大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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最終魔戦

手柄の行方

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 不動樫が必要な分そろったため、俺達はドワーフ達の集落への帰路についていた。
 俺は両手に丸太を数本携え広い平野を歩く。
 ナルミは、いつも通り俺の頭の上。その絶景ポジションから周囲を眺めている。
 そして、クサマは丸太を三本程抱えて俺達の上空を飛翔している。本来なら、もっと速度が出せるのだろうが俺の歩行速度に合わせているのだろう。
 材料は充分に集まったし、集落につきしだい俺達も建て直しの作業を始められる。
 ……して、集落に帰ってきてみると、オボロ隊長とニオン副長が何やら会話していた。

「おう、任したぞ」
「はい、この件には私も無関係ではいられませんので」

 二人の表情から考えるに、何か重要そうな件のようだな。日頃は常に優しげなニオン副長の顔が、やや厳しさをおびている。
 そして、一つ気づいた。勇者達がいないことに。
 ……あいつら、どこいったんだろうか? 城にでも帰ったのか?
 まあ負傷者だから、いたとしても作業の手伝いはできないからな。帰っても問題はないが。
 気になったので、会話を終えたニオン副長に聞いてみた。

「副長、勇者の奴等はどうしたのです?」
「ああ、ご苦労だったね、ムラト殿。集めてきた資材は、そこに置いてほしい」

 そう言った副長の指示に従い、俺は言われた位置に丸太を並べた。
 空中で停止していたクサマも降り立ち、俺と同様に持っていた丸太を置いた。
 そして頭の上にいるナルミを右手の上に移動させ、姿勢を低くしてゆっくりとその手を地につける。
 ナルミがピョンと地面に降りたことを確認すると、俺は姿勢をおこした。

「彼等は、転移魔術で城に帰還した」

 そして、ニオン副長はさっきの俺の問いに答えてくれた。

「今宵の宴のためにね」
「宴!」

 宴と言う言葉を聞いてナルミは目を輝かせる。

「きっと、あたし達が主役だよね。何てたって、あたし達石カブトが一番活躍したんだから」

 まあ、ナルミの考えてるとおり今回の戦いに勝利した祝いの宴だろう。 
 俺達だけで魔王軍を打ち負かしたとは言わんが、結構な活躍はできたからな。たしかに主役かもしれん。

「そうとも。でも、勇者達を讃える宴だ」

 副長は呆れた様子で、そう言った。
 勇者を讃える? ちょっとまて、どういことだ。

「副長、それってどう言うこと? だって勇者達は……」
「そうだよ、ナルミ殿。彼等は魔物一体すら葬っていない」
「それじゃあ、なんで?」
「終わらせたくないのだよ、悠久の歴史を。彼等は未来永劫に英雄でいたいのだよ」

 ここでの戦いの功績を全て勇者達のものにして、英雄の示しを守るってわけか。まったく、とんでもない偽りを。

「ただ、女王様から命令で私達の中から代表のものが今夜の宴に行かなければならないそうだ」




 日もくれて作業も一段落したため、俺達は集落から少し離れた場所でメシにありついた。献立はベーンの手製メラス・ゾーモスらしきスープである。
 そして、なんと俺も食べられるようにと、ベーンの奴は俺用のスープも煮込んでくれた。どデカイ鍋で。
 ベーンの奴、日頃はすっとぽげてる様にしか見えないが、やっぱり仲間思いな奴だぜ。
 ……だが、このデカイ鍋どこかで見覚えがあるような。

「……ベーン、これ隊長の風呂じゃねぇのか?」
「……」

 なぜ何も返答しないんだ?
 なんか、すごい不安になるんだが。
 ……男は度胸だ! ってやる!
 うまく力加減し鍋を掴む、そして一気に飲み干した。

「んっ! ……これは、なかなかいけるぞ!」
「フガァ」
「アサムまでとは言わんが、料理の腕はなかなかあるようだな」

 ちなみに石カブト全員が料理の腕前はかなりのものである。
 順番にすると、アサム、ニオン副長、ナルミ、オボロ隊長、ベーンと言ったところだろう。
 ……まあ、俺はサイズ的に手の込んだ料理なんか不可能だがな。大型家畜の解体ぐらいならできるが。
 ところでぇ……。

「ベーン、この鍋しっかり洗ってから使ったんだよな?」
「……」

 だからなぜ鍋のことになると口を閉ざすのだ。
 ……すげぇ不安になるんだが。
 すると旁から喧騒が聞こえてくる。

「一仕事した後のメシと酒は最高だぜ」
「材料や見た目のわりに、このスープはなかなかいけるぜ!」
「おう、精がつくなこりゃ」

 隊長とドワーフ達もメシと酒を楽しんでいる。むろん献立は俺と同じく血のスープ。
 ちなみに他の種族達は、みな自分達の里に帰ることにしたそうだ。
 魔王軍が壊滅寸前なためだろうか、里を占領していた魔王軍が急遽撤退したそうなのだ。
 あとは魔族の巣窟たるみやこと魔王さえ潰せば、全てが終わるだろう。
 再びドワーフ達の声が聞こえてきた。

「それにしても、お前さん良く食うなぁ」
「さっきから、何回おかわりしてんだ?」
「つうか、胃袋の容積を越えてるような気がするんだが?」

 彼らが驚いているのは、オボロ隊長の食欲である。
 隊長は激しい戦いを行うと、過食状態になるらしいのだ。
 とわ言え材料は大量に準備したから問題ないのだが。クサマのおかげで食料などの物資を大量に運んでこれた。

「ベーン、腹がへった! また作ってくれ」

 ……まだ食うのかよ。

「ホンゲェ」

 すると俺に料理を手伝えと言うのか、ベーンは俺が使用した特大鍋の縁に登りジェスチャーをしていた。
 特大鍋にガーボの血液と股肉やら内臓を入れ、大量のニンニクと各種調味料を加えてじっくり煮込む。
 これだけの量を作るので、かなりの火力が必要だが、ここは俺の火炎が役に立つ。
 俺は口からバーナー状の火炎を吹き付け、高火力でスープを煮込む。
 そして超大量のスープが完成した。俺とベーンの手作りだ。
 何気に、このデカイ体で調理ができたぜ。

「じゃん、じゃん、持ってきてくれ!」

 またもや凄まじい勢いで、たいらげていく隊長。
 ……もしかすると、この量を一人で食すのではないかと言いたいほどの激しい食いっぷりだ。
 てか胃袋どころか、体の容積も越えてないか?
 ……そして、なんだか隊長の体が徐々に膨張してるような気がするんだが。
 隊長は、その肉体ゆえに日頃からの摂取量はかなりのものである。
 しかし、それはあくまでも日に数百キロほど。
 だが今は、もうトン単位で摂取しているのだ。
 この食事量は、おかしすぎる。なにか、あきらかにとんでもないことが起きてるような気がするのだが……。
 まあ今はその事は、おいておこう。気になるのは……。

「隊長、このままで良いのですか?」
「何がだ?」
「城の連中は完全に魔王軍を倒したのは勇者一党だと考えています、いえ決めつけています。……しかし奴らを倒したのは、逃げずに戦った、ここの人々と俺達ですよ。手柄を横取りされてます、いいんですかそれで」

 俺達は雇われ屋ゆえに、そんなに手柄などには執着しないが、しかしここの人達はどうだろうか。
 現に俺の言葉を聞いて、食事を終えて酒に集中していたドワーフ達が怒号をあげだし始める。
 だいぶ酔ってるようだ。

「んだらぁ! ざけんな、ちきしょう!!」
「ワシらが命がけで魔王軍を倒したって言うのに!」
「英雄どもはコソコソ隠れ、勇者どもは敗れた」
「……それなのに魔王軍を倒したのは勇者一党だと! 納得できるかぁ!」

 ドワーフ達の怒りは十分に理解できる。
 だが人間至上のこの国で、どれだけ騒いでも主張は聞き入れられないだろう。

「おおかた地位や権力を振りかざして圧力を加え、やっこさん方はでっち上げを行うつもりなのでしょうね。隊長」
「ほう、分かってるじゃねぇか」
「そうでもしないと国の面子が丸潰れですからね。勇者は呆気なく敗れ、魔王軍を葬ったのは住民。ことが表沙汰になれば、住民や他国に示しがつかなくなり、信用も評判もがた落ちですからね……そうならないためにも手柄の横取りとは」
「……ああ、そうだ。現代の英雄達は全てが偽りだ。他の者の偉業をせがみ、事実を隠蔽して今にいたった。……本当のところは英雄達は五年前に滅びたんだ」

 英雄が滅びた?
 なんの話だろうか。

「もはや、偽りの英雄はこれで終わりだ。以前は大目に見てやったが、これほどの堕落ぶりは目に余る」
「……隊長は一度ここに来たことがあるんでしたね」
「ああ、ちょっとした化け物退治にな。撃退は成功したが、仲間がな……」
「直後に魔族から襲撃されたんですね」

 オボロ隊長は、口をモグモグさせながら頷く。

「いずれにせよ英雄どもの化けの皮は剥がれる、それはニオンがやってくれるだろう」

 副長とナルミとアサムは石カブトの代表として、今夜の宴に参加するためクサマに乗ってしばらく前に出発した。
 ここは人間至上の国のため、揉め事がおこらないようにとこの三人で行くことにしたのだろう。……まあアサムは半妖精ハーフフェアリーだがばれやしないだろう。
 隊長の言葉から察するに、おそらくニオン副長は今夜の宴で何かをしでかそうとしているのだろう。
 ……と思っていると、もうすでに鍋の底が見えそうな程に食われていた。

「ムラト、ベーン。……また頼む」

 まだ食うんですか。
 そして俺達は、仕方なくまた料理にとりかかるのであった。




 あっ! そう言えば、副長にあのことを言うの忘れてた。まあ、でも後でで言いか。
 それにしても魔王軍が転移してくる前に感じたあの気配、不気味だったな……。 
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