悪役令嬢のやり直しニューゲーム! ~断罪ルートは無理ゲーなので、“推し”との共闘ハッピーエンド攻略、開始します~

虹湖🌈

文字の大きさ
24 / 42

第24話 千年の番人と、開かれるべき扉

しおりを挟む
 私たちが禁書庫を出ると、書庫長のヴァレリウス老が、カウンターの向こうから、苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔で、こちらを睨んでいた。
 その視線は、明らかに「厄介事を嗅ぎ回る、招かれざる客」を見るそれだ。

 上等だわ。
 その顔を、驚愕と、そして、最終的には、協力のそれに、変えてみせる。

 私は、レオンハルト様とアイコンタクトを交わし、まっすぐに、彼の城(カウンター)へと向かった。

「――ヴァレリウス書庫長」
 私が、丁寧な、しかし、一切の笑みを含まない声で呼びかけると、老人は、顔も上げずに、ぶっきらぼうに答えた。
「……何かね。用なら、済んだはずだが」

「いいえ、とんでもない。用件は、今、ここから、始まりますのよ」
 私の言葉に、老人が、ようやく、その鷲のような鋭い瞳を上げた。

「……何?」

「あなた様個人に、お伺いしたい儀がございます。場所を、改めていただけますこと? ここで、大声で話すべき内容では、ございませんでしょう?」
 私は、わざと、周囲の閲覧者に聞こえるような声で言った。
 老人の顔が、さっと険しくなる。
 秘密を守る番人にとって、公の場で、その秘密の存在をほのめかされることほど、屈辱的なことはない。

「……書庫長室へ。ついてきなさい」
 老人は、苦々しげに、それだけを告げると、席を立った。
 私の、ささやかな脅迫が、完璧に効いたようだ。

 †

 書庫長の執務室は、黴と、古いインクと、そして、千年分の秘密の匂いがした。
 壁という壁は、天井まで、羊皮紙の巻物や、分厚い古書で、埋め尽くされている。
 小さな部屋の真ん中に置かれた、大きな執務机。それが、この部屋の主の、唯一の領土だった。

「――さて」
 主の席に座ったヴァレリウス老が、組んだ指の上で、顎を休めた。
「単刀直入に、聞かせてもらおう。お嬢様、そして、アークライトの若君。……貴殿らは、いったい、何を知った?」

「全て、ですわ」
 私もまた、単刀直入に、返した。
「初代宮廷魔術師、アリスティア・ヴァレリウスが、初代近衛騎士団長、ライオネル・アークライトに施した、大魔術。『魂の枷(ソウル・テザー)』の全てを」

 老人の瞳が、カッと見開かれた。その動揺は、ほんの一瞬。すぐに、彼は、鉄のようなポーカーフェイスに戻る。
「……何の、おとぎ話かな。そのようなもの、この書庫のどこにも……」

「ええ、この書庫には、ございませんでしょうね」
 私は、彼の言葉を、遮った。
「だって、その研究記録は、あなた様の一族が、千年もの間、“家宝”として、個人的に受け継いでこられたのですから。……違いますこと?」

 シン、と部屋が静まり返る。
 今度は、老人の方が、言葉を失っていた。
 図星。それも、ど真ん中だ。

 やがて、彼は、重々しく、息を吐いた。
「……なぜ、そこまで」

「なぜ、ではございませんわ。必要だから、です」
 私は、立ち上がり、隣に立つ、レオンハルト様を、まっすぐに見つめた。
「見てください、書庫長。あなたの祖先が創り出した、呪いの、現在の姿を。あの夜会で、彼がどうなったか、あなたも、ご存じでしょう?」

「……」

「あの“枷”は、もう、壊れかけているのです! 王家を守るための安全装置が、今や、いつ暴発してもおかしくない、王国最大の爆弾と化している! それでもなお、あなた様は、一族の使命だか何だか知らないけれど、その秘密を、墓まで抱えていくつもりですかしら!?」

 私の、厳しい問いかけ。
 それを受けて、今まで、沈黙を守っていた、レオンハルト様が、静かに、口を開いた。

「――書庫長」
 彼の声は、穏やかだった。だが、その声には、どんな怒声よりも、重い、魂の響きがあった。
「私は、構いません。この身が、どうなろうとも。それが、アークライト家に生まれた、私の宿命なのでしょう。……ですが、この力が、アイナ様を、そして、この国の無辜の民を、傷つけることだけは、耐えられない」

 彼は、深々と、頭を下げた。
「どうか、お願いです。教えてください。私の祖先から続く、この呪いを、終わらせる方法を。……そのために、この命、どう使おうと、構いません」

 騎士の、悲痛なまでの、誠実な願い。
 それは、どんな脅迫よりも、どんな論理よりも、強く、老人の心を、揺さぶった。

 ヴァレリウス老は、長く、長く、目を閉じていた。
 その皺だらけの顔に、千年分の、苦悩と、葛藤が、刻まれているようだった。
 やがて、彼は、ゆっくりと、目を開けた。

「……愚かなことだ」
 彼は、自分自身を、嘲るように、言った。
「我が祖先、アリスティアは、自らが創り出した『魂の枷』を、その生涯、ずっと、悔いていた。……そして、書き遺したのだ。いつか、この枷が、綻びを見せた時のために、一つの、希望を」

 老人は、席を立つと、壁にかけられた、初代国王の肖像画を、取り外した。
 その裏には、隠された、小さな金庫があった。

「祖先は、予言していた。この枷を、破壊できるのは、ただ一人……」

 ギ、という重い音を立てて、金庫の扉が開かれる。
 中から、彼が、取り出したのは、黒い革で装丁された、一冊の、古びた日記帳だった。

「――“この世界の理(ことわり)の外より来たる、魂の持ち主”だけだ、と」

 その言葉と同時に、彼は、その日記帳を、私に、差し出した。

「……え?」

 私は、自分の耳を、疑った。
 世界の、理の外より、来たる、魂。

「お嬢様」
 老人が、初めて、まっすぐに、私の瞳を見た。
 その瞳には、もう、敵意はない。ただ、深い、深い、畏敬の色が、浮かんでいた。

「あなた様は、いったい、何者ですかな?」

 私は、何も、答えられなかった。
 ただ、震える手で、その日記帳を、受け取る。
 ページを、開く。
 そこに、記されていたのは、私の、そして、この世界の、根幹を揺るガす、衝撃の、真実だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける! (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...