「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ

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夜空を切り裂き、ヴァルガドと共に飛ぶ。
冷たいはずの風が、なぜか心地いい。

「……空、綺麗」

「これが“自由”だ。お前が取り戻したものだ」

背中を包む強い腕に、胸が高鳴る。

――捨てられた私を、拾ってくれた人。

いや、拾ってくれた竜。

(……どうしよう。もう恋しちゃってるかもしれない)

だってこんなに優しく、真っ直ぐに私を見つめてくるなんて。

「リリアーナ。寒くないか?」

低い声が耳元をかすめ、背筋が震えた。

「……すこし、ドキドキしてます」

「高度があるからな」

「違います!」

思わず叫ぶと、ヴァルガドがくつ、と笑った。

「告白なら地上で聞くつもりだ」

「こ、告白なんてっ……!」

「嘘は感情で――」

「わかった!認めるから黙ってっ!」

顔が熱い。
けれど、そんな私を愛おしそうに見つめるその視線が――また心を揺らす。





辿り着いたのは、北方の聖域だった。

古代遺跡のような神殿。結界に守られ、何百年も人の手が入っていない場所。

「ここなら誰にも邪魔されぬ。お前の力を鍛えるのに最適だ」

「でも、ヴァルガド……ここ、あなたの住処なのでは?」

「そうだ。だからこそ安心して眠れる」

……それってつまり、私がここに住むってことで?

(同棲……!?)

一気に胸が苦しくなる。

「な、なら、部屋とかベッドとか……」

「当然、一緒だ」

「いっしょ!?!?!?」

私の叫びに、ヴァルガドは首を傾げる。

「なぜ驚く? 竜にとって“契約者”とは伴侶と同義だ」

「は……はんりょ……?」

耳がおかしくなったのかと思った。

(ちょっと待って!? プロポーズすっ飛ばして結婚!?)

気を強く持て、リリアーナ。

「ええと……あの……普通、人間には順序というものがありまして……」

「ならば従おう。“告白”の後に“求婚”だろう?」

顔が燃える。

(落ち着いて私……この人は竜で、人間の恋愛文化に詳しすぎて……逆に困る……)

ヴァルガドは私の頬に触れた。

「嫌か?」

「嫌じゃ……ないです……」

むしろ、誰よりも欲しい。

その答えに、彼は満足げに私を抱き寄せる。

「ああ……愛おしい聖女よ」

心臓が破裂しそう。

このまま、触れられたら……もう――

「……!」

その時。
神殿の外から、魔力の反応。

「ヴァルガド!! 追っ手が!」

彼は舌打ちし、私を庇うように立った。

「ここまで嗅ぎつけたか。早すぎる」

結界を破り、兵たちが雪崩れ込む。

その先頭には――アレクシスとミレイユ。

(来た……!)

アレクシスは怒りに歪んだ声で叫んだ。

「リリアーナ! よくも勝手に王都を出たな!!」

「勝手に? “いらない”って言ったのは……アレクシス様でしょう?」

冷たく返すと、彼は一瞬怯んだ。

だがミレイユが泣き真似をしながら腕に縋る。

「アレクシス様ぁ……怖いです……! あの女、私たちに嫉妬して……!」

「黙れ」

「えっ……?」

アレクシスがミレイユを振り払った。

「リリアーナ、頼む。戻ってきてくれ。あれは……言い過ぎだった。俺は気づいたんだ。お前こそ――聖女だったのだろう?」

いまさら気づいても遅い。

「……王太子妃の座が惜しくなったんですか?」

「違う! お前が必要なんだ!」

「私は、必要とされる人のところに行きます」

迷いなく告げると、ヴァルガドが私の腰を抱き寄せ、支配するように宣言した。

「リリアーナは私の伴侶だ。お前たちごときに触れさせはしない」

「ば、伴……侶……?」

アレクシスの顔が引きつり、青ざめる。

ミレイユが叫んだ。

「嘘よ! リリアーナなんて無属性の役立たず……!」

「無属性……?」

私は指を鳴らした。

瞬間、炎の柱が立ち上がり、続けて氷の槍、風刃、雷光、大地の隆起、水の奔流、さらに光と闇が踊る。

八属性すべてが一斉に出現し、辺りを飲み込む。

「きゃああああ!!」

ミレイユは尻餅をつき、震える。

「ま……全属性……? そんなの……神話の中の……」

アレクシスは膝をつき、ただ呆然と呟いた。

「ありえない……リリアーナ、お前が……」

「私を“いらない”と言ったのは……そちらです」

かつて愛した人に背を向ける。

胸の奥が少し痛かった。

でも、すぐにヴァルガドの腕が抱き締めてくれる。

「もう振り返るな。お前は前だけを見ていればいい」

「……はい」

ヴァルガドが片手を振ると、大地が震え、兵たちが吹き飛ばされた。

「帰れ。次は容赦しない」

アレクシスは悔しげに歯を食いしばりながら撤退する。

ミレイユは泣き叫びながら引きずられた。

その背に、私は小さく告げた。

「ざまぁみろ」

胸の奥が、少しだけ晴れた。





アレクシスたちが去った後、ヴァルガドは私を抱き上げ、そのまま神殿の玉座へ。

「リリアーナ。私は――お前を愛している」

あまりにも真っ直ぐで、逃げ場がない。

「……私も、あなたが好き」

やっと言えた言葉に、ヴァルガドの目が細められた。

そのまま、顔が近づく。

唇が――触れそうで。

「……っ」

「怖いか?」

「怖くない。でも……ドキドキが止まらないの」

「なら、慣れるまで何度でもしよう」

耳を噛まれ、息が漏れる。

「ひゃっ……!」

「可愛い声だ。もっと聞かせろ」

身体ごと押し倒され、瞳が絡む。

「リリアーナ。誰にも渡さない」

「……渡りません」

唇が――触れた。

甘くて、熱くて、溺れそう。

私の唇を離さないまま、ヴァルガドが囁く。

「愛してる。私の聖女」

(あぁ――幸せって、こういうことなんだ)

でも、この幸せの影には。

――まだ、ざまぁの続きを求める声が王城に渦巻いている。

そして。
私の力を利用しようとする、もっと大きな“敵”の影が迫っていた。

ヴァルガドの腕の中で、私は目を閉じる。

(絶対に負けない。私を捨てた人たちに、もっと後悔させてやる)

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