追放令嬢(20)、お忍び遊郭で最強スパイに成り上がり、私を陥れたクズ貴族どもに地獄を見せます 〜前世はエリート諜報員なので、情報操作も潜入も

虹湖🌈

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甘い罠と、外交官は嘘をつく

第24話 ドレスに秘めた決意と、それぞれの前夜

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 仮面舞踏会まで、あと二日。王都はどこか浮ついた空気に包まれていたが、私たちの隠れ家だけは、静かな熱気を帯びていた。そこは、国家の命運を左右する、極秘の作戦司令室と化していたのだ。

「花季様、できました! これが、私の魂と錬金術の粋を集めた、最終決戦用ドレス内蔵型兵器…その名も! 『淑女のささやかな自己主張☆超小型魔力衝撃発生装置』です!」

 ミラベルが、キラキラと目を輝かせながら、私の夜空色のドレスを広げて見せた。見た目は、銀糸で精巧な花の刺繍が施された、ただただ美しいドレスだ。しかし、彼女が指差す裾の刺繍にそっと魔力を込めると、指先にピリッと静電気のような微かな衝撃が走った。

「…ミラベル。これで、テロリストが倒せると本気で思っているの?」
「ひゃっ!? す、すみません! でも、至近距離で最大出力にすれば、相手がびっくりして一瞬動きが止まる…はずです!」
「『はず』、なのね…。まあ、無いよりは遥かにマシだわ。ありがとう、素晴らしい出来よ」
 私がそう言うと、ミラベルは「えへへ…」と嬉しそうに頬を掻いた。彼女のこういう健気さが、私の心をいつも温かくする。私たちは姉妹のように顔を見合わせ、作戦の成功を静かに祈った。

 その頃、王都守備隊の詰所の一室では、ヴォルフガング中佐が、彼が選び抜いた信頼できる部下数名に、極秘の作戦を打ち明けていた。地図を広げ、敵の侵入経路、配置、そして我々の目的を冷静に、しかし熱を込めて説明する。

「――以上だ。これは国王陛下の正式な命令ではない。私個人の判断による、規則外の任務だ。危険は計り知れない。だが、私はこの国の未来を守るために、この作戦を決行する。これは命令ではない。諸君個人の意思として、私に力を貸してほしい」

 部下たちは、一瞬、戸惑いの表情を浮かべた。しかし、次の瞬間には、全員が力強い眼差しでヴォルフガングを見つめ、一糸乱れぬ動きで敬礼した。
「我々は、ヴォルフガング中佐の信じる正義に、命を懸けて従います!」
 その光景を、私は後にヴォルフガング本人から聞いた。彼の堅物な表情の裏にある、部下からの篤い信頼。それもまた、私たちの大きな力となるはずだ。

 私の二重生活は、ますます多忙を極めていた。
 昼は、公爵令嬢として、仮面舞踏会の準備に追われるふりをする。母と共にドレスの最終調整をしたり、招待客のリストを眺めては「まあ、あの方もいらっしゃるのね」などと微笑んだり。その実、全ての行動は情報収集の一環だ。会場の構造、警備の死角、招待客の力関係、その全てを頭に叩き込んでいく。
 夜は、情報屋"花季"として、隠れ家でミラベル、そして密かに訪れるヴォルフガント共に作戦を練る。カレルからもたらされた「屋根裏」と「地下水路」という情報を元に、敵の侵入経路を特定し、ミラベル特製の罠をどこに仕掛けるか、最後の詰めの作業を行っていた。

 作戦会議の最中、隠れ家の窓を、コン、と小石が叩く音がした。また彼だ。
 窓の下には、案の定、一輪の黒百合の花が、一枚のメモと共にそっと置かれていた。

『エスターニアの花だ。花言葉は「呪い」、そして「復讐」。王子様の心の中そのものだな。せいぜい、呪われないように気をつけるこった。健闘を祈る。K』

「…本当に、食えない男ね」
 私はメモを読み上げ、ふっと息を吐いた。彼の真意は読めない。でも、その言葉が、レオニード王子の心の闇の深さを、改めて私に突きつけてきた。

 仮面舞踏会の前日、夕暮れ時。
 私は息抜きと称して王宮の庭園を散策していた。薔薇のアーチを抜けた先、噴水のほとりに、一人佇むレオニード王子の姿を見つける。夕日に照らされた彼の横顔は、彫刻のように美しく、そしてひどく孤独に見えた。

「殿下。このような場所で、何を想っていらっしゃるの?」
 私が声をかけると、彼はゆっくりと振り返った。その紫の瞳に、驚きと、そして何か別の複雑な色が浮かぶ。
「…リアナ様か。いや、少し、故郷のことを思い出していただけです」
「黒百合が咲き乱れる、美しい故郷ですこと?」
 私の言葉に、彼の瞳が一瞬、鋭く光った。

「…よくご存知で」
「ええ、少しだけ。殿下、もし、この世界そのものが、癒えない呪いにかけられているとしたら、あなたはどうなさいますか?」
 私は、彼の花言葉に、私自身の言葉で返す。
 彼は、ふ、と自嘲するように笑った。
「簡単なことです、リアナ様。その呪いを、さらに強い呪いで上書きするまでです。…たとえ、我が身がどうなろうとも」

 それは、紛れもない宣戦布告だった。彼の覚悟と、私の覚悟。二人の間に、夕暮れの穏やかな空気とは裏腹の、静かで激しい火花が散る。

「明日の舞踏会、楽しみにしておりますわ、殿下」
「ええ、私もです、リアナ様。きっと、あなたにとっても…そして、この国の誰にとっても、忘れられない、素晴らしい夜になりますよ」

 私たちは、完璧な笑顔でそう言い合った。

 そして、運命の夜が来る。
 私は、ミラベルが最後の仕上げをしてくれた、夜空色のドレスを身に纏う。裾に仕込まれた「自己主張」の刺繍が、静かにその時を待っている。髪には、リナが「お守りです」と言ってくれた、銀細工の美しい簪。…もちろん、その先端にはミラベルが仕込んだ、即効性の痺れ薬が塗られている。

 侍女が差し出す、白銀の仮面を手に取り、私は鏡の中の自分を見つめた。そこに映っているのは、公爵令嬢であり、情報屋"花季"であり、そして、国の運命を背負う一人の戦士だった。

「さあ、始めましょうか」

 私は静かに微笑み、仮面をつけた。

「王子様との、最後のワルツを」

 華やかで、そして危険な戦場へと続く扉へ、私は迷いなくその一歩を踏み出した。
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