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第117話「他者、あるいは自己が巨大な生物によって呑み込まれる事象に覚える性的興奮の授業④」
しおりを挟む六月五日(日)九時四十一分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室
ちらりと俺の方を見て、木梨さんはバキュームベッドの中へと消えていった。
……………。
「木梨さん、調子はどう?」
再び笑顔で問いかける先生。
「呼吸は全然問題ないです。臭いけど。」
くぐもっても通りやすく聞こえる木梨さんの声。
「まりあっちが言ってた通り、なんだかちょっと、安心感が出てきました。」
「そっかそっか。他にはー?」
「他には……特にないですね。ぬるぬるが気持ち悪いくらいです。」
「そっかー。」
先生は一歩身を引くと、顎でなにやら嵐山に合図を出した。
「多分このまま続けてても同じ感想しか出ないだろうし、木梨さんにはこのまま腸も体験してもらうねー。」
「え?」
嵐山がエアブロアーを抜き出し、今度は掃除機のノズルを差した。
そして、先生はバキュームベッドに手を伸ばし、一部分にいつの間にやら貼られていた黒いガムテープを剥がす。
すると、そこには最初に見かけた穴が開いていた。
「匂いは十分染み付いてるだろうから、このままいっちゃってー。」
同時に響く機械音。
中の空気が掃除機を通して排出されていき、教室中に腐臭が漂い始める。
くっさ!
みるみるうちにバキュームベッドが収縮していき、木梨さんをみっちりと拘束していった。
複数の皴を残して浮き出した木梨さんの形。
「どうでもいいけど、スク水には貧乳だよな。」
「俺も今思ったわ。」
呟く後金に思わず同意する。
木梨さんの控え目な胸からお腹のラインが浮き彫りになり、何とも言えないエロスを生み出していた。
スク水だったら、さらにへその影が出来上がるもんだから手が付けられない。
「息、大丈夫ー?」
さっきの穴に、木梨さんの口が丁度すっぽりハマっている。
「大丈夫でーす。」
さっきよりも良く通る声が聞こえてきた。
「じゃあ、今の気分はどう?」
前屈みに訊く先生。
何とも言えない物体と化した木梨さんがゆっくりと答えた。
「……体中が押さえ込まれたみたいになって、ゴムの感触しか感じられません。目も開けられないし鼻呼吸もできないから匂いもわかりません。でも、どうしてかみんなの姿がくっきりと浮かんできます。感じます。あと…ちょっとドキドキぢてきましたー。」
「うんうん。」
先生は満足気に頷き、程なくして木梨さんが解放された。
「ふーっ」
案の定ドロッドロになって出てきた木梨さん。
男のシャワー上がり男前現象と似たような感じなのだろうか、余計に魅力が増したように感じる。
「あ、神室っち…今はあんまり見ないで。」
顔を逸らす木梨さん。
一同の視線が俺に集まる。
……………。
木梨さんの安全を再認識したのち、先生が授業を再開した。
「生物は、自らの危機に瀕した際に事態の脱出を図ろうと感覚が強化される傾向にある。木梨さんにも、全身の拘束という状態に際して同じ現象が起こったんだろうねー。」
もしも俺が巨大な生物に丸呑みされたら、同じことができるのかもしれない。
しかしそれで得られるのは、その生物の体内組織をより深く知る権利、限りなく鮮明な死の感情。
終わりない恐怖なのかもしれなかった。
「さて、これで女性陣は終了だねー。男性陣は誰から行く?」
「あ、神室が行くみたいです。」
「はぁっ⁉」
後金が即答しやがった。
人を盾に何逃げようとしてんだよっ!
つーか、女子たちに先越された上でさらに恥を上塗りする気かお前⁉
「神室っちが捕食されるところ見てみたーい。」
期待の眼差しを向けてくる木梨さん。
しかも。
「シュウ君、やっぱり流石だね。誰よりも真剣に新たな性癖を探求する姿…かっこいいなー。」
まりあ様が、疑うことを知らぬ目で俺を称賛してくれてる⁉
「神室くん、行くんだね?」
先生の細い目。
………。
「当たり前じゃないですか。行きますよ、俺。」
気が付けば、親指を立てて格好つけてしまっていた。
もう馬鹿っ!
「よし、良く言った! 神室くんには実は、みんなと違った特別な物を用意してるんだー。」
特別な物?
先生が取り出したのは、バキュームベッドとは別に台車の上に乗っていた、透明な袋だった。
その透明な袋に、洗面器に残っていたローションを全てぶちこんでいく。
「そ…れは?」
「布団圧縮袋。」
恐る恐る訊いてみると、先生は即答した。
「バキュームベッドは本来プレイ用の道具。故に、絶対に死なせない優しさが前提となって作られている。でも、この袋は違う。入り口には空気を完全遮断するジッパーが備え付いており、他に空気が出入りできるのは、この掃除機を差し込む用の小さな穴のみ。それも、掃除機との間に隙間ができないよう、ゴムシールが接着されていて、掃除機を抜いた後にはすぐに閉じれるよう作られている。大きくスペースを取る布団をしまう為に、徹底的に空気という空気を抜き出して、圧縮という圧縮を行い、狭い空間に押し込めるための道具さ。その圧縮率は元の布団の大きさの四分の一とも言われているねー。」
さらりと怖い事を言いだす先生。
「……もしかして、今から俺が入るのは……」
「勿論、これだよ。」
目をキラリと光らせる先生。
嫌な予感の正体はこれかっ!
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