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十一話
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しおりを挟む春になって、僕は三年に進級した。
進級初日から「最後の一年を悔いのないように」という教師の言葉をすでに何回か聞いているけれど、いまいち実感が沸かない。
部活を頑張ったわけでもなく、行事を頑張ったわけでもない。学校のために生徒会活動に携わったわけでもなく、クラスのために役員をやったわけでもない。そういうものを努力してきた同級生は、きっとこの一年でさらに努力をする。悔いの残らないように。
「次の模試も気抜くなよ。あと、数学の凡ミス」
「はい」
「まあ、この調子なら問題ないよ。じゃあ次……、望月呼んでくれる?」
三年になって初めての進路面談は淡々と終わった。二年と同じ担任に当たり、変な緊張をする必要もなく、弱い教科も知られている。微笑む担任に軽く頭を下げ、進路指導室を出た。
「……悔いの、……残らないように」
放課後の静かな廊下に自分の独り言が落ちる。それを踏みつけるようにもたもたと歩く。
高校生活が終わるとき、後悔するようなことがあるのなら僕にとっては何だろう。
教室に戻ってドアを開けると、面談の順番待ちのために残っていた何人かが顔を上げた。ほとんどがすぐに机上へ視線を戻し、彰都だけが僕と目を合わせる。高校で彰都とクラスが一緒になったのは初めてのことだった。中学では三年間同じクラスだったので、こんな風に毎日教室で彰都と顔を合わせていると、ふと自分が中学生のような気分になってしまう瞬間がこの一か月で何度かあった。
「次、彰都だって」
「早かったな」
「まあ、そんな喋ることもないし」
「良いことだな」
潜めた声でそう言ったあと、彰都が僕に微笑みかける。
「じゃあ終わるまで待ってるから。いってらっしゃい」
「教室に居るか?」
「うん。……あ、待って。やっぱり花壇、行こうかな」
「わかった」
彰都が教室を出て行くのを見送って、僕は荷物をまとめた。そして僕も教室を出ようとしたとき、ドアの手前で呼び止められる。
「凪」
他の誰にも聞こえないような小さな声に顔を向けると、卓が右手を上げてひらひらとそれを振っていた。
「また明日ね」
「……うん」
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