑う、白衣を着た、ボサボサ頭に無精髭を携えるこの男の名は、『パンドラの箱』“十三厄災“の《天秤宮》、中尾望。
中尾望は、全員に視線を送り返すと挑発じみた笑みを浮かべる。
「なんだ? 誰も知らなかったのか?」
「それってさぁ」
中尾望の言葉に、向かいよりやや右に座る女性が反応する。
緑と茶色に斑染めされた散切り頭に、薄汚れた深緑の半そで短パン、褐色の肌にすらりと伸びた美脚と三白眼、獣のような八重歯が特徴的なこの女性は、《金牛宮》の荒神野原。
荒神野原は、後頭部で腕を組み、ふんぞり返った姿勢のまま中尾望を見下ろす。
「おっぱいに挟まれて抵抗もできずに敗北ザーメン垂れ流すしか能がないんだね♡ ザコチンポ♡ ってことか?」
エロ漫画にありがちな口上を、しかしその台詞によく合う挑発的かつ挑戦的な声音で唱える荒神野原。
中尾望はその声を受け、ゆっくりと荒神野原を見る。
「生憎、俺にはそんな趣味はない……と言ったら嘘になるかもしれんが。それは男を殺せるって話だろ? 今回は違うんだ。」
「………。」
机に向かい合っているほぼ全員は、黙ったまま中尾望を見続けている。
他にすることもないので(要するに暇)、このまま彼の話を聞くつもりだ。
「これは去年のクリスマス・イヴの話なんだが———」
多数の視線に囲まれながら、得意気な口調で中尾望は話を続ける。
「去年のイヴはまるで予定が入らなかった。一昨年のイヴの夜は(たまたま)合コンの話が舞い込んできたっていうのに、去年はついに何もないまま夜まで来てしまった。焦ったね。実に焦ったさ。焦ったところで、夜にいきなり誘っても女はおろか男ですら予定が入っているだろうから、遊ぶ相手すらいない始末(本当は事前に誘って断られていた)。そこで、俺は考えた。」
「なんだよ、キャバクラにでも行ったのかぁ?」
そう言ったのは彼の二つ隣に座る、顔中を深い傷跡が走る、白髪のやや身長が低めな男。
《人馬宮》の風祭匁。
中尾望は横目で風祭匁を見ると、「いいや」とゆっくりと否定する。
「キャバクラやらスナックだと、たいていの場合話すだけで終わるだろ? それ以上を求めようもんなら、必要以上の努力と金子が必要になる。たった一晩のためだけに、俺はそこまで身を削れない。あの時俺が欲していたのは、一対一の状況、かつ、人肌の温もりだった。」
格好つけて話す中尾望だが、その姿を見ている他メンバーには、モテない男が如何にイヴの夜を女生と過ごそうかと悩んだ話にしか聞こえなかった(事実)。
しかし、それでも黙って中尾望の話を聞き続ける。
全員暇だったし、なによりも、仲が悪かろうが仲間には優しいからだ。
「二人きりで温もりを感じることのできる店……俺はすぐに風俗店を連想したが、性的サービスを受けたいわけではなかった。俺は、ただ純粋に温かな女性に包まれたかったんだ。だから、電話してやったのさ。」
中尾望はそこで一呼吸置くと、見事なまでのしたり顔を披露した。
「添い寝デリヘルに。」
(結局店かーい。)
他の全員が、珍しく同意見になった瞬間だった。
T県某所に存在する廃村。
元々は人口二百人を超える活気ある集落だったのだが、都の発展とともに過疎化が進み、限界集落を経て無人化。
山中の片隅という立地条件から、市からは解体延期という名の放棄を受け、ほぼ手付かずのまま自然に朽ち果てるのを待つだけの住居の集合体と化した村。
そんな村の、元・村役場の廃墟で今、十二人の男女が大きな机を囲んでいた。
ただならぬエーラを身に纏う彼ら彼女らこそ、決して表舞台に名を出さぬ(出せない)“知られざる工作部隊”『パンドラの箱』の幹部“十三厄災“のメンバーなのである。
“十三厄災“とは、『パンドラの箱』を構成する八十八人の構成員”災厄の天導球“の中から、基礎膂力や指揮能力、”性癖“の応用力など様々な要素を材料に選び抜かれた十三人の上位部隊だ。
即ち、“選りすぐりの災厄”なのである。
とは言え、“十三厄災”などと言っても、この十三人が一堂に会する機会など滅多に存在しない。
ゆえに、自然と“災厄の天導球”内、ひいては廃村全体に言い知れぬ緊張感が走る。
“十三厄災“内ともなればそれは尚のことで、元・村役場たるこの廃墟は最悪の空気に包まれていた。
誰一人として言葉を発さず、ある者はそっぽを向き、ある者は虚空を見続け、またある者はスマホを延々といじる状況が続いていた(元からそんなに仲は良くない)。
だが、ひたすらに続く息苦しいまでの沈黙を嫌ってか、白衣を着た男が、深く腰掛けていた椅子から背を離し、机にのめり込んだ。
男は顎に生えた無精髭を指の先で撫でながら、重い空気を破るように口を開く。
「なぁ、お前ら知ってるか? おっぱいって人殺せるんだぜ。」
瞬間、空気が一変した。悪い方に。
男を除いたほぼ全員が、冷ややかな視線を男に向ける。
その光景に、どういうわけか不敵に笑う、白衣を着た、ボサボサ頭に無精髭を携えるこの男の名は、『パンドラの箱』“十三厄災“の《天秤宮》、中尾望。
中尾望は、全員に視線を送り返すと挑発じみた笑みを浮かべる。
「なんだ? 誰も知らなかったのか?」
「それってさぁ」
中尾望の言葉に、向かいよりやや右に座る女性が反応する。
緑と茶色に斑染めされた散切り頭に、薄汚れた深緑の半そで短パン、褐色の肌にすらりと伸びた美脚と三白眼、獣のような八重歯が特徴的なこの女性は、《金牛宮》の荒神野原。
荒神野原は、後頭部で腕を組み、ふんぞり返った姿勢のまま中尾望を見下ろす。
「おっぱいに挟まれて抵抗もできずに敗北ザーメン垂れ流すしか能がないんだね♡ ザコチンポ♡ ってことか?」
エロ漫画にありがちな口上を、しかしその台詞によく合う挑発的かつ挑戦的な声音で唱える荒神野原。
中尾望はその声を受け、ゆっくりと荒神野原を見る。
「生憎、俺にはそんな趣味はない……と言ったら嘘になるかもしれんが。それは男を殺せるって話だろ? 今回は違うんだ。」
「………。」
机に向かい合っているほぼ全員は、黙ったまま中尾望を見続けている。
他にすることもないので(要するに暇)、このまま彼の話を聞くつもりだ。
「これは去年のクリスマス・イヴの話なんだが———」
多数の視線に囲まれながら、得意気な口調で中尾望は話を続ける。
「去年のイヴはまるで予定が入らなかった。一昨年のイヴの夜は(たまたま)合コンの話が舞い込んできたっていうのに、去年はついに何もないまま夜まで来てしまった。焦ったね。実に焦ったさ。焦ったところで、夜にいきなり誘っても女はおろか男ですら予定が入っているだろうから、遊ぶ相手すらいない始末(本当は事前に誘って断られていた)。そこで、俺は考えた。」
「なんだよ、キャバクラにでも行ったのかぁ?」
そう言ったのは彼の二つ隣に座る、顔中を深い傷跡が走る、白髪のやや身長が低めな男。
《人馬宮》の風祭匁。
中尾望は横目で風祭匁を見ると、「いいや」とゆっくりと否定する。
「キャバクラやらスナックだと、たいていの場合話すだけで終わるだろ? それ以上を求めようもんなら、必要以上の努力と金子が必要になる。たった一晩のためだけに、俺はそこまで身を削れない。あの時俺が欲していたのは、一対一の状況、かつ、人肌の温もりだった。」
格好つけて話す中尾望だが、その姿を見ている他メンバーには、モテない男が如何にイヴの夜を女生と過ごそうかと悩んだ話にしか聞こえなかった(事実)。
しかし、それでも黙って中尾望の話を聞き続ける。
全員暇だったし、なによりも、仲が悪かろうが仲間には優しいからだ。
「二人きりで温もりを感じることのできる店……俺はすぐに風俗店を連想したが、性的サービスを受けたいわけではなかった。俺は、ただ純粋に温かな女性に包まれたかったんだ。だから、電話してやったのさ。」
中尾望はそこで一呼吸置くと、見事なまでのしたり顔を披露した。
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