アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第155話「致死量未満の快楽⑨」

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  六月十二日(日)十八時十二分 埼玉県大宮市・路地裏

「いいか秀青。エーラの局所集中を行う最大のメリットは攻撃力の向上でも防御力の底上げでもない。」
 それは、ある日の記憶。
 梶消事からの教え。
「じゃあ、一体他にどんなメリットが?」
「エーラの流れに緩急をつけられるという点だ。」
 神室秀青の問いに梶消事は即答する。
「お前も知っての通りエーラはその身に纏っていていても常に流れが生まれている。流れを抑えて制御しているんだ。そして、人によっては他人のエーラを敏感に感知できる者もいる。」
 「他者干渉系に多いな。」と、梶消事は壇上のタオルを取りつつ補足する。
「そしてそれらは甚だ、エーラの流れを読み取り、戦闘の流れを先読みする。故に、その者と対峙した場合の鉄則はエーラの局所集中等を駆使してエーラの流れを乱す。緩急をつけて流れを読ませないことだ。」
 タオルを再び置き、梶消事は神室秀青の目を見る。
「エーラの流れを自在に操る。これは、エーラ持ち同士の戦闘において基本でもあり真髄でもあるんだ———」


「っ!」
 神室秀青の脚が激しく空を裂き、“pepper”の後頭部を蹴り飛ばした。
 神室秀青、渾身の蹴りは己の体に纏いしエーラを分割し、局所的に複数個所へと集中させたもの。
 その割合は、蹴りを振るう際に必要となる体幹———腰に一割と、軸足となる左脚に一割、そして、蹴りを放つ右足に残りの八割を割り振ってあった。
 (神室のエーラは化物じみてる。前の痴漢野郎との戦いではエーラを全身に纏っただけ・・の攻撃で——しかも、相手に(恐らくは)局所防御をさせた上で——二発で仕留めたと言う。今回はそのアホみたいなエーラ総量のほほ全てが乗った蹴りだ。)
 前から後ろへ、後ろから前へ。
 そしてさらに、防御後の後ろからの追い打ち。
 大きく重心を崩し、前へと倒れかかる“pepper”を見て、嵐山楓の脳内は通常な回転速度を取り戻していった。
 (こいつのエーラが如何に不気味であいつ・・・に似てようとも、総量自体は神室よりも低いはず。後頭部への直撃。これで決まってくれれば……)
 そう思考しつつも、既にほぼ勝利を確信していた嵐山楓———だったが。
「⁉」
 瞬時に嵐山楓は動き出す。
 それは、倒れかけていた”pepper”が持ちこたえたから。
 足を前に出し、地面に踏ん張り耐え抜いたから。
 (何故⁉ まさか神室を上回るエーラ総量を……。 ‼ いや、違う‼)
 同時に、蹴りを繰り出した直後の神室秀青の表情も絶望に歪む。
 (後頭部になんて仕込んでんじゃねぇよっ‼)
 蹴りを受け、捲れたレインコートのフードの下に隠れていた物。
“pepper”の頭部にはベルトが巻かれており、後頭部には一本のナイフが仕込まれていた。
 それは、エリミネイター。
しかも、剥き出しで。
 (ゴツいナイフ+エーラの局所集中で後頭部を守りやがったのか‼)
 即座に状況を把握する嵐山楓。
 不意打ちの失敗‼
瞬間的に、二人の脳裏に同じ言葉が流れた。
 (くそっ! こんなチャンスはもう現れないかもしれねぇ! 繋げ! 動け!)
 右脚にエーラを局所集中し走る嵐山楓。
 しかし、相手の動きを待ってしまった悪癖。
 勝利をほぼ確信した見通しの悪さ。
 一手、遅かった。
「ひゃはっ!」
 スリルと快楽に嘲笑う“pepper”が自らの両脇に手を突っ込み、取り出したのは夥しい数のナイフだった。
 その数、三十本。
 (こいつどんだけ、いや、どこにナイフ隠してんだよっ‼)
 咄嗟に足を止め後退する嵐山楓は、そして気付く。
「神室っ‼」
 蹴りの直後。神室秀青は未だ僅かに浮いていた。
 至近距離。
「ひゃっほぉぉぉうっ‼」
 嵐山楓と神室秀青。
 二人を狙って、“pepper”は多数のナイフを左右に投げ飛ばした。
「くっ」
 それを、嵐山楓は器用にも体を捻って回転し、その全てを躱していく。
 しかし、神室秀青。
 小さな落下を続ける彼に避ける術など———
「ふんぬぅっ‼」
 ———あった。
 彼は咄嗟に着ていたTシャツを脱ぎ、前方へと、上から下へと薙いだ。
 白い布地に絡めとられ、引っ張られて、”pepper”の投擲したナイフは全て撃墜した。
「っぶねぇー……」
 (ラフな格好でよかった。)
 着地し、安堵を漏らす神室秀青。
 しかし、それにはまだ早い。
 自身の裏へと回った神室秀青の、さらに裏へと“pepper”は既に回っていた。
「———っ‼」
 振り回されるナイフ。
 それを掴んでいる腕の軌道に、神室秀青は反射的に腕を置き防御。
 さらに、後方へと跳び勢いを殺した。
 九死に一生。
 神室秀青は五体満足で嵐山楓と合流する形となった。
 だが、これで終わりではない。
 二人が合流するということは、つまりは状況が振り出しに戻ったということ。
 神室秀青は生きているが、数の利は殺された。
 最悪の事態。
 最低の形。
 二人の合流と同時に投げられた一本のナイフは、正確に神室秀青の腹部を目掛けていた。
 それを、ギリギリ。
 両拳をぶつけて止める神室秀青———の、頭部へと投擲されたナイフ。
 タイミングをわざと外した、一本の死の刃。
「らぁっ‼」
 それを、左パンチで弾き飛ばす嵐山楓———の、崩れた体勢。
 神室秀青の左から回り出ての、左パンチ。
 すなわち、”pepper”にやや背を向けた体勢。
 右パンチでは間に合わなかっただろう。
 とはいえ、この体勢は悪手すぎた。
 勿論、彼もすぐに気付いた。
 気付いた、が。
 気付いた時にはもう遅かった。
 二本のナイフを左右に構え、”pepper”が彼に飛び掛かっていた。
 ここまでの攻防で、稼いだ時間は僅かに三十一秒。
 悪夢はまだ始まったばかり。


 下田従士到着まで、残り三百八十一秒———
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