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十五話
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しおりを挟むそんな僕を見る先生の瞳と視線がぶつかって数秒、短い沈黙に何故か鼓動がどんどんと速度を増す。
「彼女の妊娠がわかってすぐに、あいつはバイトを辞めて、別の仕事を始めたんだ。彼女にはもう一度教育の道を勧められたらしいし、本人もどこかで後悔してたのかもな」
「……」
「と言っても、結局教師にはならなかったけどな。高校で、用務員になったんだ」
「……」
「今はこの学校で働いてる」
眩暈がしたのは、多分、瞬きするのを忘れていたせいだと思う。
「用務員の日比野は、お前の父親だ」
ようやく目を瞬くと、じりじりと目の奥が痛んだ。
思考が散らかっているのか、それとも空っぽになっているのか、自分でもよくわからない。先生が口にした言葉の意味は理解できているはずなのに、自分にはまるで関係のない他人事を聞いているような感じがした。
……なんで。
そう口に出したつもりだったけれど、漏れたのは息だけで声は喉の途中で詰まってしまっていた。力が抜けてしまいそうな足で僕は数歩後退りをして、何も言わないまま先生に背を向ける。
「川瀬」
後ろから聞こえた声を無視して、美術室を出た。思考が止まったまま校門までたどり着き、小雨の中を傘も差さずに歩いていく。
駅までの道を半分ほど進んだところでようやく、頭の中でじわじわと思考が動き始めた。浮かんできたそれは、ほとんど憤りじみた疑問だった。
母さんはどうして、日比野さんが父親の友人だなんて嘘を吐いたんだろうか。
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