弱小国の王太子に転生したから死ぬ気で国を生き残させる

糸井嵜諸常

文字の大きさ
8 / 26
転生、そして絶望

イルザールの乱

しおりを挟む
確かにルーグスが言う事は正しい。わざわざ殺されると分かって殺されに行く奴なんていない。だが、今回はイルザール側と正式に約束して決めた会談である。それを理由無しにほっぽり出す訳にはいかない。そんなことをすればヴァイネスは約束を守らない野郎だ、などといる悪い噂がたつ。王位を争っているなかでそんな些細な噂も大きな悪影響になる。それをルーグスに伝えるとルーグスは歪んだ笑みを浮かべながらこう聞いてきた。

「ちゃんとした理由があればいいんだよね。兄さん?」

「あぁ、そりゃそうだけど...」

「じゃあ、こんなのはどう?」

ルーグスは笑みを浮かべたまま、1枚の紙を出した。ぱっと見便箋である事が分かる?

「一体なんだ?その便箋は?」

「さっき言っただろ?僕も兄さんの暗殺に誘われたって。その時イルザール側から送られた手紙だよ。生憎僕は騙し討ちが嫌いだからね。直ぐに僕の署名を貰って去ろうとしたから慌てて取り替えたんだよ。」

「本当か?」

「本当さ、ちゃんとレシツィア語じゃなくてエルベーシュア語で書かれているよ。」

エルベーシュア語はレシツィア王国で発明された暗号語だ。名は発明された時のレシツィア王国の国王の名から取られている。このエルベーシュア語を読む事が出来る人間は限られているが、流石に王国の王太子や大貴族の当主になると当然の如く読める。便箋に書かれているエルベーシュア語を解読すると確かにルーグスの言っている通りの内容だった。
その瞬間、全てのピースが揃ったのだ。イルザール派を一掃する為の全てのピースが。

「爺、分かっているな?」

「はっ、今すぐに用意出来る兵は五十ばかりですが?

「十分だ。直ぐに用意しろ。」
覚悟を決めなければいけない。これは王族に生まれた運命なのだから。

廊下の角を曲がり応接室の前に着くとそこにイルザールは居た。トレードマークになっている茶髪に整った顔立ち、には一切の邪悪さの欠片も感じられない。後ろには彼の母方の祖父にあたるアルスラール公爵家当主のウラーバル=アルスラールも控えていたいた。
イルザールは俺を見て笑いながら近づいてきた。否、それは俺の後ろに控えていた兵士を見るまでであった。
兵士を見た瞬間、イルザールの顔から笑みは消えた。

「兄さん?なんだいこの兵士は?まさか俺をここで殺そうとしたのかい?」
その目は確かに絶対的な悪を見る目であった。

「へぇ、流石最初から殺そうとしていただけあるね?察しが良い。」

それまで俺の後ろに隠れていたルーグスが笑みを浮かべながらそう皮肉を言った。
俺の後ろにルーグスを認めた瞬間、一瞬であるがイルザールの顔に焦りが浮かんだのをみたいな。だがそれはほんの一瞬で、すぐさまさっきの焦りが幻と思える様な余裕綽々な顔でルーグスにこう応じた。

「何か証拠でもあるのかい?」

勝った。そう思いながらイルザールの目の前にルーグスから貰った便箋を突き出す。
イルザールの目は、本当に目玉が飛び出る程丸くなった。信じられない。その感情がひしひしと伝わる。
それもその筈、回収したはずの絶対的な証拠がそこにあるのだ。

「な、何故...?回収した筈では...」

衝撃の余りか、ウラーバル=アルスラールが口を滑らした。





そこからは一方的だった。イルザール派の兵達も放心したウラーバルやイルザールを守る気を無くしたのか蜘蛛の子を散らすように逃げていった。イルザール派の処分は一週間後には粗方決まった。
イルザールは南の端の山城に幽閉、ウラーバルは死罪の所恩赦をかけて国外追放になった。アルスラール公爵家もウラーバルに近い親族は全員謹慎となり、アルスラール家がついていた全ての役職も剥奪された。当主には遠い血筋の底辺貴族に継がれ、領地も三分の二以上が王国に返還された。
他のイルザール派の貴族には罰を与えなかった。アルスラール家が居たから奴らはイルザールについたのだ。アルスラール家がいなくなれば鳴りも潜める。

「ヴァイネス様。本当にウラーバルの奴死罪にしなくて良かったのですか?」

爺は俺にそう聞いてきた。

「あぁ、ここで余り厳しくすると他のイルザール派の貴族も後がなくってしまう。そうなると死ぬ気でイルザールを王太子にしようとするぞ?」

そう答えると爺は何故か目に涙を浮かべていた。










「ねぇ、ウェルス。漸く本編1500字越したわね。」

「普通だそれが。今まで一話一話が短すぎただけだ。」






作者後書き
これで一章は終了という運びになりました。アルファポリスでは2話を1話にした所があるので違いますが、シリーズ最初の1500字越えとなりました。
次は漸く内政に入っていこうと思っていますので、是非今後もご愛読下さい。
2019年7月末、部屋で転倒し複雑骨折した作者より
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る

こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

RPGのストーリー開始前に殺されるモブに転生した俺、死亡フラグを回避してラスボス助けたら女主人公が現れてなぜか修羅場になった。

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
――死亡フラグのあるモブに転生した。なぜか男主人公の姿で。 王国に孤児院の子供達を殺された少女ミュライトがラスボスのRPG『プリテスタファンタジー』。 物語後半でミュライトと主人公は互いに孤児院出身であることが分かり、彼女を倒した主人公がその死を悲しむ絶望的なエンディングからいわゆる「鬱ゲー」と呼ばれているゲームでもある。 そして、そんなゲームの物語開始前にミュライトと同じ孤児院に住んでいた子供に転生したが…その見た目はなぜか男主人公シュウだった。 原作との違いに疑問を抱くものの、このままストーリー通りに進めば、ミュライトと主人公が戦って悲惨なエンディングを迎えてしまう。 彼女が闇落ちしてラスボスになるのを防ぐため、彼女が姉のように慕っていたエリシルの命を救ったり、王国の陰謀から孤児達を守ろうと鍛えていると、やがて男主人公を選んだ場合は登場しないはずの女主人公マフィが現れる。 マフィとミュライトが仲良くなれば戦わずに済む、そう考えて二人と交流していくが― 「―あれ? 君たち、なんか原作と違くない?」 なぜか鉢合わせた二人は彼を取り合って修羅場に。 こうして、モブキャラであるはずのシュウは主人公やラスボス達、果ては原作死亡キャラも助けながらまだ見ぬハッピーエンドを目指していく。 ※他小説投稿サイトにも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...