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国家動乱
地獄からの帰還
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安全な値まで熱がひいた地面をオボロ隊長が指でなぞった。
隊長が触れているのは、一度融解して冷え固まった部分だ。とんでもない程に高熱であったことが理解できる。
「とんでもない熱量だな、こりゃあ」
「隊長、気をつけてください」
まだ完全に冷えきっていない場所があるので、一応隊長に注意を促した。触角の機能で熱を察知することもできるため、どこが安全か危険か知ることができる。
「ムラト、通常のブレスならともかくとしてだ、全力のブレスはオレの許可無しに使うな。これは危険すぎる」
「分かっています。異論はありません」
この力が強力すぎるためだろう。下手に使えば味方や無関係の人達も巻き込みかねない強力な火炎。
制限がつけられるのも、仕方ないことだ。
それだけ危険なのだ。
実際、怪獣はこの火炎を都市部などの密集した場で使い、多くの人命を焼き付くした。前の世界でのことだ。
そして、戦いを終えて思った。
……俺は、いったい何をしているのだ。
戦うことでしか、自分自身を表現できないことは理解してる。
異世界に来てからも殺す相手は選んでいたつもりだ。
だが敵とは言え女や子供を手に掛けた。俺は怪獣と大して変わりないのかもしれない。
……俺の心の在り方は怪獣と同じなのだろうか。
「俺達は、どうなるんでしょうか? なんの関係も無い俺達が、二国の軍勢を虐殺したとなれば、国際的な問題になるのでは?」
「虐殺か……お前の言うとおりかもなムラト。オレ達は、まともに傷ついてねぇからな、明らかに一方的だった。だが、それは後だ。まず、どうしてこうなったのか吐かせる。行くぜ」
俺の話を聞いて隊長がのそりと立ち上がる。
そして怒りで体がフルフルと震えているのが理解できる。
どこへ行くかなど、聞くまでもない。
俺達をはめやがった、依頼者のところだ。
「ギルドマスターの野郎に依頼完了報告に行くぞ」
隊長は重い声をもらし、近間の岩を殴り砕いた。粉々になった破片が一帯に散らばる。
目が血走り、相当に憤慨している。
「そうですね。私達にこのようなことをさせたのですから……」
穏やかに言うが、ニオン隊長もかなり怒りに心頭しているようだ。
表情こそ優しそうだが、その目には怒りが宿ってる。
「地獄から帰ってきた俺達の、顔を拝せに行きますか……」
無論、二人だけでなく俺も怒りがおさまらない。
今回のこと、明らかに仕組まれている。
ちょっとした村での依頼だと言っていたのに、送り込まれたのは戦場のど真中。手違いなどと言う、レベルではない。
それに、わざわざ転移玉などと言う便利な道具まで渡してきたのだから、明らかに俺達をここに誘導しようとしていた。
俺達をどうするつもりでいたのか?
はめて殺すつもりだったのか?
いずれにせよ、これは高くつく。
そのせいで、こんな殺戮に手を染めねばならなかったのだから。
俺達は急いで、ゲン・ドラゴンに戻ることにした。
実際のところサンダウロは国外ではあるが、それほで遠くまで転移はされてはいないのだ。
サンダウロはサハク王国から北方にある隣接した地帯。
サンダウロの南にはサハク王国。北西にギルゲス国。北東にバイナル王国。と言う位置具合だ。
サンダウロは、ほぼ三角形に近い形状をした地域なのだ。
それにエリンダ様の統治している地域は国の最北端、つまりサンダウロに直接していることを意味している。言いかえれば俺達の領地は辺境であることだ。
つまり徒歩で十分帰還できる距離なのだ。
二人を頭に乗っけて、南に向かって足を急がせた。
元々保護区域のため人はいない場所だ。静かに移動する必要はない。
おおいに大地を揺るがし、八万トン以上の肉体で駆ける。
一見のろまに見えるかもしれないが俺の脚は結構速い。巨体がゆえに遅く見えてるだけである。
周囲は、まだ暗いため魔物共が活発だ。
しかし連中は俺を一目するなり逃げ去っていく。
逃げ遅れた奴は虫のように踏み潰すか、蹴り飛ばした。
魔物達がホコリのように舞う。
「おいおい。こりゃあ魔物討伐の依頼、なくなるんじゃねぇか?」
オボロ隊長が漠然と、潰れたり逃げ惑う足下の魔物達を見て呟く。
本来ファンタジー的な世界では、魔物なんかは人型種族の天敵で驚異のはずだろうに。
しかし、その魔物達が大型肉食獣から逃げる小動物のようになっている。
魔物討伐も生業とする二人から見れば、あまりにも異質すぎる光景なのだろう。
つまり、それだけ俺がこの世界にとって異常すぎると言えるのだが……。
サンダウロから足を動かすこと約一時間、うっすら明るくなってきたころにゲン・ドラゴンに帰還した。
人間の足なら二日かかってもおかしくない距離だった。
足が魔物の体液でドロドロに汚れていやがる。
隊長達を表門近くに降ろし、一息入れる。
その時、俺達が帰ってきたことに気づいたのか、アサムが眠そうに目を擦りながら本部の建物から出てきた。
「お疲れ様でした。今、お茶でも……ひぃっ!」
アサムが優しく対応してくれるが、俺達を見た瞬間に尻餅をついた。
それだけ今の俺達が恐ろしい姿をしているのだろう。
オボロ隊長とニオン副長は全身血みどろで異臭を放っている。
俺の体には所々に、人間の肉片がへばりついている。
そして、隊長は地獄を巡ってきたような表情をしていた。
戦慄するアサムに隊長が近づく。
「アサム、都市の人達が目を覚ましたら、転送屋の姉ちゃんをつれてきてくれ。ギルドマスターのところに殴り込む」
「……は、はい。わかりました」
アサムは少し絶句したが、気を取り直し本部に戻っていった。理由は聞かないようだ。
悪臭が酷いため、ひとまず体を洗いたいものだな。
「ムラト、湯を沸かしといてくれ。さすがにこのままでは、出かけられない」
俺は隊長の頼みに頷き、湖に向かった。
頼まれたとおり湯を沸かしてから、湖で体を洗い始める。
人間、毛玉人、魔物、それらの肉片がへばりついて悪臭を放っている。
この湖は都市の生活用水になっているが、都市内に浄水施設があるので問題はない。
なんでも浄水技術を用いているのは今のところ、この地域だけらしい。
色々考えていると、全裸の熊が接近しているのを感知して、手に乗せてお湯の中に入れる。もちろん、湯にはナルミ自作の薬剤が入れてある。
疲労回復に加えリラックス効果があるらしい。
湯から良き香りが立ち込めている。死臭でおかしくなった感覚を癒してくれる。
オボロ隊長の表情が穏やかなものに戻っていた。
しかし怒りが、なくなったわけではない。またキッと鋭い形相になる。
「準備ができしだい、マスターがいるギルド本部に殴り込む。また血が流れるかもしれんな。……すまんな、初回からとんでもない仕事ばかりやらせて」
「いえ、もともと薄汚れた身です。いまさら……」
「……お前も、修羅場を知っているんだな。まあ、なにも聞くまい」
隊長は俺のことを詳しく知りたいような顔をしたが、慎んだようだ。
俺の過去など人に話して、笑えるような内容ではない。
それに石カブトに加わると決めたときから、血で汚れる覚悟はできていた。
……いや、もっと以前から覚悟はあった。
そもそも傷つけず、傷つかずにして仲間や領民を守れるはずがないのだ。
日が登る。
市民が活発になる時間になりアサムが転送屋の女性を湖までつれてきた。
女性は俺を見上げて、ちょっと怖がっている。
まあ、俺が来てまだ二日程度だ。まだ都市の人達が慣れるはずないか……。
転送屋とは、魔術で人や物資を目的地まで瞬時に送り届ける職業だ。
ただし依頼すると結構銭がかかるし、目的地までの測定や計算のため時間もかかるらしい。
しかし今から向かうところは、王都に近い場所らしく測定にあまり時間はかからなかった。
クソ依頼の被害にあった隊長と副長、そして俺、さらに戦闘の可能性もあるため治療魔術に優れるアサムも加えてギルド本部に乗り込む。
三人を乗っけて、転送が始まった。
足元に巨大な魔法陣が出現し、俺達は光に包まれた。
隊長が触れているのは、一度融解して冷え固まった部分だ。とんでもない程に高熱であったことが理解できる。
「とんでもない熱量だな、こりゃあ」
「隊長、気をつけてください」
まだ完全に冷えきっていない場所があるので、一応隊長に注意を促した。触角の機能で熱を察知することもできるため、どこが安全か危険か知ることができる。
「ムラト、通常のブレスならともかくとしてだ、全力のブレスはオレの許可無しに使うな。これは危険すぎる」
「分かっています。異論はありません」
この力が強力すぎるためだろう。下手に使えば味方や無関係の人達も巻き込みかねない強力な火炎。
制限がつけられるのも、仕方ないことだ。
それだけ危険なのだ。
実際、怪獣はこの火炎を都市部などの密集した場で使い、多くの人命を焼き付くした。前の世界でのことだ。
そして、戦いを終えて思った。
……俺は、いったい何をしているのだ。
戦うことでしか、自分自身を表現できないことは理解してる。
異世界に来てからも殺す相手は選んでいたつもりだ。
だが敵とは言え女や子供を手に掛けた。俺は怪獣と大して変わりないのかもしれない。
……俺の心の在り方は怪獣と同じなのだろうか。
「俺達は、どうなるんでしょうか? なんの関係も無い俺達が、二国の軍勢を虐殺したとなれば、国際的な問題になるのでは?」
「虐殺か……お前の言うとおりかもなムラト。オレ達は、まともに傷ついてねぇからな、明らかに一方的だった。だが、それは後だ。まず、どうしてこうなったのか吐かせる。行くぜ」
俺の話を聞いて隊長がのそりと立ち上がる。
そして怒りで体がフルフルと震えているのが理解できる。
どこへ行くかなど、聞くまでもない。
俺達をはめやがった、依頼者のところだ。
「ギルドマスターの野郎に依頼完了報告に行くぞ」
隊長は重い声をもらし、近間の岩を殴り砕いた。粉々になった破片が一帯に散らばる。
目が血走り、相当に憤慨している。
「そうですね。私達にこのようなことをさせたのですから……」
穏やかに言うが、ニオン隊長もかなり怒りに心頭しているようだ。
表情こそ優しそうだが、その目には怒りが宿ってる。
「地獄から帰ってきた俺達の、顔を拝せに行きますか……」
無論、二人だけでなく俺も怒りがおさまらない。
今回のこと、明らかに仕組まれている。
ちょっとした村での依頼だと言っていたのに、送り込まれたのは戦場のど真中。手違いなどと言う、レベルではない。
それに、わざわざ転移玉などと言う便利な道具まで渡してきたのだから、明らかに俺達をここに誘導しようとしていた。
俺達をどうするつもりでいたのか?
はめて殺すつもりだったのか?
いずれにせよ、これは高くつく。
そのせいで、こんな殺戮に手を染めねばならなかったのだから。
俺達は急いで、ゲン・ドラゴンに戻ることにした。
実際のところサンダウロは国外ではあるが、それほで遠くまで転移はされてはいないのだ。
サンダウロはサハク王国から北方にある隣接した地帯。
サンダウロの南にはサハク王国。北西にギルゲス国。北東にバイナル王国。と言う位置具合だ。
サンダウロは、ほぼ三角形に近い形状をした地域なのだ。
それにエリンダ様の統治している地域は国の最北端、つまりサンダウロに直接していることを意味している。言いかえれば俺達の領地は辺境であることだ。
つまり徒歩で十分帰還できる距離なのだ。
二人を頭に乗っけて、南に向かって足を急がせた。
元々保護区域のため人はいない場所だ。静かに移動する必要はない。
おおいに大地を揺るがし、八万トン以上の肉体で駆ける。
一見のろまに見えるかもしれないが俺の脚は結構速い。巨体がゆえに遅く見えてるだけである。
周囲は、まだ暗いため魔物共が活発だ。
しかし連中は俺を一目するなり逃げ去っていく。
逃げ遅れた奴は虫のように踏み潰すか、蹴り飛ばした。
魔物達がホコリのように舞う。
「おいおい。こりゃあ魔物討伐の依頼、なくなるんじゃねぇか?」
オボロ隊長が漠然と、潰れたり逃げ惑う足下の魔物達を見て呟く。
本来ファンタジー的な世界では、魔物なんかは人型種族の天敵で驚異のはずだろうに。
しかし、その魔物達が大型肉食獣から逃げる小動物のようになっている。
魔物討伐も生業とする二人から見れば、あまりにも異質すぎる光景なのだろう。
つまり、それだけ俺がこの世界にとって異常すぎると言えるのだが……。
サンダウロから足を動かすこと約一時間、うっすら明るくなってきたころにゲン・ドラゴンに帰還した。
人間の足なら二日かかってもおかしくない距離だった。
足が魔物の体液でドロドロに汚れていやがる。
隊長達を表門近くに降ろし、一息入れる。
その時、俺達が帰ってきたことに気づいたのか、アサムが眠そうに目を擦りながら本部の建物から出てきた。
「お疲れ様でした。今、お茶でも……ひぃっ!」
アサムが優しく対応してくれるが、俺達を見た瞬間に尻餅をついた。
それだけ今の俺達が恐ろしい姿をしているのだろう。
オボロ隊長とニオン副長は全身血みどろで異臭を放っている。
俺の体には所々に、人間の肉片がへばりついている。
そして、隊長は地獄を巡ってきたような表情をしていた。
戦慄するアサムに隊長が近づく。
「アサム、都市の人達が目を覚ましたら、転送屋の姉ちゃんをつれてきてくれ。ギルドマスターのところに殴り込む」
「……は、はい。わかりました」
アサムは少し絶句したが、気を取り直し本部に戻っていった。理由は聞かないようだ。
悪臭が酷いため、ひとまず体を洗いたいものだな。
「ムラト、湯を沸かしといてくれ。さすがにこのままでは、出かけられない」
俺は隊長の頼みに頷き、湖に向かった。
頼まれたとおり湯を沸かしてから、湖で体を洗い始める。
人間、毛玉人、魔物、それらの肉片がへばりついて悪臭を放っている。
この湖は都市の生活用水になっているが、都市内に浄水施設があるので問題はない。
なんでも浄水技術を用いているのは今のところ、この地域だけらしい。
色々考えていると、全裸の熊が接近しているのを感知して、手に乗せてお湯の中に入れる。もちろん、湯にはナルミ自作の薬剤が入れてある。
疲労回復に加えリラックス効果があるらしい。
湯から良き香りが立ち込めている。死臭でおかしくなった感覚を癒してくれる。
オボロ隊長の表情が穏やかなものに戻っていた。
しかし怒りが、なくなったわけではない。またキッと鋭い形相になる。
「準備ができしだい、マスターがいるギルド本部に殴り込む。また血が流れるかもしれんな。……すまんな、初回からとんでもない仕事ばかりやらせて」
「いえ、もともと薄汚れた身です。いまさら……」
「……お前も、修羅場を知っているんだな。まあ、なにも聞くまい」
隊長は俺のことを詳しく知りたいような顔をしたが、慎んだようだ。
俺の過去など人に話して、笑えるような内容ではない。
それに石カブトに加わると決めたときから、血で汚れる覚悟はできていた。
……いや、もっと以前から覚悟はあった。
そもそも傷つけず、傷つかずにして仲間や領民を守れるはずがないのだ。
日が登る。
市民が活発になる時間になりアサムが転送屋の女性を湖までつれてきた。
女性は俺を見上げて、ちょっと怖がっている。
まあ、俺が来てまだ二日程度だ。まだ都市の人達が慣れるはずないか……。
転送屋とは、魔術で人や物資を目的地まで瞬時に送り届ける職業だ。
ただし依頼すると結構銭がかかるし、目的地までの測定や計算のため時間もかかるらしい。
しかし今から向かうところは、王都に近い場所らしく測定にあまり時間はかからなかった。
クソ依頼の被害にあった隊長と副長、そして俺、さらに戦闘の可能性もあるため治療魔術に優れるアサムも加えてギルド本部に乗り込む。
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