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[ No−13 ]

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ラビスティアは、ふらつく体でアパートに帰ると、まだケビンは帰っていなかったので、急いで湯に入ると、胸元や太腿の内側には、赤い跡が幾つもついていた。

「宰相だからって酷いわ…。こんな事が許されるの…?あの方は、何時もこうやって女性の取り調べてをするのかしら…?」

(はぁぁ…)と深くため息を吐いて、ラビスティアは湯から上がると、ふらつきながらも、ケビンの為に夕食の準備をし、終わるとソファーに横になり、また眠ってしまった。

夜遅くに帰って来たケビンは、ソファーで眠るラビスティアを見ると、そっと抱き上げて、ベッドに寝かせて部屋を出て行った。

「ティア…疲れているね…。やっぱり仕事は辞めさせた方がいいな…」

そう呟いて、部屋を出るとラビスティアの手料理を食べてから、自分も寝る事にした。

❛❝~~❞❜

その日の夜、セルジオは嬉しさと罪悪感で、何時もより、酒が進んでいた。
ラビスティアを見つけられた喜びと、嘘をついて、また無理に抱いてしまった事への罪悪感だ。

ラビスティアが自分を見て、明らかに動揺して怯えていた。今日、昼食をあの場所で食べたのは、私が城にいるとあの時に解って、避ける為だろうと直ぐに気がついた。
だから、密偵等と嘘をついてしまった。
そうやって、仕事を辞めさせない為と、自分から逃さない為だった。

今すぐラビスティアを、屋敷に閉じ込めて、自分だけのモノにしたい所だが、経理部の溜まった仕事を片付けるには、ラビスティアの力も必要だった。

ラビスティアは本当に優秀で、ロイズ課長より仕事は出来るだろう。きっと一人で数人分の仕事量を平気でこなしている。
密偵とは思わないが、よくあれだけの人材をヴァスティ王国は手放したものだと、呆れてしまうが、それについては明日辞めた経緯は、影が調べて報告してくるだろう。

「ティアは今頃何をしているんだろう…。
まさか、私に抱かれた後に、ケビンとまた…。嫌、そうならない様に、しっかりと身体に朱をつけたのだから、そんな事には、ならない筈だ!
クソ!!何故、ティアを他の男の元に、置いて置かなければいけないんだ!!
明日こそ、ケビンとの関係を明らかにしてやる。ティアはケビンが囲う愛人ではないと、はっきりさせなければ…」

そう独り言を呟きながら、外を見ながらセルジオはまた酒を一気に飲みほした。

❛❝~~❞❜

そして翌日から、セルジオがラビスティアを構う事が、多くなっていた。
いつも一人でいる時を、狙っているかのように、突然現れては、甘く激しい口付けをされたり、業務終了時に、宰相の執務室へ届け物を頼まれては、抱かれる事が増えていた。

ラビスティアは、密偵と疑われているせいで、度々取り調べと称して、色々ないやらしい事をされるのだと、初めは悲しんでいたが、日を追うごとに、体はセルジオに慣らされて、大人の色気たっぷりで、愛しい恋人を抱くようにされると、見つめられるだけで、下腹がきゅんと疼いてしまう様になっていた。

そんなある日、ケビンが王子様の視察の護衛に同行する事になり、三日アパートに戻れない事になった。

「ティア、実は急に私が、王子様の視察の護衛に、加わる事が決まったんだよ…。私は第二騎士団だから、今迄護衛はした事がないのに…。仲間達は王子様の親衛隊に配置替えで、出世するんじゃないかと言ってるんだが、どう思う?
うちの隊長が言うには、どうやら宰相が動いたって、話もあるらしいんだが、私は宰相とは面識がないんだよな…。不思議だろう?」

ケビンがそう話すと、ラビスティアはドキリとした。

(宰相様…まさかケビンも、疑ってるの?きっと私とケビンが、一緒に住んでいる事くらい、調べがついてるだろうし…。でも、王子様の護衛騎士なら、左遷じゃないわよね?一体どういう事かしら…)

「ティア?ねぇティア聞いてる?」

「えっ?あ、ごめんなさい、考え事をしてたわ…」

「ティア、最近疲れてるよね?帰りも遅くなってるし…。やはり仕事を辞めるか、下女を雇う事にしよう?ティアが倒れてしまうんじゃないかと心配だよ…」

「大丈夫よケビン。もう少しで経理部も、元に戻りそうだから…。それよりも、叔母様達の事が先よ?かなり財産を、食い潰されてたんでしょう?」

「あぁ…。最近はわざわざ騎士団まで来て、金を寄越せと騒いでいるよ。全く恥ずかしい連中だよ。一刻も早く二人を追い出さなければ…。それで私の留守中に、ここへ来るかも知れないから、ティアは用心の為に、宿に泊まってくれるかい?丁度明日仕事が終ったら、週末だから経理部は休みだろう?」

「わかったわ。騎士団まで来るなんて、余程困っているのね…。週末なら尚更手持ちのお金が欲しくて、ここへ来そうね。
私も朝から、数日分の着換えを持って出仕するわ。ねえ…ケビン、まさか留守中にこの部屋の中に、入り込むなんて事はあるかしら?」

「そうだね…あの叔母なら、大家を脅してやりかねないね…。一応、大家にも朝に声を掛けておくよ。もし来たら、騎士団に連絡して追い返すようにってね…」

「そうね…。その方がいいかもしれないわね」

そう二人で話し合い、その夜は二人で荷造りをして、明日の準備を終わらせてから眠りについた。
翌朝ケビンは、大家の元を訪れてから、城に向い、王子様の護衛に同行して、隣国へ向った。

そして、その日の昼休み時間に、食堂でラビスティアが食事をしていると、宰相がトレイを持って、向いの席に腰掛けた。

「ラビスティア嬢、一緒に昼食を食べようか。聞きたい事もあるからね…」

ラビスティアは、宰相に話しかけられた事に驚いた。今までは、一度も人前で話しかけられた事はないので、周りを見渡して小さな声で尋ねた。

「宰相様…。聞きたい事とはなんでしょうか…」

「それがね、君を監視している者からの報告で、朝から君が旅行鞄を持って、出仕したと聞いてね…。まさか逃亡するつもりではないよね?」

そう言った宰相の顔は、顔は作り物の笑顔だったが、目の奥は怒りを灯していた。

「違います。逃亡するなら、わざわざ職場まで、旅行鞄を持って来たりしませんよ…。監視されているのが、解ってますもの…。私もそこまで愚かではありませんわ…」

「では、何故旅行鞄なんて、持って来ているんだい?」

「それは、宰相様には関係ありませんわ。個人的な事ですから…。旅行鞄を持って来たからといって、旅に出るとはかぎりませんよ?たまたま、別な場所に泊まる為ですから…。ではお先に失礼します」

そう言ってラビスティアは、宰相と視線を合わせる事なく、席を立ちそのままトレイを持ってその場を離れた。
最近は宰相と目を合わせて話すと、胸が苦しくなるので、つい視線を反らしてしまっていた。
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