白に憧れても

夏木ほたる

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十八話

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「……」
「望月と喋って、なるほどねって思った。凪が甘えたがりで我儘なのは、こいつと一緒にいるおかげだって。あのね、普通、好きで付き合ってる相手にセフレが居ること解った上でそれを容認する奴なんか、滅多にいないんだよ。凪とあいつがどういう取り決めにしてるのかとか、細かくは知らないけどさ、もしおれが望月の立場だって考えたら、セフレなんて絶対許さない」

 記憶の中で、去年の出来事が浮かび上がる。夏祭りの夜に公民館のトイレで見た彰都の瞳を思い出していた。

「凪にも絶対怒りたいし、セフレなんか殴り飛ばしたい。だから望月に声かけられた時、とうとう殴られるんだと思った。……なのにあいつ、なんて言ったと思う? 実際は、会うのやめろなんて風には言われてない」

「……彰都、なんて?」
「頼むって言ったんだ。セフレなんかのおれに、頼むって。それだけじゃないよ。凪に内緒でこんな風に言うのはズルだと思うけどってさ。我慢したような顔して、本音じゃおれのことが邪魔だって思ってるくせに。ムカついてんなら、許せないなら、そう言えばいいのにさ。罵倒の一つもしなかった。いつか嫌味でも言ってやろうって思ってたけど、そんな気も無くなっちゃった。だって、馬鹿みたいに真剣な目してんだもん」

 彰都は、いつだって真剣だ。

――俺が三原の話をしないからって、気にしてないと思ってるか。
――正直言うと、ずっと、気にしてる。

 それは僕も知っているはずだ。

「凪はさ、あんな奴と付き合ってて、何を不安になることがあるわけ? 傍から見れば、凪は幸せだよ」

 散らかりっぱなしの考えが喉を通り抜ける。

「……わかんないんだ」
「何が?」

「付き合うってなんなのか、ずっとわかんなくて……。彰都は僕と、友達のままじゃ駄目だって言った。けど、僕は、わざわざそうする理由がわからないって、付き合うことになっても今までと何も変わらないって言ったんだ」
「じゃあ凪は、望月が誰かのものになっても平気ってこと?」

 彰都が僕なんかじゃなく、他の誰かと普通に付き合って、結婚して、子供をつくって、家族になって、あの店を続けていく。そういう未来を僕は何度も想像した。

「……彰都にとっては、その方が幸せだと思う」

 卓は少し眉を寄せる。

「なにそれ。望月の幸せは全部凪が決めてんの」

「そういうわけじゃなくて、僕はただ、彰都のために」
「は、違うでしょ」

 そう言って卓はこっちへ一歩踏み出した。僕はそれに合わせるように後退る。心の中になにか嫌なものを感じながらも、目の前で苛立ったような表情を浮かべる卓に視線を返した。

「……」

 卓は裸足のまま玄関に降りて、詰め寄られた僕は背中がドアに当たるまでさらに後退りをする。

「……あいつに抱かれることばっかり想像してるくせに」
 
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