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番外編
エディ・ランチェスターは白衣の女神様に恋をする
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※スピンオフのご要望をいただいたので番外編で執筆させていただきました!誘拐されたリーゼがノクターンから自分の正体を聞かされている時のお話です
エディ・ランチェスターは怪我の痛みも忘れて、自分の頭を膝の上に乗せて覗き込んでくる白衣の美しい女性――ミラー医務官を見つめた。
燃えるように赤い髪は綺麗に纏められており、淡々とエディを見つめる青みがかった灰色の瞳は髪の色とは対照的で、氷のような冷たい印象を見る者に与える。
――彼女から目が離せないのだ。
「酷い出血ですね。いまから応急処置をするので座ってください」
ミラー医務官はそう言うと、手に持ってきた鞄を開けて取り出した布を地面に敷くと、ピンセットや消毒液を並べる。
その動きに無駄がなく、一つ一つの仕草さえ美しい。
先ほどまで全身の痛みに耐えていたのに、それすら忘れるほど彼女の全てに意識が向いてしまうのだ。
そんなエディの視線に気付いたのか、ミラー医務官は気遣わしく声をかけた。
その声の美しさもまたエディの脳内を麻痺させ、彼女以外のことを考えなくさせてしまう。
(なんなんだ、この感覚は)
エディーは内心狼狽えたが、すぐにこの未知の感覚に身を委ねた。
己の思考と感覚を、全て目の前にいる女性に奪われてしまったのだ。
(惚れこむとは、こういうことなのか)
いつもは饒舌に話せるのに、なぜかこの女性の前では言葉がなかなか出てこない。
ただ彼女を見つめるのに手いっぱいで、他の事を考えることもできない。
「……」
「あの、意識はありますか? 私の指が何本あるかわかります?」
「……」
「……重症のようですね。頭を殴打された影響かと思われます」
負傷者から返事がないため、ミラー医務官はありとあらゆる後遺症の可能性を考える。
そこでやっとエディの体は動き、ミラー医務官の手を両手でそっと包み込んだ。
「――……ここは……天国なのか? 女神様がいる。女神様って想像以上に綺麗だな」
戦場に舞い降り、兵士たちの傷を癒す女神。
エディー目にはそう映るのだ。
熱に浮かされた患者のような、とろんとした眼差しをミラー医務官に向けて微笑む。
アヴェルステッドにいる大抵の女性なら、エディのこの美しい笑顔に頬を染めてしまうだろう。
しかし戦場に赴き死地を潜り抜けながら兵士たちを治療してきたこの女神には通用しない。
「……重症ですね」
ミラー医務官は目を瞬かせると、エディの手を解いて医療録に一文を加えた。
精密検査を受ける必要がある、と。
「ああ、そうだよ。ひどい恋の病だよ」
「はぁ? いままでにどう生きてきたら、そのような臭い台詞を吐けるんですか?」
軍人たちの飾り気のない言葉に慣れ切っているため、あまりにもロマンス小説さながらなエディの言葉に驚いた。
このような言葉を本当に言う人物がこの世にいるのかと、珍獣を見るような眼差しになる。
呆れられているにもかかわらず、エディは気になる相手の関心を買えて内心にんまりとほくそ笑んでいる。
「こういう言い回しは嫌い?」
「特になんとも思いません」
「なんとも……ね。それはそれで悲しいな」
いまの自分はただの救護対象としか思われていないようだ。
ならば踏み込んで関係を変えていくしかない。
「ねぇ、好みの男性はどんな人?」
「はぁ? いまそのようなことを聞く状況ですか?」
「いまではないと聞けない気がするから教えて?」
もちろん、後でミラー医務官のことを調べて偶然を装って会いに行くつもりだが、それは黙っておく。
何事も戦略が大事だ。
エディにずいと迫られたミラー医務官は呆れて溜息をつくと、投げやりな調子で答えてくれた。
こんな緊急事態になにを考えているのだと言わんばかりの表情で。
「……男くさくなくて、しなやかで、上品な方ですかね。男所帯な軍にいるので、むさくるしいのはもううんざりなんですよ」
「なるほど、それなら俺にもまだ機会はありますね?」
「はい?」
屈強な男が好みと言われたら鍛えるしかないなと考えていたエディは、口元に弧を描いて美しく微笑む。
「女神様に相応しい人物になりますのでお待ちください」
「だから私、女神ではなくて人間なんですけど?」
本人はそう申告しているけれど、エディにとっては紛れもなく、怪我の苦痛を取り除いてくれた女神なのだ。
(なんとしてでも振り向いてもらうから待っていてくれ。女神様……!)
もしエディの心の声がミラー医務官に聞こえていたら、「だから、女神ではなく人間ですから」と突っ込みを入れられていただろう。
このやり取り以降、エディは赤い髪の女神ことミラー医務官に振り向いてもらえるよう偶然を装って彼女に会いに行っては、振り向いてもらえるようあれこれと頑張るのだった。
エディ・ランチェスターは怪我の痛みも忘れて、自分の頭を膝の上に乗せて覗き込んでくる白衣の美しい女性――ミラー医務官を見つめた。
燃えるように赤い髪は綺麗に纏められており、淡々とエディを見つめる青みがかった灰色の瞳は髪の色とは対照的で、氷のような冷たい印象を見る者に与える。
――彼女から目が離せないのだ。
「酷い出血ですね。いまから応急処置をするので座ってください」
ミラー医務官はそう言うと、手に持ってきた鞄を開けて取り出した布を地面に敷くと、ピンセットや消毒液を並べる。
その動きに無駄がなく、一つ一つの仕草さえ美しい。
先ほどまで全身の痛みに耐えていたのに、それすら忘れるほど彼女の全てに意識が向いてしまうのだ。
そんなエディの視線に気付いたのか、ミラー医務官は気遣わしく声をかけた。
その声の美しさもまたエディの脳内を麻痺させ、彼女以外のことを考えなくさせてしまう。
(なんなんだ、この感覚は)
エディーは内心狼狽えたが、すぐにこの未知の感覚に身を委ねた。
己の思考と感覚を、全て目の前にいる女性に奪われてしまったのだ。
(惚れこむとは、こういうことなのか)
いつもは饒舌に話せるのに、なぜかこの女性の前では言葉がなかなか出てこない。
ただ彼女を見つめるのに手いっぱいで、他の事を考えることもできない。
「……」
「あの、意識はありますか? 私の指が何本あるかわかります?」
「……」
「……重症のようですね。頭を殴打された影響かと思われます」
負傷者から返事がないため、ミラー医務官はありとあらゆる後遺症の可能性を考える。
そこでやっとエディの体は動き、ミラー医務官の手を両手でそっと包み込んだ。
「――……ここは……天国なのか? 女神様がいる。女神様って想像以上に綺麗だな」
戦場に舞い降り、兵士たちの傷を癒す女神。
エディー目にはそう映るのだ。
熱に浮かされた患者のような、とろんとした眼差しをミラー医務官に向けて微笑む。
アヴェルステッドにいる大抵の女性なら、エディのこの美しい笑顔に頬を染めてしまうだろう。
しかし戦場に赴き死地を潜り抜けながら兵士たちを治療してきたこの女神には通用しない。
「……重症ですね」
ミラー医務官は目を瞬かせると、エディの手を解いて医療録に一文を加えた。
精密検査を受ける必要がある、と。
「ああ、そうだよ。ひどい恋の病だよ」
「はぁ? いままでにどう生きてきたら、そのような臭い台詞を吐けるんですか?」
軍人たちの飾り気のない言葉に慣れ切っているため、あまりにもロマンス小説さながらなエディの言葉に驚いた。
このような言葉を本当に言う人物がこの世にいるのかと、珍獣を見るような眼差しになる。
呆れられているにもかかわらず、エディは気になる相手の関心を買えて内心にんまりとほくそ笑んでいる。
「こういう言い回しは嫌い?」
「特になんとも思いません」
「なんとも……ね。それはそれで悲しいな」
いまの自分はただの救護対象としか思われていないようだ。
ならば踏み込んで関係を変えていくしかない。
「ねぇ、好みの男性はどんな人?」
「はぁ? いまそのようなことを聞く状況ですか?」
「いまではないと聞けない気がするから教えて?」
もちろん、後でミラー医務官のことを調べて偶然を装って会いに行くつもりだが、それは黙っておく。
何事も戦略が大事だ。
エディにずいと迫られたミラー医務官は呆れて溜息をつくと、投げやりな調子で答えてくれた。
こんな緊急事態になにを考えているのだと言わんばかりの表情で。
「……男くさくなくて、しなやかで、上品な方ですかね。男所帯な軍にいるので、むさくるしいのはもううんざりなんですよ」
「なるほど、それなら俺にもまだ機会はありますね?」
「はい?」
屈強な男が好みと言われたら鍛えるしかないなと考えていたエディは、口元に弧を描いて美しく微笑む。
「女神様に相応しい人物になりますのでお待ちください」
「だから私、女神ではなくて人間なんですけど?」
本人はそう申告しているけれど、エディにとっては紛れもなく、怪我の苦痛を取り除いてくれた女神なのだ。
(なんとしてでも振り向いてもらうから待っていてくれ。女神様……!)
もしエディの心の声がミラー医務官に聞こえていたら、「だから、女神ではなく人間ですから」と突っ込みを入れられていただろう。
このやり取り以降、エディは赤い髪の女神ことミラー医務官に振り向いてもらえるよう偶然を装って彼女に会いに行っては、振り向いてもらえるようあれこれと頑張るのだった。
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