大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

文字の大きさ
21 / 357
大怪獣現わる

盗賊達の蛮行

しおりを挟む
 ヨーグンを出て数時間しただろうか。
 石カブトの本部がある都市ゲン・ドラゴンまで三日は掛かるはずだったが、もう道中の半分までに達しているのだ。
 三日掛かるとは人間の移動速度の話であって、怪獣と化した俺にとっては大した道のりではないよいだ。
 だが早いことに越したことはない。

「なんか、今日中に到着しちゃいそうだね。慌てることもないから、速度おさえてもいいよ。疲れてない?」
 
 頭の上で座ってるナルミが、そう言ってきた。

「いや、大丈夫だ。ちっとも、疲れちゃあいねぇ」
「体が大きい分、やっぱり体力もあるんだね。他の竜だったら、今頃疲労困憊で倒れてるよ」

 おそらく怪獣の肉体には膨大なエネルギーが蓄えられているんだろう。ゆえに体力も相当なもののはずだ。
 ちなみに話によると俺の体は大型竜の十倍以上だそうだ。
 まあ、たぶん現地の人達が俺を見たら間違いなくビビるな。

「そういえば竜ってのは、どんな生き物なんだ?」

 この世界に来てから、さんざん俺自身は竜と呼ばれているので気になる。
 竜なんてものは創作物でしか知らない。 

「本当にムラトは、なんにも知らないんだねぇ」
「俺のことは未知の秘境から来た世間知らずの竜。それぐらいのレベルだと思ってくれ」

 ナルミは呆れ気味だが、俺は別の世界から来たから無知だ、とは言えない。
 どうしても説明が必要なのだ。

「わかったよ。竜はね、今の段階で四種類発見されているんだよ。ムラトは五種目になるね。まず、翼を持たず小型だけど陸上移動に秀でる陸竜りくりゅう。翼を持ち天空を自在に飛び回り、炎を吐く飛竜ひりゅう。人並みの理性と知能を持ち、人語を話せる希竜きりゅう。最後に最悪な奴だけど……」
「……すまんナルミ! 話の途中だが誰かお困りのようだ」

 丁寧な説明中に失礼だが、頭部に備わる触角で悲鳴のような声を感じた。
 ……そう遠くはないな。
 時間もあるし、少しくらいより道しても問題ないだろう。

「現場に向かうぞ」
「あ! ちょっと待って、ムラト」

 悲鳴を感じた方へと脚を急がせようとしたとき、いきなりナルミに制止させられる。

「ここは、あたしに任せて。ムラトは、ここで待っててよ」
「……一人で大丈夫なのか?」
「あたしだって人助けしなきゃ。ムラトばっかり活躍してちゃ、あたしの影が薄くなっちゃう」

 トロールに襲撃されたとき、あまり活躍できなかったことを気にしているのだろうか?
 だがトロールの出現に、いち早く気づいたり、俺に救援を要請するなど十分に動いていたと思うが。

「だから、ちょっと行ってくるね!」

 ナルミは薄い胸を張ってフンッと鼻息をならすと、俺の頭から降りて駆け出して行ってしまった。

× × ×

 それは小さな村だった。
 しかし、そこにのどかな様子はない。
 いくつもの家から炎があがり、阿鼻叫喚が響き渡る。 

「うあぁぁぁ!」
「早く逃げてぇ!」
「やめてー!」

 絶叫をあげる村の人達が武装した集団に襲われていた。
 その輩達は誰が見ても悪党にしか見えない。
 それは盗賊と呼ばれる凶悪な集団である。

「金目の物と食料、それから女は全部持ってくぞ!」
「他は全部壊して、殺せ!」

 盗賊達により村は地獄と化している、あまりにもむごい光景。
 逃げ惑う幼い男の子は背後からクロスボウで頭部を射抜かれ、串刺しにされ血をゴボゴボと吐き出すパンダ毛玉人の少女は燃え盛る建物に投げ入れられ、老人は井戸に突き落とされる。 
 たとえ相手が何の抵抗もできない女や子供や年寄りでも容赦なく殺し、ゲラゲラ笑う。
 残虐にして傍若無人な存在。それが盗賊である。
 そして、またもや残酷なことが起きた。

「うるせえ赤子がきだ、よこせ! 黙らせてやるよぉ!」
「いやっ! やめてぇぇぇ!」
「死ねぇ!」

 一人の盗賊が、逃げ回る若い女性から赤ん坊を奪い取った。
 そして泣きわめく赤子を力任せに地面に叩きつけて頭を踏みつけたのだ。
 赤ん坊の頭部は潰れ、血肉が散乱し、赤い水溜まりをつくる。

「あっ!……うあ゛ぁ゛ぁ゛!」

 目の前で我が子の脳漿が吹き出た瞬間を見た女性は慟哭し、その場に崩れるように両膝をついた。

「うるせえ女だぜ、赤子がきが潰れたぐらいでよぉ。ほらっ来い! お前の股座またぐらで遊んでやるぜ。旦那以外の子種たねも絞り出してもらおうか」

 赤ん坊を踏み殺した男は泣き叫ぶ母親の髪を乱暴に掴み、下卑な言葉を発する。
 そして連れ去ろうとした。

「あぁ! いやぁぁぁ!!」

 引きずられながらも、狂ったように慟哭する母親。
 しかし誰も彼女を助けてくれるものはいない、……かに思われた。
 
「がはっ! ごはっ!」

 それは、いきなりのこと。
 ひゅっ、と高速で飛んできた鋭い物が、女性を連れ去ろうとした男の喉に突き刺さった。
 男の息の根を止めたのは、鋭く輝くクナイであった。


 村の入口に踏み入ったナルミは、怒りに任せてクナイを投擲していた。
 彼女の投げたクナイは、女性を乱暴に引きずる盗賊の喉に正確に突き刺さる。
 ナルミの視界に入るのは、理不尽に命を奪われた人々。
 許せるわけがない。
 そして仲間を殺されたことに気づいた男が怒号をあげた。

「なんだ? 小娘が! 邪魔するんじゃねぇよ!」
「お前達、許さないよ!」
「小娘がっ! 裸に引ん剥いて、陰核まめを噛み千切ってやるぜ!」

 盗賊達は品のないことを言いながらナルミに一斉に襲いかかった。
 あせることなく、その小さな体を身構えたナルミは前方から迫ってきた男を蹴り飛ばす。
 すぐさま懐からクナイを取りだし、背後から襲ってきた男の一撃を避けて、すれ違いざまに首筋を切りつけた。
 華麗な蹴りと正確なクナイの扱いで、襲い来る盗賊達を次々と薙ぎ倒していく。 
 華奢な女の子にしか見えないが、しのびなだけに凄まじい身のこなし。

「あぐっ!」

 しかし奮闘の最中、いきなり後ろから突き飛ばされナルミは転倒した。
 彼女を突き飛ばしたそれは、全身黒色の鱗に覆われた獣脚類のような生き物。陸竜であった。
 その全長は五メートル程になり、乗用や運搬用に利用されている竜である。
 だが飼育のしかたによっては、戦闘にも力を発揮できるのだ。

「……く、陸竜がいたなんて」

 立ち上がるナルミ。地面に叩きつけられた痛みで表情を歪めた。
  
「やるな小娘。竜の遊び相手に丁度いいなぁ」

 そう言って、痛みをこらえる彼女に近づいてきたのは長身長髪の男。
 男の左頬には抉られたような傷痕があった。
 ナルミは一目で、その男が頭目であることを理解した。明らかに他の奴等と雰囲気が違う。
 ナルミは頭目の男を睨み付けた。

「どうして、こんなひどいことを!?」
「オレ達盗賊は、思い通りにやりたいことをやるだけよ。そのために生きている。他になにかあるとでも?」
「絶対に許さない!」
「手塩に掛けて仕込んだ陸竜どもだ、お前ら遊んでもらえ」

 頭目の男が左頬の痕を指でなぞりながら陸竜に命令をする。竜を躾る時に、顔を抉られたのだろう。
 さらに四体の陸竜が姿を表し、計五体の竜がナルミを包囲するように立ち並んだ。

「ぐうっ!」

 いきなりだった、ナルミは後ろから尻尾で殴り飛ばされた。
 すぐさま前方の陸竜が彼女を頭突きで突き飛ばす。
 そして、また後ろの陸竜が尻尾で殴り飛ばした。
 右に飛ばされ、横にいる陸竜から頭突きをもらう。
 相手を包囲して、四方八方から矢継ぎ早に攻撃しているのだ。

「ぐっ! あっ! がっ!」

 それは途切れることのない攻撃。反撃のタイミングなどありはしない。
 ナルミの体がボロボロになっていく。
 
「うはははは、どうした!」
「ひひひ、可愛い声をあげるじゃねぇか」

 頭目の男が、袋叩きにされるナルミを眺めながら歓喜すると、それに釣られ仲間達も下品な笑い声を上げた。

「がはっ!」

 激しい攻撃を続けざまに受けたナルミはその場に倒れた。
 痛々しい程に傷だらけになっている。
 陸竜達は攻撃を止めると、ナルミから一歩距離をおく。

「はぁ、はぁ……こんな、まだっ……」

 息を荒げながら口を開くナルミ。
 痛みをこらえて顔をあげると、剣を手にした頭目の男が近寄ってくるのが分かった。

とどめはオレがやる」

 ナルミの命を絶とうと刃をギラつかせる男。
 その男が剣を振り上げた時だった。
 突如、村全体を揺るがすような震動が走ったのだ。
 とても立っていられない。

「うわぁ!!」
「な、なんだ?」

 揺れる大地に耐えられず、盗賊達は尻餅をつく。
 そして、轟音とともに村の入り口付近の地面が吹っ飛んだ。
 土煙を纏いながら出現したそれは巨大な生物の顔だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...