婚約破棄され「役立たず」と笑われましたが、神に選ばれた聖女は私でした

ゆっこ

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王城の大広間。
煌びやかなシャンデリアの下、社交の華やかな場に似つかわしくない冷たい声が響いた。

「リディア・フォン・アルベール! お前との婚約は破棄する!」

その声の主は、王国の第一王子にして私の婚約者――エドワード殿下だった。

ざわめく貴族たちの中で、私は唇を噛みしめる。
心臓が冷たい手で掴まれたように締め付けられるのを必死に隠しながら、静かに顔を上げた。

「……理由を、お聞かせいただけますか」

私の問いに、エドワード殿下は嘲笑を浮かべる。
「理由? 簡単なことだ。お前は役立たずだからだ」

大広間に、くすくすと笑い声が広がった。
貴族令嬢の中でも特に私を敵視していた者たちは、口元を隠しながら喜んでいる。

「聖女候補と言われながら、奇跡のひとつも起こせなかった。そんな女に俺の隣に立つ資格はない!」
「そうですわ、殿下! リディア様はただ血筋が良いだけ。魔力も弱いし、社交でも目立った功績がありませんもの!」

取り巻きの侯爵令嬢――セシリアが、得意げに言葉を重ねる。
ああ、なるほど。
彼女が新しい婚約者になるのだろう。

「……承知いたしました」

私はそれ以上の言葉を紡がず、深く頭を下げた。
王子に逆らえば、家も危うくなる。
私にできるのは、静かに受け入れることだけだ。

しかし、その時。

「お待ちなさい」

会場に澄んだ声が響いた。
人々の視線が集まる。
そこに現れたのは、神殿の大神官様だった。

白銀の杖を手に、彼は私の方へとゆっくり歩み寄る。

「神託を受けたのです。――リディア・フォン・アルベール、あなたこそ真の聖女である、と」

その瞬間、大広間は水を打ったように静まり返った。

「な……に?」
「聖女……ですって?」

信じられない、と人々の声が重なっていく。
エドワード殿下の顔がみるみる青ざめ、次に赤くなった。

「そ、そんなはずはない! 聖女の座はセシリアにこそふさわしい!」

「神のご意思に異を唱えるのですか、殿下?」
大神官様の冷たい声に、殿下は言葉を詰まらせた。

私は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
私が……聖女?
だって、今まで何もできなかったのに。

けれど、その瞬間。
胸の奥に温かな光が広がり、私の周囲に柔らかな輝きが舞った。
それは神々しいほどに美しい光の粒。
人々の傷や疲れを癒す奇跡の力だった。

「……聖女様だ」
「間違いない、これが奇跡だ」

ざわめきが歓声へと変わり、大広間は熱気に包まれた。

エドワード殿下が、青ざめた顔で私に縋りつく。
「リディア……! 違うんだ! あれは……その……ちょっとした芝居で――」

「殿下」
その時、低い声が割って入った。

声の主は、隣国からの賓客として招かれていた第二王子――アレン殿下だった。
漆黒の髪と鋭い金の瞳を持つ彼は、私を真っ直ぐに見据える。

「貴女が聖女と知って、放り出そうとした者の隣に立つ気はないでしょう」
「……え?」
「私が貴女を迎えに行こう。リディア嬢、いや――聖女殿。どうか我が国へ」

その手が差し出される。
大広間が再びざわめきに包まれる。

「なっ、アレン殿下! 勝手なことを!」
「勝手なことをしたのは、そちらだろう」
冷たく言い放つアレン殿下に、私は心臓が早鐘を打つのを感じた。

見知らぬ未来が開けようとしている――そんな予感とともに。



その夜。
神殿に招かれた私は、大神官様に正式に聖女として認められ、専用の部屋まで与えられた。

けれど心はまだ落ち着かない。
窓辺に座り、月を見上げていると――

「……眠れないのか」

低い声に振り向くと、そこにはアレン殿下がいた。
黒の礼服に身を包み、静かに歩み寄ってくる。

「殿下……どうしてここに?」
「貴女を心配して来た」

その一言に、胸が熱くなる。

「王子である貴女の婚約者が、あの場で貴女を貶めたこと……俺は許せない」
「……私は、もういいんです。もともと……期待されても応えられなかったから」
「いいわけがない」

強い言葉に、私は思わず目を見開いた。

「神が選んだ聖女を『役立たず』と呼んだ。そんな男に、貴女を渡すわけにはいかない」
「……アレン殿下……」

月明かりに照らされた彼の瞳は、真剣そのものだった。
胸の奥で、何かが揺れる。

「リディア。俺は――」

彼の言葉が続く前に、扉を乱暴に叩く音が響いた。

「リディア! 入っているのだろう! 話をさせてくれ!」

エドワード殿下の必死な声。
その瞬間、アレン殿下は私を抱き寄せた。

「……返事をするな。ここは俺に任せろ」

温かな体温に包まれ、私は息を呑む。
胸の鼓動が彼に聞こえてしまいそうで、逃げ出したいのに――離れたくなかった。



エドワード殿下とアレン殿下。
二人の王子の間で揺れる私の心。
けれど、もう二度と「役立たず」とは呼ばれない。

神に選ばれた聖女として――そして、一人の女性として。
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