大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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最終魔戦

白鯨との戦い

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 ……さあて、どうしたものか。
 ここには、どでけえ奴が集まりすぎている。
 そう、俺と白鯨と大亀のことだ。
 これほどの質量を持った連中が、こんな密集した場所で考えもなし暴れたんでは足下にいる隊長達や集落に被害が及ぶだろう。
 緑色の狐野郎は別として、新種の大型の魔物達をここから遠ざけなくてはならない。
 そんな中、オボロ隊長が一番最初に動いた。

「いくぜぇ! おらぁ!!」

 雄叫びをあげると、物凄いいきおいで駆け出して大亀に向かって行くではないか。
 しかも、かなりの速度で。
 隊長は、そのスピードのまま体長五〇メートルにもなる大亀の横を通りぬけ、尻尾に掴みかかったのだ。

「ふんぬぅ! こっから離れてもらうぞ、亀野郎! おりゃあぁぁ!!」

 隊長の行動に石カブト以外の人達が青ざめた。むろん敵である魔族のナツミもだ。
 体重千トン近いであろう大亀の巨体が浮き上がったのだ。
 そして隊長は、そのまま大亀をハンマー投げのように振り回し始めた。
 突風で土煙が舞い上がっている。

「うごわぁぁ! 目が回るぅ! 吐きそう!」

 凄まじい加速度に気分が悪くなってきたのか、旋回する大亀が悲鳴のような声をだした。

「ほらよ!!」
「あ゛あぁぁぁ!!」

 十回転したあたりで、ついにオボロ隊長の手がはなされた。
 絶叫をあげる大亀は二時の方向に吹っ飛んでいき、地面に激突した。強烈な振動に襲われ多くの人達が座り込んだ。

「ムラト! お前も、その鯨野郎を遠ざけろ!」
「はいっ!」

 隊長の指示に従い俺は白鯨に掴みかかろうとした。
 すると、向こうから突っ込んできた。
 きりもみ回転しながら白鯨は俺の胸に突撃してきたのだ。激突により大音響が広がる。
 衝撃が全身に伝うが、思いのほかダメージはなかった。
 見た目の大きさのわりに、鯨の体は軽いようだ。

「てめぇも、ここから離れろ!」

 白鯨の頭部を掴んで、ぶん回した。そして十時の方角へと放り投げた。
 大亀とは違い白鯨は空中に浮遊しているため、大地にぶつからず宙で体勢を立て直した。
 だが集落からは、だいぶ遠ざけることはできた。

「ムラト殿、ここは私達に任せて君も隊長殿と同じく大型の敵を頼む」

 そう言ったのはニオン副長。
 オボロ隊長の姿が見えないあたり、あの人はもう大亀のもとに行ってしまったようだ。

「分かりました!」

 副長の指示に従い、白鯨へと脚を進めた。




 俺の頭上で白鯨がゆっくりと旋回している。
 野郎の体長は七十メートル程。
 普通の魔物と比較すれば、とてつもないサイズだが、俺から見ればまだ小さい。
 
「我輩は炎上鯨モエール。我輩はお前が気に食わん。忌々しい奴だ。我輩より大きいものは、存在せぬと思っていた。……しかし、お前は我輩の倍以上ある」

 と白鯨が語りだした。

「ふん、てめぇは見た目のわりには随分軽いじゃねぇか。さっきの攻撃じゃあ、まともに俺にダメージは与えられないぜ」
「ふふふ、お前に飛行能力は無いようだな。飛行できぬ者は不様に地に這いつくばるほうがお似合いだ。我輩には魔力があるゆえ、このように自由に飛べるのよ」

 こいつは普通の魔物とは違い魔力を保有してるようだ。おそらく浮遊の魔術を使っているのだろう。
 白鯨は、飛べない俺をバカにするように悠々と周囲を飛び回る。
 たしかに俺は飛べはしないが、飛んでる奴を撃ち落とすことは得意だ。

「飛べねぇが、てめぇぐらい焼くことはできるぜ」
あちゅい!!」

 低出力の光線で白鯨の腹を炙ってやった。鯨は情けない悲鳴をあげる。

「……おのれぇ! 我輩自慢の美しい純白ボディに傷をつけてくれたな。お前も焼け死ねぇ! カーッ、ペッペッペッ!!」

 ……何が美しい純白ボディだよ。攻撃手段が汚ねぇんだよ。
 白鯨が口腔から粘液を吐き出してきたのだ。……つうか痰。しかも三発。
 しかし、その粘液が外気に触れて少しした瞬間、高熱の炎を纏ったのだ。
 そのうちの一発が俺の頭に着弾した。

「おわぁ!」

 頭の天辺が三〇〇〇度で燃え上がり始める。
 しかも飛び散ったものや、外れた残り二発の痰が周囲を火の海に変えた。爆発的な燃えかたである。
 そして、また白鯨は痰を吐き散らかして周りを大炎上させた。
 この火炎の海で、俺を逃がさないようにしたつもりなのだろう。……しかし。

「我輩が分泌する粘液は流体性焼夷弾かえんえきよ。焼かれて死ぬがよい!」

 白鯨は勝ち誇ったように言うが、この程度の熱では俺の体を焼くのは無理だ。この肉体は熱核攻撃にも耐えられるのだから。

「おい、鯨野郎。こう言っちゃあなんだが、この程度の熱量じゃあ俺は焼けねぇぜ」
「なんだと! お前、その灼熱地獄でも平気なのか?」

 白鯨が驚愕の声をあげる。よほど、この攻撃に自信があったのだろう。
 まあ確かに、普通の生物からしたらこの火炎液は脅威だ。
 しかし怪獣の体を焼くには火力が足らないのだ。
 すると白鯨は手段を変えてきた。

「我輩の攻撃が火炎だけだと思うなよ。こいつを受けてみるがよい!」

 そう言うと白鯨は高度をおとし、俺と正面から向き合う形となった。
 すると、突風がおき始めた。

「なんだ?」

 強い風は俺の後方からやってくる。
 ……なぜ、いきなり風が? 
 触角で大気の流れを読み取る、するとあることに気づいた。
 大気が白鯨に集まっているのだ。つまり、奴は大気を吸い上げているのだ。
 そして大気の吸収を終わらせると、いきなり高速で俺の体にぶつかってきた。

「ぐうっ!」

 全身に衝撃が響いた。
 表皮や筋肉で衝撃をある程度拡散できたが、緩和しきれなかった衝撃が内臓に伝わった。
 おかしい、さっきの突進より破壊力が上がっている。
 と言うことは、炎上鯨の質量が増したとしか言いようがない。
 しかし、どこから質量を供給したのか? いったいどこから。

「はーはっはっ! これが我輩のもう一つの能力だ。周囲の大気を取り込んで体組織を生成して、自重を増幅させたのよ。浮遊魔術の負担を減らすために、肉弾戦以外の時は肉体を軽くしているがな」

 なるほど、質量保存の法則はやぶってないな。
 無から有を作るなど、とてもできるものではないからな。
 取り込んだ大気で生体組織を生成して、肉体の密度を増加させたと言うわけか。
 それを自在にできるのであれば、ある種の質量制御と言えるな。

「ぐおっ!」

 質量が増した鯨の尾で顔を殴られた。
 いくら俺でも、このサイズと質量の生物の攻撃を食らえば体がぐらつく。
 その後も、尾による殴打、突進を食らい続けた。
 この世界に来て、初めてまともにダメージを受けたぜ。
 だが多少痛みを感じるだけで、致命傷には程遠い。
 この程度の攻撃なら十分に耐えられる。

「ほらほらほら! どうした?」

 それでも嘲笑うように連続で白鯨が攻撃を叩き込んでくる。

「そろそろ引導を渡してやろう」

 そう言うと、炎上鯨は急上昇を始めた。みるみる奴の巨体が遠ざかり、小さくなっていく。
 そして高度五〇〇〇までに達したとき、今度は急降下してきたのだ。
 野郎! あのまま、俺にぶつかるつもりだな。
 ……だが勝機。
 俺も激突に備えて、両足を開いてどっしりと構えた。
 空気を切り裂き、炎上鯨が落下してきた。
 そして俺の頭と鯨の鼻面が猛烈な勢いで激突した。
 鈍い大音量と衝撃が拡散し周囲で燃え上がる炎を歪ませる。
 ……頭が痛てぇ。

「ぎゃあぁぁぁ!!」

 しかし悲鳴を鳴り響かせたのは、炎上鯨の方であった。
 鼻面が大きく裂け流血していた。
 肉体の強靭さは怪獣の方が遥かに上だったようだ。
 ……しかし、首と頭が痛かった。

「俺の勝ちだな鯨野郎!」

 そう言って俺は鯨の鼻面をひっぱたいて、無理矢理後ろを向かせた。

「ぎえぇ!」

 俺の張り手が、よほど痛かったのだろう。白鯨は悲鳴をあげた。
 鯨は後ろを向いたため、当然奴の尻尾は俺の目の前に来る。
 そして、さっきまで俺を殴りつけていたその尻尾を確りと握りしめた。

「さんざんやってくれた分は、お返しするぜ!」

 そのまま振りかぶり、白鯨を大地に叩きつけた。ちょうど野郎の質量が増加しているため、威力はかなりのものだろう。地面が凄まじく揺れる。
 そして、また振りかぶり大地に叩きつけた。
 それを四、五回繰り返しただろうか。白鯨の頭部は潰れたようにぐしゃぐしゃになり脳髄を露出させていた。

「自分の火で火葬されな」

 そう言って俺は、白鯨の亡骸を燃え盛る炎の中に投げ入れた。 
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