悪役令嬢と断罪されたはずなのに、攻略対象全員が「以外ありえない」と言ってきます

ゆっこ

文字の大きさ
4 / 6

4

しおりを挟む
「……っ、ひとりずつ、待ってください!」
 私が声を張り上げると、あたりの空気がようやく止まった。

 玉座の間に居並ぶ攻略対象――いや、今や私の目からするとただただ押し寄せてくる求婚者たち――の視線が一斉に私に注がれる。その圧に思わず足が震えそうになる。

「君を待てだなんて、無理だ」
 一番に口を開いたのは王太子のエドワード殿下。彼の金色の瞳は、断罪を宣告したあの日と同じ輝きなのに、向けられる感情は真逆だ。あの時は冷酷な嫌悪。けれど今は、熱を孕んだ独占欲。

「リリアーナ嬢。君を失って、私はようやく自分の愚かさに気づいた。ヒロインに心を奪われたと思い込んでいたが、違ったんだ。本当に欲しかったのは……君だった」

 真剣な声色に、私の胸はずきんと痛んだ。――こんな言葉、断罪の日に欲しかった。そう思ってしまう自分がいることに、また苦しくなる。

「殿下。お気持ちは理解しました。ですが、今さら……」
 私が言い切る前に、横から鋭い声が飛んだ。

「殿下、ずいぶん勝手なことを言いますね」
 長身の黒髪の青年――宰相補佐官のレオンハルト様が一歩前に出る。冷静沈着で皮肉屋な彼は、ゲームでは隠し攻略対象だった。

「リリアーナ嬢を断罪したのはあなた方でしょう。その過ちを謝罪もせず、愛しているなどと……虫が良すぎます」
「……ッ、私は本気だ!」
「ならば証明なさることです。ですが――」レオンハルト様は私に視線を向け、柔らかく微笑んだ。「彼女の傍に相応しいのは、私だ」

 ……はい? 

 目を瞬かせていると、さらに後ろから荒々しい声が響いた。

「お前ら、言葉ばっかりで腹が立つな」
 腕を組んでいたのは騎士団長のジークフリート。鍛え上げられた身体に似合う豪放な雰囲気の彼は、私に真っ直ぐな笑みを向けた。

「リリアーナ嬢。俺はあんたが悪役令嬢なんかじゃないってずっと分かってた。だから……守らせてくれ。あんたの隣で、剣を振るう相手は俺がいい」

 心臓が跳ねる。けれど、その音をかき消すように今度は静謐な声が。

「……彼女を困らせるのはやめろ」
 冷ややかに割って入ったのは、銀髪の大神官ルシウス様。彼の青い瞳は深淵の湖のように澄んでいて、嘘や軽さを許さない。

「リリアーナ嬢は神に選ばれし御方だ。誰が傍に立つべきかなど、彼女自身が決めること。……だが」
 そこで、彼は私に視線を注ぎ、少しだけ目元を和らげた。
「もし許されるのなら、私は彼女に祈りを捧げ続けたい。永遠に」


 


 ちょっと待って。これは夢? それとも新手の断罪イベント?
 攻略対象全員が、同時に「私以外考えられない」なんて言ってくるなんて、あまりにもあり得ない。

 けれど、彼らの目は真剣だった。

「リリアーナ、信じてほしい」
「君を幸せにできるのは俺だ」
「守るのは俺だ」
「祈るのは私だ」

 四方から降り注ぐ愛の言葉。私の脳内はぐるぐると渦を巻く。

 ……正直に言おう。胸が高鳴らないわけじゃない。
 けれど、同時に怖い。断罪の日に味わった痛みが蘇る。信じたのに裏切られた。笑われ、石を投げられ、孤独に突き落とされた。

 だから――。

「……私は、誰のものにもなりません」
 絞り出すように言葉を発すると、攻略対象たちの表情が一斉に揺れた。

「え……?」
「リリアーナ嬢……?」

「あなた方が今、私に何を言おうとも……私はあの日、すべてを失ったのです。あの痛みを忘れることはできません」
 唇が震えた。けれど、必死に微笑みを形作る。
「ですから――どうか放っておいてください。それが私の望みです」

 そう告げて背を向けた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるように痛んだ。
 本当に、これでいいの……?



 玉座の間を去り、冷たい石畳の廊下を歩く。
 足取りは重く、涙が零れそうになるのを必死に堪えた。

 ――だが。

「……リリアーナ嬢」
 背後から低い声がした。振り返ると、そこにはレオンハルト様の姿。
 彼は廊下の灯火に照らされて、影を長く落としていた。

「さきほどの言葉……本心ですか?」
「……」
「あなたが苦しんでいることくらい、誰の目にも明らかだ。放っておけるわけがない」

 ゆっくりと歩み寄ってくる。
 近づくほどに、彼の瞳が揺れているのが分かった。冷徹で通る彼が、こんな表情を見せるなんて。

「……あなたが信じられないというのなら、信じられるまで傍にいる。千度でも、万度でも、証明してみせます」
 その声は震えていなかった。むしろ決意に満ちていた。

 私は答えられず、ただ彼を見上げるしかできなかった。


 その後ろで――。
 柱の影から、別の気配が静かに覗いていることを、このときの私は知らなかった。

 それは、王太子エドワード殿下の鋭い眼差しだった。
 彼の拳は固く握られていて、低く呟く。

「……君を誰にも渡さない。何度拒まれようとも、必ず取り戻す」

 燃え上がる独占欲が、静かに形を成し始めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される

夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。 さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。 目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。 優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。 一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。 しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました

ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。 壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

婚約破棄された令嬢ですが、今さら愛されたって遅いですわ。~冷徹宰相殿下の溺愛が止まりません~

nacat
恋愛
王立学院の卒業式で、婚約者の王太子に「悪女」と断罪された公爵令嬢リリアナ。 全ての罪を着せられ、婚約を破棄された彼女は、冷徹と名高い宰相殿下のもとへ嫁ぐことになった。 「政略結婚ですから、愛など必要ございませんわ」そう言い放ったリリアナ。 だが宰相殿下は、彼女を宝物のように扱い、誰よりも深く愛し始める――。 やがて明らかになる“陰謀”と、“真実の愛”。 すべてを失った令嬢が、愛と誇りをもって世界を見返す、痛快ざまぁ&溺愛ロマンス!

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

処理中です...