アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第90話「愚者のハンドワーク⑨」

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  五月二十九日(日)十五時十五分 池袋駅・いけふくろう前

「……トーク? 何言ってんだてめぇ?」
 神室秀青は逆撫偕楽を鋭く睨みつける。
 逆撫偕楽は肩を竦めた。
「おいおい、何言ってんだはねぇだろ? お前たちの大好きな話し合いをしてやろうって言ってんだぜ? は・な・し・あ・い。」
「ふざけないでよ。」
 木梨鈴が静かに肩を震わせる。
「あんたたちが痴漢なんて卑怯なことを繰り返すから、下田先生が捕まっちゃったじゃない! ううん、先生だけじゃない。今まで一体何百人の人たちを巻き込んできたと思ってんのよ! みんな、無実なのに!」
「あんたたち? いやいや違う違う。痴漢やってんのは俺だけだ。」
 人を馬鹿にしたかのような、冷静な即答。
 木梨鈴の頭の中で何かが切れた音がした。
 逆撫偕楽に襲い掛からんと、膝に力を込める。
 それを見越して、嵐山楓が彼女を右手で制した。
 その様子を見て、逆撫偕楽が嫌味っぽく目尻を下げる。
「シモダ先生ってのはあのうざったい長髪のことだろ? あいつが一番邪魔くさそうだったからな。早めにご退場願ったんだ。」
 逆撫偕楽の後ろで、他の二人がいやらしく笑ってる。
 嵐山楓も相当数頭に血が上っていた。
 木梨鈴がキレなければ、嵐山楓が飛び掛かっていただろう。
 他者を見て、冷静になる。
 嵐山楓の特技だ。
 そして、二人の様子を見た神室秀青が一歩前に出る。
「二人とも落ち着け。わかりやすい挑発だ。乗ることないよ。」
 そう言った神室秀青だが、嵐山楓の目から見てもこの中で一番怒りを露わにしていた。
 おかげで、嵐山楓はますます冷静になり、木梨鈴ですら落ち着きを取り戻した。
 三人を見ていた逆撫偕楽は、その様子に、至極退屈そうに唇を噛んだ。
「お前が『鍵』、神室秀青だな?」
 そして、神室秀青の目を、除き見透かすように見る。
「だったらなんだよ?」
 神室秀青も負けじと逆撫偕楽を睨み返す。
「なに冷静ぶってんだよ? つまんねぇぜ、そういうの。もっと本心曝け出せよ。俺はお前と一番語り合いたかったんだからよぉ。」
「あ?」
 逆撫偕楽は片手をポケットに突っ込む。
「おっと、本心を出せとは言ったが、俺の話を聞かないってのはなしだぜ? ……池袋駅って、平日祝日関係なしに混んでるよなぁ。特に駅周辺、ここなんて酷いもんだぜ。なぁ? 俺が何言いたいか、わかるよな?」
 ちらりと、逆撫偕楽がいけふくろうに視線を送った。
 一瞬止まった後、意味を悟った神室秀青が激昂した。
「てめぇ……」
 いけふくろう。
 池袋駅で待ち合わせをする際によく利用されるスポット。
 そして同時に名の知れた観光名所。
 日曜のこの時間帯。
 ふくろう像の前は、当然のように人でごった返していた。
 待ち合わせをしている者、誰かとおしゃべりしている者、単に時間を潰している者、様々な人間がいるが、その中でも、こちらのやり取りを眺めている者が、数名いる。
「てめぇらがどんだけやる・・奴らかは知らねぇが、それでも俺らがその気になりゃあ、てめぇらが動き出す前に五、六人は殺せるぜ。断言する。それが嫌だったら、俺の話に付き合えや。そうでなくっても、強い強い下田せんせーが助けに来るのを待つ為に、俺との会話を引き延ばした方が賢明なんじゃねぇの?」
 一般人を巻き込むわけにはいかない。
 神室秀青は、否定も肯定もせず、ただ黙って逆撫偕楽を見据えた。
「……いい子だ。で、えぇと…なんだ。…ああ、そうそう。俺がなんでこんな破壊活動を行ってるか、だ。なんでだと思う?」
 (破壊活動って……お前がやってんのはただの痴漢だろ。)
 神室秀青は決して口に出さなかった。
「なんでもなにも、それがあんたの趣味だからでしょ。自分の薄汚い性欲を満たすためだけに。汚らしい。気持ち悪い。今すぐ死んでほしい。」
 木梨鈴が言った。
 一旦は冷静さを取り戻した彼女であったが、こうして口を開くと、また怒りに我を忘れてしまいそうになる。
「まぁ、否定はしねぇが……ってか言い過ぎじゃね?」
 逆撫偕楽が、突っ込んでいた手をポケットから出した。
「だったらこんなに頻繁に行ったりはしねぇよ。俺は元々そんなに性欲が強い方じゃねぇんだ。」
 そして、たっぷりと間を置いた後、ゆっくりとこう言った。
「これは、啓蒙なのさ。」
 その言葉に、三人が反応する。
 (啓蒙…だと?)
 (いっちょ前に何言ってんのこいつ? 信じらんない!)
 (…? もう…? なんだ急に、陰毛の話か?)
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