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1章
⑥※(伊坂×優+アジュア/若干嘔吐描写/暴力/首絞め/本番有)
しおりを挟む相変わらず自由にならない身体。
背後には頭のネジが数本抜けた青年がいて上体を支えてくれている。白い腕が両端の視界にあった。大きく開かれた両足。妹の出産に立ち会わされて見せられた母の姿が重なる。発狂できるのであればそうしたかった。
さらに、駄目押しというように伊坂が目の前にいる。こちらは頭のネジが捻じ曲がっているような男だ。救いはない。
アジュアが片膝の裏に手を差し込み、足をもっと開かせた。わずかに身体がずり落ちてしまう。丸出しだ。さっきまで勃起していた性器も萎えているのが見えた。
だが、時間をかけて解されたそこは自身の精液などで濡れたままのようである。
「どうぞ」
色気のない動作でアジュアは窄まりに爪をかけて広げた。
「ありえなぅ゛おっ゛」
アジュアの指が口に突っ込まれた。片膝を固定している手はそのままだ。
「こういうのは雰囲気が大切です」
「ぅ゛う゛うう゛!」
言葉を封じられたついでに息も苦しい。
雰囲気なんてあったものではなかった。ただの強姦だ。泣いて喚いたところで人でなしの2人が止まるはずがない。そんなみっともない真似を優もするつもりもなかった。
「これはどんな状態ですか」
「マナで一時的に感覚と感情が分離しているような状態です。肉体的反応は可能ですがスグル様自身に自覚はない」
そういって足から手を離して乳首を抓ってみせる。
痛くはないが抓られ、引っ張られている皮膚が赤く変色していた。指を離すとゆっくりゆっくり戻っていく。
「ね? でも、ご安心ください」
アジュアは動かない伊坂の手を取って導いた。
男の手が赤く尖っているそこへ触れようとしている。完全に触れているわけではないのに身体の内側から発する熱が強くなった、ような気がした。目が離せない。
触れられることを期待している?
そんなはずがない。口端から零れる唾液が落ちていき、ふがふがと言葉にならない声で抗う。
ざわつく肌に男の手が触れようとする。その手で優は殴られた。髪を引っ張られた。目が離せない。「イサカ様が触れることによって」赤らんだ膨らみを指が撫でた。何もないはずだったのに、違う。優の脳は触れられたことを認知して口から単語を発する。「ぁづ」鈍かった感覚が突然戻ってきた。刺すような刺激に目を見開く。「徐々に症状が回復していきます」動きも自由になるということである。
「ぐぁ、い゛ぃ…っ……!」
当然に予想できたことだ。
だからこそ、それまで優はタイミングを伺っていた。逃げるタイミングが生まれるとすれば感覚を取り戻した瞬間だけだ。逃げてどうするといったような細かいことは後からでいい。
だが、優の認識は甘かった。
指先、爪の先がわずかに触れている。たったそれだけで呼吸が止まりそうだ。痺れが全身を駆け巡っている。腹の中に渦巻いていた熱が小さく爆ぜて、さらに大きい渦を作り出していた。
溢れる唾液は口を閉じることができないからではない。
犬のように興奮してしまっている。
『表現しがたいほどの快楽』に依存する者たち。
指の腹が乳首をぐっと押し潰す。感じたことのなかった痛みと熱が触れ合う肌から生まれる。感覚を取り戻しつつあるのだが一致していない。認識のズレに違う戸惑いが生じていた。
思考回路が一旦クラッシュする。嘔吐いたが口から出るのは透明な胃液だった。ろくに食べていないことがよかったのだろう。吐いたものでアジュアの服を汚したが嫌な顔一つしない。苦しいと気持ちいいが混じり合っている。
指が一旦抜かれる。今度は唇を上下に割り開かれた。
「粘膜での接触はより感覚を鋭くさせるそうですよ」
顔を固定されてしまっているので視線を上げた。
気づいたアジュアは口元の笑みを深める。だが、それも手のひらによって遮られて見えなくなる。顔面を鷲掴みにされた。目の下を親指と人差し指でぐっと開き、瞬きも許されない。アジュアの手は離れており押さえるように肩へと置かれていた。
「俺を見ろ」
血豆ができ潰れて新たな皮膚を再生する。それを繰り返したことにより厚くがさついた表面となっている手のひらにより口元まで覆われてしまっていた。鼻息が肌にぶつかる。
「見ろ」
伊坂と初めて視線がかち合う。
「俺を」
顔を押さえつけられたまま膝が折り曲げられていく。胸や腹部についてしまいそうだ。骨が軋んで痛い。でも触れられた場所が熱い。
瞼を閉じることが許されない眼球が乾いてきた。下腹部に押し当てられた硬い感触にはっとする。
足の指の感覚――は戻っていた。膝は抑えられて動かせない。腕はいける。動くようになった両手で男の首を捕まえた。苦しそうに歪む。一瞬手が離れて、それからまた顔を覆われて押し留められる。視界を遮られた。見えない。でも、首からは絶対手を離さない。真っ暗な視界で藻掻いた。蹴り飛ばそうとするが足首を掴まれて制される。荒い息遣いが二つ。膠着状態に陥りかけたとき、第三者の介入によって優は足の動きを完全に封じられてしまった。
そして、散々弄られたであろう後腔へ硬いものが押しつけられる。
何であるか言われなくても理解できてしまう。
強姦となれば普通は躊躇するものだがやはり狂っているらしい。男は無遠慮に優の中へと押し入ってきた。排泄する場所と思えば汚いとかそういった抵抗もあるだろうに清々しいほど迷いがない。
無防備だった肉壁は一気に緊張状態となり異物を締めつけた。出す場所だ。受け入れるように本来作られてはいない。しかし、アジュアの努力の賜物か硬くなっている伊坂の性器によって強制的に押し広げていってしまう。
腹の中に何かいる。最初はその程度だった。屈辱の輪郭は徐々に形を描いていき優を追い詰めていく。完全に男の腰が優の臀部と密着してしまうほどに埋められる。
視界が真っ暗なせいで一瞬意識を飛ばしたことがわからなかった。音が無くなってキーンと耳鳴り。覆われていた視界が解放されて溢れた光に瞬く。
「息をして」
噛みしめていたらしい唇を白い指がなぞる。かちかちと震える歯列に指が入ってきて呼吸を促す。
「ぁ――」
鼻や口から一気に吸い込んだ空気が肺に回る。深すぎるほどの呼吸で胸が大きく上下した。
殴られるような衝撃に堪らずアジュアの指を噛んでしまう。血の味が広がる。それでも噛んでいなければ喚き散らかしていたに違いない。
がたがたと震える手でシーツを握って叩きつける。
「ぁ゛あっああ!!」
どうにか指から口を離すと獣じみた声が出た。身を捩って横向きに悶える。ちらっと見えた性器からは精液が漏れ出ていた。自分の腕を噛んだ。血が出てもいい。痛いことで現実に引き戻される。
伊坂が動き出す。肉壁が性器を離すまいと締めつけているために出ていく動きに引きずられてしまう。内臓が飛び出る。全部持っていかれる。
伊坂の息も上がっていた。繋がることで同じように言い知れぬものを肌で感じているのだろう。
入口ぎりぎりまで引き抜かれて力任せに押し戻された。今度は口から何か出てしまいそうで息を飲む。出し入れをされると頭が真っ白になる。
ぬかるんだ肉壁を硬い性器で摩擦されるたびに身体が待ちわびたように震えてしまう。期待、なんてしていない。もっとなどと考えるはずがない。
頭の中を駆け巡る考えを振り払うように頭を振り乱す。
血と唾液に濡れたアジュアの指が胸を撫でた。
皮膚を寄せ集めるように乳首を抓り上げられる。何も感じなかったはずのそこが甘い痺れを生む。下半身と直結しているかのように抓られ、潰されると同時に精液が漏れ出ていた。痙攣する下腹部を片腕で抱く。でも収まらないで膨れ上がっていくどろどろとした熱の渦。「抗わなくていいんですよ」優しい声音が耳朶を打った。受け入れてしまえば苦痛はない。身を任せてしまえばあるのは快楽のみ。
飲み込めない唾液で腕を噛む歯が滑った。腕には歯型がいくつもできていて血が滲んでいる。そのぐらいしなければ我慢ができなかった。
「お前の中にいるのは誰だ」
気に食わなかった伊坂によって髪を掴まれて腕から引き剥がされてしまう。
犯されている事実を認識しろとでも言うのか。
突き当たりまで来ても奥へ進もうと遠慮なしに穿たれて吐きそうだ。胸糞悪い。でも、嫌悪感とは別のものがじわじわと優を責め立ててくる。
顔を背けようとするが前髪を鷲掴みにされて許されない。髪が数本千切れたようだ。触れられているだけで気持ちいいなんてことがあっていいはずがないのに……気を抜くと持っていかれそうになる。
優しさの欠片もない伊坂の行為を目にしてもアジュアは助けはなかった。
彼にとって優の命が繋がればよく、手段については正しさを求めていない。
「……っ、しるかば、ぁか」
近づいてきていた伊坂へ唾を吐きつける。
間髪入れずに殴られた。鼻が曲がったんじゃないかという激痛。目の前が点滅する。やり過ぎないようにアジュアがやんわりと伊坂を窘めた。でも止めてくれないのだからどこまで行っても死ななければそれでいいのだろう。
暴力には慣れている。気持ち悪い感覚よりもずっといい。頭がすっきりした。
「ぁ、あ゛っ、ひっ、ぐ、まえ、なんかどーっぃ゛でも、いいっ…ねっ…!!」
いくらでも懇願すれば男の自尊心を満たし、早くに解放されたかもしれない。かもしれないというわずかな可能性は信じない。無駄に相手を喜ばせる必要はない。
暴力によって物事を受け入れられる素直さがあればよかった。
困ったことに人はそう簡単にできていない。少なくとも優はそうだ。
手を払い退ける。男の指には抜けた髪が数本絡みついていた。ハゲるようなことがあれば同じ目に合わせてやる。
後ろでにアジュアの襟を掴んで引き寄せた。驚いていた。ざまあみろと優は腹の中で笑う。ここまで来たのなら巻き込んだって文句は言えないはずだ。
男同士だろうがなんだろうが最初からどうでもいい。
自分の意志に関係なく誰かの思い通りになるのが死ぬほど嫌いなだけだ。
唇を重ねる。
鼻血と唾液と汗も混ざってよく分からない。流れ込んだ血によって鼻が詰まっているせいだろう。アジュアの白い肌に血が移って色づく。鮮やかだ。綺麗なものを汚してやったと思うと胸がすっとする。
唇が離れても、すぐに奪うよう重ねて舌をねじ込んだ。熱を孕んだ吐息が零れる。
「もっと」
見せつけるように舌を絡めてキスをする。少し冷たいアジュアの舌が気持ちいい。伊坂のように殴ってくることはなく困ったよう眉が寄せられるだけだ。どう対処すべきか困っているのだろう。
痛いくらい優を見つめてくる男から目を逸らす。
お前などここに存在していない。どうでもいい存在だと思い知らせるように。
そうすることが伊坂にとって一番屈辱であるはずだ。
「っ……俺を無視するな」
思った通り、激高した男によってアジュアから引き剥がされてうつ伏せにベッドへ投げ捨てられる。
性器が抜け出る衝撃で軽く射精した。栓が完全に緩んでしまっている。シーツが擦れるだけで痛いと思うほど敏感になってしまっていた。
うつ伏せの優に上から押し潰すよう体重をかけて挿入される。膝から下の足が浮き上がる。
「ぁぐぅ゛う゛ぅう――っ――」
シーツを噛んで叫びを殺す。
体重をかけられる圧により精液が出てしまう。ぬるついた不快感。這い上がろうと手を伸ばす。それも上から押さえつけられてしまい叶わない。怒りをぶつけるように腰を打ちつけられる。
髪の毛ごとうなじに噛みつかれた。ぶちっと皮膚が千切れる音だ。
――痛いな、ちくしょう。絶対に後でぶん殴る。死ね。
ベッドが二人分の体重で沈む。奥まで嵌め込まれた状態で中に出された。
満たされる。内臓を焼きつけるような熱さに汗が滲み、視界が霞んだ。勢いを無くしてもいつまでも出ていかない。吐き出した精液を先端で緩く混ぜながらしばらく中にいた男は「俺が」「見ろ」「俺を」と独り言を繰り返していた。ごちゃごちゃと耳元でうるさいやつだ。
シーツは血や鼻水で汚れてしまっていたが疲れが増さる。
首を両手で掴まれた。力が入る。酸欠に今度こそ飛びそうだった。
「……で?」
酷く冷静な口ぶりで優は問いかける。
首を締めようとしていた伊坂の力が弱まった。
性器が抜け落ちた窄まりから精液が零れ出ていく。肌を伝うその生々しさに身震いをする。余韻が引いていくと頭の中はすっきりしていて、こっちの世界に来てから最も落ち着いていた。身体を苛んでいた熱や気だるさが消えている。身体を張った甲斐があったようだ。これで効きませんでしたとなれば冗談じゃない。
優は意識はすでにその場にはなく別へと移っていた。振り向くこともない。
伊坂の目論見は外れてしまっているはずだ。
このくらいの痛みで支配されることはない。
寝そべっている顔の横に叩きつけられた拳。優は馬鹿にしたような薄ら笑みを浮かべた。
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