2 / 6
2
夜空を切り裂き、ヴァルガドと共に飛ぶ。
冷たいはずの風が、なぜか心地いい。
「……空、綺麗」
「これが“自由”だ。お前が取り戻したものだ」
背中を包む強い腕に、胸が高鳴る。
――捨てられた私を、拾ってくれた人。
いや、拾ってくれた竜。
(……どうしよう。もう恋しちゃってるかもしれない)
だってこんなに優しく、真っ直ぐに私を見つめてくるなんて。
「リリアーナ。寒くないか?」
低い声が耳元をかすめ、背筋が震えた。
「……すこし、ドキドキしてます」
「高度があるからな」
「違います!」
思わず叫ぶと、ヴァルガドがくつ、と笑った。
「告白なら地上で聞くつもりだ」
「こ、告白なんてっ……!」
「嘘は感情で――」
「わかった!認めるから黙ってっ!」
顔が熱い。
けれど、そんな私を愛おしそうに見つめるその視線が――また心を揺らす。
辿り着いたのは、北方の聖域だった。
古代遺跡のような神殿。結界に守られ、何百年も人の手が入っていない場所。
「ここなら誰にも邪魔されぬ。お前の力を鍛えるのに最適だ」
「でも、ヴァルガド……ここ、あなたの住処なのでは?」
「そうだ。だからこそ安心して眠れる」
……それってつまり、私がここに住むってことで?
(同棲……!?)
一気に胸が苦しくなる。
「な、なら、部屋とかベッドとか……」
「当然、一緒だ」
「いっしょ!?!?!?」
私の叫びに、ヴァルガドは首を傾げる。
「なぜ驚く? 竜にとって“契約者”とは伴侶と同義だ」
「は……はんりょ……?」
耳がおかしくなったのかと思った。
(ちょっと待って!? プロポーズすっ飛ばして結婚!?)
気を強く持て、リリアーナ。
「ええと……あの……普通、人間には順序というものがありまして……」
「ならば従おう。“告白”の後に“求婚”だろう?」
顔が燃える。
(落ち着いて私……この人は竜で、人間の恋愛文化に詳しすぎて……逆に困る……)
ヴァルガドは私の頬に触れた。
「嫌か?」
「嫌じゃ……ないです……」
むしろ、誰よりも欲しい。
その答えに、彼は満足げに私を抱き寄せる。
「ああ……愛おしい聖女よ」
心臓が破裂しそう。
このまま、触れられたら……もう――
「……!」
その時。
神殿の外から、魔力の反応。
「ヴァルガド!! 追っ手が!」
彼は舌打ちし、私を庇うように立った。
「ここまで嗅ぎつけたか。早すぎる」
結界を破り、兵たちが雪崩れ込む。
その先頭には――アレクシスとミレイユ。
(来た……!)
アレクシスは怒りに歪んだ声で叫んだ。
「リリアーナ! よくも勝手に王都を出たな!!」
「勝手に? “いらない”って言ったのは……アレクシス様でしょう?」
冷たく返すと、彼は一瞬怯んだ。
だがミレイユが泣き真似をしながら腕に縋る。
「アレクシス様ぁ……怖いです……! あの女、私たちに嫉妬して……!」
「黙れ」
「えっ……?」
アレクシスがミレイユを振り払った。
「リリアーナ、頼む。戻ってきてくれ。あれは……言い過ぎだった。俺は気づいたんだ。お前こそ――聖女だったのだろう?」
いまさら気づいても遅い。
「……王太子妃の座が惜しくなったんですか?」
「違う! お前が必要なんだ!」
「私は、必要とされる人のところに行きます」
迷いなく告げると、ヴァルガドが私の腰を抱き寄せ、支配するように宣言した。
「リリアーナは私の伴侶だ。お前たちごときに触れさせはしない」
「ば、伴……侶……?」
アレクシスの顔が引きつり、青ざめる。
ミレイユが叫んだ。
「嘘よ! リリアーナなんて無属性の役立たず……!」
「無属性……?」
私は指を鳴らした。
瞬間、炎の柱が立ち上がり、続けて氷の槍、風刃、雷光、大地の隆起、水の奔流、さらに光と闇が踊る。
八属性すべてが一斉に出現し、辺りを飲み込む。
「きゃああああ!!」
ミレイユは尻餅をつき、震える。
「ま……全属性……? そんなの……神話の中の……」
アレクシスは膝をつき、ただ呆然と呟いた。
「ありえない……リリアーナ、お前が……」
「私を“いらない”と言ったのは……そちらです」
かつて愛した人に背を向ける。
胸の奥が少し痛かった。
でも、すぐにヴァルガドの腕が抱き締めてくれる。
「もう振り返るな。お前は前だけを見ていればいい」
「……はい」
ヴァルガドが片手を振ると、大地が震え、兵たちが吹き飛ばされた。
「帰れ。次は容赦しない」
アレクシスは悔しげに歯を食いしばりながら撤退する。
ミレイユは泣き叫びながら引きずられた。
その背に、私は小さく告げた。
「ざまぁみろ」
胸の奥が、少しだけ晴れた。
アレクシスたちが去った後、ヴァルガドは私を抱き上げ、そのまま神殿の玉座へ。
「リリアーナ。私は――お前を愛している」
あまりにも真っ直ぐで、逃げ場がない。
「……私も、あなたが好き」
やっと言えた言葉に、ヴァルガドの目が細められた。
そのまま、顔が近づく。
唇が――触れそうで。
「……っ」
「怖いか?」
「怖くない。でも……ドキドキが止まらないの」
「なら、慣れるまで何度でもしよう」
耳を噛まれ、息が漏れる。
「ひゃっ……!」
「可愛い声だ。もっと聞かせろ」
身体ごと押し倒され、瞳が絡む。
「リリアーナ。誰にも渡さない」
「……渡りません」
唇が――触れた。
甘くて、熱くて、溺れそう。
私の唇を離さないまま、ヴァルガドが囁く。
「愛してる。私の聖女」
(あぁ――幸せって、こういうことなんだ)
でも、この幸せの影には。
――まだ、ざまぁの続きを求める声が王城に渦巻いている。
そして。
私の力を利用しようとする、もっと大きな“敵”の影が迫っていた。
ヴァルガドの腕の中で、私は目を閉じる。
(絶対に負けない。私を捨てた人たちに、もっと後悔させてやる)
冷たいはずの風が、なぜか心地いい。
「……空、綺麗」
「これが“自由”だ。お前が取り戻したものだ」
背中を包む強い腕に、胸が高鳴る。
――捨てられた私を、拾ってくれた人。
いや、拾ってくれた竜。
(……どうしよう。もう恋しちゃってるかもしれない)
だってこんなに優しく、真っ直ぐに私を見つめてくるなんて。
「リリアーナ。寒くないか?」
低い声が耳元をかすめ、背筋が震えた。
「……すこし、ドキドキしてます」
「高度があるからな」
「違います!」
思わず叫ぶと、ヴァルガドがくつ、と笑った。
「告白なら地上で聞くつもりだ」
「こ、告白なんてっ……!」
「嘘は感情で――」
「わかった!認めるから黙ってっ!」
顔が熱い。
けれど、そんな私を愛おしそうに見つめるその視線が――また心を揺らす。
辿り着いたのは、北方の聖域だった。
古代遺跡のような神殿。結界に守られ、何百年も人の手が入っていない場所。
「ここなら誰にも邪魔されぬ。お前の力を鍛えるのに最適だ」
「でも、ヴァルガド……ここ、あなたの住処なのでは?」
「そうだ。だからこそ安心して眠れる」
……それってつまり、私がここに住むってことで?
(同棲……!?)
一気に胸が苦しくなる。
「な、なら、部屋とかベッドとか……」
「当然、一緒だ」
「いっしょ!?!?!?」
私の叫びに、ヴァルガドは首を傾げる。
「なぜ驚く? 竜にとって“契約者”とは伴侶と同義だ」
「は……はんりょ……?」
耳がおかしくなったのかと思った。
(ちょっと待って!? プロポーズすっ飛ばして結婚!?)
気を強く持て、リリアーナ。
「ええと……あの……普通、人間には順序というものがありまして……」
「ならば従おう。“告白”の後に“求婚”だろう?」
顔が燃える。
(落ち着いて私……この人は竜で、人間の恋愛文化に詳しすぎて……逆に困る……)
ヴァルガドは私の頬に触れた。
「嫌か?」
「嫌じゃ……ないです……」
むしろ、誰よりも欲しい。
その答えに、彼は満足げに私を抱き寄せる。
「ああ……愛おしい聖女よ」
心臓が破裂しそう。
このまま、触れられたら……もう――
「……!」
その時。
神殿の外から、魔力の反応。
「ヴァルガド!! 追っ手が!」
彼は舌打ちし、私を庇うように立った。
「ここまで嗅ぎつけたか。早すぎる」
結界を破り、兵たちが雪崩れ込む。
その先頭には――アレクシスとミレイユ。
(来た……!)
アレクシスは怒りに歪んだ声で叫んだ。
「リリアーナ! よくも勝手に王都を出たな!!」
「勝手に? “いらない”って言ったのは……アレクシス様でしょう?」
冷たく返すと、彼は一瞬怯んだ。
だがミレイユが泣き真似をしながら腕に縋る。
「アレクシス様ぁ……怖いです……! あの女、私たちに嫉妬して……!」
「黙れ」
「えっ……?」
アレクシスがミレイユを振り払った。
「リリアーナ、頼む。戻ってきてくれ。あれは……言い過ぎだった。俺は気づいたんだ。お前こそ――聖女だったのだろう?」
いまさら気づいても遅い。
「……王太子妃の座が惜しくなったんですか?」
「違う! お前が必要なんだ!」
「私は、必要とされる人のところに行きます」
迷いなく告げると、ヴァルガドが私の腰を抱き寄せ、支配するように宣言した。
「リリアーナは私の伴侶だ。お前たちごときに触れさせはしない」
「ば、伴……侶……?」
アレクシスの顔が引きつり、青ざめる。
ミレイユが叫んだ。
「嘘よ! リリアーナなんて無属性の役立たず……!」
「無属性……?」
私は指を鳴らした。
瞬間、炎の柱が立ち上がり、続けて氷の槍、風刃、雷光、大地の隆起、水の奔流、さらに光と闇が踊る。
八属性すべてが一斉に出現し、辺りを飲み込む。
「きゃああああ!!」
ミレイユは尻餅をつき、震える。
「ま……全属性……? そんなの……神話の中の……」
アレクシスは膝をつき、ただ呆然と呟いた。
「ありえない……リリアーナ、お前が……」
「私を“いらない”と言ったのは……そちらです」
かつて愛した人に背を向ける。
胸の奥が少し痛かった。
でも、すぐにヴァルガドの腕が抱き締めてくれる。
「もう振り返るな。お前は前だけを見ていればいい」
「……はい」
ヴァルガドが片手を振ると、大地が震え、兵たちが吹き飛ばされた。
「帰れ。次は容赦しない」
アレクシスは悔しげに歯を食いしばりながら撤退する。
ミレイユは泣き叫びながら引きずられた。
その背に、私は小さく告げた。
「ざまぁみろ」
胸の奥が、少しだけ晴れた。
アレクシスたちが去った後、ヴァルガドは私を抱き上げ、そのまま神殿の玉座へ。
「リリアーナ。私は――お前を愛している」
あまりにも真っ直ぐで、逃げ場がない。
「……私も、あなたが好き」
やっと言えた言葉に、ヴァルガドの目が細められた。
そのまま、顔が近づく。
唇が――触れそうで。
「……っ」
「怖いか?」
「怖くない。でも……ドキドキが止まらないの」
「なら、慣れるまで何度でもしよう」
耳を噛まれ、息が漏れる。
「ひゃっ……!」
「可愛い声だ。もっと聞かせろ」
身体ごと押し倒され、瞳が絡む。
「リリアーナ。誰にも渡さない」
「……渡りません」
唇が――触れた。
甘くて、熱くて、溺れそう。
私の唇を離さないまま、ヴァルガドが囁く。
「愛してる。私の聖女」
(あぁ――幸せって、こういうことなんだ)
でも、この幸せの影には。
――まだ、ざまぁの続きを求める声が王城に渦巻いている。
そして。
私の力を利用しようとする、もっと大きな“敵”の影が迫っていた。
ヴァルガドの腕の中で、私は目を閉じる。
(絶対に負けない。私を捨てた人たちに、もっと後悔させてやる)
あなたにおすすめの小説
呪毒鑑定士の令嬢、冤罪で追放されたので国中の「呪い」を解除して回る
あめとおと
恋愛
王宮で地味に「呪物の鑑定と浄化」を担っていた伯爵令嬢。異世界から来た「聖女」に、汚いものを扱う不浄な女だと蔑まれ、婚約者の王子からも「お前の代わりは聖女がいる」と断罪・追放される。
しかし、彼女が密かに浄化していたのは、王宮の地下に溜まった建国以来の強大な呪いだった。彼女が去った瞬間、王宮は真っ黒な泥に沈み、王子たちの顔には消えない呪いの痣が浮き上がる。
試験でカンニング犯にされた平民ですが、帝国文官試験で首席合格しました
あきくん☆ひろくん
恋愛
魔法学園の卒業試験で、私はカンニング犯に仕立て上げられた。
断罪してきたのは、かつて好意を寄せてくれていた高位貴族の子息。そしてその隣には、私を嫌う貴族令嬢が立っていた。
平民の私には弁明の余地もない。私は試験の順位を辞退し、その場を去ることになった。
――だが。
私にはもう一つの試験がある。
それは、帝国でも屈指の難関といわれる帝国文官試験。
そして数日後。
その結果は――首席合格だった。
冤罪で断罪された平民が、帝国の文官として身を立てる物語。
「女に商いの真似事をさせるな」と追放された交易令嬢——王都への道が閉ざされたとき、彼女は隣国に新たな街道を拓いていた
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢カタリナは、父に代わって領地の交易路を開拓し、物流と販路を一手に管理してきた。
王都の商人たちとの交渉、隊商の護衛手配、相場の読み——すべてカタリナがこなしていた。
しかし新たに赴任した執政官ヴェルナーが「女が商いに口を出すのは領地の恥」と父を説得。
婚約者の騎士団長レオンハルトも「令嬢は家で刺繍でもしておれ」と突き放す。
追放されたカタリナは、隣国ラウレンツィアの港町で小さな交易商を始める。
やがて、カタリナが維持していた取引先が次々と契約を打ち切り、領地の特産品は売れ残り、
経済が停滞。一方カタリナの商会は、隣国で急成長を遂げていた。
「その薬草は毒かもしれぬ」と追放された令嬢薬師——領地に疫病が広がったとき、彼女の薬草園はもう枯れていた
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢リリアーナは幼い頃から薬草学に長け、領地の薬草園「星霜の庭」を管理し、
領民の病を治してきた。しかし新しい侍医マティアスが「あの令嬢の薬は怪しい。
毒が混じっているかもしれない」と讒言。婚約者の伯爵子息クラウスもそれを信じ、
「毒を扱う女とは婚約できぬ」と破棄を宣言。
追放されたリリアーナは辺境の村で細々と薬草を育て始める。
やがて季節の変わり目、領地に疫病が蔓延——しかし彼女が手入れしていた
薬草園はすでに枯れ果て、侍医の薬は効かず、領民は苦しむ。
一方リリアーナの辺境の村では、彼女の薬のおかげで誰一人倒れなかった。
不器量令嬢は、婚約破棄の断罪が面倒くさい
あんど もあ
ファンタジー
不器量なマルグリットは、婚約者の美しい第一王子からずっと容姿を貶められる日々。とうとう王立学園の卒業パーティーで王子に婚約破棄を宣言され、「王子から解放される! それいいかも!」となったが、続く断罪が面倒くさくて他の人に丸投げする事にする。
婚約破棄はお受けします――ですが、王家を支えていたのは私です
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢イザリエ・フォンティーヌは、卒業舞踏会の夜、王太子セルジュ・アストレアから大勢の前で婚約破棄を告げられる。隣にいたのは、可憐で儚げな新しい婚約者候補メリザ・コルネイユ。
けれどイザリエは泣き崩れなかった。
静かに婚約破棄を受け入れ、ただひとこと告げる。
――では今後、フォンティーヌ公爵家からの支援はすべて停止いたします。
その瞬間から、王家は少しずつ綻び始める。夜会の失敗、乱れる帳簿、崩れていく信用。これまで当然のように回っていたものは、すべてイザリエが陰で支えていたものだった。
一方、婚約者という役目を失ったはずのイザリエは、辺境伯ラウル・ディグレイスと出会い、自分が“誰かに選ばれるための存在”ではなく、“自分で未来を選べる人間”なのだと知っていく。
今さら復縁を願われても、もう遅い。
捨てられたのではない。
もう必要のないものを、こちらが手放しただけ。
公爵令嬢は知らなかった——婚約者の贈り物が、全て別の令嬢から奪ったものだと
歩人
ファンタジー
公爵令嬢マルガレーテは幸せだった。
身分違いの婚約者ヴィクトルは誠実で、贈り物はいつも心がこもっていて、
「君のためなら家格なんて関係ない」という言葉を、疑ったことなどなかった。
——全てが嘘だった。
裁判所から届いた書類を読んだとき、マルガレーテは初めて知る。
あの美しい宝飾品も、珍しい書籍も、異国の織物も。
全て、彼が「道具」と呼んだ侯爵令嬢の家から横領した金で買われたものだったと。
「私も、利用されていたのね」
「道具だった」の番外編。騙された側から見た、もう一つの真実。
婚約破棄されたので、未来で私を狂わせる男を幼少期から囲い込みました ――育てたはずが、先に堕とされたのは私でした
由香
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢エリシアは思い出す。
――数年後、自分を狂おしいほど愛し、決して離さない男の存在を。
だが今の彼は、名もない孤児の少年。
「なら、私が育てればいい」
優しさも、知識も、触れ方も。
すべてを“自分のために”教え込む。
けれど——
「触れていいのは、あなただけです」
成長した彼は、甘く囁きながら距離を詰め、
逃げ場をひとつずつ奪っていく。
これは、未来の溺愛を先取りしたはずの令嬢が、
自分で育てた執着に絡め取られる物語。