13 / 18
魔界の扉が開いた 1
しおりを挟む
開け放たれた窓から夜空を見上げると、ふくふくと丸くなってきた月が浮かんでいる。
私は空を仰いだまま、溜息をついた。
「もうすぐで満月だなぁ」
以前は心待ちにしていたのに、いつのまにか月を見る度に気が重くなってしまう。ここを旅立つ日を思うと胸が苦しくなるのだ。
とはいえやはり人間界には帰りたい。そして院長の手伝いをしたい気持ちも変わらない。
「私……どうしたいんだろう?」
窓枠に腕をついて考えを巡らせていると、視界に紫色のもふもふのルシファーが転がり入り込んできた。
「どうしたの、ルシファー?」
「ギギッ! ピャーッ!」
ルシファーはその場でピョンピョンと飛び跳ねて訴えかけてくるけれど、何を言っているのか全くわからないし予想もつかない。
「人間の言葉で話してくれないとわからないよ」
「キィ……」
私なら魔物語を理解できると期待していたのか、ルシファーはがくりと肩を落とした。毎度このやり取りをしているのに、どうして通じると思っているのだろうか。
ルシファーはその場でポフンと跳ねると、人型の姿になった。
「負傷した人間が森で見つかったので、ハロルド様が様子を見に行っています。おそらく何らかの理由で魔界に迷い込んできたのでしょう」
「えっ、どうして?! 満月にならないと、あちらの世界とは繋がらないんでしょう?」
「通常ならそうなのですが……もしかすると、何者かが生贄を使って扉を開いたのかもしれません」
「生贄って……」
嫌な予感がして、言葉を失った。そんな私の代わりに、ルシファーが言葉を続ける。
「ええ、人間を生贄にしてこの世界の理を歪め――通常なら満月の日にしか開かない扉を開いたのかもしれません」
「……っ」
ルシファーが言うには、人間はこの世で魔族の次に魔力量が多い生き物らしい。だから過去にも魔界の扉を開くために人間を生贄にした者が現れたそうだが、ここ百年ほどはそのようなことはなかったのだとか。
「経緯は後で探るとして……今はとにかく、その人間を助けないといけないわね」
「なぜですか?」
「えっ?」
まさかルシファーに「なぜ」と聞き返されるとは思いも寄らなかった。傷を負った人間がいたら、助けるものだろうに。
しかしルシファーは不思議そうに首をかしげている。本当に、助ける理由がわからないようだ。
「だって、魔界に迷い込んでいるんでしょう? 怪我をしているかもしれないから助けるべきでしょう?」
「そんなことで倒れるほど弱いのがいけないのです」
理由を説明しても、きっぱりと言われてしまった。
弱いのがいけないなんて、弱肉強食の魔族らしい考えだと思う。
「人間はそうじゃないの! だから助けなきゃいけないんだよ!」
部屋を出ようとする私の前に、ルシファーが立ち塞がった。
「では、ご命令ください。主であるヘザー様のご命令とあらば、人間たちを助けるよう動きます」
「人間を……弱い存在を助けるのは嫌ではないの?」
「ヘザー様のご命令なら喜んで。なんせ、魔王様に次ぐ力をお持ちなのですから」
善意ではなく、それが使命ならするということらしい。
「ルシファーって……魔族らしくないと思ってたけど、やっぱり魔族なんだね」
「そうですよ。私は魔族の中で最も強い悪魔で魔王様の右腕――そしてヘザー様が生まれて間もない頃にあなたに忠誠を誓った護衛なのですから」
「私に忠誠を誓った護衛だなんて、初耳なんだけど?」
たしかにここに来てからずっと私のそばにいたけれど、護衛というより執事のように振舞っていたではないか。
ルシファーは顎に手を添えると、コテンと首を傾げた。
「おや、初めて会った時にそうお話しましたが……そういえば、毛玉に擬態している時に話したのかもしれませんね」
「重要な話をする時は人型になってよね」
「魔王様に禁じられているので、それは無理な話かと」
今は人型になっているくせに、しれっと否定してくる。
ルシファーは悪魔らしく意地悪な笑みを浮かべると、もったいぶった動きで私の前で跪く。
「さあ、次期魔王のヘザー様。私にご命令を」
「次期魔王になるつもりはないけど……魔界に迷い込んできた人間を助けたいから、手伝いなさい」
「御意。ヘザー様の最初の命令を受けることができて光栄です」
私に命令を求めた悪魔は、憎たらしいほど満足そうな笑みを浮かべていた。
***
ルシファーと一緒に魔王城の外に出ると、ちょうど魔王とフローレアさんも出てくるところだった。二人ともいつになく表情が硬く、どことなく緊張感が漂っている。
「あ、ハロルド様たちが戻ってきた!」
城門の向こう側から魔導ランプの灯りが見えて目を凝らすと、漆黒の毛並みを持つ魔馬に乗ったハロルド様がスライムたちと一緒にこちらに向かってくる姿が見えた。ハロルド様は壮年くらいの男性を抱えており、スライムたちも別の負傷した男性を持ち上げて運んでいる。
「ハロルド様、怪我人の治療をするから、そこに寝かせて」
「うん」
ハロルド様は私の言葉に頷くと、自分のマントを敷物代わりにして、抱えていた男性を寝かせた。
男性の怪我は深く、斬りつけられた痕から血が滲んでいる。
(命からがら逃げてきたって感じね……)
私は呪文を唱えて治癒した。痛みに顔を歪めていた男性の表情が、ふっと和らぐ。
彼の目がスッと動いて私の姿を捕らえた。
「ありがとうございます。あなたは聖女様……ですか?」
「いえ、元聖女です」
「元……聖女?」
「クビにされた後この魔王城に連れてこられたんです」
「こ、ここが魔王城なんですか?!」
負傷していた男性はびくりと飛び上がり、その場で震え始めた。動き回れるようになったのだから、怪我は完全に癒えたようだ。
「ここは魔王城ですが、安全は保障しますので安心してください。いったい、何があったんですか?」
そう問いかけると、男性の顔が曇った。
「突然……、大勢の騎士たちがやってきて街を襲ったんです。自分は無我夢中で逃げて……気づくとここにいました」
「騎士に襲われる? 山賊の間違いでは?」
私の問いに、男性はゆるゆると力なく首を横に振る。
「いえ、確かに騎士でした。剣の扱いに慣れていましたし――山賊にしてはみな身綺麗でした」
この世には騎士道に反して平民を相手に窃盗を働く騎士たちもいる。たいていは落ちぶれた貴族家の下っ端で、生活のためや憂さ晴らしでそのようなことをしている。
「どこの騎士なの?」
「それが……服にも剣にも家紋がなかったのでわかりません」
「騎士なのに家紋がなかっただなんて……」
身綺麗で家紋を施されていない服を着た騎士たち。
生贄によって開かれた魔界への扉。
迷い込んできた人間――。
(嫌な予感がする……)
わざわざ大勢の騎士を雇って武具と服を与えられる財力を持つ黒幕となれば、その正体は自ずと高位貴族か――王族に絞られるだろう。
何の罪もない人々を犠牲にしてまで、何をしようとしているのだろうか。
(これ以上犠牲者をだしてはいけない……)
脳裏を過るのは、孤児院で見かけた子どもたち。彼らの中には貴族のせいで親を失った子だっていた。
私は治癒しかできないから人間相手では戦力にならないけれど――それでも傷ついている人を助けることはできるはず。
「ハロルド様、街へ行って街の人たちを助けよう」
「そうだね。このまま放っておくわけにはいかないね」
ハロルド様がいてくれるしルシファーも助けてくれるから心強いけど――相手の人数が多ければ多勢に無勢。いくら二人が強くても限界があるだろう。
となれば、戦力を借りるしかない。
「ねぇ、魔王。魔馬と戦力を貸して。被害に遭った街の人たちを助けたいの」
「危険だからダメだ。生贄を使って魔界との扉を開けるような人間は絶対に危ないやつに決まっている。そんなやつがいるところになんて行かせるものか!」
魔王は首をぶんぶんと横に振ると、私をぎゅっと抱きしめた。
すると見かねたルシファーが助け舟を出してくれる。
「魔王様、ヘザー様を放してください」
「できぬ! せっかく会えた大切な娘とまた別れるものか……!」
私を抱きしめる腕が震えている。私が攫われてから再開するまでの間、魔王はいつもこんなにも不安そうにしていたのだろうかと、ふと考えてしまった。
「……っ」
どうすればいいのかわからず固まっていると、フローレアさんが魔王の腕に手を置いた。
「――あなた、ヘザーが困っているわよ。ヘザーに好かれるように頑張ると張り切っていたのに、このままだと好感度が上がらないわ」
「フローレア……! そのことはヘザーには内緒にするよう言ったではないか!」
慌てた魔王の力が緩んだ瞬間に、私は魔王の腕から抜け出した。
「私に好かれるように……?」
「そうなの。この人ったら、『パパのかっこいいところを見たらヘザーが会いに来てくれるかもしれない』と言って、一日中ヘザーのことばかり考えているのよ?」
フローレアさんは私の手と魔王の手を取ると近づけ、握手させた。魔王の大きな掌が、私の手を包む。
「ヘザーの意思を尊重しましょう。それに、せっかくだから私たちも一緒に行くのはどうかしら? 全てが上手く片づいたら、ついでに初めての家族旅行でもしましょう?」
そんな暢気な……と思った私の隣で、魔王は血のように赤い目を輝かせた。
「さすがフローレア、名案だな! よし、さくっと終わらせて人間界を観光するぞ!」
魔王は先ほどまでのしおらしさが嘘だったかのように、意気揚々として手下たちに号令をかける。
「人間界へ行って、魔界の扉を開けた者たちを叩きのめすぞ!」
悪魔と魔物たちがその声に応え、彼らの声が暗闇に轟く。
おどろおどろしい魔族の集団が、扉をくぐって人間界へと渡った。
私は空を仰いだまま、溜息をついた。
「もうすぐで満月だなぁ」
以前は心待ちにしていたのに、いつのまにか月を見る度に気が重くなってしまう。ここを旅立つ日を思うと胸が苦しくなるのだ。
とはいえやはり人間界には帰りたい。そして院長の手伝いをしたい気持ちも変わらない。
「私……どうしたいんだろう?」
窓枠に腕をついて考えを巡らせていると、視界に紫色のもふもふのルシファーが転がり入り込んできた。
「どうしたの、ルシファー?」
「ギギッ! ピャーッ!」
ルシファーはその場でピョンピョンと飛び跳ねて訴えかけてくるけれど、何を言っているのか全くわからないし予想もつかない。
「人間の言葉で話してくれないとわからないよ」
「キィ……」
私なら魔物語を理解できると期待していたのか、ルシファーはがくりと肩を落とした。毎度このやり取りをしているのに、どうして通じると思っているのだろうか。
ルシファーはその場でポフンと跳ねると、人型の姿になった。
「負傷した人間が森で見つかったので、ハロルド様が様子を見に行っています。おそらく何らかの理由で魔界に迷い込んできたのでしょう」
「えっ、どうして?! 満月にならないと、あちらの世界とは繋がらないんでしょう?」
「通常ならそうなのですが……もしかすると、何者かが生贄を使って扉を開いたのかもしれません」
「生贄って……」
嫌な予感がして、言葉を失った。そんな私の代わりに、ルシファーが言葉を続ける。
「ええ、人間を生贄にしてこの世界の理を歪め――通常なら満月の日にしか開かない扉を開いたのかもしれません」
「……っ」
ルシファーが言うには、人間はこの世で魔族の次に魔力量が多い生き物らしい。だから過去にも魔界の扉を開くために人間を生贄にした者が現れたそうだが、ここ百年ほどはそのようなことはなかったのだとか。
「経緯は後で探るとして……今はとにかく、その人間を助けないといけないわね」
「なぜですか?」
「えっ?」
まさかルシファーに「なぜ」と聞き返されるとは思いも寄らなかった。傷を負った人間がいたら、助けるものだろうに。
しかしルシファーは不思議そうに首をかしげている。本当に、助ける理由がわからないようだ。
「だって、魔界に迷い込んでいるんでしょう? 怪我をしているかもしれないから助けるべきでしょう?」
「そんなことで倒れるほど弱いのがいけないのです」
理由を説明しても、きっぱりと言われてしまった。
弱いのがいけないなんて、弱肉強食の魔族らしい考えだと思う。
「人間はそうじゃないの! だから助けなきゃいけないんだよ!」
部屋を出ようとする私の前に、ルシファーが立ち塞がった。
「では、ご命令ください。主であるヘザー様のご命令とあらば、人間たちを助けるよう動きます」
「人間を……弱い存在を助けるのは嫌ではないの?」
「ヘザー様のご命令なら喜んで。なんせ、魔王様に次ぐ力をお持ちなのですから」
善意ではなく、それが使命ならするということらしい。
「ルシファーって……魔族らしくないと思ってたけど、やっぱり魔族なんだね」
「そうですよ。私は魔族の中で最も強い悪魔で魔王様の右腕――そしてヘザー様が生まれて間もない頃にあなたに忠誠を誓った護衛なのですから」
「私に忠誠を誓った護衛だなんて、初耳なんだけど?」
たしかにここに来てからずっと私のそばにいたけれど、護衛というより執事のように振舞っていたではないか。
ルシファーは顎に手を添えると、コテンと首を傾げた。
「おや、初めて会った時にそうお話しましたが……そういえば、毛玉に擬態している時に話したのかもしれませんね」
「重要な話をする時は人型になってよね」
「魔王様に禁じられているので、それは無理な話かと」
今は人型になっているくせに、しれっと否定してくる。
ルシファーは悪魔らしく意地悪な笑みを浮かべると、もったいぶった動きで私の前で跪く。
「さあ、次期魔王のヘザー様。私にご命令を」
「次期魔王になるつもりはないけど……魔界に迷い込んできた人間を助けたいから、手伝いなさい」
「御意。ヘザー様の最初の命令を受けることができて光栄です」
私に命令を求めた悪魔は、憎たらしいほど満足そうな笑みを浮かべていた。
***
ルシファーと一緒に魔王城の外に出ると、ちょうど魔王とフローレアさんも出てくるところだった。二人ともいつになく表情が硬く、どことなく緊張感が漂っている。
「あ、ハロルド様たちが戻ってきた!」
城門の向こう側から魔導ランプの灯りが見えて目を凝らすと、漆黒の毛並みを持つ魔馬に乗ったハロルド様がスライムたちと一緒にこちらに向かってくる姿が見えた。ハロルド様は壮年くらいの男性を抱えており、スライムたちも別の負傷した男性を持ち上げて運んでいる。
「ハロルド様、怪我人の治療をするから、そこに寝かせて」
「うん」
ハロルド様は私の言葉に頷くと、自分のマントを敷物代わりにして、抱えていた男性を寝かせた。
男性の怪我は深く、斬りつけられた痕から血が滲んでいる。
(命からがら逃げてきたって感じね……)
私は呪文を唱えて治癒した。痛みに顔を歪めていた男性の表情が、ふっと和らぐ。
彼の目がスッと動いて私の姿を捕らえた。
「ありがとうございます。あなたは聖女様……ですか?」
「いえ、元聖女です」
「元……聖女?」
「クビにされた後この魔王城に連れてこられたんです」
「こ、ここが魔王城なんですか?!」
負傷していた男性はびくりと飛び上がり、その場で震え始めた。動き回れるようになったのだから、怪我は完全に癒えたようだ。
「ここは魔王城ですが、安全は保障しますので安心してください。いったい、何があったんですか?」
そう問いかけると、男性の顔が曇った。
「突然……、大勢の騎士たちがやってきて街を襲ったんです。自分は無我夢中で逃げて……気づくとここにいました」
「騎士に襲われる? 山賊の間違いでは?」
私の問いに、男性はゆるゆると力なく首を横に振る。
「いえ、確かに騎士でした。剣の扱いに慣れていましたし――山賊にしてはみな身綺麗でした」
この世には騎士道に反して平民を相手に窃盗を働く騎士たちもいる。たいていは落ちぶれた貴族家の下っ端で、生活のためや憂さ晴らしでそのようなことをしている。
「どこの騎士なの?」
「それが……服にも剣にも家紋がなかったのでわかりません」
「騎士なのに家紋がなかっただなんて……」
身綺麗で家紋を施されていない服を着た騎士たち。
生贄によって開かれた魔界への扉。
迷い込んできた人間――。
(嫌な予感がする……)
わざわざ大勢の騎士を雇って武具と服を与えられる財力を持つ黒幕となれば、その正体は自ずと高位貴族か――王族に絞られるだろう。
何の罪もない人々を犠牲にしてまで、何をしようとしているのだろうか。
(これ以上犠牲者をだしてはいけない……)
脳裏を過るのは、孤児院で見かけた子どもたち。彼らの中には貴族のせいで親を失った子だっていた。
私は治癒しかできないから人間相手では戦力にならないけれど――それでも傷ついている人を助けることはできるはず。
「ハロルド様、街へ行って街の人たちを助けよう」
「そうだね。このまま放っておくわけにはいかないね」
ハロルド様がいてくれるしルシファーも助けてくれるから心強いけど――相手の人数が多ければ多勢に無勢。いくら二人が強くても限界があるだろう。
となれば、戦力を借りるしかない。
「ねぇ、魔王。魔馬と戦力を貸して。被害に遭った街の人たちを助けたいの」
「危険だからダメだ。生贄を使って魔界との扉を開けるような人間は絶対に危ないやつに決まっている。そんなやつがいるところになんて行かせるものか!」
魔王は首をぶんぶんと横に振ると、私をぎゅっと抱きしめた。
すると見かねたルシファーが助け舟を出してくれる。
「魔王様、ヘザー様を放してください」
「できぬ! せっかく会えた大切な娘とまた別れるものか……!」
私を抱きしめる腕が震えている。私が攫われてから再開するまでの間、魔王はいつもこんなにも不安そうにしていたのだろうかと、ふと考えてしまった。
「……っ」
どうすればいいのかわからず固まっていると、フローレアさんが魔王の腕に手を置いた。
「――あなた、ヘザーが困っているわよ。ヘザーに好かれるように頑張ると張り切っていたのに、このままだと好感度が上がらないわ」
「フローレア……! そのことはヘザーには内緒にするよう言ったではないか!」
慌てた魔王の力が緩んだ瞬間に、私は魔王の腕から抜け出した。
「私に好かれるように……?」
「そうなの。この人ったら、『パパのかっこいいところを見たらヘザーが会いに来てくれるかもしれない』と言って、一日中ヘザーのことばかり考えているのよ?」
フローレアさんは私の手と魔王の手を取ると近づけ、握手させた。魔王の大きな掌が、私の手を包む。
「ヘザーの意思を尊重しましょう。それに、せっかくだから私たちも一緒に行くのはどうかしら? 全てが上手く片づいたら、ついでに初めての家族旅行でもしましょう?」
そんな暢気な……と思った私の隣で、魔王は血のように赤い目を輝かせた。
「さすがフローレア、名案だな! よし、さくっと終わらせて人間界を観光するぞ!」
魔王は先ほどまでのしおらしさが嘘だったかのように、意気揚々として手下たちに号令をかける。
「人間界へ行って、魔界の扉を開けた者たちを叩きのめすぞ!」
悪魔と魔物たちがその声に応え、彼らの声が暗闇に轟く。
おどろおどろしい魔族の集団が、扉をくぐって人間界へと渡った。
11
あなたにおすすめの小説
「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される
沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。
「あなたこそが聖女です」
「あなたは俺の領地で保護します」
「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」
こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。
やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
殿下、私の身体だけが目当てなんですね!
石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。
それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。
ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる