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二十二話
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しおりを挟む凪へ
あなたにこんな形で手紙を書くことを許してください。この手紙を読んでいるのなら、あなたはもう千春から話を聞いたと思いますが、私はあなたのことを千春にお願いした母親です。
初めに謝らなければいけません。こんなことをしてしまって、ごめんなさい。
全てを隠したままにした方があなたにとって幸せなんじゃないかと、ずいぶん悩みました。でも、どうしても伝えておきたいことがあってこうして手紙を書いています。
今、私のお腹の中にはあなたがいます。お医者さんの話では、私はあなたに会うことが難しいかもしれません。もちろん希望を捨てたくはないけれど、万が一のことを考えて、一番信頼している友人である千春に、もしも私がいなくなってしまったら代わりにあなたのお母さんになってほしいとお願いをしました。
それから、あなたの父親の話をします。
少し前に、あなたのお父さんと海を見に行きました。寒くて体が冷えるからと止められたのですが、わがままを言って連れていってもらったのです。
秋の終わりの海は、言われた通りに寒くて、短い時間しか見られませんでしたが、それでも私はあの日の海を忘れられません。
海はとても大きく、波は静かでした。
あなたにも見せてあげたいと、叶うのなら隣で一緒に見たいと、思ってしまうほどに。
子どもの名前は「凪」にしよう、と。海を見ながらお父さんが言いました。
実は名前には長いこと二人で悩んでいて、いくつかの候補からまだ決められずにいました。凪という名前をお父さんがいつ考えたのかはわからないけれど、私が聞いたのはそれが初めてでした。でも、ふしぎと、今まで悩んでいたどの名前よりも、素敵だと思いました。
海からの帰り道で、お父さんは言いました。あの海のように大きく、穏やかな子になるよ、と。
あなたの父親は、少しだけ、自分の感情に振り回されやすい人です。けれど、本当に、優しい人です。
凪。あなたの名前を呼んであげられなくてごめんね。
凪。あなたの手を握ってあげられなくてごめんね。
凪。あなたを、抱きしめたい。
私とお父さんのところに生まれてきてくれて、本当にありがとう。とても身勝手で、あなたには恨まれてしまうかもしれないけれど、私はあなたを授かることができて後悔はありません。
私も、それからお父さんも、いつでもあなたを見守っています。なにか辛いことがあったら、千春や、周りの人に相談してね。あなたはきっと、一人じゃない。
大丈夫。あなたは優しい子です。
本当に、ありがとう。
白に憧れても 完
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