大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

文字の大きさ
201 / 357
潜みし脅威

おぞましい歴史

しおりを挟む
 大仙たいせん
 それはエルシド大陸から東に存在する、島国にして謎が多い国である。
 その国と交流を結んでいる国はなく、唯一関係を築いているのはサハク王国内に存在する領地ペトロワのみ。
 しかし交流を結んでいる、その地域ですら大仙がどのような国なのか、その本質は分からないでいた。ゆえに大仙を詳しく知る者は皆無。
 唯一、魔術とは無縁で科学技術を扱う国であるとペトロワ領では知られている。
 話だけ聞けば、非常に発展した国に思えるだろう。
 だが、どんな国にも血濡れの歴史はある。それは高度な文明を誇るであろう大仙とて例外ではないようだ。
 約五百年前までは、大仙は戦乱の世であったらしい。
 各地の権力者達が領土拡大のため、あらゆる地域でいくさと大虐殺を勃発させた血腥い世であったそうだ。
 血に飢えた暴君どもの縄張り争いは、混沌の地獄であった。戦、略奪、虐殺、拷問、野蛮な狼藉の数々。
 しかし、そんな戦乱の世は突如として終結をむかえる。
 天のごとき知恵を持った純白の毛玉人が現れ、全ての権力者達をひれ伏させ、国を統一させたのだ。
 それにより乱世は終わり、安泰の時代をむかえた。




「泰平の世以前の大仙は、このエルシド大陸などより血が滲んでいる国なのです」

 そう言った後ニオンは、一息おくように椅子に腰かけた。体重二百キロを越える男が座ったためか、椅子はギシリと軋むような音をならした。

「戦だけでなく、きもき競争、一物いちもつざけ豪傑ごうけつい、五等分の肉嫁、など当時は狂気的な風習や娯楽も盛んに行われていたそうです」

 どれも聞いたこともない言葉だが、おぞましい気配をおびいている。
 それらを聞いて領主エリンダは恐る恐ると口を開いた。

「……ちなみに、その五等分の肉嫁って、どんな仕来たりなの?」
「一人の女性の両腕両脚しし切断きりおとしてして、切り落とした各部位を一人一人の女性と錯覚することで、五人の女性に慕われている妄想に浸ると言う内容だそうです」
「……ひどい……死にかたね」

 あまりに惨い内容にエリンダは息をつまらせた。

「いえ、死にはしません。五体不満足あたまとどうたいがぶじなら、生きていられます。つまり、四肢を失った状態で彼女達は生涯を生きなければならないのです。……こう言ったことで、敵を殺さず生け捕りにする活人剣が発達したそうですが」

 ニオンは淡々と語るが、その話の内容にエリンダとマイルは背筋を凍らせた。
 大仙に、そんな残忍で野蛮な仕来たりがあったとは思っていなかったのだろう。

「一人の君主の誕生により乱世は終わり、新しい世が始まりました。その君主の頭脳により、高度文明を築き上げ泰平の世になったのです。……しかし」

 ニオンはリモコンを操作して、スクリーンに別の画像を写し出した。それは絵などではなく、白黒の写真。
 そこに写るのは、銃器類で武装した毛玉人達が一体の怪物と対峙する姿が写し出されていた。
 怪物の容姿は、どっしりとした二足歩行の竜を思わせ、表皮はイボイボしており、頭には一本の角、図太い腕の先は鞭のようになっており、毛玉人達と比較するとその大きさは十メートル近いであろう。
 こんな姿の魔物など、この世には存在しない。つまり宇宙生物であろう。
 
「科学技術中心の国となったがため星外魔獣が襲来するようになりました」

 そしてニオンは、またリモコンを操作してオボロの体内から摘出された構造体の画像に戻した。

「隊長殿の祖先は大仙出身であることは知っていますね」

 ニオンのその問いに、一同は頷いた。
 オボロは大陸生まれだが、血筋を辿れば大仙にいたることは、皆が知っている。

「推測ではありますが、奴等との戦いや接触などにより隊長殿の祖先が星外魔獣の因子を取り込んでしまったのではないかと思われます」
「つまり、遺伝子の水平伝播みたいなことが?」

 マエラが問いかけた。

「ええ、ウイルスによるものなのか、あるいは星外魔獣の能力によるものか、詳しくは分かりませんが。そして世代を通して遺伝子が受け継がれたことで、宇宙生物由来の遺伝子は姿を変えて人の体でも発現できるように変化したのかもしれません」
「まさに進化の科学ね」

 しかし、ここでマエラはここで疑問にいたった。

「でも、宇宙生物と接触していたのは彼の先祖だけではないはずよ。それなら多くの人達が星外魔獣の遺伝子を取り込んでてもおかしくはないわ、だとしたらオボロくんのような超人がもっと発見されるとは思うけど」
「ただ遺伝子を持っているだけではだめなのでしょう。問題は、その遺伝子が発現するかしないかです。唯一の例が隊長殿だけなのかもしれません」

 そう言い終えると、ニオンは立ち上がった。

「生命は機械以上に未知の可能性があります。あくまでも今回のことは、私の推測にしかすぎませんが」
「ところで、オボロくんの体内にあった構造体だけど、これはどんな機能を持っているのかしら?」

 すると、ここでマイルがスクリーンを指差しながら話の中に入り込んできた。
 二人の会話についていけないので、話の内容を変えようと思ったのだろう。

「この極小構造体は天然のナノロボットとも呼べる代物です」

 ニオンは返答すると構造体が映るスクリーンに目をむける。

「……ナノロボット。つまり、ウイルスレベルの作業装置ってことなのね。この構造体が、オボロくんの超人的肉体の要とは言ってたけど」

 マイルも、ロボットと言うものは知っている。
 しかし、それはあくまでも肉眼で確認できる領域の物。それが極小レベルの物など、見たことも、聞いたこともなかった。

「どんな損傷も短期間で完治させる治癒能力、傷つくたびに肉体が強靭化する超回復、異常な筋力の源泉となるエネルギー生成など、その他にも色々な機能を持っているでしょう。この能力の前では強化魔術など非効率的なものになりはててしまう」

 そう言って、ニオンはプロジェクターの電源を切った。




 説明会を終えて、実験棟の廊下を歩いていたニオンはいきなり脚を止めた。背後から懐かしい気配を感じたのだ。

「……なんと言えばよいのか分かりません。ただ、何も言わずに姿を消したことには、申し訳なく思っています」

 ニオンは、後ろを見ずに言った。

「いや、いいんだ。お前に関する事情は全て知っている。それに剣の腕は、まったく錆び付いていないようだな。いや、むしろ鋭くなっている。もはや、おれでは勝てんし、教えてやることもない」

 背後から言葉が返ってきた。
 しかし、その声はくぐもっている。

「いつから、ここと関係を?」
「一年くらい前からか。ここに勤める科学者が、あるものを修理してな、そん時から度々訪れている」
「なるほど。どうりで、この施設に行きすぎた機材が設置されてるわけですね」
「まあな量子計算機を持ち込んだりもしたからな。ところで、お前面白い設計図を持っているな」
「……これのことですか?」 

 ニオンは懐刀から小さな記憶装置のような物を取り出した。

「この図面は未完成の上に、現状に必要かどうなのかも迷っているのですが」

 すると、ニオンの背後にいる男が一歩踏み出した。

「水陸両用型の建造魔人けんぞうまじんか。実に面白い、魔改造のしがいがある」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...