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約束の国のレクイエム
第27話 夜明けの後始末と、終わらないプレリュード
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全てが終わった貴賓室には、夜明けの冷たい光が静かに差し込んでいた。床に転がる豪華な仮面、破れたドレスの裾、そして、もう動かなくなった遠隔操作装置の残骸。それらが、昨夜の死闘が幻ではなかったことを物語っている。
ヴォルフガング中佐は、部下にレオニード王子の身柄を確保させると、疲労困憊でその場にへたり込む私のもとへ歩み寄った。彼は無言のまま、自分の肩から騎士団のマントを外し、私の肩にそっとかける。土と、微かな鉄の匂いがした。
「…立てるか、"花季"。いや、リアナ嬢。まずは、君の安全な場所へ戻ろう」
その声は、いつものように硬質だったが、どこか不器用な優しさが滲んでいた。私は素直に頷き、彼の差し出す手に自分の手を重ねた。面倒な戦いは、まだ始まったばかりなのだから。
案の定、それから数日間、王宮の水面下は、大人の事情という名の面倒な嵐に見舞われた。
極秘裏に開かれた会議には、国王陛下、ジャルジェ公爵、そしてヴォルフガング中佐が顔を揃える。私は、非公式の参考人として、姿を見せずに別室から魔導通信で参加した。
「エスターニア側にどう説明するべきか…王子がテロの首謀者だったなどと公にすれば、即、戦争だぞ!」
「かと言って、このまま不問に付すわけにもいくまい!」
貴族たちの議論は紛糾する。結局、全ては「レオニード王子が、本国の過激派に唆され、利用された」という、当たり障りのないストーリーに落ち着いた。王子は「心身の療養のため」という名目で、静かに本国へ送還されることになった。
私の功績は、歴史の闇に葬られる。それでいい。それが、この世界のルールだ。私が提出した報告書に書かれた『ネズミさん突撃☆ディフェンスプログラム』や『淑女のささやかな自己主張☆超小型魔力衝撃発生装置』といった発明品の名前に、ジャルジェ公爵が怪訝な顔で眉をひそめていた、と後からヴォルフガングに聞かされたけれど、些細なことだ。
ようやく隠れ家に戻った私を、ミラベルが号泣しながら出迎えてくれた。
「花季様ぁぁ! ご無事で、本当によがっだですぅぅ!」
「ええ、あなたのおかげよ、ミラベル。特に、あの『心霊写真のオジサン』には、心から感謝しているわ」
「えへへ、私のプログラムが、まさかあんな形で役に立つなんて…! 天才的なバグでした!」
私たちは戦いの珍妙な顛末を語り合い、ようやく訪れた平穏に、腹の底から笑い合った。ミラベルが「お祝いです!」と出してくれた、飲むと体が七色に発光するハーブティーの味は、まあ、置いておくとして。
ヴォルフガング中佐は、非公式特別任務部隊の部下たちを個人的に招集し、労いの言葉と、そして「この件は、諸君らの胸の内にのみ秘めよ。それが、この国を守る新たな任務だ」と、固い口止めを命じたという。彼らとの間には、規則を超えた特別な絆が生まれたはずだ。
私はお忍びでリナに会いに行き、彼女の協力に心から感謝した。リナは「花季さんが無事でよかったです!」と、ひまわりのような笑顔を見せてくれた。それだけで、私の心は十分に報われた。
カレルの行方は、ようとして知れなかった。彼が何を思い、何を成したのか。ただ、私が隠れ家に戻った日、その窓辺に、一輪の黒百合がそっと置かれていた。まるで、全てを見届けたという証のように。
全ての事後処理が終わり、王都にいつもの日常が戻ってきた夜。
公爵令嬢リアナ・ヴィルヘルムとして、私は何事もなかったかのように、王宮で開かれる夜会に出席していた。多くの貴族が、私に挨拶をしようと列をなす。その顔ぶれは、以前とは少し違って見えた。私の瞳に宿る光が、ただの令嬢のものではないことに、彼らも無意識に気づいているのかもしれない。
夜会の喧騒から離れ、一人、バルコニーで涼んでいると、侍従が恭しく小さな封筒を差し出してきた。
「どなたか存じませぬが、リアナ様にと」
その封蝋には、見覚えのあるカエルの印。私は胸の内でため息をつきながら、封を開けた。
そこに書かれていたのは、相変わらずの、人を食ったような走り書きだった。
『よう、令嬢スパイ。面倒な後始末、ご苦労さんだったな。王子の坊やは、しょせん駒の一つだ。エスターニアで"本当の王"になろうとしてる奴は、別にいる。案外、お前のすぐ近くに、そいつの息のかかった人間がいるかもしれねぇぜ。面白くなってきたじゃねぇか。 K』
「……本当に、あなたは」
私はそのメモを静かに握りしめ、夜空を見上げた。月は、何事もなかったかのように、ただ静かに王都を照らしている。
(飽きさせない男ね、まったく)
面倒で、厄介で、そして、どうしようもなく心惹かれる、スリリングな日常。どうやら、私の「王都情報調査官」としての仕事は、まだまだ山積みのようだ。
私は、次なる戦いの予感に、思わず不敵な笑みを浮かべた。
偽りの平和の仮面を剥がし、真実を暴く。私の戦いは、まだ終わらない。
ヴォルフガング中佐は、部下にレオニード王子の身柄を確保させると、疲労困憊でその場にへたり込む私のもとへ歩み寄った。彼は無言のまま、自分の肩から騎士団のマントを外し、私の肩にそっとかける。土と、微かな鉄の匂いがした。
「…立てるか、"花季"。いや、リアナ嬢。まずは、君の安全な場所へ戻ろう」
その声は、いつものように硬質だったが、どこか不器用な優しさが滲んでいた。私は素直に頷き、彼の差し出す手に自分の手を重ねた。面倒な戦いは、まだ始まったばかりなのだから。
案の定、それから数日間、王宮の水面下は、大人の事情という名の面倒な嵐に見舞われた。
極秘裏に開かれた会議には、国王陛下、ジャルジェ公爵、そしてヴォルフガング中佐が顔を揃える。私は、非公式の参考人として、姿を見せずに別室から魔導通信で参加した。
「エスターニア側にどう説明するべきか…王子がテロの首謀者だったなどと公にすれば、即、戦争だぞ!」
「かと言って、このまま不問に付すわけにもいくまい!」
貴族たちの議論は紛糾する。結局、全ては「レオニード王子が、本国の過激派に唆され、利用された」という、当たり障りのないストーリーに落ち着いた。王子は「心身の療養のため」という名目で、静かに本国へ送還されることになった。
私の功績は、歴史の闇に葬られる。それでいい。それが、この世界のルールだ。私が提出した報告書に書かれた『ネズミさん突撃☆ディフェンスプログラム』や『淑女のささやかな自己主張☆超小型魔力衝撃発生装置』といった発明品の名前に、ジャルジェ公爵が怪訝な顔で眉をひそめていた、と後からヴォルフガングに聞かされたけれど、些細なことだ。
ようやく隠れ家に戻った私を、ミラベルが号泣しながら出迎えてくれた。
「花季様ぁぁ! ご無事で、本当によがっだですぅぅ!」
「ええ、あなたのおかげよ、ミラベル。特に、あの『心霊写真のオジサン』には、心から感謝しているわ」
「えへへ、私のプログラムが、まさかあんな形で役に立つなんて…! 天才的なバグでした!」
私たちは戦いの珍妙な顛末を語り合い、ようやく訪れた平穏に、腹の底から笑い合った。ミラベルが「お祝いです!」と出してくれた、飲むと体が七色に発光するハーブティーの味は、まあ、置いておくとして。
ヴォルフガング中佐は、非公式特別任務部隊の部下たちを個人的に招集し、労いの言葉と、そして「この件は、諸君らの胸の内にのみ秘めよ。それが、この国を守る新たな任務だ」と、固い口止めを命じたという。彼らとの間には、規則を超えた特別な絆が生まれたはずだ。
私はお忍びでリナに会いに行き、彼女の協力に心から感謝した。リナは「花季さんが無事でよかったです!」と、ひまわりのような笑顔を見せてくれた。それだけで、私の心は十分に報われた。
カレルの行方は、ようとして知れなかった。彼が何を思い、何を成したのか。ただ、私が隠れ家に戻った日、その窓辺に、一輪の黒百合がそっと置かれていた。まるで、全てを見届けたという証のように。
全ての事後処理が終わり、王都にいつもの日常が戻ってきた夜。
公爵令嬢リアナ・ヴィルヘルムとして、私は何事もなかったかのように、王宮で開かれる夜会に出席していた。多くの貴族が、私に挨拶をしようと列をなす。その顔ぶれは、以前とは少し違って見えた。私の瞳に宿る光が、ただの令嬢のものではないことに、彼らも無意識に気づいているのかもしれない。
夜会の喧騒から離れ、一人、バルコニーで涼んでいると、侍従が恭しく小さな封筒を差し出してきた。
「どなたか存じませぬが、リアナ様にと」
その封蝋には、見覚えのあるカエルの印。私は胸の内でため息をつきながら、封を開けた。
そこに書かれていたのは、相変わらずの、人を食ったような走り書きだった。
『よう、令嬢スパイ。面倒な後始末、ご苦労さんだったな。王子の坊やは、しょせん駒の一つだ。エスターニアで"本当の王"になろうとしてる奴は、別にいる。案外、お前のすぐ近くに、そいつの息のかかった人間がいるかもしれねぇぜ。面白くなってきたじゃねぇか。 K』
「……本当に、あなたは」
私はそのメモを静かに握りしめ、夜空を見上げた。月は、何事もなかったかのように、ただ静かに王都を照らしている。
(飽きさせない男ね、まったく)
面倒で、厄介で、そして、どうしようもなく心惹かれる、スリリングな日常。どうやら、私の「王都情報調査官」としての仕事は、まだまだ山積みのようだ。
私は、次なる戦いの予感に、思わず不敵な笑みを浮かべた。
偽りの平和の仮面を剥がし、真実を暴く。私の戦いは、まだ終わらない。
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