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高校生戦闘ヒーロー大会編
第16話 大将戦と新たな一歩
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中堅戦を終え控え室に戻ると、大翔がベンチの上で目を閉じ、静かに瞑想をしていた。そっとしておこうと思っていたが、戻って来た私に気付いたようで、優しく微笑んで労いの言葉をかけてくれる。
大翔「さっきの戦いちゃんと見てたよ。僕の事を信頼して、次を託してくれてありがとう。」
そう言うと大翔はベンチから飛び降り、自身の鞄を寄せて、私に問いかける。
大翔「何が飲みたい?」
優美「…コーラ……」
いつもならミルクティーを頼んでいただろうが、今は炭酸飲料特有の清涼感が欲しかった。
大翔「ほい。」
大翔は私が注文したコーラをすぐに作ると、私に差し出す。差し出されたコーラを飲むと、やっぱり、とっても美味しかった。
優美「…次……本当勝てるの?」
私は差し出されたコーラを飲みながら、最後の試合開始まで、再び瞑想に入ろうとしている大翔に問いかける。すると、大翔の顔はピクリとも動かなかったが、その目には、なにか決意が浮かんでいるような気がした。
君は、いつもそうだった。私達と経験した楽しい思い出。そう言うものはいつもいつも、本当楽しそうに共に経験したはずの私達に何度も何度も話すのに、自分が経験している苦しい事は、決して私達に話してくれようとはしない。そうやっていつも1人で抱え込んで、壊れそうな程にぼろぼろになる。いつもいつも大丈夫だよと言う君の目には、やっぱり何かの決意が浮かんでいて、その度に何があったのか聞き出して、助けだす。そしたら何故か、いつも後悔をその目に滲ませる。その理由を知ることは出来なかった。
優美「いや…ごめん。今のは忘れ…」
大翔「勝てるよ。」
私の言葉が終わらぬ内に、大翔はそう断言した。変わらずその目には覚悟と共に、決意が宿っていた。その言葉と目に、私は少し後悔を覚える。大翔を信じてバトンを託したのに、直前になって大翔の事を疑ってしまった自分に。
優美「…そうだよね!絶対勝って来てよ!じゃないと許さないからね!」
もうすぐで決勝戦が始まる。
大翔「勿論。任せてよ!」
そう言って、大翔は顔に大きな笑顔を浮かべながら、ワープ装置へと乗る。
大翔「行ってくる。」
ワープをする直前に、大翔は私にそう言った。私はワープの直前まで手振って大翔を送りだす。
優美「(さぁ、私に出来ることはやりきった。あとは、大翔の事を信じるだけだ!)」
そう思い、私は視線を装置から控え室に備え付けられているモニターへと移した。
キング「さあ!この大会もいよいよラスト!これより行われる大将戦で勝利したチームが、今大会での優勝チームとなります!さあ皆様、最後までこの大会を
見届けるとしましょう!」
そんな司会者の声が聞こえ、スタジアムからは歓声が上がる。世界にその名を轟かせる名司会者。その手腕、流石と言ったところか。
キング「さあ!それでは決勝戦大将戦!最後の選手を紹介します!まずはチームO!圧倒的な実力で他チームをねじ伏せて来たチームのまだ見ぬ大将!その実力は今大会1か!さあ!どんな蹂躙劇を見せてくれる!糸沙参(いとしゃじん)!」
その声と共に、私は会場へと入場する。今大会最強の選手と言われるだけあって、スタジアムからは大きな歓声が上がっている。
沙参「(……くだらない)」
自身の相手は無能力者だと聞いている。なら、戦う前から勝負など分かっている。こんな戦いは無意味だ。
キング「対するは!この世界唯一の無能力者。今大会最弱であろう……いや、この世界で最弱であろうチームAの大将!君どうやって最強に立ち向かう!我々にその姿を見せてくれ!白崎大翔!」
その声と共に、白崎大翔が入場してくる。彼の髪は白く、背もあまり高い訳ではない。並以上の筋肉がついている訳でもなく、武器を持っている訳でもない。
沙参「……」
期待外れだ。くだらなくはあったが、無能力者が私に立ち向かってくるなら、どのように立ち向かってくるのか、どのようにして能力者と無能力者との間にある生物としての絶対的な差を埋めてくるのか、少し興味があった。だか、それがこれとは本当に期待外れだった。
キング「それでは両者……構え!」
こんなもの、構えを取る必要も無い。
キング「……始め!」
私はそこ声と同時に、距離を詰め、大翔に一撃を叩き込む。防御を取ったようだが、大翔は大きく後ろにぶっ飛び、後方の岩へと激突した。激突と同時に、岩から土煙が上がる。
沙参「……」
私は大翔に対して背を向け、自身のチームの控え室に繋がるワープ装置へと歩いて行く。どうせ、あれだけの衝撃を食らって意識を保てている訳はない。
沙参「(本当につまらなかった……)」
どうせ後は気絶した大翔を職員が回収していくだろう。観客席からはつまらなさそうな声が上がっているが、私の知ったことではない。私達のチームの優勝だ。
そう、思っていた。
沙参「……!」
突然、大翔をぶっ飛ばした岩から上がる土煙が、一瞬ピカッと光ったような気がした。
沙参「…なんだ……?」
また光った。その光は回数を重ねるごとに段々と強さを増していく。私は警戒し、構えを取る。
沙参「……!」
一瞬、土煙の裂け目から誰かが笑っているのが見えた気がした。
沙参「…な!」
その瞬間、何が土煙の中から飛び出し、稲妻のごときそのスピードで、私との距離を詰め、一撃を叩き込む。警戒して構えを取っていたにも関わらず、その稲妻は、私のみぞおちに一撃を叩きこんだ。
沙参「ガ……ハァ!」
今度は私が殴り飛ばされる。そして、後方にあった木にぶつかるが、その木の幹はバキッと音を立てて折れ、私止まる事なくぶっ飛んでいく。
しばらくして岩にぶつかり、ようやく止まる事が出来た。ぶつかった衝撃で、大きく土煙が上がる。体制を立て直し、息を整え、土煙の中から出ると、そこには私を殴り飛ばした者がその場に立っていた。
沙参「…仲間の話では無能力者と聞いていたが?」
私を殴り飛ばした者の正体。それは、先ほど殴り飛ばしたたはずの、白崎大翔。その人だった。
だが、大翔は先ほどとは少し違う姿をしていた。彼は雷を纏っており、彼の体には、稲妻が走っている。髪も逆立って、周りでは何度もスパークが起こっている。何より驚愕させられたのは、彼から放たれる。異様な量の魔力。これまで対面したことがある者の中でも、神を除けば、一番の魔力量だった。
大翔「そうだけど?」
大翔はそうやって首をかしげる。能力じゃないならこれはなんだと言うのだ。
沙参「ならばお前の纏っているそれは、いったい何なんだ。」
大翔「あぁ、これは今までの自分から変わるために、守られる自分から、皆を守ることが出来る自分に変わるために編み出した。自分の魔法。名付けるのなら…安直だけど、魔法を纏うって事で『魔纏(まてん)』…ってとこかな」
元来魔法と言うものは、能力しか防御、攻撃の手段がなかった人々が、能力とはまた違った技術として編み出した物であり、魔力効率の観点から見た時には、圧倒的に能力の方が優秀であることから研究者の数が少なく、数少ない研究者さえも、自身の研究結果を秘匿する事が多いため、未だ謎の多い分野であり、多くの可能性を秘めた分野でもある。
だが、前述した通り魔法と言うものは、能力と比べ圧倒的に魔力効率が悪い。それに、無能力者と言うものは、能力者に比べ、魔力も低いと言われており、何より体にとてつもない負荷がかかるであろう魔纏は、到底無能力者に耐えられる者では無いだろう。だが、私の目の前に立つ大翔と言うこの男は、そんなデメリットを何とも思って無いのか、涼しい顔で私を見つめている。
沙参「…試合の途中だが、私からいくつかお前に質問がある。」
大翔「まぁ飲み込めないことも多いだろうし、いいよ、ある程度は答えてあげる。」
そう、大翔は涼しい顔をして了承する。
沙参「まず一つ目、その魔纏とやらは見たところ、身体強化ともう一つ、雷魔法を纏っている様だが、無能力者は能力者に比べ魔力量が低いと言われている。ならば何故、お前は魔纏を扱えているのだ?」
私の一つ目の質問に、大翔は答えていく。
大翔「それに関しては、元になってるデータって過去に存在した2~3人くらいの無能力者のデータでしょ?そんなのがあてになると、本気で思ってたの?」
そう言って大翔は、少し馬鹿にするような表情を浮かべながら、説明を続ける。
大翔「僕も、検査のあった6歳頃は、まだ魔力量は人よりも低かった。でも、成長するにつれて大きく増えていってね、今では人よりも多くなったんだよ。」
沙参「なるほど…」
確かに、成長と共に魔力と言うもの増えていく傾向にある。しかし、もし今大翔の言った。6歳の頃は人よりも魔力量が少なかったと言う事が本当ならば、ここまで魔力量が増える事は考えづらい。
これが無能力者の本来の特性なのか、大翔が突然変異と言うものなのか、元となるデータが少ないため、それが分かる事は無いだろう。
沙参「ならば二つ目の質問だ。その魔纏と言うものは、いつから使えるようになった。」
私の二つ目質問に対しても、大翔は答え始める。
大翔「確か……小学3年生の頃だったっけな。魔法を独学してる時に、閃いて一瞬だけ使えたのが始まりで、完成したのは中学1年生の頃だったっけ。」
それを聞いて、私は態度には出さなかったが、内心とても驚いていた。その若さで新しい魔法を生み出すとは、尊敬に値する。
沙参「……それでは最後の質問だ。お前は、何故中学生の頃にその魔纏を完成させたにも関わらず、それを周囲に秘匿した。その技術があれば、お前を見る周囲の目は少しは変わったと思うのだが…」
それを聞くと、大翔は淡々と、最後の質問に答え始めた。
大翔「君なら、それくらい理由を察せるでしょ…まぁでも質問に答えると言ったから、いいよ。説明してあげる。例えば、僕がこの力を完成させて、いったいどこでこの力を示せばいい?大人達に説明したとしても、無能力者だからと一蹴され、同い年の子供に見せたとしても、変わらず馬鹿にされ続ける。」
大翔は言葉を続ける。
大翔「それに、これを使ってヴィランを成敗したとしても、大人達の興味が引き付けられるのは僕じゃなくて、この魔纏の技術だ。この技術を知った大人達が、僕にどのような対応をするのか、分かったものじゃない。」
沙参「…なるほど、無能力者がこの大会に出ると聞いた時、正直イカれでもしたのかと思ったが、"力を示すため"か。」
私の回答に大翔は頷く。
大翔「当たり。普通にヴィランを成敗しても、無能力者は差別される対象。感謝されることも無く、ヒーローの仕事を奪ったと非難されるだろうしね……………ある数人を除いて…」
ここで、大翔は最後に覇気の籠った声で語る。
大翔「今の僕がいるのは、優美達がいてくれたからだ。だから、この魔纏で僕は………いや、俺は!皆を守れるくらい強くなってやるよ。もう何も失う事が無いように。」
そう言って大翔は純白の瞳で私を睨み付け、挑戦的な表情で、言葉を叩きつけた。
大翔「それじゃあ…第2ラウンド、開始といこうか。」
同刻
予想外の出来事の発生により、スタジアムにはどよめきに包まれていた。それもそのはず、今まで自分達が差別していた対象が、自分達を越える力を露にしたのだから、同じくモニター越しに試合を観戦していた神。フィーシーですら、驚愕の表情を浮かべている。
フィーシー「…何かしら策はあるだろうと思っていましたが……あの魔力量、いったいどうやって…」
その声にも、驚愕の色が滲んでいる。だが、それも仕方のない事だろう。この世の誰も見たことの無いであろう、魔纏と言う魔法。そして、常人とは思えない魔力量。それを誰も予測していなかった人物が同時に見せたのである。この状況に驚くなと言う方が、到底無理な話であった。
フィーシー「……」
かの神は、この誰も予想し得なかったシナリオの結末を、じっと、見届けようとしていた。この大会がどのような結末を迎えるのか、それを予測出来る者は、いったいどれほどいると言うのか。
バナボー「……!」
遂に、膠着していた盤面が動き出す。ここからの出来事を、一人の人として、しっかりとこの目に焼き付けるとしよう。
私達は、一旦歩いて会場の中心へと戻る。これより始まる第2ラウンド。それを行う為に。
会場の中心へと戻ると、観客席からは先ほどとは打って変わり、何も聞こえなかった。その代わりに、緊張感が伝わって来る。
沙参「キング!先ほどの会話、しっかりと聞いていただろう!もう一度!試合の開始の宣言を頼みたい!」
私の要求にキングは頷く。
キング「…それでは両者………構え!」
その答えと共に、私は構えを取る。対する大翔は、ゆったりとした姿勢を保っていた。
キング「………始め!!!」
その掛け声と同時に、私達の拳はぶつかり合う。同時に轟音が轟き、どちらも後方へと飛ばされる。
沙参「(流石に重いな…)」
その衝撃は、これまで感じたことの無い重さだった。鉛のように重いその攻撃に、私の心はどこか興奮する。
沙参「(少し…本気で行くとしよう。)」
私が手を動かすと大翔の真横に氷の拳が出現し、打撃を与える。突然の事に驚いたのか、対応出来ずにまともに食らう。
大翔「グッ……」
殴り飛ばされた大翔だったが、空中で体制を建て直し私に向き直った。
大翔「…なるほど。氷の操作と生成ってとこか。」
その回答に私は静かに頷く。私の能力は大翔の回答通り、湖や空気中に存在する水分から氷を生み出し、それを操作すると言うものだ。
私は自身の周囲に無数の氷の拳を生み出し、その全てを大翔に向ける。
沙参「(まずは小手調べ…)」
大翔は自身を襲わんとする無数の拳が当たろうとした瞬間に、拳の塊に向かって走り出す。全ての拳を避け、氷の腕の上を走って来る。追加で氷の拳を生み出すも、大翔はそれすら砕き、突然姿を消したかと思うと、私の目の前に姿を現して一撃を叩き込む。
沙参「ガ………!」
殴り飛ばされた私は空中で体制を整えた後、地面から氷の柱を出現させ、飛ばされてい途中でそれに乗り上昇していく。ビル程の高さに到達した時、私はある技を使う。
沙参「氷華の舞。」
すると、周囲に雪の結晶が出来始め、それが地上へゆっくりと降りて行く。
沙参「雪玉弾(ゆきだまだん)。」
空中に雪だるまを出現させ、それも一緒に地上へと落とす。地上に到達した衝撃で破裂した雪だるまの周辺は、覆い被さる雪と共に凍っている。
沙参「……!」
突然、地上にいたはずの大翔の姿が私の視界の中心に映る。
沙参「(…まさか!降り注ぐ雪だるまを壁にして蹴り上がって来たのか!)」
大翔の手には、先ほどまでなかった稲妻が握られている。
沙参「!…クッ!!」
瞬間的に嫌な予感を感じた私は、大翔との間に分厚い氷の壁を作り出す。
大翔「雷霆。」
大翔の手から放たれた稲妻は、一瞬で分厚い氷の壁を貫通し、私はそれをもろに食らってしまう。
沙参「がっ!……あ…」
一瞬で意識が飛びそうになるのをなるとか耐えるが、私は自身の作り出した氷の柱から落ちてしまう。そんな私を追撃しようと、大翔は柱を蹴って私に向かって来る。
沙参「クッ……!」
私は大翔の周囲に氷の槍を出現させ、無数の槍の中心にいる大翔にその槍を突き立てる。
対して大翔は、自身の両腕を胸の前でクロスさせる。すると、バリバリと音を立てて両腕に稲妻が集まり、その瞬間、大翔は両腕を左右に広げる。すると、大翔の手から無数の稲妻がほとばしり、無数の氷の槍と激突すると、氷の槍はバラバラに砕けちる。
沙参「な!?」
私は咄嗟に防御の姿勢を取る。
大翔「雷撃。」
大翔の稲妻を纏った拳が私に突き刺さり、全身に雷に打たれたかのような痺れが私を襲う。
沙参「があっ……!」
私はとてつもないスピードで地面へと落ちて行き、地面へと叩きつける。私が衝突した地面からは大きな土煙が上がり、地面には車程の大きさのクレーターが出来ていた。
沙参「くっ……」
私は朦朧とする意識の中、やっとの思いでゆっくりと立ち上がる。土煙が晴れると、目の前には既に着地して、降り注ぐ雪の中、じっと私のことを見つめる大翔が立っていた。
沙参「くっくく……あっは!は!は!やるなぁ!お前は!」
大翔「そりゃどうも。」
そう、私は大翔に話しかける。実際、私の予想を遥かに越えて強い。私は生まれて初めて、戦いに対して興奮を覚えていた。
沙参「だけど……それもここまでだ。」
大翔「……!」
最初は怪訝な表情を浮かべていた大翔も、自身に起こる異変に気付いたようだ。
沙参「私が降らせているこの雪。これは私の能力によって降らせている物だ。この雪は吸い込んだ対象の体を内側から徐々に凍らせ、蝕んでいく。」
技の解説をする私のことを、大翔は苦しみの色をその表情に浮かばせながら、じっと睨み付ける。
沙参「体を少し凍らされるのはどんな気分だ?寒いか?苦しいか?…もしくは、そのどちらもか?」
気分が高揚している私を大翔は変わらず睨み続ける。
沙参「………?………」
その時、私は少し違和感を覚える。ここまで、大翔の戦いは見事な物だった。
だからこそと言うべきか、真夏に突如降り始めた雪は、私の能力による物だと言うことなんてすぐに分かったはずだ。それに対して、戦いの最中になんの警戒も行わないなんて事があるのだろうか。その予感の答えは、次の瞬間に分かる事になる。
沙参「……!」
大翔が笑った。その瞬間大翔の纏っていた稲妻が消え、代わりに炎を纏い始める。体は炎に包まれ、髪もそれに合わせてゆらゆらと揺れる。
大翔「魔纏"炎"」
自身の体を炎が覆って行く間も、大翔は私の事を見続けており、私の浮かべる表情をしっかりと確認している。体を蝕んでいた氷が溶けたのか、大翔の顔からは、既に苦しみの色は抜け落ちていた。
沙参「……」
沙参「…………はは……」
沙参「あっはははははははははははは!!!!」
私は、目の前に現れた今までにない強敵に、その感情を限界まで高ぶらせていた。
沙参「面白い!面白い面白い面白い!!!」
瞬間、私は自身の真下から氷の柱を出現させ、上へ上へと上昇していく。周囲を囲む山々と同じほどの高さまで上がると、私は会場の遥か真上に、隕石かと見間違うほどの巨大な氷の塊を出現させる。
沙参「氷塊"隕"!」
私はそれを会場へと落とす。ゆっくりと、しかし、確実に地面へと近づく氷の隕石は、ぶつかればひとたまりもないだろう。結界が張ってあったとしても、生きていられるのかは分からない。もしかしたら、跡形も残っていないかもしれない。
沙参「これで最後だ!!!受け止められるものなら受け止めてみろ!!!!!」
私はこの瞬間、自身の勝利を確信した。
だが、ゆっくりと地面へと落ちていっていた巨大な氷の隕石に突然、中心から亀裂が入る。何が起こったのか分からず、私がその亀裂を凝視した瞬間、瞬く間に亀裂が広がり、一瞬でバラバラに砕け散ってしまった。
沙参「…………」
私は何が起こったのか分からず、驚愕でただ茫然とするしかなかった。私が力なくその両膝をつけた瞬間、背後に熱を感じる。
沙参「…なっ!?」
咄嗟に振り返ると私の目の前には、私を今にも殴らんとする大翔がいた。どうやってこの高さまで登って来たのかと、私は混乱する。
沙参「……!!!」
その時視界の下の方に、私が作り出した氷の柱にぽっかりと穴が空いているのが映った。
沙参「(…まさか!!!)」
大翔「炎撃。」
ある答えに達した瞬間、大翔が私に最後の一撃を叩き込む。
沙参「ガ……カハッ……!」
その炎のごとき熱の一撃は、私を空中へと投げ出し、私の体は弧を描く。そのうち、重力に引っ張られ、地面へと落下していく。
沙参「(…まさか……自身の纏う炎で…私の氷を……溶かし…登って来るとは………)」
これまでの人生で、想像すらしなかった私の強敵。その存在に魅せられながら、私は地面へと落下していく。
全身に衝撃が走った直後、私の視界は暗転し、私は自身の意識を手放した。
土煙が晴れると、ハッとした様子で審判が糸沙参の元へと近づく。
審判「…い……糸沙参…気絶により!戦闘不能!!!よって勝者…………白崎大翔!!!!!」
一瞬の静寂の後
観客「……ワアーーーーーーーーーーーー!!!!」
幾重にも重なった人々の歓声が、スタジアム全体に響き渡る。
優美「…か……勝ったの……?」
大翔「ちゃんと勝ってきたよ。優美。」
その声が聞こえた瞬間に、私はその方向に振り返る。そこには、無事に立っている大翔の姿があった。
優美「あ…あぁ……」
突然、私の視界がぼやける。
大翔「優美…なに泣いてるの?」
瞬間、私は大翔に飛び付いて、わんわんと鳴き始める。
大翔「わ!…急にどうし……」
優美「良かった……本当に…無事で…生きて…戻ってしてくれて……本当に良かった…」
突然飛び付いて来た私に少し驚いた様子だったが、私の言葉を聞いてか、大翔は優しく私を抱き直す。
大翔「心配かけてごめん……これからは皆のことを守れる様に、もっともっと、強くなるよ。もう、皆に心配させないように。」
抱きついていたから大翔の表情を見ることは出来なかった。だけど、その言葉には、優しさと決意が、変わらず滲んでいた。
舞花「……んっ…」
目を開けると、まず視界に飛び込んで来たのは白い天井。一定のリズムで機械音が耳に飛び込んでくる。
舞花「……ここは…」
優美「舞花が!…目を覚ました!」
まだ頭がハッキリとしない状態だったが、そんな声が聞こえた瞬間、私の腹部に衝撃が来る。
舞花「うっ……」
優美「あ…ごめん。舞花。」
舞花「…優……美…?」
辺りを見回すと、自分以外の患者の姿はなく、優美以外には、龍騎や力子やフィーシー、そして、大翔の姿があった。
舞花「…患者の…皆は?」
優美「フィーシーが全部治してくれて今別室で一応の検査を受けているところだよ。」
舞花「……!」
その瞬間、私は平海静海にやられ、気絶するまでの出来事を思い出す。
舞花「優美!大将戦は…どうなったの!?」
優美「それがね…大翔が…ちゃんと勝ってきたよ!」
私の質問に、えっへんと言う感じの表情で優美が答える。大翔が勝ったと言うその答えに私は驚いたが、すぐに優美が試合の様子を興奮した様子で語り始める。
優美「ほんっっっとうにすごかったんだよ!大翔がね!魔纏って言う自分の魔法を使ってね!こう…バリバリって感じで雷を纏ったり、メラメラと炎を纏ったりしたんだから!」
魔纏と言う聞いたことのない単語に私は怪訝な顔をするが、正直よく分からない。
大翔「…あれだったら今ここで見せようか?」
やれやれと言った様子で、大翔がそう申し出てくれる。
舞花「…お願い。」
まだ良く分かってないけど、大翔が考えた魔法と聞くと、興味が湧いてくる。私は大翔の申し出にありがたく思った。
大翔「分かった。それじゃあ見てて。」
そう大翔は言うと、少し私のベッドから離れて私に向き直り、目を閉じる。すると徐々に大翔の髪が逆立って来て、周りではスパークが起こり始める。大翔が目を見開くと、その瞬間、稲妻を纏った。
舞花「……凄い………」
今まで見たことも、聞いたこともない魔法。身体強化と一緒に雷魔法を纏っているようで、その繊細な魔力操作もそうだが、何より私の興味をそそったのは、大翔から放たれる異様な魔力量だった。
舞花「いったい…どうやってそんな魔力……」
視界の端に映る皆、神であるフィーシーさえも、大翔の言葉を待っているようだった。
大翔「あぁ…これは言ってしまえば、子供の頃からの努力の賜物だね。」
魔纏を解いた大翔が私の質問に答えてくれるが、その答えにこの場にいた全員が、ほぼ同時に驚愕の表情を浮かべる。小さい頃からの努力なんて、いったいなにをしていればこんな魔力量になるのだろうか。
大翔「魔力圧縮。皆もやったことあるだろ?」
魔力圧縮とは、成長と共に増えていく自身の魔力を、より多くする為に行う物だ。洗濯物に例えると同じ大きさのクローゼットに収納する時でも、乱雑に入れるより、丁寧に畳んで入れた方が多く入るように、魔力も圧縮する事によってただ成長して魔力が増える場合より、より多くの魔力を増やす事が出来る。
だが、一般的に知られている方法でここまで魔力が増えたなんて事例を少なくとも私は聞いた事がない。そう思っていると、大翔は驚愕の事実を私達に話してくれた。
大翔「確か…一般的な魔力圧縮の方法って二段階に別れた形式だったでしょ?でも俺はもっと魔力を増やしたかったから自分で四段階の圧縮方法考えてやってたんだよね。」
その回答によって、私達の頭には一斉に"?"が浮かんだ事だろう。少なくとも、私の頭にはそれが浮かんだ。
舞花「はぁ…えぇ……よ、四段階?」
既存のやり方をアレンジして、三段階の圧縮にするのは良く聞くし、実際私も三段階にしてやっている。しかし、魔力圧縮と言うものは、段階を増やすごとに精神的、身体的な負担が増えていく。その為か、四段階の圧縮を行う者の事など聞いたこともなかった。
舞花「……因みに…そのやり方って…」
大翔「別に教えても良いけど、慣れないうちは馬鹿みたいな負担が常にかかり続けるから、あんまりお勧めはしないよ。」
舞花「ですよねーー。」
魔力圧縮と言うものは、ただでさえ体への負担が大きい物なのに、それの四段階など想像もしたくない。
龍騎「本当に…お前は昔からそう言うとこあるよな。」
力子「よ…四段階の圧縮って……」
皆が驚愕の表情を浮かべ、そう口々に言い始めた時
大翔「まぁ俺の話はこれくらいにして、皆、フィーシー様に聞きたいことがあったんじゃないの?」
そう、大翔が私達に呼び掛ける。
優美·舞花·龍騎·力子「………」
大翔「ん?どうした?」
優美「なんで……話した事ないのに、そんなこと分かるの?」
大翔にはあの事は話していないはずだ。私達の間に緊張が走る。
大翔「いや、二人がフィーシー様を呼んだ時に、なんか試合に優勝したら教えるみたいな事聞いたから、なにか聞きたいことがあるのかな~って。」
優美·舞花「あ~。あの時か~。」
私と舞花はイクセスリィを守った時の事をフィーシーに聞こうと呼んだ時の事を思い出す。視界の端では、フィーシーもあの時か~。っと言った表情を浮かべていた。
大翔「フィーシー様。私はこの話を聞かない方がよろしいでしょうか?もしそうなら、私は一旦部屋から退出いたしましょう。」
フィーシー「あなたはどこまでこの話を知っていますか?」
フィーシーの質問に、大翔は答える。
大翔「イクセスリィで優美達が戦った時に現れた人物についてのくだりからです。」
フィーシー「…つまり全部ですか……」
フィーシーはしまったと言う表情を浮かべる。この話をするために病室にいた人々を治し、私達だけの状況を作り出したと言うのに、こんな罠があったとは、私も思っていなかった。
フィーシー「良いでしょう。今回の戦いから判断して、あなたにもこの話を聞く権利はありますから。この先様々な困難に巻き込まれることもあるかも知れませんしね。」
そう言ってフィーシーは一呼吸置くと、私達イクセスリィに現れた人物の正体を話し始めた。
フィーシー「あなた達がイクセスリィを救ってくれたあの時、あなた達の前に現れた存在については、実を言うと私達神もあまりよく知りません。なので私達は彼の事を『裁定者』と呼んでいます。」
優美「裁定者……」
その言葉を聞いて、私達は顔を見合わせる。
フィーシー「ええ。唯一裁定者について分かっている事と言えば、私達神よりも、さらに上の存在。この世界の最高神と言う事だけです。」
龍騎「な……」
龍騎が驚きの声を上げる。無理もない。事実。私も同じように声を上げてしまいそうになっていた。
この世界では、一番上の立場にいる存在として、神が存在する。その上に更に最高神がいる事など、誰が予想出来ただろうか。
舞花「……何故あなた達神は、その最高神の存在を、今まで秘匿していたのですか?」
かなり踏み込んだ質問をしたつもりだった。しかし、フィーシーはこれから話そうと思っていたから丁度良いと言うような表情で、私達にその理由を話し始める。
フィーシー「それは裁定者の事を知った者は、いつの間にか、裁定者に関する全て記憶が全て跡形も無く消えてしまっているからですね。」
予想していなかった回答に、私達は皆再度驚愕の表情を浮かべる。
龍騎「それじゃあ……なんで俺達は…」
そう、龍騎が私達の疑問を代弁すると、フィーシーはそれに答え始める。
フィーシー「それは分かりません。裁定者になにか思惑があるのか、単に辺りに散らばる石に向ける関心と同じようなもので、放置しているだけなのか……謎に満ちた存在故に、私には何も分からないのです。そもそも、この記憶が消えると言う現象事態が、裁定者の行っている事なのか、別のなにかによるものかさえも……」
私達の間に沈黙が満ちる。人と言うものは未知を恐れると誰かが言った。私自身は、その言葉についていつだったか疑問を抱いた事がある。未知が怖いのなら、未知を知れば良い。何も知らないから、未知を恐れなければいけない。そう言った考えを持っていたから。
だが、今の私達を支配しようとしているのは、言葉に出来ない形をした恐怖だった。あまりにも強大で、あまりにも未知な存在。そんな存在に対しては、今まで自身が持っていた価値観さえも、覆される。私達の身にこれから何が起こるのか、その先を見据えながら。
大翔「…大丈夫。何があったとしても、俺が皆の事を守るから。」
この満ちていた沈黙を突き破ったのは、それまで何も口にせず話を聞いていた大翔だった。私はバッと大翔の方を見る。
大翔「この魔纏は、その為に編み出した。俺の魔法だから。」
大翔はそう言葉を口にしながら、私達に微笑みかける。私達は……いや、少なくとも私は、大翔のその言葉に安心感を覚え、空気の抜けて行く風船のように、体に入った力が抜けて行く。
フィーシー「………」
フィーシーは何も言わず、静かに私達を見ながら微笑を浮かべている。しばらく私達を見つめた後に、再度話し始める。
フィーシー「本当に…とてもよき友人達ですね…私の知ることは、これが以上です。しかし、他の神ならばもしかしたら私の知らぬ情報を持っているかも知れません。」
フィーシーは言葉を続ける。
フィーシー「私からあなた達が次に行くことになるだろう国。『アートスト』の神へと紹介状を書きましょう。それを見せれば、彼女もあなた達を友人として温かく迎え入れてくれることでしょうから。龍騎さん達の旅費も私達が出しましょう。」
龍騎「え…いや……悪いですよ。そんな…」
フィーシー「いえいえ、あなた達には相当な恩がありますし、今回に関しては裁定者も関わっていますから、私の手が届く範囲ならば、どんなことでもやりましょう。」
龍騎「……ありがとうございます!」
力子「ありがとうございます!」
フィーシーの厚意に龍騎と力子は深々と頭を下げて礼を言う。
フィーシー「頭を上げて下さい。この先、あなた達に降りかかる物が苦難なのか、そうでない物か、それは私にも分かりません。しかし、皆さんの歩む道に幸が降りますよう。願っています。」
フィーシーのそんな言葉に、私達はしっかりと耳を傾けて聞く。
フィーシー「さあ、そろそろ表彰が始まってしまいますよ。3人とも、急ぎなさい。」
龍騎「よし!行ってこい!3人とも本当におめでとう!」
力子「おめでとう!皆凄かったよ!」
もうそんな時間なのか、私はベッドから飛び降りて、優美と大翔の2人と共に、備え付けられていたワープ装置に飛び乗る。視界が皆を写している間ずっと、私は手を振り返し続けた。
この先、どんな事が起こるのかは何も分からない。だけど、私達は1人じゃない。いつも、信頼出来る仲間が側にいてくれる。これなら何が起こったとしても、きっと皆で乗り越えて行けるだろう。周りからのカメラのフラッシュが眩しい高い表彰台の上でそんな事を考える。この先どんな未来が待っているのか、少し怖さもあったけど、私達はそんな未知に、皆で足を踏み出した。
大翔「さっきの戦いちゃんと見てたよ。僕の事を信頼して、次を託してくれてありがとう。」
そう言うと大翔はベンチから飛び降り、自身の鞄を寄せて、私に問いかける。
大翔「何が飲みたい?」
優美「…コーラ……」
いつもならミルクティーを頼んでいただろうが、今は炭酸飲料特有の清涼感が欲しかった。
大翔「ほい。」
大翔は私が注文したコーラをすぐに作ると、私に差し出す。差し出されたコーラを飲むと、やっぱり、とっても美味しかった。
優美「…次……本当勝てるの?」
私は差し出されたコーラを飲みながら、最後の試合開始まで、再び瞑想に入ろうとしている大翔に問いかける。すると、大翔の顔はピクリとも動かなかったが、その目には、なにか決意が浮かんでいるような気がした。
君は、いつもそうだった。私達と経験した楽しい思い出。そう言うものはいつもいつも、本当楽しそうに共に経験したはずの私達に何度も何度も話すのに、自分が経験している苦しい事は、決して私達に話してくれようとはしない。そうやっていつも1人で抱え込んで、壊れそうな程にぼろぼろになる。いつもいつも大丈夫だよと言う君の目には、やっぱり何かの決意が浮かんでいて、その度に何があったのか聞き出して、助けだす。そしたら何故か、いつも後悔をその目に滲ませる。その理由を知ることは出来なかった。
優美「いや…ごめん。今のは忘れ…」
大翔「勝てるよ。」
私の言葉が終わらぬ内に、大翔はそう断言した。変わらずその目には覚悟と共に、決意が宿っていた。その言葉と目に、私は少し後悔を覚える。大翔を信じてバトンを託したのに、直前になって大翔の事を疑ってしまった自分に。
優美「…そうだよね!絶対勝って来てよ!じゃないと許さないからね!」
もうすぐで決勝戦が始まる。
大翔「勿論。任せてよ!」
そう言って、大翔は顔に大きな笑顔を浮かべながら、ワープ装置へと乗る。
大翔「行ってくる。」
ワープをする直前に、大翔は私にそう言った。私はワープの直前まで手振って大翔を送りだす。
優美「(さぁ、私に出来ることはやりきった。あとは、大翔の事を信じるだけだ!)」
そう思い、私は視線を装置から控え室に備え付けられているモニターへと移した。
キング「さあ!この大会もいよいよラスト!これより行われる大将戦で勝利したチームが、今大会での優勝チームとなります!さあ皆様、最後までこの大会を
見届けるとしましょう!」
そんな司会者の声が聞こえ、スタジアムからは歓声が上がる。世界にその名を轟かせる名司会者。その手腕、流石と言ったところか。
キング「さあ!それでは決勝戦大将戦!最後の選手を紹介します!まずはチームO!圧倒的な実力で他チームをねじ伏せて来たチームのまだ見ぬ大将!その実力は今大会1か!さあ!どんな蹂躙劇を見せてくれる!糸沙参(いとしゃじん)!」
その声と共に、私は会場へと入場する。今大会最強の選手と言われるだけあって、スタジアムからは大きな歓声が上がっている。
沙参「(……くだらない)」
自身の相手は無能力者だと聞いている。なら、戦う前から勝負など分かっている。こんな戦いは無意味だ。
キング「対するは!この世界唯一の無能力者。今大会最弱であろう……いや、この世界で最弱であろうチームAの大将!君どうやって最強に立ち向かう!我々にその姿を見せてくれ!白崎大翔!」
その声と共に、白崎大翔が入場してくる。彼の髪は白く、背もあまり高い訳ではない。並以上の筋肉がついている訳でもなく、武器を持っている訳でもない。
沙参「……」
期待外れだ。くだらなくはあったが、無能力者が私に立ち向かってくるなら、どのように立ち向かってくるのか、どのようにして能力者と無能力者との間にある生物としての絶対的な差を埋めてくるのか、少し興味があった。だか、それがこれとは本当に期待外れだった。
キング「それでは両者……構え!」
こんなもの、構えを取る必要も無い。
キング「……始め!」
私はそこ声と同時に、距離を詰め、大翔に一撃を叩き込む。防御を取ったようだが、大翔は大きく後ろにぶっ飛び、後方の岩へと激突した。激突と同時に、岩から土煙が上がる。
沙参「……」
私は大翔に対して背を向け、自身のチームの控え室に繋がるワープ装置へと歩いて行く。どうせ、あれだけの衝撃を食らって意識を保てている訳はない。
沙参「(本当につまらなかった……)」
どうせ後は気絶した大翔を職員が回収していくだろう。観客席からはつまらなさそうな声が上がっているが、私の知ったことではない。私達のチームの優勝だ。
そう、思っていた。
沙参「……!」
突然、大翔をぶっ飛ばした岩から上がる土煙が、一瞬ピカッと光ったような気がした。
沙参「…なんだ……?」
また光った。その光は回数を重ねるごとに段々と強さを増していく。私は警戒し、構えを取る。
沙参「……!」
一瞬、土煙の裂け目から誰かが笑っているのが見えた気がした。
沙参「…な!」
その瞬間、何が土煙の中から飛び出し、稲妻のごときそのスピードで、私との距離を詰め、一撃を叩き込む。警戒して構えを取っていたにも関わらず、その稲妻は、私のみぞおちに一撃を叩きこんだ。
沙参「ガ……ハァ!」
今度は私が殴り飛ばされる。そして、後方にあった木にぶつかるが、その木の幹はバキッと音を立てて折れ、私止まる事なくぶっ飛んでいく。
しばらくして岩にぶつかり、ようやく止まる事が出来た。ぶつかった衝撃で、大きく土煙が上がる。体制を立て直し、息を整え、土煙の中から出ると、そこには私を殴り飛ばした者がその場に立っていた。
沙参「…仲間の話では無能力者と聞いていたが?」
私を殴り飛ばした者の正体。それは、先ほど殴り飛ばしたたはずの、白崎大翔。その人だった。
だが、大翔は先ほどとは少し違う姿をしていた。彼は雷を纏っており、彼の体には、稲妻が走っている。髪も逆立って、周りでは何度もスパークが起こっている。何より驚愕させられたのは、彼から放たれる。異様な量の魔力。これまで対面したことがある者の中でも、神を除けば、一番の魔力量だった。
大翔「そうだけど?」
大翔はそうやって首をかしげる。能力じゃないならこれはなんだと言うのだ。
沙参「ならばお前の纏っているそれは、いったい何なんだ。」
大翔「あぁ、これは今までの自分から変わるために、守られる自分から、皆を守ることが出来る自分に変わるために編み出した。自分の魔法。名付けるのなら…安直だけど、魔法を纏うって事で『魔纏(まてん)』…ってとこかな」
元来魔法と言うものは、能力しか防御、攻撃の手段がなかった人々が、能力とはまた違った技術として編み出した物であり、魔力効率の観点から見た時には、圧倒的に能力の方が優秀であることから研究者の数が少なく、数少ない研究者さえも、自身の研究結果を秘匿する事が多いため、未だ謎の多い分野であり、多くの可能性を秘めた分野でもある。
だが、前述した通り魔法と言うものは、能力と比べ圧倒的に魔力効率が悪い。それに、無能力者と言うものは、能力者に比べ、魔力も低いと言われており、何より体にとてつもない負荷がかかるであろう魔纏は、到底無能力者に耐えられる者では無いだろう。だが、私の目の前に立つ大翔と言うこの男は、そんなデメリットを何とも思って無いのか、涼しい顔で私を見つめている。
沙参「…試合の途中だが、私からいくつかお前に質問がある。」
大翔「まぁ飲み込めないことも多いだろうし、いいよ、ある程度は答えてあげる。」
そう、大翔は涼しい顔をして了承する。
沙参「まず一つ目、その魔纏とやらは見たところ、身体強化ともう一つ、雷魔法を纏っている様だが、無能力者は能力者に比べ魔力量が低いと言われている。ならば何故、お前は魔纏を扱えているのだ?」
私の一つ目の質問に、大翔は答えていく。
大翔「それに関しては、元になってるデータって過去に存在した2~3人くらいの無能力者のデータでしょ?そんなのがあてになると、本気で思ってたの?」
そう言って大翔は、少し馬鹿にするような表情を浮かべながら、説明を続ける。
大翔「僕も、検査のあった6歳頃は、まだ魔力量は人よりも低かった。でも、成長するにつれて大きく増えていってね、今では人よりも多くなったんだよ。」
沙参「なるほど…」
確かに、成長と共に魔力と言うもの増えていく傾向にある。しかし、もし今大翔の言った。6歳の頃は人よりも魔力量が少なかったと言う事が本当ならば、ここまで魔力量が増える事は考えづらい。
これが無能力者の本来の特性なのか、大翔が突然変異と言うものなのか、元となるデータが少ないため、それが分かる事は無いだろう。
沙参「ならば二つ目の質問だ。その魔纏と言うものは、いつから使えるようになった。」
私の二つ目質問に対しても、大翔は答え始める。
大翔「確か……小学3年生の頃だったっけな。魔法を独学してる時に、閃いて一瞬だけ使えたのが始まりで、完成したのは中学1年生の頃だったっけ。」
それを聞いて、私は態度には出さなかったが、内心とても驚いていた。その若さで新しい魔法を生み出すとは、尊敬に値する。
沙参「……それでは最後の質問だ。お前は、何故中学生の頃にその魔纏を完成させたにも関わらず、それを周囲に秘匿した。その技術があれば、お前を見る周囲の目は少しは変わったと思うのだが…」
それを聞くと、大翔は淡々と、最後の質問に答え始めた。
大翔「君なら、それくらい理由を察せるでしょ…まぁでも質問に答えると言ったから、いいよ。説明してあげる。例えば、僕がこの力を完成させて、いったいどこでこの力を示せばいい?大人達に説明したとしても、無能力者だからと一蹴され、同い年の子供に見せたとしても、変わらず馬鹿にされ続ける。」
大翔は言葉を続ける。
大翔「それに、これを使ってヴィランを成敗したとしても、大人達の興味が引き付けられるのは僕じゃなくて、この魔纏の技術だ。この技術を知った大人達が、僕にどのような対応をするのか、分かったものじゃない。」
沙参「…なるほど、無能力者がこの大会に出ると聞いた時、正直イカれでもしたのかと思ったが、"力を示すため"か。」
私の回答に大翔は頷く。
大翔「当たり。普通にヴィランを成敗しても、無能力者は差別される対象。感謝されることも無く、ヒーローの仕事を奪ったと非難されるだろうしね……………ある数人を除いて…」
ここで、大翔は最後に覇気の籠った声で語る。
大翔「今の僕がいるのは、優美達がいてくれたからだ。だから、この魔纏で僕は………いや、俺は!皆を守れるくらい強くなってやるよ。もう何も失う事が無いように。」
そう言って大翔は純白の瞳で私を睨み付け、挑戦的な表情で、言葉を叩きつけた。
大翔「それじゃあ…第2ラウンド、開始といこうか。」
同刻
予想外の出来事の発生により、スタジアムにはどよめきに包まれていた。それもそのはず、今まで自分達が差別していた対象が、自分達を越える力を露にしたのだから、同じくモニター越しに試合を観戦していた神。フィーシーですら、驚愕の表情を浮かべている。
フィーシー「…何かしら策はあるだろうと思っていましたが……あの魔力量、いったいどうやって…」
その声にも、驚愕の色が滲んでいる。だが、それも仕方のない事だろう。この世の誰も見たことの無いであろう、魔纏と言う魔法。そして、常人とは思えない魔力量。それを誰も予測していなかった人物が同時に見せたのである。この状況に驚くなと言う方が、到底無理な話であった。
フィーシー「……」
かの神は、この誰も予想し得なかったシナリオの結末を、じっと、見届けようとしていた。この大会がどのような結末を迎えるのか、それを予測出来る者は、いったいどれほどいると言うのか。
バナボー「……!」
遂に、膠着していた盤面が動き出す。ここからの出来事を、一人の人として、しっかりとこの目に焼き付けるとしよう。
私達は、一旦歩いて会場の中心へと戻る。これより始まる第2ラウンド。それを行う為に。
会場の中心へと戻ると、観客席からは先ほどとは打って変わり、何も聞こえなかった。その代わりに、緊張感が伝わって来る。
沙参「キング!先ほどの会話、しっかりと聞いていただろう!もう一度!試合の開始の宣言を頼みたい!」
私の要求にキングは頷く。
キング「…それでは両者………構え!」
その答えと共に、私は構えを取る。対する大翔は、ゆったりとした姿勢を保っていた。
キング「………始め!!!」
その掛け声と同時に、私達の拳はぶつかり合う。同時に轟音が轟き、どちらも後方へと飛ばされる。
沙参「(流石に重いな…)」
その衝撃は、これまで感じたことの無い重さだった。鉛のように重いその攻撃に、私の心はどこか興奮する。
沙参「(少し…本気で行くとしよう。)」
私が手を動かすと大翔の真横に氷の拳が出現し、打撃を与える。突然の事に驚いたのか、対応出来ずにまともに食らう。
大翔「グッ……」
殴り飛ばされた大翔だったが、空中で体制を建て直し私に向き直った。
大翔「…なるほど。氷の操作と生成ってとこか。」
その回答に私は静かに頷く。私の能力は大翔の回答通り、湖や空気中に存在する水分から氷を生み出し、それを操作すると言うものだ。
私は自身の周囲に無数の氷の拳を生み出し、その全てを大翔に向ける。
沙参「(まずは小手調べ…)」
大翔は自身を襲わんとする無数の拳が当たろうとした瞬間に、拳の塊に向かって走り出す。全ての拳を避け、氷の腕の上を走って来る。追加で氷の拳を生み出すも、大翔はそれすら砕き、突然姿を消したかと思うと、私の目の前に姿を現して一撃を叩き込む。
沙参「ガ………!」
殴り飛ばされた私は空中で体制を整えた後、地面から氷の柱を出現させ、飛ばされてい途中でそれに乗り上昇していく。ビル程の高さに到達した時、私はある技を使う。
沙参「氷華の舞。」
すると、周囲に雪の結晶が出来始め、それが地上へゆっくりと降りて行く。
沙参「雪玉弾(ゆきだまだん)。」
空中に雪だるまを出現させ、それも一緒に地上へと落とす。地上に到達した衝撃で破裂した雪だるまの周辺は、覆い被さる雪と共に凍っている。
沙参「……!」
突然、地上にいたはずの大翔の姿が私の視界の中心に映る。
沙参「(…まさか!降り注ぐ雪だるまを壁にして蹴り上がって来たのか!)」
大翔の手には、先ほどまでなかった稲妻が握られている。
沙参「!…クッ!!」
瞬間的に嫌な予感を感じた私は、大翔との間に分厚い氷の壁を作り出す。
大翔「雷霆。」
大翔の手から放たれた稲妻は、一瞬で分厚い氷の壁を貫通し、私はそれをもろに食らってしまう。
沙参「がっ!……あ…」
一瞬で意識が飛びそうになるのをなるとか耐えるが、私は自身の作り出した氷の柱から落ちてしまう。そんな私を追撃しようと、大翔は柱を蹴って私に向かって来る。
沙参「クッ……!」
私は大翔の周囲に氷の槍を出現させ、無数の槍の中心にいる大翔にその槍を突き立てる。
対して大翔は、自身の両腕を胸の前でクロスさせる。すると、バリバリと音を立てて両腕に稲妻が集まり、その瞬間、大翔は両腕を左右に広げる。すると、大翔の手から無数の稲妻がほとばしり、無数の氷の槍と激突すると、氷の槍はバラバラに砕けちる。
沙参「な!?」
私は咄嗟に防御の姿勢を取る。
大翔「雷撃。」
大翔の稲妻を纏った拳が私に突き刺さり、全身に雷に打たれたかのような痺れが私を襲う。
沙参「があっ……!」
私はとてつもないスピードで地面へと落ちて行き、地面へと叩きつける。私が衝突した地面からは大きな土煙が上がり、地面には車程の大きさのクレーターが出来ていた。
沙参「くっ……」
私は朦朧とする意識の中、やっとの思いでゆっくりと立ち上がる。土煙が晴れると、目の前には既に着地して、降り注ぐ雪の中、じっと私のことを見つめる大翔が立っていた。
沙参「くっくく……あっは!は!は!やるなぁ!お前は!」
大翔「そりゃどうも。」
そう、私は大翔に話しかける。実際、私の予想を遥かに越えて強い。私は生まれて初めて、戦いに対して興奮を覚えていた。
沙参「だけど……それもここまでだ。」
大翔「……!」
最初は怪訝な表情を浮かべていた大翔も、自身に起こる異変に気付いたようだ。
沙参「私が降らせているこの雪。これは私の能力によって降らせている物だ。この雪は吸い込んだ対象の体を内側から徐々に凍らせ、蝕んでいく。」
技の解説をする私のことを、大翔は苦しみの色をその表情に浮かばせながら、じっと睨み付ける。
沙参「体を少し凍らされるのはどんな気分だ?寒いか?苦しいか?…もしくは、そのどちらもか?」
気分が高揚している私を大翔は変わらず睨み続ける。
沙参「………?………」
その時、私は少し違和感を覚える。ここまで、大翔の戦いは見事な物だった。
だからこそと言うべきか、真夏に突如降り始めた雪は、私の能力による物だと言うことなんてすぐに分かったはずだ。それに対して、戦いの最中になんの警戒も行わないなんて事があるのだろうか。その予感の答えは、次の瞬間に分かる事になる。
沙参「……!」
大翔が笑った。その瞬間大翔の纏っていた稲妻が消え、代わりに炎を纏い始める。体は炎に包まれ、髪もそれに合わせてゆらゆらと揺れる。
大翔「魔纏"炎"」
自身の体を炎が覆って行く間も、大翔は私の事を見続けており、私の浮かべる表情をしっかりと確認している。体を蝕んでいた氷が溶けたのか、大翔の顔からは、既に苦しみの色は抜け落ちていた。
沙参「……」
沙参「…………はは……」
沙参「あっはははははははははははは!!!!」
私は、目の前に現れた今までにない強敵に、その感情を限界まで高ぶらせていた。
沙参「面白い!面白い面白い面白い!!!」
瞬間、私は自身の真下から氷の柱を出現させ、上へ上へと上昇していく。周囲を囲む山々と同じほどの高さまで上がると、私は会場の遥か真上に、隕石かと見間違うほどの巨大な氷の塊を出現させる。
沙参「氷塊"隕"!」
私はそれを会場へと落とす。ゆっくりと、しかし、確実に地面へと近づく氷の隕石は、ぶつかればひとたまりもないだろう。結界が張ってあったとしても、生きていられるのかは分からない。もしかしたら、跡形も残っていないかもしれない。
沙参「これで最後だ!!!受け止められるものなら受け止めてみろ!!!!!」
私はこの瞬間、自身の勝利を確信した。
だが、ゆっくりと地面へと落ちていっていた巨大な氷の隕石に突然、中心から亀裂が入る。何が起こったのか分からず、私がその亀裂を凝視した瞬間、瞬く間に亀裂が広がり、一瞬でバラバラに砕け散ってしまった。
沙参「…………」
私は何が起こったのか分からず、驚愕でただ茫然とするしかなかった。私が力なくその両膝をつけた瞬間、背後に熱を感じる。
沙参「…なっ!?」
咄嗟に振り返ると私の目の前には、私を今にも殴らんとする大翔がいた。どうやってこの高さまで登って来たのかと、私は混乱する。
沙参「……!!!」
その時視界の下の方に、私が作り出した氷の柱にぽっかりと穴が空いているのが映った。
沙参「(…まさか!!!)」
大翔「炎撃。」
ある答えに達した瞬間、大翔が私に最後の一撃を叩き込む。
沙参「ガ……カハッ……!」
その炎のごとき熱の一撃は、私を空中へと投げ出し、私の体は弧を描く。そのうち、重力に引っ張られ、地面へと落下していく。
沙参「(…まさか……自身の纏う炎で…私の氷を……溶かし…登って来るとは………)」
これまでの人生で、想像すらしなかった私の強敵。その存在に魅せられながら、私は地面へと落下していく。
全身に衝撃が走った直後、私の視界は暗転し、私は自身の意識を手放した。
土煙が晴れると、ハッとした様子で審判が糸沙参の元へと近づく。
審判「…い……糸沙参…気絶により!戦闘不能!!!よって勝者…………白崎大翔!!!!!」
一瞬の静寂の後
観客「……ワアーーーーーーーーーーーー!!!!」
幾重にも重なった人々の歓声が、スタジアム全体に響き渡る。
優美「…か……勝ったの……?」
大翔「ちゃんと勝ってきたよ。優美。」
その声が聞こえた瞬間に、私はその方向に振り返る。そこには、無事に立っている大翔の姿があった。
優美「あ…あぁ……」
突然、私の視界がぼやける。
大翔「優美…なに泣いてるの?」
瞬間、私は大翔に飛び付いて、わんわんと鳴き始める。
大翔「わ!…急にどうし……」
優美「良かった……本当に…無事で…生きて…戻ってしてくれて……本当に良かった…」
突然飛び付いて来た私に少し驚いた様子だったが、私の言葉を聞いてか、大翔は優しく私を抱き直す。
大翔「心配かけてごめん……これからは皆のことを守れる様に、もっともっと、強くなるよ。もう、皆に心配させないように。」
抱きついていたから大翔の表情を見ることは出来なかった。だけど、その言葉には、優しさと決意が、変わらず滲んでいた。
舞花「……んっ…」
目を開けると、まず視界に飛び込んで来たのは白い天井。一定のリズムで機械音が耳に飛び込んでくる。
舞花「……ここは…」
優美「舞花が!…目を覚ました!」
まだ頭がハッキリとしない状態だったが、そんな声が聞こえた瞬間、私の腹部に衝撃が来る。
舞花「うっ……」
優美「あ…ごめん。舞花。」
舞花「…優……美…?」
辺りを見回すと、自分以外の患者の姿はなく、優美以外には、龍騎や力子やフィーシー、そして、大翔の姿があった。
舞花「…患者の…皆は?」
優美「フィーシーが全部治してくれて今別室で一応の検査を受けているところだよ。」
舞花「……!」
その瞬間、私は平海静海にやられ、気絶するまでの出来事を思い出す。
舞花「優美!大将戦は…どうなったの!?」
優美「それがね…大翔が…ちゃんと勝ってきたよ!」
私の質問に、えっへんと言う感じの表情で優美が答える。大翔が勝ったと言うその答えに私は驚いたが、すぐに優美が試合の様子を興奮した様子で語り始める。
優美「ほんっっっとうにすごかったんだよ!大翔がね!魔纏って言う自分の魔法を使ってね!こう…バリバリって感じで雷を纏ったり、メラメラと炎を纏ったりしたんだから!」
魔纏と言う聞いたことのない単語に私は怪訝な顔をするが、正直よく分からない。
大翔「…あれだったら今ここで見せようか?」
やれやれと言った様子で、大翔がそう申し出てくれる。
舞花「…お願い。」
まだ良く分かってないけど、大翔が考えた魔法と聞くと、興味が湧いてくる。私は大翔の申し出にありがたく思った。
大翔「分かった。それじゃあ見てて。」
そう大翔は言うと、少し私のベッドから離れて私に向き直り、目を閉じる。すると徐々に大翔の髪が逆立って来て、周りではスパークが起こり始める。大翔が目を見開くと、その瞬間、稲妻を纏った。
舞花「……凄い………」
今まで見たことも、聞いたこともない魔法。身体強化と一緒に雷魔法を纏っているようで、その繊細な魔力操作もそうだが、何より私の興味をそそったのは、大翔から放たれる異様な魔力量だった。
舞花「いったい…どうやってそんな魔力……」
視界の端に映る皆、神であるフィーシーさえも、大翔の言葉を待っているようだった。
大翔「あぁ…これは言ってしまえば、子供の頃からの努力の賜物だね。」
魔纏を解いた大翔が私の質問に答えてくれるが、その答えにこの場にいた全員が、ほぼ同時に驚愕の表情を浮かべる。小さい頃からの努力なんて、いったいなにをしていればこんな魔力量になるのだろうか。
大翔「魔力圧縮。皆もやったことあるだろ?」
魔力圧縮とは、成長と共に増えていく自身の魔力を、より多くする為に行う物だ。洗濯物に例えると同じ大きさのクローゼットに収納する時でも、乱雑に入れるより、丁寧に畳んで入れた方が多く入るように、魔力も圧縮する事によってただ成長して魔力が増える場合より、より多くの魔力を増やす事が出来る。
だが、一般的に知られている方法でここまで魔力が増えたなんて事例を少なくとも私は聞いた事がない。そう思っていると、大翔は驚愕の事実を私達に話してくれた。
大翔「確か…一般的な魔力圧縮の方法って二段階に別れた形式だったでしょ?でも俺はもっと魔力を増やしたかったから自分で四段階の圧縮方法考えてやってたんだよね。」
その回答によって、私達の頭には一斉に"?"が浮かんだ事だろう。少なくとも、私の頭にはそれが浮かんだ。
舞花「はぁ…えぇ……よ、四段階?」
既存のやり方をアレンジして、三段階の圧縮にするのは良く聞くし、実際私も三段階にしてやっている。しかし、魔力圧縮と言うものは、段階を増やすごとに精神的、身体的な負担が増えていく。その為か、四段階の圧縮を行う者の事など聞いたこともなかった。
舞花「……因みに…そのやり方って…」
大翔「別に教えても良いけど、慣れないうちは馬鹿みたいな負担が常にかかり続けるから、あんまりお勧めはしないよ。」
舞花「ですよねーー。」
魔力圧縮と言うものは、ただでさえ体への負担が大きい物なのに、それの四段階など想像もしたくない。
龍騎「本当に…お前は昔からそう言うとこあるよな。」
力子「よ…四段階の圧縮って……」
皆が驚愕の表情を浮かべ、そう口々に言い始めた時
大翔「まぁ俺の話はこれくらいにして、皆、フィーシー様に聞きたいことがあったんじゃないの?」
そう、大翔が私達に呼び掛ける。
優美·舞花·龍騎·力子「………」
大翔「ん?どうした?」
優美「なんで……話した事ないのに、そんなこと分かるの?」
大翔にはあの事は話していないはずだ。私達の間に緊張が走る。
大翔「いや、二人がフィーシー様を呼んだ時に、なんか試合に優勝したら教えるみたいな事聞いたから、なにか聞きたいことがあるのかな~って。」
優美·舞花「あ~。あの時か~。」
私と舞花はイクセスリィを守った時の事をフィーシーに聞こうと呼んだ時の事を思い出す。視界の端では、フィーシーもあの時か~。っと言った表情を浮かべていた。
大翔「フィーシー様。私はこの話を聞かない方がよろしいでしょうか?もしそうなら、私は一旦部屋から退出いたしましょう。」
フィーシー「あなたはどこまでこの話を知っていますか?」
フィーシーの質問に、大翔は答える。
大翔「イクセスリィで優美達が戦った時に現れた人物についてのくだりからです。」
フィーシー「…つまり全部ですか……」
フィーシーはしまったと言う表情を浮かべる。この話をするために病室にいた人々を治し、私達だけの状況を作り出したと言うのに、こんな罠があったとは、私も思っていなかった。
フィーシー「良いでしょう。今回の戦いから判断して、あなたにもこの話を聞く権利はありますから。この先様々な困難に巻き込まれることもあるかも知れませんしね。」
そう言ってフィーシーは一呼吸置くと、私達イクセスリィに現れた人物の正体を話し始めた。
フィーシー「あなた達がイクセスリィを救ってくれたあの時、あなた達の前に現れた存在については、実を言うと私達神もあまりよく知りません。なので私達は彼の事を『裁定者』と呼んでいます。」
優美「裁定者……」
その言葉を聞いて、私達は顔を見合わせる。
フィーシー「ええ。唯一裁定者について分かっている事と言えば、私達神よりも、さらに上の存在。この世界の最高神と言う事だけです。」
龍騎「な……」
龍騎が驚きの声を上げる。無理もない。事実。私も同じように声を上げてしまいそうになっていた。
この世界では、一番上の立場にいる存在として、神が存在する。その上に更に最高神がいる事など、誰が予想出来ただろうか。
舞花「……何故あなた達神は、その最高神の存在を、今まで秘匿していたのですか?」
かなり踏み込んだ質問をしたつもりだった。しかし、フィーシーはこれから話そうと思っていたから丁度良いと言うような表情で、私達にその理由を話し始める。
フィーシー「それは裁定者の事を知った者は、いつの間にか、裁定者に関する全て記憶が全て跡形も無く消えてしまっているからですね。」
予想していなかった回答に、私達は皆再度驚愕の表情を浮かべる。
龍騎「それじゃあ……なんで俺達は…」
そう、龍騎が私達の疑問を代弁すると、フィーシーはそれに答え始める。
フィーシー「それは分かりません。裁定者になにか思惑があるのか、単に辺りに散らばる石に向ける関心と同じようなもので、放置しているだけなのか……謎に満ちた存在故に、私には何も分からないのです。そもそも、この記憶が消えると言う現象事態が、裁定者の行っている事なのか、別のなにかによるものかさえも……」
私達の間に沈黙が満ちる。人と言うものは未知を恐れると誰かが言った。私自身は、その言葉についていつだったか疑問を抱いた事がある。未知が怖いのなら、未知を知れば良い。何も知らないから、未知を恐れなければいけない。そう言った考えを持っていたから。
だが、今の私達を支配しようとしているのは、言葉に出来ない形をした恐怖だった。あまりにも強大で、あまりにも未知な存在。そんな存在に対しては、今まで自身が持っていた価値観さえも、覆される。私達の身にこれから何が起こるのか、その先を見据えながら。
大翔「…大丈夫。何があったとしても、俺が皆の事を守るから。」
この満ちていた沈黙を突き破ったのは、それまで何も口にせず話を聞いていた大翔だった。私はバッと大翔の方を見る。
大翔「この魔纏は、その為に編み出した。俺の魔法だから。」
大翔はそう言葉を口にしながら、私達に微笑みかける。私達は……いや、少なくとも私は、大翔のその言葉に安心感を覚え、空気の抜けて行く風船のように、体に入った力が抜けて行く。
フィーシー「………」
フィーシーは何も言わず、静かに私達を見ながら微笑を浮かべている。しばらく私達を見つめた後に、再度話し始める。
フィーシー「本当に…とてもよき友人達ですね…私の知ることは、これが以上です。しかし、他の神ならばもしかしたら私の知らぬ情報を持っているかも知れません。」
フィーシーは言葉を続ける。
フィーシー「私からあなた達が次に行くことになるだろう国。『アートスト』の神へと紹介状を書きましょう。それを見せれば、彼女もあなた達を友人として温かく迎え入れてくれることでしょうから。龍騎さん達の旅費も私達が出しましょう。」
龍騎「え…いや……悪いですよ。そんな…」
フィーシー「いえいえ、あなた達には相当な恩がありますし、今回に関しては裁定者も関わっていますから、私の手が届く範囲ならば、どんなことでもやりましょう。」
龍騎「……ありがとうございます!」
力子「ありがとうございます!」
フィーシーの厚意に龍騎と力子は深々と頭を下げて礼を言う。
フィーシー「頭を上げて下さい。この先、あなた達に降りかかる物が苦難なのか、そうでない物か、それは私にも分かりません。しかし、皆さんの歩む道に幸が降りますよう。願っています。」
フィーシーのそんな言葉に、私達はしっかりと耳を傾けて聞く。
フィーシー「さあ、そろそろ表彰が始まってしまいますよ。3人とも、急ぎなさい。」
龍騎「よし!行ってこい!3人とも本当におめでとう!」
力子「おめでとう!皆凄かったよ!」
もうそんな時間なのか、私はベッドから飛び降りて、優美と大翔の2人と共に、備え付けられていたワープ装置に飛び乗る。視界が皆を写している間ずっと、私は手を振り返し続けた。
この先、どんな事が起こるのかは何も分からない。だけど、私達は1人じゃない。いつも、信頼出来る仲間が側にいてくれる。これなら何が起こったとしても、きっと皆で乗り越えて行けるだろう。周りからのカメラのフラッシュが眩しい高い表彰台の上でそんな事を考える。この先どんな未来が待っているのか、少し怖さもあったけど、私達はそんな未知に、皆で足を踏み出した。
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