大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

文字の大きさ
262 / 357
潜みし脅威

強者の遺書

しおりを挟む
 「最強」と言う言葉がある。
 言うまでもなく簡単なことだ、つまり最も強いこと。
 その称号を得たいと思う者は古今東西多く存在しているだろう。
 なぜ、それを求めるのだろうか?
 全能感を味わいたいから。
 どんな外敵からも愛する人を守るため。
 大衆に注目されたい。
 女性にモテたい。
 世のため人のため。
 歴史に名を残したい。
 伝説になりたい。
 英雄や王者になりたい。
 夢やロマン。
 最強を目指す理由は人それぞれなのだ。
 そして『最も強い』と言う異名が欲しく、多くの戦士達は肉体を鍛え、戦闘技術を磨き、魔術を学び、優れた職人に武具の製作を依頼する、そういった努力と根性と金額で成り上がっていく。
 そして、ほとんどの者はいつしか気付くのだ。
 強くはなれたが……最強とまではいかなかった。やはり自分には物語になれるほどの才能や神の寵愛がなかったのだ、と。
 して、才に恵まれ寵愛を受けた者達は最強になれたのか?
 ……たしかに語り継がれる存在にはなれただろう。
 でも、やはり圧倒的強さとは言えず比肩しそう者はいたのだ。
 あの剣士こそは、あの魔導士こそは、あの戦士は、この騎士は……。
 議論はあがるが、やはり決着はつかない。
 絶対的最強はありえないのか。
 だがしかしだ。そんな中で限りなく最強に近いと言うのであれば多くの者達は、とある二人の名をあげるだろう。
 メルガロスの剣聖アルフォンス。
 バイナルの大賢者ムデロ、と。




 「崖近くでの戦い。その男……いなその巨大な少年は千の兵士の突撃を単純明白な野性的剛力で迎え撃った」

 アサムの手作りサンドイッチを片手に、レッサーパンダの少女は囁くように言った。
 語られているのは、大賢者ムデロが残した遺書の一部。
 大賢者はかつて大戦で少年時のオボロと共に戦っていたのだ。
 そして彼の戦いぶりを密かに観測していた。
 ならば大戦の真実は知っていよう。……歴史から抹消され、公にはされなかった、英雄譚ではなく怪奇譚を。
 その全容が遺書には綴られていたのだ。

「前列の兵士達は、世界のことわりから逸脱したような少年の怪力と後ろから殺到する味方によって圧死。後列の兵士が少年の背後に廻りこみ、彼のがら空きの背に武器を突き立てるが要塞のごとき肉体には刃が通らなかった。そして少年はそのまま剛力をもってして敵軍の半分近くをまとめて崖下へと突き落とし、残りの者達も同じく怪力で殲滅された」

 それは、まだオボロが西方世界大戦に参加して間もないころにおきた一つの戦いであった。
 五百近い兵士が子供一人に力負けすると言う内容。
 ……だが、それでも序の口。
 ミアナは言葉を続けた。

「敵軍拠点への攻撃作戦。その少年は山を挟んで遠距離から巨岩を投擲して敵拠点を攻めた。投じられた岩の質量は投石器カタパルトを利用しても射出できる物ではなかったが、しかし少年の投じた岩の速度と飛距離は攻城兵器へいきを上回り、山をも越え狂うことなく敵拠点へと着弾した。その初撃で指揮官は死亡し、さらに山を挟んでの長距離攻撃だったためか、どこから攻撃されているか特定できずに敵軍は総崩れパニックとなり対処も撤退もできず、二撃三撃と連続で投じられた巨岩によって次々と絶命していった」

 少年による巨岩の砲撃が終わって、その敵拠点に突入した別部隊のレジスタンスの話によると、そこは地獄絵図だったそうな。
 建築物のほとんどは倒壊し、地面にはいくつものクレーターが穿たれ、岩に潰された兵士達の肉片やら血やらちぎれた臓物やらが飛散していた。
 敵兵の総数は約三百だったらしいが、辛うじて砲撃の洗礼を免れ生き延びた者は十にも満たなかったらしい。
 そんな生き残り達は糞尿で股を濡らして泣きわめいていた。
 ……そして、大賢者ムデロの運命を決める一大決戦が勃発する。

「戦場で孤立してしまった少年への総攻撃。動員されたのは西方で名だたる魔導士が百余名。強力な魔術による絶え間なき砲火、それがたった一人の少年に浴びせられた。……本当なら、このことは語りたくない。だがしかし、真実を知っているのだから記録に残しておかなければならない。……私が死を選ばなければならなかった戦いを」

 さすがは賢明なミアナだろう。
 ムデロの遺書を一字一句記憶していたのだから。
 ……だが語られる内容は常軌を逸脱した戦慄そのもの。

「強力な魔術に加え、戦略魔術も三度利用された。……都市規模も壊滅させる程の魔術が三度もだ。……しかしだ、それでも少年に傷付け流血させるのがやっとだったのだ。致命傷など負っていなかったのだ。もはや腕力だけでなく、その耐久力もことわりから外れている。そして攻撃を受けに受け続けた少年の反撃が始まった」

 強力な魔術の乱射と戦略魔術の使用により優秀な魔導士達は疲弊し、動きが鈍くなっていた。
 オボロの攻撃を避けるのは無理な程に消耗している、ならやることは撤退するが利口だ。
 考えられたのは転移魔術で戦場ここからの脱出。
 魔導士達は一ヶ所に集まり協力して強固な魔術防壁を形成した。
 転移魔術が発動するまで身を守るために。
 ああ……だがしかしだ、あろうことか少年はその魔術の壁を鉄拳の連撃で粉砕してしまったのだ。
 防壁を形成したことにより、もはや余力がない魔導士達の運命は決まった。
 魔力消費による疲弊と追い詰められた恐怖。
 逃げることも反撃もできない。
 あるのは現実、奇跡など起こるはずもない。
 魔導士達は一人一人と荒々しい怪力と言う攻撃で息の根が止められていく。

「響き渡るは阿鼻叫喚だったでしょうね。敵である魔導士達は百人以上いるのだから全てを片付けるのに時間がかかる……最初に殺された魔導士が一番の幸せ者だったのかもしれない、だって一人ずつ順番にオボロに殺されたらしいから」

 ミアナが言う……一人ずつ殺されるということ。
 つまりそれは後々殺される者達は、先に殺される仲間達の絶叫と悲鳴を聞き、死に様を目に焼き付けねばならないのだ、自分の番が来るまで。
 そして少年の素手と言う凶器がふるわれた。
 頭部を握り潰され、脳髄と目玉が飛び散る。
 力任せに体を半分にちぎられ血飛沫とささくれた肉片がまう。
 そして、一番酷かったのは若い女が殺された時だった。彼女は胴体を踏み潰された。
 うら若き乙女の細い胴体からだに巨大な足がおかれメリメリと重さが加えられる「ぐぅえぇ……げっげっげ!」と言う蛙を潰したかのような声をあげた後「ぐぼっ!……ぐるるるる」と、嘔吐の音が混じった呻き声が響く。
 やがて、ブリュブリュッと湿った音を伴いながら若い女魔導士の口と肛門から血と一緒にはらわたと肉塊が溢れでた。
 それを見ていた死をまつ魔導士達の一部は失神したらしい。
 ……失神したのは幸運だっただろう。もう惨いものを見ずに死ねるのだから。

「あの少年は危険すぎる。……だが全ては失敗した。彼をこの世から抹殺するためにも、連合軍に情報を漏らして少年が戦場で孤立して魔導士達に襲われるように仕組んでみたが、戦略と智が個人の戦闘能力に捩じ伏せられようとは……」

 ミアナが言うその語りは、大戦の最中に大賢者ムデロは秘密裏にレジスタンスを裏切りオボロを謀殺しようとしていたことを意味していた。
 それほどまでに、ムデロはオボロを危険すぎる存在と見なしていたのだろう。

「……そして終戦を迎え、ムデロは帰国すると今までの魔術の研究資料を全て焼き払って、自宅の地下室で首をくくったの」

 そう言ってミアナはサンドイッチをパクリ、そして一息ついた。
 自分もムデロような賢者になりたかった。でもやはり才がなく挫折した。
 ……それが遺書を読む前の彼女の心境だった。
 だが今はどうだろうか?
 誰しも最強になりたいと思ってしまうものだ。
 だけど神と世界の思惑を越えて誕生してしまった超人から見れば、自分達の最強を目指す行為、誰が一番なのかと言う議論、などただのドングリの背比べでしかないのではないか?
 有能であれ天才であれ伝説であれ英雄であれ、自分達はあくまでも普通の生き物。
 だがオボロは超生物なのだ。
 その壁は才能や努力や根性ではどうしようもない。 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...