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「……っ、ひとりずつ、待ってください!」
私が声を張り上げると、あたりの空気がようやく止まった。
玉座の間に居並ぶ攻略対象――いや、今や私の目からするとただただ押し寄せてくる求婚者たち――の視線が一斉に私に注がれる。その圧に思わず足が震えそうになる。
「君を待てだなんて、無理だ」
一番に口を開いたのは王太子のエドワード殿下。彼の金色の瞳は、断罪を宣告したあの日と同じ輝きなのに、向けられる感情は真逆だ。あの時は冷酷な嫌悪。けれど今は、熱を孕んだ独占欲。
「リリアーナ嬢。君を失って、私はようやく自分の愚かさに気づいた。ヒロインに心を奪われたと思い込んでいたが、違ったんだ。本当に欲しかったのは……君だった」
真剣な声色に、私の胸はずきんと痛んだ。――こんな言葉、断罪の日に欲しかった。そう思ってしまう自分がいることに、また苦しくなる。
「殿下。お気持ちは理解しました。ですが、今さら……」
私が言い切る前に、横から鋭い声が飛んだ。
「殿下、ずいぶん勝手なことを言いますね」
長身の黒髪の青年――宰相補佐官のレオンハルト様が一歩前に出る。冷静沈着で皮肉屋な彼は、ゲームでは隠し攻略対象だった。
「リリアーナ嬢を断罪したのはあなた方でしょう。その過ちを謝罪もせず、愛しているなどと……虫が良すぎます」
「……ッ、私は本気だ!」
「ならば証明なさることです。ですが――」レオンハルト様は私に視線を向け、柔らかく微笑んだ。「彼女の傍に相応しいのは、私だ」
……はい?
目を瞬かせていると、さらに後ろから荒々しい声が響いた。
「お前ら、言葉ばっかりで腹が立つな」
腕を組んでいたのは騎士団長のジークフリート。鍛え上げられた身体に似合う豪放な雰囲気の彼は、私に真っ直ぐな笑みを向けた。
「リリアーナ嬢。俺はあんたが悪役令嬢なんかじゃないってずっと分かってた。だから……守らせてくれ。あんたの隣で、剣を振るう相手は俺がいい」
心臓が跳ねる。けれど、その音をかき消すように今度は静謐な声が。
「……彼女を困らせるのはやめろ」
冷ややかに割って入ったのは、銀髪の大神官ルシウス様。彼の青い瞳は深淵の湖のように澄んでいて、嘘や軽さを許さない。
「リリアーナ嬢は神に選ばれし御方だ。誰が傍に立つべきかなど、彼女自身が決めること。……だが」
そこで、彼は私に視線を注ぎ、少しだけ目元を和らげた。
「もし許されるのなら、私は彼女に祈りを捧げ続けたい。永遠に」
ちょっと待って。これは夢? それとも新手の断罪イベント?
攻略対象全員が、同時に「私以外考えられない」なんて言ってくるなんて、あまりにもあり得ない。
けれど、彼らの目は真剣だった。
「リリアーナ、信じてほしい」
「君を幸せにできるのは俺だ」
「守るのは俺だ」
「祈るのは私だ」
四方から降り注ぐ愛の言葉。私の脳内はぐるぐると渦を巻く。
……正直に言おう。胸が高鳴らないわけじゃない。
けれど、同時に怖い。断罪の日に味わった痛みが蘇る。信じたのに裏切られた。笑われ、石を投げられ、孤独に突き落とされた。
だから――。
「……私は、誰のものにもなりません」
絞り出すように言葉を発すると、攻略対象たちの表情が一斉に揺れた。
「え……?」
「リリアーナ嬢……?」
「あなた方が今、私に何を言おうとも……私はあの日、すべてを失ったのです。あの痛みを忘れることはできません」
唇が震えた。けれど、必死に微笑みを形作る。
「ですから――どうか放っておいてください。それが私の望みです」
そう告げて背を向けた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるように痛んだ。
本当に、これでいいの……?
玉座の間を去り、冷たい石畳の廊下を歩く。
足取りは重く、涙が零れそうになるのを必死に堪えた。
――だが。
「……リリアーナ嬢」
背後から低い声がした。振り返ると、そこにはレオンハルト様の姿。
彼は廊下の灯火に照らされて、影を長く落としていた。
「さきほどの言葉……本心ですか?」
「……」
「あなたが苦しんでいることくらい、誰の目にも明らかだ。放っておけるわけがない」
ゆっくりと歩み寄ってくる。
近づくほどに、彼の瞳が揺れているのが分かった。冷徹で通る彼が、こんな表情を見せるなんて。
「……あなたが信じられないというのなら、信じられるまで傍にいる。千度でも、万度でも、証明してみせます」
その声は震えていなかった。むしろ決意に満ちていた。
私は答えられず、ただ彼を見上げるしかできなかった。
その後ろで――。
柱の影から、別の気配が静かに覗いていることを、このときの私は知らなかった。
それは、王太子エドワード殿下の鋭い眼差しだった。
彼の拳は固く握られていて、低く呟く。
「……君を誰にも渡さない。何度拒まれようとも、必ず取り戻す」
燃え上がる独占欲が、静かに形を成し始めていた。
私が声を張り上げると、あたりの空気がようやく止まった。
玉座の間に居並ぶ攻略対象――いや、今や私の目からするとただただ押し寄せてくる求婚者たち――の視線が一斉に私に注がれる。その圧に思わず足が震えそうになる。
「君を待てだなんて、無理だ」
一番に口を開いたのは王太子のエドワード殿下。彼の金色の瞳は、断罪を宣告したあの日と同じ輝きなのに、向けられる感情は真逆だ。あの時は冷酷な嫌悪。けれど今は、熱を孕んだ独占欲。
「リリアーナ嬢。君を失って、私はようやく自分の愚かさに気づいた。ヒロインに心を奪われたと思い込んでいたが、違ったんだ。本当に欲しかったのは……君だった」
真剣な声色に、私の胸はずきんと痛んだ。――こんな言葉、断罪の日に欲しかった。そう思ってしまう自分がいることに、また苦しくなる。
「殿下。お気持ちは理解しました。ですが、今さら……」
私が言い切る前に、横から鋭い声が飛んだ。
「殿下、ずいぶん勝手なことを言いますね」
長身の黒髪の青年――宰相補佐官のレオンハルト様が一歩前に出る。冷静沈着で皮肉屋な彼は、ゲームでは隠し攻略対象だった。
「リリアーナ嬢を断罪したのはあなた方でしょう。その過ちを謝罪もせず、愛しているなどと……虫が良すぎます」
「……ッ、私は本気だ!」
「ならば証明なさることです。ですが――」レオンハルト様は私に視線を向け、柔らかく微笑んだ。「彼女の傍に相応しいのは、私だ」
……はい?
目を瞬かせていると、さらに後ろから荒々しい声が響いた。
「お前ら、言葉ばっかりで腹が立つな」
腕を組んでいたのは騎士団長のジークフリート。鍛え上げられた身体に似合う豪放な雰囲気の彼は、私に真っ直ぐな笑みを向けた。
「リリアーナ嬢。俺はあんたが悪役令嬢なんかじゃないってずっと分かってた。だから……守らせてくれ。あんたの隣で、剣を振るう相手は俺がいい」
心臓が跳ねる。けれど、その音をかき消すように今度は静謐な声が。
「……彼女を困らせるのはやめろ」
冷ややかに割って入ったのは、銀髪の大神官ルシウス様。彼の青い瞳は深淵の湖のように澄んでいて、嘘や軽さを許さない。
「リリアーナ嬢は神に選ばれし御方だ。誰が傍に立つべきかなど、彼女自身が決めること。……だが」
そこで、彼は私に視線を注ぎ、少しだけ目元を和らげた。
「もし許されるのなら、私は彼女に祈りを捧げ続けたい。永遠に」
ちょっと待って。これは夢? それとも新手の断罪イベント?
攻略対象全員が、同時に「私以外考えられない」なんて言ってくるなんて、あまりにもあり得ない。
けれど、彼らの目は真剣だった。
「リリアーナ、信じてほしい」
「君を幸せにできるのは俺だ」
「守るのは俺だ」
「祈るのは私だ」
四方から降り注ぐ愛の言葉。私の脳内はぐるぐると渦を巻く。
……正直に言おう。胸が高鳴らないわけじゃない。
けれど、同時に怖い。断罪の日に味わった痛みが蘇る。信じたのに裏切られた。笑われ、石を投げられ、孤独に突き落とされた。
だから――。
「……私は、誰のものにもなりません」
絞り出すように言葉を発すると、攻略対象たちの表情が一斉に揺れた。
「え……?」
「リリアーナ嬢……?」
「あなた方が今、私に何を言おうとも……私はあの日、すべてを失ったのです。あの痛みを忘れることはできません」
唇が震えた。けれど、必死に微笑みを形作る。
「ですから――どうか放っておいてください。それが私の望みです」
そう告げて背を向けた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるように痛んだ。
本当に、これでいいの……?
玉座の間を去り、冷たい石畳の廊下を歩く。
足取りは重く、涙が零れそうになるのを必死に堪えた。
――だが。
「……リリアーナ嬢」
背後から低い声がした。振り返ると、そこにはレオンハルト様の姿。
彼は廊下の灯火に照らされて、影を長く落としていた。
「さきほどの言葉……本心ですか?」
「……」
「あなたが苦しんでいることくらい、誰の目にも明らかだ。放っておけるわけがない」
ゆっくりと歩み寄ってくる。
近づくほどに、彼の瞳が揺れているのが分かった。冷徹で通る彼が、こんな表情を見せるなんて。
「……あなたが信じられないというのなら、信じられるまで傍にいる。千度でも、万度でも、証明してみせます」
その声は震えていなかった。むしろ決意に満ちていた。
私は答えられず、ただ彼を見上げるしかできなかった。
その後ろで――。
柱の影から、別の気配が静かに覗いていることを、このときの私は知らなかった。
それは、王太子エドワード殿下の鋭い眼差しだった。
彼の拳は固く握られていて、低く呟く。
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