追放令嬢(20)、お忍び遊郭で最強スパイに成り上がり、私を陥れたクズ貴族どもに地獄を見せます 〜前世はエリート諜報員なので、情報操作も潜入も

虹湖🌈

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甘い罠と、外交官は嘘をつく

第23話 ちぐはぐな作戦会議と、王子とのワルツ

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「――三日後の、仮面舞踏会ですって!?」

 ミラベルの悲鳴が、埃っぽい隠れ家に響き渡った。捕らえられた狂信の錬金術師、アルブレヒトが吐いた言葉は、私たちに残された時間がほとんどないことを示していた。
 隣では、ヴォルフガング中佐が腕を組み、石像のように固まっている。彼の眉間に刻まれた皺は、普段の三割増しの深さだ。

「落ち着きなさい、二人とも。パニックになるのが一番の敵よ」
 私は冷静に言い放った。…内心では、迫りくるタイムリミットと、やるべきことの多さに、胃がキリキリと痛んでいるのだけれど。

 こうして、元公爵令嬢にして現役スパイ、カタブツ軍人、そして気弱な天才錬金術師という、どう考えても噛み合わない三人による、国家の命運を賭けた緊急作戦会議が始まった。…始まったのだが、早々に暗礁に乗り上げた。

「まず、仮面舞踏会の会場である王宮大ホールに、信頼できる兵を多数配置し、テロリストを一網打尽にすべきだ」
 ヴォルフガング中佐が、軍人らしく正攻法を提案する。

「だ、ダメです! そんなことしたら、王子様が逆上して、魔導炉をドッカーン!てしちゃうかもしれません! それに、外交問題にも…」
 ミラベルが涙目で反論する。

「ではどうする? 我々に許された時間はないのだぞ!」
「そ、それは…えっと、私が開発した『ダンスしながら相手を眠らせる☆催眠ワルツシューズ』を花季様に履いていただいて…」
「却下よ」

 私が即答すると、ミラベルは「そんなぁ…」と肩を落とす。彼女が自信満々に見せてきた設計図には、靴底から甘い香りの催眠ガスが噴出する(ただし、踊っている自分も少し眠くなる)という、あまりにも心許ない機能が描かれていた。

「いい? 敵の狙いは魔導炉。そして、実行犯は王子本人とは限らないわ。まずは、舞踏会の裏で動く実行部隊を特定し、無力化するのが最優先。ヴォルフガング中佐には、会場外の警備と、いざという時の突入部隊の編成をお願いしたいの。もちろん、非公式にね」
「…非公式、か。承知した。規則に縛られて国を滅ぼすわけにはいかん」
 中佐は苦渋の表情で頷いた。彼も腹を括ってくれたようだ。

「ミラベル、あなたには会場内に仕掛けられるであろう、魔導炉への遠隔操作装置の妨害と、いざという時のための秘密兵器の開発をお願いするわ。…ただし、催眠ワルツシューズは禁止よ」
「は、はい! お任せください! もっとこう、シャンパンに混ぜると真実をぺらぺら話しちゃう『おしゃべり☆ドロップ』とか…」
「それも却下」

 会議がそんな調子で遅々として進まない中、私には公爵令嬢としての「お仕事」が舞い込んできた。なんと、レオニード王子直々のご指名で、仮面舞踏会でファーストダンスの相手を務めることになったのだ。断る理由はどこにもない。むしろ、これは好都合。敵の懐に、これ以上なく深く潜り込めるのだから。

 王宮の練習室。レオニード王子と手を取り、優雅なワルツのステップを踏む。彼のリードは完璧で、まるで羽のように軽やかだった。しかし、その腰に回された腕は、鋼のように硬い。

「リアナ様と踊れるとは、光栄の至りです」
 甘い声が、耳元で囁かれる。
「あなたの聡明さと美しさは、この国の宝だ。…しかし、不思議でなりません。あなたほどの女性が、なぜこのような腐敗し、過去の栄光に縋るだけの国に留まっているのです?」
 その言葉は、私を試しているのか、あるいは本心からの誘いなのか。

「ふふ、殿下こそ。その憂いを帯びた瞳の奥に、一体何を隠していらっしゃるの? 私には、あなたがこの国を憎んでいるようにさえ見えますわ」
 私は笑顔で、毒を含んだ刃を返す。一瞬、彼の動きが止まり、腰を支える腕に力がこもった。紫の瞳の奥で、あの冷たい炎が揺らめいたのが見えた。
 火花散る、ダンスの仮面を被った心理戦。この男、やはり一筋縄ではいかない。

 そんな緊張感あふれる昼の顔とは裏腹に、夜は情報屋"花季"としての活動が待っている。隠れ家に戻ると、ドアの下に紙片が挟まっていた。見慣れた、カエルのような走り書き。

『舞踏会には「招待客」以外も紛れ込むらしいぜ。屋根裏と、王宮の地下水路。古くて臭いネズミの通り道さ。気をつけな』

 カレル…! あの男、どこまで知っているの? そして、なぜ私に?
 敵の別動隊の存在を示唆する情報。私はすぐにヴォルフガング中佐にこの情報を共有した。
「地下水路…! なるほど、そこがあったか…」
 中佐は地図を睨み、すぐに信頼できる部下だけを集めた「非公式特別任務部隊」の編成に取り掛かった。「法が国を守れぬのなら、我々が、法を越えて国を守るまでだ」――彼の声には、もう迷いはなかった。

 仮面舞踏会まで、あと二日。
 敵の動きは複雑化し、私たちに残された時間は少ない。
 私は、舞踏会で着るためのドレス――深く、そして美しい夜空色のシルクのドレスを眺めながら、決意を固めた。

「ミラベル。このドレスに、細工をお願いできるかしら? 裾に、あなたの『とっておき』を仕込みたいの」
 私の言葉に、ミラベルは一瞬驚いたが、すぐに全てを察したように、力強く頷いた。
「はい、花季様!」

 望むところよ、レオニード殿下。
 あなたのために、最高の舞台を用意してあげる。そして、その華やかな舞台の上で、あなたの被った完璧な仮面を、この手で一枚残らず剥がし尽くしてしんぜましょう。
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