『天女伝:日本版悪役令嬢なんてごめんです!』~真田幸村の婚約者という悪役令嬢ポジを回避して、幸せ実家生活を満喫します!~

海(カイ)

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第零章 天女の始まり

33 陰陽師(1)

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「陰陽師?」
「うん。そう言ってた…。」

 太陽が少し西に傾きだした頃、涙の落ち着いた妖の口からそのワードが出てきた。妖、もとい二郎坊はずいぶん徳に懐いたようで、涙が引いた後も徳の側にピタッとくっつき離れない。

「別におれは何も悪いことしてない。人間は嫌いだったけど、今まで人間とは関わりなく山の奥で過ごしてたんだ。…でも、あの日あいつらが急に現れて…――。」






◇◇◇◇◇◇◇◇




「そなたがこの山の主か?」


(……人間?おかしいな、全く気配が無かった…。)




「…だったらなんだ。お前ら人間が来るような所じゃない。帰れ。」
「そうはいかん。我は陰陽師、安倍吉明あべのよしあきら。危険な妖は排除する。」
「…っ!」




◇◇◇◇◇◇◇◇






「――…そう言って、陰陽師が連れてきた人間が弓や刀で襲ってきたんだ…。ただ単に、それだけの攻撃ならおれも何とか出来るけど、あの陰陽師、不思議な力を使うんだ。」
 無意識なのか二郎坊の握った拳に力が入り、泣き止んだばかりの瞳に再び水の膜が張りだした。


「不思議な力?」
 思わず徳は二郎坊の頭を撫でながら質問をする。静かに撫でられている二郎坊はさらに徳に甘えるように腕に縋りついた。
「うん…。急に動けなくなるんだ…。」
「…動けなくなるとはどういう事だ?」
「おれも、よく分かんないんだけど、身体が固まったみたいに本当に急に動けなくなるんだ…。」
「…それだけの情報じゃあまりわからないな…。」
「でも!本当の本当にそうなんだ!嘘じゃない!」
「誰も君が嘘をついているとは言っていないだろう。」
「え…?」
「…はぁ。…で、その陰陽師とやらは、そのあとどうなったんだ?」
「…なぜだかわかんないけど、一瞬だけ身体が動くようになったから、その隙に逃げ出した…。途中まで追いかけられてたけど、うまくかわして逃げてたから…、そのあとあいつらがどうなったのかは分かんない…。」
「…そうか…。話は分かった…。陰陽師、安倍吉明あべのよしあきらか…。聞いたことはないが…。まぁ、調べてみるか…。」
「……おれの話信じてくれるの…?」
 信繁の発言に目を見開き、驚いた表情を浮かべる二郎坊。その様子に信繁も首をかしげる。

「嘘をついているのか?」
「嘘じゃない!」
「まぁ、…だろうな。…で、君は今後どうするんだ?その陰陽師とやらは話を聞く限り、君がその山にいることを知っててわざわざ会いに行ったみたいだが。」
「……本当は愛宕山あたごやまの太郎坊のところに逃げようと思ったんだ。でも、逃げてたらあんたらと会った森に着いてて…。」
「あ?愛宕山あたごやまってあの愛宕山あたごやまだろ?通り過ぎてるぜ?」
 静かに話を聞いていた才蔵が遠慮なく口をはさむ。猿飛兄妹が白けた視線を向けた。

「おれだってわかってるよ!でも、あいつら引き連れたまま太郎坊のところに行けないじゃないか!」
「その太郎坊とやらは、君とはどういった関係だ?」
「太郎坊は同じ天狗の仲間。おれの兄ちゃんみたいなもん…。」
「天狗ぅ!?…お前、あの犬の身体に真っ赤な人面で鼻がめちゃめちゃ長いって言われているあの天狗か!?」
「才蔵うるさいぞ。」
「だってお前!あの天狗だぞ!人間を喰うって話じゃねーか!」
「っそんなもん喰わん!人間はそうやって勝手に決めつける!お前らなんか喰ったら腹下しをおこすわ!」
「んだと!それもそれでなんか腹立つぜ!」
「もー、うるさいよ。お宅ら。」
 話を受け入れてくれたためか、ただ単に話をして落ち着いたのか、徳の傍を離れようとはしないものの二郎坊は初め合った頃のような警戒は今は見られない。
 徳は自身の左腕をぎゅっと握っている幼稚園児程にしか見えない妖を覗き込む。

(――…こんな小さな子が襲われて、一人逃げていたなんて…。)



「はぁ…。お前ら、うるさい。黙れ。」
 胡坐をかき、片膝についた肘に頭を預けていた信繁がやや大きな声で各々の発言を静める。同時に徳の思考も中断された。

「とりあえず、その陰陽師とやらに警戒はするべきだな。君はこの屋敷にいるのがいいだろう。…そいつ、君のことを追っているんだろう?」
「…多分…。でも、なんで…?あんたら人間だろう?」
「…無意味に他人を攻撃するのは好きじゃない。」
「とか言っちゃってー!主様、姫さんと二郎坊が心配なんでしょー?」
「…沈めるぞ佐助。」
「え…こわっ。何処に…?」
「…。」













「本当にいいの?…おれ、妖だよ?」
 恐る恐ると言った様子で二郎坊がぽつりとつぶやく。信繁は佐助と、千代は才蔵と話(片や喧嘩口調だが)をしているため、二郎坊の声は徳にしか届いていない。

「…妖も人間も、困っているときは関係ないんじゃない?…きっと、信繁様もそう思ってるんじゃないかな。」
「……変な人間。」
「ふふふ。そうかな?二郎坊君も人間が嫌いって言ってたのに、私たちに気を許してくれてるじゃない。同じだよ。」
「…………徳が…。」
「…?」
「…徳が、少しだけ太郎坊に似てるんだ…。」
「え”?」
(…て、天狗に?……しかも、太郎坊って名前からして、…男、だよね…?)


「あ、見た目じゃないよ。その、雰囲気とか、滲み出てる力が。」
「あー…、なるほど…。って、え…?」
「心地いい不思議な力を感じる。徳ってさ、もしかして…――。」
「というか、腹ねらねぇ?俺滅茶苦茶腹減ったんだけど。」
「あっ!ごめんなさいっ!朝餉の用意っ…!」

 太郎坊との会話は、才蔵の大きな声で遮られた。寝坊してしまったがために、朝食の用意をしそびれた徳は焦る。
「すいませんっ、信繁様もお腹すいてしまいましたよね…っ。」
「いや、大丈夫だ。それに、俺はこれから少し用があるから屋敷を離れる。二郎坊と大谷の姫は屋敷から出なるなよ。」
「あ、はい…。」
「二郎坊、お前ももう少し身体を休めておけ。傷は万全じゃないんだろう?」
「…。」
 信繁が二郎坊の頭を撫でる。二郎坊は何も言わなかったが、嫌がりもしなかった。

「じゃあ俺は行ってくる。佐助、屋敷を頼んだぞ。」
「はいよ。ってか、本来なら俺も主様と同行しないといけないんだけどね。」
「いつものことだろう。じゃあな。」
「はいはい。」

 佐助と軽く会話を交わして信繁は部屋を離れた。二郎坊はその信繁の後姿を見つめる。直後、才蔵の大きな腹の虫が鳴り、徳は千代に止められながら急いで台所へと向かった。
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