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八話
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しおりを挟む「俺はこれから先ずっと、凪のそばにいたいと思った」
彰都の家の話を聞いていたはずが、出てくる自分の名前に混乱する。
「……どういう意味」
と、あまり考えもしないまま僕は言った。自分の鼓動が少し速度を上げる。
「将来のことを想像すると、いつも凪のことが浮かぶ。高校を卒業して、お互いどんな進路に進んだとしても、俺は凪と出来るだけ一緒にいたいと思う」
「……」
「もし、友達のままではいつかそれが叶わなくなるんだとしたら、俺は、凪と付き合いたい」
彰都の言葉を頭の中で反芻した。「本気?」と口に出しそうになって、「真面目な話だ」と言った彰都の声が再び脳内に流れる。
僕は思わず、鼻で笑った。
窓の外を見る。一瞬目を離した隙に、空はまた暗くなっている。少しの間それを見ていると、視界が急にちらちらと微かに明滅した。頭上にある蛍光灯が点滅したのかと思いながら、彰都へ視線を戻す。
当然のように彰都は僕を真っ直ぐに見ていた。どうしようもなく逃げ出したいような気持ちになって、僕は少し視線をずらす。
「……急な、話すぎて」
「そうだな。だが、……嘘じゃない」
そんなことはわかっていた。だから思考が追いつかないし、逃げたかったのだ。
それでも僕はなんとか考えを巡らせた。向き合わなければいけない出来事というのは突然やってくるものだということは理解していたし、この瞬間がそういう時なのではないかとも思った。
けれど、思考の中には自分でも整理のつかない感情が散らばったままで、放置していたそれをまとめることは出来なかった。少し投げやりになった気持ちが口を衝いて出る。
「……僕のこと、全然知らないくせに」
少しの沈黙のあと、彰都が口を開く。
「ひとりだって、言っただろう」
僕はちらりと視線を上げる。彰都は続ける。
「今年の春に話した時だ」
「……そうだっけ」
母さんから両親の話を聞いた春、僕はそれを彰都だけに話した。
母さんが産みの親ではなかったこと。血の繋がった母親は僕が生まれたときに亡くなったこと。
死んだと聞かされていた父親が、実は生きていること。
母さんに対しての感情がとくに変わらなかったのは事実だった。というよりも、現実味がなかったと言った方が近いのかもしれない。もちろん戸惑いはあった。けれど僕にとっての母親は間違いなく母さんで、「生みの親」がいると言われてもピンとこなかった。
それよりも僕が引っ掛かったのは、父親のことだ。
死んだとだけ聞かされていた父親が、本当は生きている。これには戸惑いよりも疑問が大きかった。なんで死んだなんて嘘をつかれていたのか。なんで僕は父親に引き取られなかったのか。
なんで。
自分の中で辻褄が合うような答えは、一つしか出なかった。
僕は、父親に捨てられた。
それを初めて思ったとき、自分の感情がどんなものだったか明確にはもう思い出せない。悲しかった、のだろうか。そんな思いもあったような気がする。彰都にどんな風に話したのかも忘れてしまったけれど、自分は一人だ、なんてことを口走ったらしい。
けれど今になって思い出せるのはそんな感情を踏み潰すような、苛立ちだけだ。
自分でも、なんで会ったこともない父親にこんなにも怒りを覚えているのだろうかと思っていた。
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