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終章:エンドレス・シスターズ・ウォー
エンドレス・シスターズ・ウォー①
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「認めよう。貴様は、俺が今まで手合せしてきた者のなかで、最も手ごわい男だった」
「あん?」
デネブは、冬史朗の首に添えた剣をぴくりとも動かさず、話し始めた。
「我々の世界では、こうして異世界、まぁ貴様らからしたら俺様たちが異世界人なんだろうが、ともかく、こうして異世界を侵略し領土広げてきた」
「迷惑な話だなそりゃ」
さすがの冬史朗も本物の刃物を前に動くこともできず、ひやり、と汗がしたたり落ちる。美花は目の前の光景に体を硬直させたまま、冬史朗の服を握りしめた。
「・・・ふん、貴様らも生き物を殺し、そうして生きてきただろう?」
デネブは剣を握る力を強めた。
「俺様の父君、つまり以前の王は歴代でも最強の力を誇り、その並外れた力で背我々の世界を広げていった」
「以前・・・? お前、それじゃ今は」
「ああ、多くの世界の住民たちの呪いを受けるかのように、ある日突然病で死んだ。・・・今は王の席は不在、そして俺様の肩に世界の全てが任されている」
「なるほどな。ま、それとこれとは関係ないんじゃねーか? 俺たちの可愛い可愛い妹を懸けた、妹グランプリには」
冬史朗は少しだけ体制をデネブに向けると、恐る恐るではあるが、剣を指差した。
「俺様にとっては初めての侵略だ。簡単に、負けを認めるわけにはいかない」
「妹グランプリに関しては俺のほうが優れてるってことは、内心わかってるってことか」
「まぁな」
「それで、強行突破で俺をねじ伏せて、勝とうって事か? そそ、それはお前、どうなんだ未来の王様として!」
「そうだとしたらどうする?」
「どうするも何も、お前、それは卑怯ってもんだろ!! お前の事、ちょっとは見直してきてたのによ・・・」
デネブも、本心は同様だった。
幼いころから未来の王として生活を制限されてきた。生まれ持っての才能もあり、何をやっても一番だった。だがそれは同時に、力を競い合える、楽しみあえる、そんな相手に巡り合えず、ぶつかり合うことを知らずに生きてきたことでもあった。
わずか3日間ではあるが、怒り、笑い、そして初めての敗北を味わいながら、同じ目線でぶつかり合ってきた冬史朗に、デネブは感じたことの無い感情を持ち始めていた。それがなんという感情なのかは、まだわからないが。
「・・・貴様に見直されたところで、俺様には関係の無い話だ。だが、ここで貴様に剣を振り落してすべてをなかったことにする、そういうわけではない・・・」
「ど、そういうこと、ですか?」
美花は、恐る恐る質問した。
「俺様に話しかけるとは、命知らずな女だな」
デネブは横目で、美花を見ながらすごむ。
「貴様に、選択肢をやる。いいか?これは貴様らの世界の命全てを乗せた選択肢だ」
「くだらねーことしか想像できんのだが、聞いてやろう」
「なんと答えるか、容易に想像がつくが、心して答えろ。今までの悪ふざけとはわけが違うと覚悟してな」
モニターの向こうでは、突然やってきた緊張感のある状況に、仲良くなった2つの世界の人々が、酒盛りをしながら息を飲んで注目している。
「貴様の命か、妹の命か、どちらか選べ」
「・・・そんなの即答で決まってるが、質問する意味あるか?」
「だろうな。いいか? お前にこの剣が振り落されれば、その時点で妹グランプリの勝敗は決まる。つまり、貴様らの世界の全ての命は消し去らせてもらう。・・・だが、妹に振り落すなら、お前らの勝ち、俺様、いや、我々は負けを認めて二度とこの世界に手は出さない」
「そんなっ・・・」
美花は息を飲み、冬史朗を見た。頬を伝う冷や汗を感じながらも、冬史朗はまっすぐと、そして、この3日間で初めて見せる真面目な顔で、デネブを見つめ返していた。
「面白いな。ひとつ教えてくれよ、王子様」
「なんだ? 命乞いという選択肢でも使ってみるか?」
「いいや? お前なら、お前なら同じ状況でどうするんだよ?」
脳裏に、一瞬いたずらな笑みを浮かべるベガがよぎる。デネブは、一度目を閉じると、その感情を押しこめ、剣を握る力を強めた。
「愚問だな。俺様はアルタイル王国、いや、我々の世界の民の頂点に立つ男だ。この意味が分かるか? 俺様は世界の命の上に立ち、同時に、すべての命を支えていく義務があるということだ。選択肢など無い。それが、頂点に立ち続ける、ということなんだよ」
まっすぐと冷徹に、だが、どこか儚げな眼で、デネブも冬史朗から目をそらさずに言った。
冬史朗は、大方の予想を裏切り、くすり、と笑いをこぼした。
「へへっ」
「・・・? なんだ、なにが可笑しい。この状況でなお、ふざける気か?」
「いいやー? そうじゃねーよ。 ただのカッコつけだな、と思ってさ」
「なんだと?」
眉間にしわを寄せる。雪の部屋には、ピリピリとした、何とも言えない空気が走った。モニターの向こうの観衆たちも、思わず互いに手を取り、その動向を見守った。
「俺には、お前の大変さも、辛さも、立場も分からない。だから自分勝手に決めさせてもらうけどな」
冬史朗は雪から片手を話すと、完全にデネブと対面する形で、立ち上がった。剣はぎりぎりのラインで冬史朗の首筋に傷をつけず、添えられたままだ。
「大切な、なによりも大切な妹の命ひとつ守れないやつが、世界なんか守れるかよ」
「・・・っ! それが・・・、貴様の答えでいいんだな?」
「知ってるか? 俺はただの冬史朗ってくだらない男だった時代はあっても、こいつが、雪が生まれたその日から、雪のおにいちゃんじゃ無かったことは一度もないんだぜ?」
沈黙。
凍てついた空気の中で、一瞬、デネブの目に光が宿ったように見えたが、すぐに消えた。美花は、それは勘違いだった、と思った。
重々しい空気の中、沈黙の後、デネブが口を開いた。
「もう一度、名を名乗れ」
「冬史朗。丘野下冬史朗だ。俺の可愛い妹のために、地球自体くれてやる変態バカ兄貴の名前だ一生覚えとけ」
「・・・冬史朗」
デネブは、初めて地球の、この異世界人の名を口にした。
「お前を、信じているぞ」
「?」
そういって、もう一方の手を剣の柄に添えると、音もなく、目にも止まらず、デネブは、冬史朗の首を斜めに一閃、切り裂いた。
雪の部屋には、息を飲み、言葉を失う美花の微小な音と、ゴトリ、と重たいものが床に落ちる、鈍い音だけが響き渡った。
「あん?」
デネブは、冬史朗の首に添えた剣をぴくりとも動かさず、話し始めた。
「我々の世界では、こうして異世界、まぁ貴様らからしたら俺様たちが異世界人なんだろうが、ともかく、こうして異世界を侵略し領土広げてきた」
「迷惑な話だなそりゃ」
さすがの冬史朗も本物の刃物を前に動くこともできず、ひやり、と汗がしたたり落ちる。美花は目の前の光景に体を硬直させたまま、冬史朗の服を握りしめた。
「・・・ふん、貴様らも生き物を殺し、そうして生きてきただろう?」
デネブは剣を握る力を強めた。
「俺様の父君、つまり以前の王は歴代でも最強の力を誇り、その並外れた力で背我々の世界を広げていった」
「以前・・・? お前、それじゃ今は」
「ああ、多くの世界の住民たちの呪いを受けるかのように、ある日突然病で死んだ。・・・今は王の席は不在、そして俺様の肩に世界の全てが任されている」
「なるほどな。ま、それとこれとは関係ないんじゃねーか? 俺たちの可愛い可愛い妹を懸けた、妹グランプリには」
冬史朗は少しだけ体制をデネブに向けると、恐る恐るではあるが、剣を指差した。
「俺様にとっては初めての侵略だ。簡単に、負けを認めるわけにはいかない」
「妹グランプリに関しては俺のほうが優れてるってことは、内心わかってるってことか」
「まぁな」
「それで、強行突破で俺をねじ伏せて、勝とうって事か? そそ、それはお前、どうなんだ未来の王様として!」
「そうだとしたらどうする?」
「どうするも何も、お前、それは卑怯ってもんだろ!! お前の事、ちょっとは見直してきてたのによ・・・」
デネブも、本心は同様だった。
幼いころから未来の王として生活を制限されてきた。生まれ持っての才能もあり、何をやっても一番だった。だがそれは同時に、力を競い合える、楽しみあえる、そんな相手に巡り合えず、ぶつかり合うことを知らずに生きてきたことでもあった。
わずか3日間ではあるが、怒り、笑い、そして初めての敗北を味わいながら、同じ目線でぶつかり合ってきた冬史朗に、デネブは感じたことの無い感情を持ち始めていた。それがなんという感情なのかは、まだわからないが。
「・・・貴様に見直されたところで、俺様には関係の無い話だ。だが、ここで貴様に剣を振り落してすべてをなかったことにする、そういうわけではない・・・」
「ど、そういうこと、ですか?」
美花は、恐る恐る質問した。
「俺様に話しかけるとは、命知らずな女だな」
デネブは横目で、美花を見ながらすごむ。
「貴様に、選択肢をやる。いいか?これは貴様らの世界の命全てを乗せた選択肢だ」
「くだらねーことしか想像できんのだが、聞いてやろう」
「なんと答えるか、容易に想像がつくが、心して答えろ。今までの悪ふざけとはわけが違うと覚悟してな」
モニターの向こうでは、突然やってきた緊張感のある状況に、仲良くなった2つの世界の人々が、酒盛りをしながら息を飲んで注目している。
「貴様の命か、妹の命か、どちらか選べ」
「・・・そんなの即答で決まってるが、質問する意味あるか?」
「だろうな。いいか? お前にこの剣が振り落されれば、その時点で妹グランプリの勝敗は決まる。つまり、貴様らの世界の全ての命は消し去らせてもらう。・・・だが、妹に振り落すなら、お前らの勝ち、俺様、いや、我々は負けを認めて二度とこの世界に手は出さない」
「そんなっ・・・」
美花は息を飲み、冬史朗を見た。頬を伝う冷や汗を感じながらも、冬史朗はまっすぐと、そして、この3日間で初めて見せる真面目な顔で、デネブを見つめ返していた。
「面白いな。ひとつ教えてくれよ、王子様」
「なんだ? 命乞いという選択肢でも使ってみるか?」
「いいや? お前なら、お前なら同じ状況でどうするんだよ?」
脳裏に、一瞬いたずらな笑みを浮かべるベガがよぎる。デネブは、一度目を閉じると、その感情を押しこめ、剣を握る力を強めた。
「愚問だな。俺様はアルタイル王国、いや、我々の世界の民の頂点に立つ男だ。この意味が分かるか? 俺様は世界の命の上に立ち、同時に、すべての命を支えていく義務があるということだ。選択肢など無い。それが、頂点に立ち続ける、ということなんだよ」
まっすぐと冷徹に、だが、どこか儚げな眼で、デネブも冬史朗から目をそらさずに言った。
冬史朗は、大方の予想を裏切り、くすり、と笑いをこぼした。
「へへっ」
「・・・? なんだ、なにが可笑しい。この状況でなお、ふざける気か?」
「いいやー? そうじゃねーよ。 ただのカッコつけだな、と思ってさ」
「なんだと?」
眉間にしわを寄せる。雪の部屋には、ピリピリとした、何とも言えない空気が走った。モニターの向こうの観衆たちも、思わず互いに手を取り、その動向を見守った。
「俺には、お前の大変さも、辛さも、立場も分からない。だから自分勝手に決めさせてもらうけどな」
冬史朗は雪から片手を話すと、完全にデネブと対面する形で、立ち上がった。剣はぎりぎりのラインで冬史朗の首筋に傷をつけず、添えられたままだ。
「大切な、なによりも大切な妹の命ひとつ守れないやつが、世界なんか守れるかよ」
「・・・っ! それが・・・、貴様の答えでいいんだな?」
「知ってるか? 俺はただの冬史朗ってくだらない男だった時代はあっても、こいつが、雪が生まれたその日から、雪のおにいちゃんじゃ無かったことは一度もないんだぜ?」
沈黙。
凍てついた空気の中で、一瞬、デネブの目に光が宿ったように見えたが、すぐに消えた。美花は、それは勘違いだった、と思った。
重々しい空気の中、沈黙の後、デネブが口を開いた。
「もう一度、名を名乗れ」
「冬史朗。丘野下冬史朗だ。俺の可愛い妹のために、地球自体くれてやる変態バカ兄貴の名前だ一生覚えとけ」
「・・・冬史朗」
デネブは、初めて地球の、この異世界人の名を口にした。
「お前を、信じているぞ」
「?」
そういって、もう一方の手を剣の柄に添えると、音もなく、目にも止まらず、デネブは、冬史朗の首を斜めに一閃、切り裂いた。
雪の部屋には、息を飲み、言葉を失う美花の微小な音と、ゴトリ、と重たいものが床に落ちる、鈍い音だけが響き渡った。
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