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第116話「他者、あるいは自己が巨大な生物によって呑み込まれる事象に覚える性的興奮の授業③」
しおりを挟む六月五日九時二十九分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室
教室に戻って最初に目に入ったのは学校指定の真っ赤なジャージ。
を着た、まりあ様。
立つと俺よりも高い身長に長い足の完璧なプロポーションが、ジャージによりさらに強化されてる。……気がする。
あと、個人的にジャージを着た時に現れるおむね部分の皴だったりプリンとしたお尻だったりが好きなのだが、そこを見るとまりあ様をそういう汚い目でしか見れなくなりそうなのが怖いので、見ない。
木梨さんは木梨さんで、俺よりもやや低めの身長に、控え目に見える胸元が、それはそれで完璧なプロポーションに見えた。
嵐山と後金は、特筆すべき点も特になく、普通に普通な着こなし。
つまらん。
嵐山なんて腰パンしそうな面してるのに、多分、腰パンすると「お前何かっこつけてんだよぉ」とか言われるのが嫌だから本当は腰パンしてかっこつけたいのに腰パンしてないんだろうな。
何の考察だっ!
そんな事よりも下田先生だ。
戻ってくるなり、半透明な粘性を持った液状のなにかを、観覧車のように両手でぐるぐるこねくり回している。
「先生、なんすかそれ?」
「胃液。…という名のローションさ。」
胃液?
「言っただろ? 今から君たちには被捕食者になってもらう。そのための準備さ。」
「こんなもんかな。」と、先生は洗面器から手を離す。
「さ、それじゃあ早速やってみようか。」
「捕食の疑似体験…って一体なにをやるんですか?」
まりあ様の質問に、先生はバキュームベッドを指さす。
「今からこのバキュームベッドに空気を送り込み、胃袋を再現してみる。君たちには一人ずつ入ってもらって、被捕食者の気持ちを理解してもらうんだ。」
そして、先生は全員に向き直った。
「被捕食者の理解。これが実現すれば、君たちの中にも【丸呑み性愛】に目覚める人が出るかもしれない。少数性癖者の味方は多いに越したことはないからね。この授業を通して、より豊かな変態道を歩んでもらいたいんだよ、君たちには。」
言ってることはむちゃくちゃだが、確かに、これからの『パンドラの箱』との戦いや、その先の戦いの為には、少数性癖への理解は必要不可欠。
これも立派な授業というわけだ。
そんなわけで、先生指導の下、異様な授業が始まった。
先生はローションで手がベトベトのため(綺麗にするのにかなり時間がかかるらしい)、用意された、掃除機ではない方の機械の操作は嵐山が担当することとなった。
嵐山が操作するこの機械は、エアブロアーと言うらしい。
掃除機の反対の作用…即ち、空気を送り込む機械。
しかも。
「このエアブロアー、今回の授業用に特別に改造を施してあるんだー。嵐山くん、ちょっとスイッチ入れてみてー。」
先生の指揮を受け、嵐山は機械を作動させる。
そこそこ大きな音を立てて息を吐きだす機械。
「じゃあみんな、この風に近づいてみてー。」
そう言われ、恐る恐る顔を近づけてみる。
鼻先を掠めた風は、ほんのりあたたか———
「⁉ ふぼっ⁉ ごほっ‼」
なにこれ⁉
「くっさぁ‼」
飛び退く木梨さん。
洒落にならないほどの悪臭が、機械から送り出されていた。
なんだろう、例えるなら、洗ってない獣の匂い?
「なんですかこれぇ?」
えずきながら、後金が抗議気味に訊く。
「普段はエチケットをしてようが、人間の口臭って基本男女関係なく臭いでしょ? その再現だよーん。巨大な女の子に食べられるなら、当然こういう匂いも全身を包み込む。それも含めての性癖さ。」
そういうことか。
空気が暖かいのも、生暖かさの再現。
「さて、この空気を浴びる、最初の勇者は誰かな?」
人差し指を立てる先生。
黙って機械を止める嵐山。
あの野郎、一人だけ安全圏にいやがって……。
「あ、じゃあ、私が行きます。」
そう言って手を挙げたのは、我らがナンバーワン聖女、まりあ様。
「ま、まりあ様⁉」
「お、心音さん、流石だね。」
同時に声を上げた俺たちを、まりあ様は交互に見る。
「まりあ様、危険ですよ! こういうのは後金にやらせた方がいいですって!」
「ひでぇ」
後金が何か言ったが無視。
まりあ様の危機の方が遥かに重要だ。
まりあ様はゆっくりと俺を見ると、ゆるりと首を横に振った。
「ううん。良いの、シュウ君。」
そう言って、後ろ手を組んで、眩い笑顔を向けてきた。
「誰かに寄り添える可能性があるのなら、私、やってみたいな。」
女神様……。
「それに、イリエちゃんの気持ちもわかるかもしれないしね。」
イリエちゃん?
訊き返す間もなく、まりあ様はバキュームベッドに手をかけ、一切の躊躇もせずに中へと入った。
「それじゃあ心音さん、行くよー?」
先生はバキュームベッドの入り口を塞ぎ、嵐山は隙間から機械を差し込む。
そして、エアブロアーの後方から伸びるノズルを、先生は洗面器の中へと突っ込んだ。
「この機械のもう一つの改造点。空気と同時に液体も吐き出せるんだー。今から、胃液と匂いを同時に送り込むからねー。それでは嵐山くん、スイッチ・オン!」
先生の合図とともに機械を作動させる嵐山。
再び動き出した機械とともに、密封されたバキュームベッドが膨らんでいく。
教科書で見るような胃袋が完成した。
中にいるまりあ様は無事だろうか?
「まりあ様! 大丈夫ですか⁉」
急いでバキュームベッドに近づく。
外にも若干腐臭が漏れ出ていた。
どうか無事でいてくれ‼
「うん。全然大丈夫。」
くぐもった声が聞こえてきた。
良かった!
「気分はどうだい? 呼吸は大丈夫?」
笑顔で近づく先生。
「はい。平気です。中は暗くて……闇が永遠に広がってるみたいです。」
胃袋の中から語られてくる、被捕食者の気持ち。
「空気も胃液も暖かくて、もしもここから一生出れなかったらっていう不安と共に…ほんの少し恐怖が出てきます。……でも、なんだろう…ちょっとだけ、安心感もあるような気がします。」
安心感?
少しして、まりあ様は無事に胃袋から解放された。
ああ、なんてことだ。
まりあ様は頭から爪先に至るまでドロドロのベッタベタになっていた。
しかし何故だろう。
いや増す神秘性がそこにはあった。
「さて、心音さんが今言ったように。」
まりあ様の体調を再確認して、先生が授業を進める。
「【丸呑み性愛】の人が好むオカズ、そのシチュエーションには、複数の特徴がある。そのうちの一つが、捕食された人間が安心感を覚えるというものだ。」
安心感?
食われてるのに?
「この現象には、いくつか仮説がある。捕食される。人体に取り込まれる。胎内回帰にも似たこの状態から、母の胎内を思い出し、安らぎ得ているという説。他にも、極限状態から恐怖を紛らわす為に脳がエラーを起こしていたり、幼い頃に虐待を受けていたというトラウマから、被暴力行為に安心感を抱いてしまったり。」
被捕食者状態に興奮する【丸呑み性愛】。
そんな性癖を手に入れる要因には、もしかしたら幼少の頃のトラウマが関係しているケースもあるのかもしれない。
だとしたら、全然ありえそうな仮説だ。
「さて、次に臓物へと飛び込む勇者は誰かなー?」
人差し指を立てる先生に、今度は木梨さんが手を挙げた。
「私、行きます。」
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