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第4章「天国と地獄の狭間で」
第4章第4節「天国と地獄の狭間で」
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一方で、イヴとラスヴェートは教会の中庭で初心な言葉を交わしていた。
「なぜ僕の名前を知っているんだい?」
二人が出会ったのは広場だったが、言葉を交わしたのは今が初めて。イヴがラスヴェートの名前を知っていたのは、第三者の存在があったからだ。
「ある人に聞いたの。あなたと初めて会った場所で」
イヴが出会ったのは、麗人と呼ぶに相応しい人物だった。中性的な容姿に軍服に似た絢爛な服装も、一度見たら忘れることはない。
「そうか、君もレンに会ったんだな」
彼はあの人物のことをレンと呼んだ。
「それがあの人のお名前?」
頷くラスヴェート。二人は知り合いなのだろうか。
改めて見ると、ラスヴェートはどことなくレンと似ている部分が多い。見目麗しい銀髪、中性的で整った顔立ち、貴族然とした服装。
イヴの目には不思議と二人の姿は重なって映った。
「そうだ、君の名も教えてくれないか?」
見惚れるような視線を向けるイヴに対して、ラスヴェートはイヴの名前を聞いてきた。レンから名前を教えてもらったイヴとは別に、ラスヴェートがイヴの名前を知る由もないのだ。
「わたしはイヴ」
「イヴ……君のような人とこうして話すのは、生まれて初めてだ」
距離を数歩詰めてくるラスヴェート。彼が近寄ってきても、イヴは後退りすることはなかった。不思議と嫌な気はしない。むしろ、彼から目が離せないほど。
「わたしもよ。なんだかドキドキするけど、嫌じゃないの」
レンと会話をした時もそうだったが、イヴにとってセツナ以外の人と話すのは新鮮で刺激的な時間だ。セツナ以外の誰からも認識される事のない孤独から解放される喜び。これまで味わってきた暗闇の中からすれば、些細でも大きな幸せになる。
イヴだけでなく、ラスヴェートも同じだった。
彼は嬉しそうにはにかみ、言葉を詰まらせている。二人は親以外の人と言葉を交わしたことがない。他愛のない雑談、とりわけ初対面における会話など縁遠いもの。
「綺麗だろ?」
苦し紛れに、ラスヴェートは視界に入った生垣を見て言う。彼らがいる中庭は、アトランティスの寂れた街並みの中でも一際緑が溢れている。彼の背後には、地面に植えられた白や青の花が咲き誇っていた。
「えぇ、とても素敵ね」
イヴが彼に倣って周囲を見渡すと、途端に新鮮な空気が胸へ入ってくる。体が風に洗われるような感覚。これが生きているということなのだろうか。
誰かと話し、息をする。当たり前のことができなかったイヴにとって今ほど幸せな時間はない。
すると、ラスヴェートは後ろを向いて地面に膝をついた。彼が手を伸ばしたのは、咲いている花のもとだ。彼は咲いている白い花に触れると、茎を持って簡単に摘み取る。が、茎を持つ彼の指は棘に傷をつけられ血を流していた。
「大丈夫?」
後ろから見ていたイヴが心配げに声をかけるも、ラスヴェートは気にしたふうでもなく返事をする。その間にも、彼の手の傷はみるみる内に再生していく。
「平気だよ。この庭は、僕が育てたんだ。これくらいいつものことさ」
中庭に花が咲いてるのは、誰でもないラスヴェートが手入れをしたおかげ。教会には専属の庭師もいたが、彼らは既にアトランティスにはいない。
一輪の白い花を摘み立ち上がったラスヴェートは、イヴの方を向きながら言った。
「君を初めて見た時から、ずっと贈り物を考えていたんだ。気に入ってもらえるといいけど」
イヴが小首を傾げていると、彼は白い花に向けて息を吹きかけた。
そして、風に乗って散らされた花びらはイヴの身体を覆い始めた。彼女の身体は花びらと光に包まれて、瞬く間に白く美しいドレスを織り成していく。
「わぁ……! とっても綺麗」
光を身に纏い、その場でくるりと回る。背中が大きく開いた白いドレスは、まるでウェディングドレスのよう。
彼女のどこか儚げな美しさに目を奪われ、ラスヴェートは小さく呟いた。
「あぁ。綺麗だよ、イヴ」
ラスヴェートはイヴの為に文字通りの魔法をかけたのだ。彼にとってそれが精一杯の気持ちを伝える方法。手段が何であれ、彼の気持ちは色褪せることなく彼女に伝わっている。
「なぁ、僕と友達にならないか?」
ドレスを身に纏って生まれ変わったイヴに、彼は改めて誘う。
「君のことをもっと知りたいし、僕のことをもっと知って欲しいんだ」
友達になりたい。
イヴを突き動かす原動力がそうであったように、ラスヴェートの根底にも純粋な欲求だけがある。
それさえあれば、二人を隔てるものなどもう何もない。
「わたしでよければ、わたしもあなたとお友達になりたい」
イヴとラスヴェートは、かくして運命的な出会いを果たした。
そう。
紛れもない運命であり、決して偶然などではない。
「なぜ僕の名前を知っているんだい?」
二人が出会ったのは広場だったが、言葉を交わしたのは今が初めて。イヴがラスヴェートの名前を知っていたのは、第三者の存在があったからだ。
「ある人に聞いたの。あなたと初めて会った場所で」
イヴが出会ったのは、麗人と呼ぶに相応しい人物だった。中性的な容姿に軍服に似た絢爛な服装も、一度見たら忘れることはない。
「そうか、君もレンに会ったんだな」
彼はあの人物のことをレンと呼んだ。
「それがあの人のお名前?」
頷くラスヴェート。二人は知り合いなのだろうか。
改めて見ると、ラスヴェートはどことなくレンと似ている部分が多い。見目麗しい銀髪、中性的で整った顔立ち、貴族然とした服装。
イヴの目には不思議と二人の姿は重なって映った。
「そうだ、君の名も教えてくれないか?」
見惚れるような視線を向けるイヴに対して、ラスヴェートはイヴの名前を聞いてきた。レンから名前を教えてもらったイヴとは別に、ラスヴェートがイヴの名前を知る由もないのだ。
「わたしはイヴ」
「イヴ……君のような人とこうして話すのは、生まれて初めてだ」
距離を数歩詰めてくるラスヴェート。彼が近寄ってきても、イヴは後退りすることはなかった。不思議と嫌な気はしない。むしろ、彼から目が離せないほど。
「わたしもよ。なんだかドキドキするけど、嫌じゃないの」
レンと会話をした時もそうだったが、イヴにとってセツナ以外の人と話すのは新鮮で刺激的な時間だ。セツナ以外の誰からも認識される事のない孤独から解放される喜び。これまで味わってきた暗闇の中からすれば、些細でも大きな幸せになる。
イヴだけでなく、ラスヴェートも同じだった。
彼は嬉しそうにはにかみ、言葉を詰まらせている。二人は親以外の人と言葉を交わしたことがない。他愛のない雑談、とりわけ初対面における会話など縁遠いもの。
「綺麗だろ?」
苦し紛れに、ラスヴェートは視界に入った生垣を見て言う。彼らがいる中庭は、アトランティスの寂れた街並みの中でも一際緑が溢れている。彼の背後には、地面に植えられた白や青の花が咲き誇っていた。
「えぇ、とても素敵ね」
イヴが彼に倣って周囲を見渡すと、途端に新鮮な空気が胸へ入ってくる。体が風に洗われるような感覚。これが生きているということなのだろうか。
誰かと話し、息をする。当たり前のことができなかったイヴにとって今ほど幸せな時間はない。
すると、ラスヴェートは後ろを向いて地面に膝をついた。彼が手を伸ばしたのは、咲いている花のもとだ。彼は咲いている白い花に触れると、茎を持って簡単に摘み取る。が、茎を持つ彼の指は棘に傷をつけられ血を流していた。
「大丈夫?」
後ろから見ていたイヴが心配げに声をかけるも、ラスヴェートは気にしたふうでもなく返事をする。その間にも、彼の手の傷はみるみる内に再生していく。
「平気だよ。この庭は、僕が育てたんだ。これくらいいつものことさ」
中庭に花が咲いてるのは、誰でもないラスヴェートが手入れをしたおかげ。教会には専属の庭師もいたが、彼らは既にアトランティスにはいない。
一輪の白い花を摘み立ち上がったラスヴェートは、イヴの方を向きながら言った。
「君を初めて見た時から、ずっと贈り物を考えていたんだ。気に入ってもらえるといいけど」
イヴが小首を傾げていると、彼は白い花に向けて息を吹きかけた。
そして、風に乗って散らされた花びらはイヴの身体を覆い始めた。彼女の身体は花びらと光に包まれて、瞬く間に白く美しいドレスを織り成していく。
「わぁ……! とっても綺麗」
光を身に纏い、その場でくるりと回る。背中が大きく開いた白いドレスは、まるでウェディングドレスのよう。
彼女のどこか儚げな美しさに目を奪われ、ラスヴェートは小さく呟いた。
「あぁ。綺麗だよ、イヴ」
ラスヴェートはイヴの為に文字通りの魔法をかけたのだ。彼にとってそれが精一杯の気持ちを伝える方法。手段が何であれ、彼の気持ちは色褪せることなく彼女に伝わっている。
「なぁ、僕と友達にならないか?」
ドレスを身に纏って生まれ変わったイヴに、彼は改めて誘う。
「君のことをもっと知りたいし、僕のことをもっと知って欲しいんだ」
友達になりたい。
イヴを突き動かす原動力がそうであったように、ラスヴェートの根底にも純粋な欲求だけがある。
それさえあれば、二人を隔てるものなどもう何もない。
「わたしでよければ、わたしもあなたとお友達になりたい」
イヴとラスヴェートは、かくして運命的な出会いを果たした。
そう。
紛れもない運命であり、決して偶然などではない。
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