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第92話「愚者のハンドワーク⑪」
しおりを挟む五月二十九日(日)十五時二十三分 池袋駅・いけふくろう前
「まずは女性専用車両! ここは痴漢犯罪に怯える女たちの楽園! 男の介入を一切排した、いわば安息の領域!」
痴漢野郎は手の甲をこちらに見せつけるようにして更に続ける。
「そして! 男性専用車両! ここは痴漢冤罪に怯える男たちの理想郷! 女の干渉を一切排した、いわば安寧の領域! 車両をこの二種類に振り分けることにより! より効率的に! 男女それぞれの安心と安全を保って! 遠方への行き来を可能とする!」
気持ちよさそうに語る痴漢野郎を、嵐山は呆れ果てた目で見る。
「なんだそりゃ?」
「は?」
痴漢野郎はゆっくりと、天に向けていた視線を嵐山に下ろす。
「そんなむちゃくちゃな話、通るわけねぇだろ。」
「完全なる二分化は、俺も難しいと思ってるさ。」
顔に手を当て、笑う痴漢野郎。
「納得しない層は必ず出てくるだろう。だから、俺はそこに男女共用車両を設ける。」
「男女共用車両?」
今までの車両となにか違うのか?
「男女共用車両は、従来の普通車両とあまり変わらない。男女両方が平等に利用できる車両だ。だが、ここにはとある特別な法が施行される。
極端に肌を露出させてる女には、痴漢をしても無罪となる法律だ。」
「なっ……」
木梨さんが思わず声を上げる。
「なによそれ! そんなの通るわけないじゃない!」
痴漢野郎は顎を上げ、横目で木梨さんを見て、一言。
「触られたくなければ、女性専用車両に乗ればいい。」
「っ……」
黙った木梨さんを見て、痴漢野郎はさらに得意気に目を伏せる。
「一定層いるんだよ。“痴漢に遭いたい”、そういう性癖の持ち主が、な。そんな女が男女共用車両を利用する。乗り合わせるのは、モテない男たち、痴漢好きな好き者たち。みんな、こぞって女を触る。舐る。そこに生まれるのは、男たちの連帯感。女の快楽。誰も損をしない。どころか、みんな得する。悪くない話だろ? ……彼氏もしくは彼女と一緒に乗りたいっていう奴もいそうだな。そいつらの為に、カップル専用車両ってのを作ってもいいかもな。そこなら、モテない男たちを刺激することなく安全に乗り合わせることができるだろう。これら四つの車両を均等に配置してやってもいい。」
「してやってもいい」。
その一言に、木梨さんはピクリと眉を動かした。
「ふざけないでよっ!」
昂る木梨さん。
少し驚いたように、痴漢野郎は目を丸くした。
「なんだ? 男女の平等性についてか? それなら問題ない。男性専用車両と女性専用車両を均等に配分すれば、男女の平等性は保たれる。」
「そういうことじゃない‼」
被りを振り、声を荒げる木梨さん。
いよいよ通行人やいけふくろう周りにたむろってる一般人の目が気になってきた。
「してやってもいい? 何様のつもりよ! そもそも痴漢ありきで語ってるところが腹立つってのよ!」
呼吸を乱し、僅かに涙を浮かべる木梨さん。
ひとしきり叫んだ後に、ようやく息を整えて、痴漢野郎を強く睨む。
「……あんた、痴漢被害に遭った女の人がどんな気持ちになるかわかる? 見ず知らずの男に突然触られて……女性だから、男性の方が力が強いから、誰にも気付かれず、一人で縮こまって……。それを見て楽しんで……。どうしてあんたみたいな卑劣な奴の存在を優先しなきゃいけないのよ! いい加減にしてよ!」
喚き散らす木梨さんを見て、痴漢野郎はわざとらしく息を吐いた。
「女性は男性よりも弱い。もっと女性という性を理解し、尊重しろ、か……。」
手を腰に回し、呟くように言う痴漢野郎。
「なぁ、知ってるか? 男ってのは馬鹿な生き物なんだぜ?」
「?」
方向性の読めない返しに、木梨さんは意図を読みかねるように痴漢野郎を見る。
痴漢野郎が次に何を言い出すのか、俺にはなんとなくわかった。
「男はな、性的な事柄を連想する時、脳がコンマ一秒、完全に活動を停止するんだ。事実、アメリカのとある道路では、下着メーカーの看板が立てられた場所で交通事故が多発してた事例もある。脳が働かずに車の速度に追いつけなかったんだ。女が胸元開けた服着て、脚出したスカート履いてたら、魔が差す奴がいたってなんら不思議ではないんだよ。大数の法則さ。場所によっては確率は百パーセントに限りなく近くなる。……女性という性を主張するというのなら、同じく男性という性についても理解しろや。」
………。
「お前ら女はいつだってそうだよな? 裸同然で外で歩いて、好みの男には見られたいけど、好みでもない男に見られるのは不快だ、気持ち悪いとか抜かしやがる。挙句の果てに、タイプじゃねぇ奴に見られただけで、痴漢だ視姦だと騒ぎ立て、それを正当防衛だとか主張する始末。じゃあ、なんだ? 痴漢してねぇ奴捕まえて痴漢に仕立て上げんのも正当防衛か? 自己顕示欲や財布の腹満たすのは当然の行いか? 違ぇだろ! そりゃあ過剰防衛ってもんだろ!」
………。
「お前らはいつだってそうだ。自己の主張を押し通すのみ、異性の権利を当然のように剥奪する。どっちがどっちの性を侵してるのか、少しは考えてみたらどうなんだよ!」
………。
言葉を失う木梨さん。
痴漢野郎は僅かに爪先を動かした。
「俺はいつだっててめぇらが嫌いだ! なぁ、女ぁ‼」
叫び、飛び掛かってきた。
同時に、尻ポケットから取り出された棒状の物体。
特殊警棒。
狙いは当然というか、木梨さん。
咄嗟に身構える木梨さん。
そこまで見たところで、俺の体は勝手に動き出した。
強い衝撃を、頭上から感じた。
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