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扉の向こうから響く、エドワード殿下の声。
神殿の夜は本来静謐で、聖なる空気に包まれているはずなのに、その必死な呼びかけは空気を震わせた。
「リディア! 誤解だ! あれは……お前を傷つけるつもりじゃなかったんだ! 頼む、話を――」
私は思わず立ち上がろうとしたが、その肩をアレン殿下の大きな手が制した。
「動くな」
「でも……」
「出る必要はない。いや、出るな。俺が出る」
低く決然とした声。
彼の金色の瞳に射抜かれ、私は言葉を失った。
アレン殿下は私の手を一瞬、ぎゅっと握る。
その温もりに心臓が跳ね、呼吸が浅くなる。
「ここにいて。絶対に、俺から離れるな」
そう告げると、彼は扉へ向かった。
重い扉を開けば、そこには顔色を変えたエドワード殿下が立っている。
「……アレン殿下、なぜ貴様がここに!」
「彼女を守るためだ。貴様こそ、なぜこの聖域に土足で踏み込もうとする?」
「俺とリディアは婚約していたんだ! 話す権利がある!」
「婚約していた、だろう」
アレン殿下の声音は冷たかった。
「お前自身が婚約を破棄した。しかも公衆の面前で、彼女を『役立たず』と侮辱してな」
エドワード殿下の顔が苦渋に歪む。
「それは……あの時は……セシリアの手前……!」
「言い訳は聞き飽きた」
アレン殿下が冷然と言い放つ。
彼の背越しに私は二人のやり取りを聞いていたが、胸がざわついて仕方なかった。
――私を役立たずと呼んだのは事実。
でも、今の殿下の声は必死で、どこか昔の優しい彼を思い出させる。
「リディア! 俺は……俺は間違っていた! 戻ってきてくれ!」
エドワード殿下の叫び。
その瞬間、アレン殿下が私の腕を引き寄せた。
私の身体は彼の胸元に収まり、息が詰まるほどの距離。
アレン殿下の低い声が頭上から降ってきた。
「聞いたな、リディア。お前をまた鎖につなげようとしている」
「……」
「俺は絶対に許さない。お前を傷つけた男の隣に、二度と戻させはしない」
抱き寄せる腕に力がこもり、鼓動が早まる。
私は戸惑いながらも、その温もりに安心を覚えてしまっている自分に気づいて、慌てて視線を逸らした。
「……リディア、答えてくれ!」
扉の向こうで、エドワード殿下がなおも叫んでいる。
けれど私の口からは、何も言葉が出なかった。
頭の中が、二人の王子の存在でいっぱいになっていたから。
数日後。
私は正式に「聖女」として神殿に仕えることになった。
けれど、状況は落ち着かない。
毎日のようにエドワード殿下が神殿に現れては面会を求め、アレン殿下はそれをことごとく阻んだ。
「リディア様、今日も殿下がお越しですが……」
侍女が困り顔で告げる。
「お断りだ。聖女様はお忙しい」
背後から即座に答える声。
振り向けば、やはりアレン殿下がいた。
「……殿下、なぜいつもここに?」
「俺が貴女の護衛を務めると決めたからだ」
「護衛は神殿の騎士が……」
「信用ならん」
あまりに断固とした言い方に、思わず笑ってしまいそうになる。
「……そんなに私のことを?」
「当たり前だ」
金の瞳が真っ直ぐに私を射抜く。
「お前が心配で、夜も眠れない」
「っ……」
耳まで熱くなる。
どうしてこの人は、こんな真剣に、ためらいなく言葉を口にできるのだろう。
「リディア」
名を呼ばれただけで、胸が甘く締め付けられる。
「俺は、お前に――」
その瞬間、神殿の鐘が鳴り響いた。
不吉な知らせを告げるような、重々しい鐘の音。
「……魔物の群れが、都の近くに現れたようです!」
駆け込んできた神官の報告に、場が緊張に包まれる。
私は立ち上がった。
「行かなくては……!」
「駄目だ、危険だ」アレン殿下が制する。
「でも、聖女として……私の力が必要です!」
躊躇する彼を振り切るように、私は一歩踏み出した。
けれど次の瞬間、腕を強く引かれ、彼の胸に押し込まれる。
「ならば俺も行く」
「……え?」
「俺が傍にいなければ、お前は何もさせない」
強い瞳に見つめられ、私は言葉を失う。
それは命令のようでいて、どこか甘やかな響きを帯びていた。
胸が高鳴る。
まるで、この人の腕の中が一番安全で、安心できる場所のように感じてしまう――
「……わかりました。でも、危険なら私が守ります」
「俺が守る。お前は俺の後ろにいろ」
「そんなこと……」と言いかけた唇を、彼の指がそっと押さえた。
「いいな?」
心臓が破裂しそうだった。
返事もできずに頷いたその時――
「リディア!」
背後から再び呼ぶ声。
振り向けば、息を切らしたエドワード殿下が駆け寄ってくる。
「危険だ、行くな! 俺が代わりに――」
「退け」
アレン殿下の低い声が重なる。
二人の王子の視線がぶつかり合い、火花を散らす。
私はその間で、ただ胸を押さえていた。
二人の王子に求められている――その事実に、どうしようもなく心が揺れていたから。
魔物との戦い。
そして、私を巡る二人の王子の争い。
嵐のような日々が始まろうとしていた。
けれど――
心のどこかで、私はほんの少しだけ楽しみにしている自分がいた。
こんなにも真っ直ぐに、誰かに求められることなんて、今までなかったのだから。
神殿の夜は本来静謐で、聖なる空気に包まれているはずなのに、その必死な呼びかけは空気を震わせた。
「リディア! 誤解だ! あれは……お前を傷つけるつもりじゃなかったんだ! 頼む、話を――」
私は思わず立ち上がろうとしたが、その肩をアレン殿下の大きな手が制した。
「動くな」
「でも……」
「出る必要はない。いや、出るな。俺が出る」
低く決然とした声。
彼の金色の瞳に射抜かれ、私は言葉を失った。
アレン殿下は私の手を一瞬、ぎゅっと握る。
その温もりに心臓が跳ね、呼吸が浅くなる。
「ここにいて。絶対に、俺から離れるな」
そう告げると、彼は扉へ向かった。
重い扉を開けば、そこには顔色を変えたエドワード殿下が立っている。
「……アレン殿下、なぜ貴様がここに!」
「彼女を守るためだ。貴様こそ、なぜこの聖域に土足で踏み込もうとする?」
「俺とリディアは婚約していたんだ! 話す権利がある!」
「婚約していた、だろう」
アレン殿下の声音は冷たかった。
「お前自身が婚約を破棄した。しかも公衆の面前で、彼女を『役立たず』と侮辱してな」
エドワード殿下の顔が苦渋に歪む。
「それは……あの時は……セシリアの手前……!」
「言い訳は聞き飽きた」
アレン殿下が冷然と言い放つ。
彼の背越しに私は二人のやり取りを聞いていたが、胸がざわついて仕方なかった。
――私を役立たずと呼んだのは事実。
でも、今の殿下の声は必死で、どこか昔の優しい彼を思い出させる。
「リディア! 俺は……俺は間違っていた! 戻ってきてくれ!」
エドワード殿下の叫び。
その瞬間、アレン殿下が私の腕を引き寄せた。
私の身体は彼の胸元に収まり、息が詰まるほどの距離。
アレン殿下の低い声が頭上から降ってきた。
「聞いたな、リディア。お前をまた鎖につなげようとしている」
「……」
「俺は絶対に許さない。お前を傷つけた男の隣に、二度と戻させはしない」
抱き寄せる腕に力がこもり、鼓動が早まる。
私は戸惑いながらも、その温もりに安心を覚えてしまっている自分に気づいて、慌てて視線を逸らした。
「……リディア、答えてくれ!」
扉の向こうで、エドワード殿下がなおも叫んでいる。
けれど私の口からは、何も言葉が出なかった。
頭の中が、二人の王子の存在でいっぱいになっていたから。
数日後。
私は正式に「聖女」として神殿に仕えることになった。
けれど、状況は落ち着かない。
毎日のようにエドワード殿下が神殿に現れては面会を求め、アレン殿下はそれをことごとく阻んだ。
「リディア様、今日も殿下がお越しですが……」
侍女が困り顔で告げる。
「お断りだ。聖女様はお忙しい」
背後から即座に答える声。
振り向けば、やはりアレン殿下がいた。
「……殿下、なぜいつもここに?」
「俺が貴女の護衛を務めると決めたからだ」
「護衛は神殿の騎士が……」
「信用ならん」
あまりに断固とした言い方に、思わず笑ってしまいそうになる。
「……そんなに私のことを?」
「当たり前だ」
金の瞳が真っ直ぐに私を射抜く。
「お前が心配で、夜も眠れない」
「っ……」
耳まで熱くなる。
どうしてこの人は、こんな真剣に、ためらいなく言葉を口にできるのだろう。
「リディア」
名を呼ばれただけで、胸が甘く締め付けられる。
「俺は、お前に――」
その瞬間、神殿の鐘が鳴り響いた。
不吉な知らせを告げるような、重々しい鐘の音。
「……魔物の群れが、都の近くに現れたようです!」
駆け込んできた神官の報告に、場が緊張に包まれる。
私は立ち上がった。
「行かなくては……!」
「駄目だ、危険だ」アレン殿下が制する。
「でも、聖女として……私の力が必要です!」
躊躇する彼を振り切るように、私は一歩踏み出した。
けれど次の瞬間、腕を強く引かれ、彼の胸に押し込まれる。
「ならば俺も行く」
「……え?」
「俺が傍にいなければ、お前は何もさせない」
強い瞳に見つめられ、私は言葉を失う。
それは命令のようでいて、どこか甘やかな響きを帯びていた。
胸が高鳴る。
まるで、この人の腕の中が一番安全で、安心できる場所のように感じてしまう――
「……わかりました。でも、危険なら私が守ります」
「俺が守る。お前は俺の後ろにいろ」
「そんなこと……」と言いかけた唇を、彼の指がそっと押さえた。
「いいな?」
心臓が破裂しそうだった。
返事もできずに頷いたその時――
「リディア!」
背後から再び呼ぶ声。
振り向けば、息を切らしたエドワード殿下が駆け寄ってくる。
「危険だ、行くな! 俺が代わりに――」
「退け」
アレン殿下の低い声が重なる。
二人の王子の視線がぶつかり合い、火花を散らす。
私はその間で、ただ胸を押さえていた。
二人の王子に求められている――その事実に、どうしようもなく心が揺れていたから。
魔物との戦い。
そして、私を巡る二人の王子の争い。
嵐のような日々が始まろうとしていた。
けれど――
心のどこかで、私はほんの少しだけ楽しみにしている自分がいた。
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