アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

文字の大きさ
116 / 186

第116話「他者、あるいは自己が巨大な生物によって呑み込まれる事象に覚える性的興奮の授業③」

しおりを挟む

  六月五日九時二十九分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室

 教室に戻って最初に目に入ったのは学校指定の真っ赤なジャージ。
 を着た、まりあ様。
 立つと俺よりも高い身長に長い足の完璧なプロポーションが、ジャージによりさらに強化されてる。……気がする。
 あと、個人的にジャージを着た時に現れるおむね部分の皴だったりプリンとしたお尻だったりが好きなのだが、そこを見るとまりあ様をそういう汚い目でしか見れなくなりそうなのが怖いので、見ない。
 木梨さんは木梨さんで、俺よりもやや低めの身長に、控え目に見える胸元が、それはそれで完璧なプロポーションに見えた。
 嵐山と後金は、特筆すべき点も特になく、普通に普通な着こなし。
 つまらん。
 嵐山なんて腰パンしそうな面してるのに、多分、腰パンすると「お前何かっこつけてんだよぉ」とか言われるのが嫌だから本当は腰パンしてかっこつけたいのに腰パンしてないんだろうな。
 何の考察だっ!
 そんな事よりも下田先生だ。
 戻ってくるなり、半透明な粘性を持った液状のなにかを、観覧車のように両手でぐるぐるこねくり回している。
「先生、なんすかそれ?」
「胃液。…という名のローションさ。」
 胃液?
「言っただろ? 今から君たちには被捕食者になってもらう。そのための準備さ。」
 「こんなもんかな。」と、先生は洗面器から手を離す。
「さ、それじゃあ早速やってみようか。」
「捕食の疑似体験…って一体なにをやるんですか?」
 まりあ様の質問に、先生はバキュームベッドを指さす。
「今からこのバキュームベッドに空気を送り込み、胃袋を再現してみる。君たちには一人ずつ入ってもらって、被捕食者の気持ちを理解してもらうんだ。」
 そして、先生は全員に向き直った。
「被捕食者の理解。これが実現すれば、君たちの中にも【丸呑み性愛ボラレフィリア】に目覚める人が出るかもしれない。少数性癖者の味方は多いに越したことはないからね。この授業を通して、より豊かな変態道を歩んでもらいたいんだよ、君たちには。」
 言ってることはむちゃくちゃだが、確かに、これからの『パンドラの箱』との戦いや、その先の戦い・・・・・・の為には、少数性癖への理解は必要不可欠。
 これも立派な授業というわけだ。
 そんなわけで、先生指導の下、異様な授業が始まった。
 先生はローションで手がベトベトのため(綺麗にするのにかなり時間がかかるらしい)、用意された、掃除機ではない方の機械の操作は嵐山が担当することとなった。
 嵐山が操作するこの機械は、エアブロアーと言うらしい。
 掃除機の反対の作用…即ち、空気を送り込む機械。
 しかも。
「このエアブロアー、今回の授業用に特別に改造を施してあるんだー。嵐山くん、ちょっとスイッチ入れてみてー。」
 先生の指揮を受け、嵐山は機械を作動させる。
 そこそこ大きな音を立てて息を吐きだす機械。
「じゃあみんな、この風に近づいてみてー。」
 そう言われ、恐る恐る顔を近づけてみる。
 鼻先を掠めた風は、ほんのりあたたか———
「⁉ ふぼっ⁉ ごほっ‼」
 なにこれ⁉
「くっさぁ‼」
 飛び退く木梨さん。
 洒落にならないほどの悪臭が、機械から送り出されていた。
 なんだろう、例えるなら、洗ってない獣の匂い?
「なんですかこれぇ?」
 えずきながら、後金が抗議気味に訊く。
「普段はエチケットをしてようが、人間の口臭って基本男女関係なく臭いでしょ? その再現だよーん。巨大な女の子に食べられるなら、当然こういう匂いも全身を包み込む。それも含めての性癖さ。」
 そういうことか。
 空気が暖かいのも、生暖かさの再現。
「さて、この空気を浴びる、最初の勇者は誰かな?」
 人差し指を立てる先生。
 黙って機械を止める嵐山。
 あの野郎、一人だけ安全圏にいやがって……。
「あ、じゃあ、私が行きます。」
 そう言って手を挙げたのは、我らがナンバーワン聖女、まりあ様。
「ま、まりあ様⁉」
「お、心音さん、流石だね。」
 同時に声を上げた俺たちを、まりあ様は交互に見る。
「まりあ様、危険ですよ! こういうのは後金にやらせた方がいいですって!」
「ひでぇ」
 後金が何か言ったが無視。
 まりあ様の危機の方が遥かに重要だ。
 まりあ様はゆっくりと俺を見ると、ゆるりと首を横に振った。
「ううん。良いの、シュウ君。」
 そう言って、後ろ手を組んで、眩い笑顔を向けてきた。
「誰かに寄り添える可能性があるのなら、私、やってみたいな。」
 女神様……。
「それに、イリエちゃんの気持ちもわかるかもしれないしね。」
 イリエちゃん?
 訊き返す間もなく、まりあ様はバキュームベッドに手をかけ、一切の躊躇もせずに中へと入った。
「それじゃあ心音さん、行くよー?」
 先生はバキュームベッドの入り口を塞ぎ、嵐山は隙間から機械を差し込む。
 そして、エアブロアーの後方から伸びるノズルを、先生は洗面器の中へと突っ込んだ。
「この機械のもう一つの改造点。空気と同時に液体も吐き出せるんだー。今から、胃液と匂いを同時に送り込むからねー。それでは嵐山くん、スイッチ・オン!」
 先生の合図とともに機械を作動させる嵐山。
 再び動き出した機械とともに、密封されたバキュームベッドが膨らんでいく。
 教科書で見るような胃袋が完成した。
 中にいるまりあ様は無事だろうか?
「まりあ様! 大丈夫ですか⁉」
 急いでバキュームベッドに近づく。
 外にも若干腐臭が漏れ出ていた。
 どうか無事でいてくれ‼
「うん。全然大丈夫。」
 くぐもった声が聞こえてきた。
 良かった!
「気分はどうだい? 呼吸は大丈夫?」
 笑顔で近づく先生。
「はい。平気です。中は暗くて……闇が永遠に広がってるみたいです。」
 胃袋の中から語られてくる、被捕食者の気持ち。
「空気も胃液も暖かくて、もしもここから一生出れなかったらっていう不安と共に…ほんの少し恐怖が出てきます。……でも、なんだろう…ちょっとだけ、安心感もあるような気がします。」
 安心感?
 少しして、まりあ様は無事に胃袋から解放された。
 ああ、なんてことだ。
 まりあ様は頭から爪先に至るまでドロドロのベッタベタになっていた。
 しかし何故だろう。
 いや増す神秘性がそこにはあった。
「さて、心音さんが今言ったように。」
 まりあ様の体調を再確認して、先生が授業を進める。
「【丸呑み性愛ボラレフィリア】の人が好むオカズ、そのシチュエーションには、複数の特徴がある。そのうちの一つが、捕食された人間が安心感を覚えるというものだ。」
 安心感?
 食われてるのに?
「この現象には、いくつか仮説がある。捕食される。人体に取り込まれる。胎内回帰にも似たこの状態から、母の胎内を思い出し、安らぎ得ているという説。他にも、極限状態から恐怖を紛らわす為に脳がエラーを起こしていたり、幼い頃に虐待を受けていたというトラウマから、被暴力行為に安心感を抱いてしまったり。」
 被捕食者状態に興奮する【丸呑み性愛ボラレフィリア】。
 そんな性癖を手に入れる要因には、もしかしたら幼少の頃のトラウマが関係しているケースもあるのかもしれない。
 だとしたら、全然ありえそうな仮説だ。
「さて、次に臓物へと飛び込む勇者は誰かなー?」
 人差し指を立てる先生に、今度は木梨さんが手を挙げた。
「私、行きます。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...