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十九話
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しおりを挟む「俺が後悔するって、なんで凪が決めつけるんだ」
「だって……、それは……」
口ごもる僕と対照的に、彰都ははっきりとした口調で言う。
「俺は、凪と居る時間が一番幸せなんだ」
「……」
「これだけは譲れないぞ。凪がなんと言おうと、俺の気持ちは変わらない。……凪は、俺と別れたいか」
真剣な目をした彰都に、僕はたじろいでしまう。
「今こうして俺と居るのが嫌だって言うなら、そうするよ。もしもの話とか、俺の将来の想像とか、そういうのは全部置いといて、それでも凪がそう言うなら」
彰都は半ば意地になっているようだったし、僕も僕で強情を張って言葉を返せないまま、少しずつ強くなる雪の中で何秒間かお互いの目を見詰め合った。
僕がそんな風には言えないことを、彰都はわかっているような気がした。あらゆる考えを全て投げ出して、はっきりと首を振ってしまえたら。僕だってそう思う。いつもの時間に駅で待ち合わせをして、なんでもない話をしながら一緒に学校へ行って、放課後は彰都の部活が終わるのを待って、一緒に帰る。そんな毎日を続けられたのは、隣に彰都が居たからだ。そして、それをいつまでも続けていられるなら良かった。
でも、僕たちはどうしても大人になってしまう。
「……もしもの話ばっかり考えてるわけじゃ、ない」
僕は。
「……お店はどうするの」
僕は本当にずるい。
「僕と居たら、いつか彰都の家は……お店は、どうなるの」
突きつけた言葉に、彰都は眉を寄せる。
意固地になって彰都の一番困る話を持ち出したのが半分、残りの半分は、本当にその答えを知りたいという気持ちだった。
彰都は口を開いて「それは」と声を出したけれど、続きは途切れてしまう。
でも、すぐに息を吸い込み直して彰都は言った。
「今ははっきりとそれには答えられない」
「……」
ばくばくと自分の心臓が大きく脈を打つ。合わせたままの彰都の視線に、僕の心の奥まで見透かされている心地だった。
「ずっと、うちのこと考えてくれてたのか?」
何も言わない僕に、彰都は続ける。
「それって、この先も俺と一緒に居るって、考えてくれてたってことか?」
「……」
「黙ってたら、そういうことにするぞ」
煩い心臓の音と彰都の声がごちゃ混ぜになって、手のひらをさらに握りしめる。
頷いてしまえ。
そんな感情を抑えつける。細かいことなんか考えるのはやめてただ彰都と一緒に居ればいいんじゃないかという気持ちと、そんなことをしては駄目だという気持ちが、絡まり合って解けなくなっていく。
しばらく沈黙が続いたあと、彰都は僕の頭に手を乗せた。反射でびくりと反応した僕に構わず、彰都はその手で僕の頭に付いた雪を払っていく。肩の雪も同じように払ってから、僕の首に垂れ下がっていたマフラーをそっと巻き直す。
「……寒いな」
彰都がそう言って、こんな時だけ僕は「うん」と返事をする。
「今日はもう帰るか」
その言葉に僕はようやくブランコの鎖から手を離した。
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